第27話:対魔物戦開始
爆音は近い。
この『ニニギ亭』は首都の東側にあるアルプス通りにある。
そのため二度目の港からの爆音は、大きく感じた。
港の方から人が大勢逃げてくる。
まずい。
騎士団は、西側の魔物にほとんど戦力を割いているはずだ。
反対側の東側に対処できない。
イヴの言う囮とはこういうことか!!
先ほどのイヴの声を聞いてから、頭痛が消えた。
肩を貸してくれていたセラの礼を言う。
「もう平気なのか?」
「うん。治った。」
いきなり
カシャッ!!
という音が足元で聞こえた。
僕の足元ではない。
ルーリアの足もとだ。
ルーリアのつけている脚甲が変形している。
かかとの部分に詠唱器に近い機器が現れている。
いきなりルーリアは真上に跳んだ。
そして、跳躍の最高点で止まった。
浮いている。
「ル、ルーリア、なにを・・・・・」
う、浮いている。どうやってるんだ?
「わたくしは港に向かいますわ。みなさんは急いで避難を!」
そう言うと、ルーリアは体を縮めた。
そして、まるで何かを蹴るように勢いよく体を伸ばした。
ドッ!!
という音と、大気エーテルの薄緑色の光を残して、港のほうにかなりの速度で飛んで行った。
「あ、あれ、なんだ?」
「翼脚甲というものです。」
僕の疑問の声にチコが答えた。
「ういんどうぉーかー?」
「はい。帝国が開発した空戦武装です。共和国の有翼人飛行部隊に対抗するために作られたものです。原理は飛空挺と同じように、大気エーテルを反射することで推力を得ます。扱いの難しい武装ですので、あまり知られていませんが、ルーリアさんはかなりの使い手のようです。」
ほぉー・・・すごいな・・・
と、感心している場合ではない。
ルーリアが先走ったので、僕も向かうしかないかな?
「僕は港へ向かうけど、セラは来てくれる?」
「当然だ。」
即答してくれた。
なんかうれしいな。
「よし!!じゃあ、チコとアルはユウラさんと一緒に避難を・・・・」
「私も行きますです!!」
僕の言葉を遮るようにチコは言った。
「チコ、今回はヤバい。止めといたほうがいい。」
「ユウ君、チコちゃん連れて行ったほうがいい。」
ユウラさんに言われた。ユウラさんはチコのほうを見て、
「チコちゃん、ワイザーじいさんから聞いているんだろ?」
「はい。おじいちゃんから対魔物の戦術について一通り。だから、ユウさん私はお役に立てますよ!!」
対魔物の戦術!?
ドワーフはそんなのも知ってるのか。
確かに魔物に対してどう対処するかは迷うところだ。
「わかった。でも危なくなったらすぐ逃げるんだぞ。」
「わかりますた!!」
さて、アルはどうするのだろうか?
さっきから黙りこんでいる。
「アル。お前はどうする?」
「お、おれは・・・・・どうすればいい?」
いや、聞かれても。
「今回は魔物が相手だ。お前が自分で決めてくれ。僕は来てくれるとありがたいけど・・・・」
アルはうつむいて、うなっていた。
「ぐ・・・・・うー、あー、くそっ!!お、お前らだけだと心配だから、俺様が助けてやるよ!!でも、やばくなったらすぐ逃げるからな!!」
「本当にいいのか?危ないぞ?」
「いいって言ってるだろっ!!ほらさっさと行くぞ!!」
おお!!
アルが珍しくやる気だ。
まあ、ここはアルの生まれ育った町だ。必死にもなるか。
「それじゃあ、ユウラさん行ってきますね。」
「ああ。気ぃつけてな。」
ユウラさんに挨拶して、僕たちは港へ向かう。
と、言っても逃げる人が大勢いて、通りは混雑している。
そうだ!!
「セラ、屋根伝いに港へ向かう。チコを頼む。」
「まかせろ。」
セラはチコを抱えて、跳び上がった。
僕もアルを掴んで、体内エーテル操作による脚力強化。
跳ぶ。
「うぎゃああ!!」
僕に急に捕まれて、跳び上がったので、アルが面白い声を上げた。
一瞬の浮遊感、『ニニギ亭』の屋根の上に着地。
「き、急に跳ぶな!!何か声をかけてから跳べ!!」
と、アルは文句を言っている。
おもしろかったから、今度からも声かけないようにしよう。
さて、
「おしっ!!じゃあ、ルーリアが心配だし、さっさと向かうか。」
「ああ。」
「はいです!!」
「ふぇーい。」
一人を除いて頼もしい返事だ。
僕たちは屋根の上を港に向かって走り出した。
〜〜〜〜〜〜
屋根伝いに港へと向かう、四人を見送っていたユウラは少し感心していた。
あのヘタレだったアルが、ついていくことになるとは。
ユウ君にいろいろ頼んだのは、正解だったか・・・・
「ユウラさん、私たちはどうします?」
店員の猫人のミスカだ。
「従業員は貴重品持って避難。戸締り忘れるな。火事場泥棒が出るかもしれんからな。」
「わかりました。ユウラさんはどうするんです?」
「私は、ちょっとお手伝いに行ってくるよ。若い奴らばかり働かすのは、可哀そうなんでね。」
「ユウラさん・・・・・あなたの体は・・・・」
「わかってる。ちょっと手伝うだけだよ。じゃあね。」
そう言ってユウラは、港へと歩き出した。
〜〜〜〜〜〜
僕たちは屋根伝いに港へ向かいながら、チコの話を聞く。
「魔物は基本的に、核と呼ばれる、中枢を破壊すれば死にます。人間で言う所の脳に当たる部位ですね。この核は体のちょうど中央辺りにあることがほとんどです。そして、魔物の厄介な点は、その外殻です。魔物の体の表面は柔らかいんです。」
「柔らかくて何で厄介なんだ?硬いよりいいだろ?」
と不思議そうにアルは言った。
「いいえ。硬い装甲は衝撃の伝導が容易です。柔らかいと衝撃が吸収されてしまうため、内部破壊を行うにしても、かなり大変です。」
確かに。
ただ硬いだけなら、なんとかできる。
だが、柔らかい装甲というのは面倒だ。
前回のように、装甲の耐久力を上回る連続攻撃を行うか、内部破壊を成功させるか、どちらかになる。
「この魔物の柔らかい装甲を、軟体装甲と呼びます。」
話しているうちに、港の近くの建物の屋根までたどり着いた。
そして、絶句した。
そこはひどい状況だった。
港に着水している飛空挺のほとんどは破壊され、破片が湖に浮いている。
周辺の建物も破壊され、火が上がっているところもある。
何人か倒れたまま動かない人も見受けられる。
魔物は三体。
どれも体の表面が白い。生物としてあり得ないと思える白さだ。
脚が8本、そのうち前方の2本はハサミの形になっている。
胴から尾が伸び、体の上の前方にある。尾の先にもハサミのようなものが付いている。
簡単に言うと、サソリだ。
大きさは2トントラックぐらいの体を持ち、足は太い。
ルーリアは、翼脚甲で地面をスケートするように動き回り、魔物の周りを動き回り翻弄して、時間稼ぎをしている。
「チコ。奴の情報は?」
「あの魔物は第二級、『スコーピオン』のB型です。背中の上から、胴体の中央辺りにある核を狙うのがセオリーです。ですが、背中に乗るとあの大きな尾で攻撃されます。よって、まずは尾の破壊、続けて背中からの衝撃伝導技による体内の核の破壊が基本戦術となります。」
なるほど。
まずは、しっぽをぶっ壊せか・・・・
「他の有効手段として、関節部への攻撃。あと、雷撃による攻撃が有効です。魔物は総じて電気に弱いんです。注意点は外殻の軟体装甲は絶縁体なので電気を通しません。だから、装甲に傷をつけてからの雷撃は比較的有効です。」
ほぅ・・・・
僕の見立てとしては、魔物は機械に近いものだ。
電気に弱いってとこも、うなづける。
よし、対処法は分かった。
周りを見る。
倒れている人たちの救助もしたいところだが、ルーリアの時間稼ぎも限界のように見える。
「よし。じゃあ、僕とセラはルーリアに加勢してくる。アルとチコはケガ人救助だ。」
3人は頷いた。
「僕たちがすることは、時間稼ぎだ。僕たちだけでは、倒しきれない可能性が高いからね。あぶなくなったら、即逃げろ。いいな?」
続けて、
「行くぞ!!」
「「「おう!!」」」
戦いが始まる。