第26話:説得、交渉、爆音
セラの母親についての情報が入った、次の日。昼ごろ。
昨日は結局セラに詳しいことが言えなかった。
だ、だってなんが怒ってるんだもん!!
と、自分に言い訳しつつ、『ニニギ亭』を目指す。
ちょっとビクビクしながら歩く。
はたから見ると、完全に変な人だ。
到着。
ついた・・・ついてしまった。
今日は怒ってないよね?
ドアを開ける。
「・・・・・なんだ、ユウか。」
迎えたのは相変わらずスカートがきわどいメイド服姿のセラだ。
いらっしゃいませが完全に消えた。
泣いていいですか?
でも昨日とは違って、怒っている様子はない。
よかったよかった。
「セラさん、お話があるんですが・・・・」
「なんで敬語なんだ?まあ、いい。今仕事中だが?」
「うん、ユウラさんから許可もらってくるよ。」
僕はユウラさんにセラの時間を貰いに行く。
ユウラさんは厨房のほうにいるようだ。
「ユウラさん、ちょっといいですかー?」
「おーユウ君。なんだい?」
ユウラさんが料理の手を止めずに答えた。
「ちょっとセラを貸してもらっていいですか?」
「ああ、いいよ。ついでに午前中は休みってことにしてあげるよ。」
ん?
ユウラさんの気前がやたらいい。
なんか不気味だ。あとで厄介事を頼まれそうな予感がする。
セラにユウラさんの答えを伝えた。
「ふーん、そうか。じゃあ着替えてこよう。待っていてくれ。」
「・・・・・・・」
残念だ。その格好のままでいいのに。
思っているが言わない。殴られるのが目に見えてますから。
僕も学習するんですよ!!
「着替えないほうがいいか?」
「うん、もちろん!!・・・・・あ」
急にセラが聞いてきたので、正直に答えてしまった。
「やっぱりな。隠してるつもりだろうが、顔に出てるぞ。」
セラに呆れられた。
ひ、卑怯だぞ!!
〜〜〜〜〜〜
セラの着替えが終わり、『ニニギ亭』のテーブル席に座る。
「で?どうしたんだ?ユウにしては珍しく強引だな。」
「うん。えー・・・・実はセラのお母さんについて情報が入ったんだ。」
「ほ、ほんとかっ!!」
いきなり立ち上がって大声を出したので、店中の視線がこっちに来た。
「セラ、落ち着いて。めちゃくちゃ目立ってるよ。」
「あ、ああ。すまん。」
セラは恥ずかしげに、席に戻った。
店の中の雰囲気が元に戻る。
「あんまり期待しすぎないでよ。正直、確定的な情報じゃないんだ。」
「わかった。話してくれ。」
僕は情報屋が帝国で殺されたこと、依頼を断られたことを話した。
「そうか・・・・・」
セラは何か考え込んでいる。
「まあ、そんなとこ。結果から見れば、帝国にいるかもしれない。どうする?」
「私は帝国に向かう。この店で働いて、旅費のほうはだいぶ稼げた。ユウラさんに了解をもらい次第、向かうつもりだ。」
即決か・・・・危険ってわかってんのかな?
「セラ、情報屋の人殺されたんだよ?絶対ヤバいよ?分かってる?」
「当たり前だ。それでも手がかりがそれしかないなら、私は行く。」
まあ、予想通りの反応ではある。
仕方がないか・・・・・
「わかった。じゃあ僕も準備するか。」
「ちょ、ちょっと待て!何で君が準備するんだ!?君とはここで別れるはずだったろう?」
セラが慌てた様子で言った。
ああーそういえばそんなこと言ったか・・・・
すっかり忘れてた。
「えー・・・まあいいだろ。付き合うよ?」
「待て待て!危険だと言ったのは君だろう?私のことで君をこれ以上危険な目に会わせたくはない。だから・・・・・ここでお別れだ。」
やべぇ・・・・このままだとほってかれるな。
説得する口実考えてくるんだった!!
あー・・・・そうだ!!
「僕も帝国に用があるんだ。この前図書館で見つけた異界人に関する本の作者と会ってみようと思って。」
ここにはじめて来た時に読んだ、モルドスなんたらって人の本だ。
正直、元の世界に帰る方法はイヴが持っている。
まあ、あの夢が真実か妄想か判断付かない状況なので、自分でも探しておきたい。
この理由、今考えたけど・・・・
セラは僕の答えを聞いて一瞬黙りこんだが、すぐに怒ったように言った。
「ダメだ!君は私とは別に帝国に向かえ。いいな!!写真返してくれ。」
コートのポケットからセラの母親の写真を出す。
うー・・・・どうする、どうする。
「おおー!誰これ?超美人じゃないかー。紹介して!!」
僕が手渡そうとしたセラの母親の写真を見つつ、大声を出したのは予想通りアルだ。
このどんよりした空気のなか良くそんなことが言えるな。
空気読め!!
「アル、死にたいのか?」
セラがマジギレ三歩前だ。
「ひぃ・・・な、なんだよ。場を和ませようと・・・ってあれこの家紋・・・」
マジビビりしていたアルが何か思い出したように
「この家紋ってあれだ。確かランドグリフ家の家紋だな。」
家紋?
確かに写真の女性の後ろの暖炉に家紋らしきものがある。
だが女性の頭で半分以上隠れて判別できない。
「おい、アル。こんなちょっとしか見えてないのになんでわかる?」
「おいおい忘れたのか?俺様は魔法学院のトップ。一度見たものは忘れないんだよ。」
「一度見た?」
「ああ。うちの家、このランドクリフ家と昔親交があったんだよ。子供のころだったけど、なんとなく覚えてるな。でも、この家断絶したんじゃなかったか?」
おー!!
アルが初めて役に立った!!
おめでとうアル。君は今日から雑用アルではなく、たまに役立つアルだ。
「間違いないか?」
セラが真剣に聞いた。アルも何となくセラの真剣さを感じ取ったらしく真面目な顔で
「間違いない。まあ、俺の記憶力を信じるならだが・・・」
セラはしばらくアルの顔を見つめると
「信じよう。断絶したというのは?」
セラがアルのこと信じるって言った!?
以前の僕の怪我以来、嫌っているようだったのに。
「単純に跡取りがいなくなったって話だったはずだ。帝国の下級貴族だしな。よくあることだ。」
やはり帝国か・・・・
これで情報が固まったな。
「よかったじゃないか、セラ。これで心おきなく帝国に向かえるね!」
「そうだな!・・・・・って一緒に行くというのはダメだぞ!」
くっ・・・・どさくさまぎれに勢いで丸めこむのは無理ですか。
頑固だな〜
「おい、ユウ。どうなってんだ?俺にはさっぱりだぞ?」
質問攻めされていたアルは、事情を知らないの不思議そうな顔だ。
いろいろ情報くれたことだし、事情を話してやるか。
「ユウさん、セラさん、アルさん、こんにちは。」
話そうと意気込んだ所に声をかけられた。
やたら幼い声の主はチコだ。
チコはいつも通りの作業着に、大きなリュックだ。
「おーチコ、こんにちは。また依頼?」
「いえいえい。今日はお別れの挨拶に来たんです。」
「へ・・・?お別れって?」
「はい。お金もたまったんで、旅を再開するつもりなんです。」
そういえばチコの旅の目的は、ヤマトに住む鬼族の技術を学ぶことだったけ。
「いつ行くんだ?」
「明後日です。だから今日はユウさんのお仕事お手伝いして、最後に『銀月華』にお別れしようと・・・ああ、いえいえ、もちろん皆さんにもちゃんとお別れしたかったので!!」
『銀月華』は僕の持つ、鬼族製の刀だ。
チコ、刀がメインだろ。
閃いた!
これは使えないか?
「ねぇ、チコ。旅は危険がいっぱいだよね?」
「ふぁ?まあそうですね。」
「ヤマトへの途中に帝国があるよね?」
「そうですね。ヤマトは帝国を越えて、海の向こうですから。」
「護衛がいたら安心だよね?」
「まあ、居たらありがたいです。」
「まかせたまえ!!」
「え!?護衛してくれるんでふ!?」
「うんうん。さあ、セラ、僕も帝国行くぞ!」
セラは呆れたように
「別にかまわんが、一緒にはいかんぞ。」
あ・・・・なんも解決してねぇ・・・
「どうゆうことです?」
ああ・・・チコにも話していいかな?
「要するに、ユウはセラちゃんに振られたと。」
アルがニヤニヤしながら言った。
ち、違うぞ!!
失敬な!!
「アル。そういう問題ではない。私の身内の捜査にユウがついてくると言っているだけだ。断っているがな。」
セラが言った。
「それでどうしてついて行っちゃだめなんです?ユウさんとセラさん仲いいのに・・」
チコ、いいこと言った。あとで飴をあげよう。
「どうした、どうした?さっきからもめてるな?」
ユウラさんが出てきた。
うるさくしすぎたかな。
「帝国行くとかなんか言ってたけど、良ければ飛空挺のチケットやるぞ。」
な、なんだ!?
ぶ、不気味すぎる!!
ユウラさんがタダで、しかも割と値段のする飛空挺のチケットをくれるなんて。
今日はとことん変だ。
「そういう話じゃないんですが・・・・・」
とセラ。
事情を知らない三人に説明する。
母親を探していること、情報屋が殺されたこと、セラが付き添いを断ること。
「ふーん。セラが意地張ってるだけだろ。」
「ですねぇー」
ユウラさんとチコは、そう言った。
当たってるな。
「そ、そういうことじゃないでしょう!!」
「セラ、お前がこの店で暴れた時も、そんなこと言ってたな。他人を巻き込みたくないか・・・・・だが、ここでユウと別れたら、前みたいに後悔することになるぞ。」
ん?セラがユウラさんの店で暴れたのって、そういうこと?
「ちょ、ユウラさん。そういうことは言わなくていいでしょ!!」
なんか恥ずかしそうな、セラ。
なんかいい感じ?
そのまま説得お願いします、ユウラさん!!
「じゃあ、セラ。ユウとチコと一緒に行くなら飛空挺のチケットをやるけど、どう?」
おお!!いいぞユウラさん!!
「べ、別に歩いていきます。」
「急ぎたいんじゃないの?飛空挺なら、だいぶ時間短縮になるぞ。」
「ぐ・・・・・じゃあ飛空挺降りるまで・・・・」
よし、きた!!
「私もいいんですか?」
とチコ。
「ああ、もちろん。」
「ユウラさん、ありがとー。」
そしてユウラさんは、僕のほうを見て
「うん。で、ユウ君にはその代わりにお願いがあるんだけど〜。」
ユウラさんが申し訳なさそうなふりで頼んできた。絶対ふりだ。
ぐうっ、きたぞ。何を頼まれるのやら。
「飛空挺のチケットの行き先が、ザガルバフってとこなんだけど、そこに私の手紙を届けてもらいたい。どう?」
あれ?そんなの?
もっと大事、頼まれると思ってたのに。
「それぐらいなら、まかせてください。」
「うんうん。お、ちょうどいいところに。ルーリアー。おいでー。」
ルーリア?
軽装鎧姿のルーリアがちょうど店に入って来た。
こちらのテーブルに来る。
「ユウラさん、こんにちは。」
「おう。ユウ君とアルはもう知ってると思うが紹介しておく。私の知人の娘で、ルーリアだ。しばらくここにいるから、仲良くしてやってくれ。」
「はじめまして、みなさま。ルーリアです。」
とルーリアが丁寧にお辞儀した。
で、アルが軽薄な感じで声をかける。
「ルーリアさーん、俺のこと覚えてるー?」
「ああ、昨日の・・・・・近づいてはいけない方?」
アルはこけた。
全員に笑われた。
〜〜〜〜〜〜
それから、ユウラさんは仕事に戻り、僕たちは全員で昼食をとる。
結局、セラとチコと飛空挺に乗ることとなった。
出発は、五日後ということだ。
いっつ・・・・!!
急に頭に激痛が走った。
なんだ?
「ユウ?どうした?」
僕が顔をしかめていることにセラが気付いた。
「ああ・・・・なんか・・・ぐっ!!」
「お、おい。ユウ!!」
何か聞こえる。イヴの声?
「ユウ・・・・そこは・き・・・西から・・・・」
まるでノイズが入っているかのように、断片的にしか聞こえてこない。
なんだ?西?
「おい、ユウ。治癒術かけてやろうか?」
と、僕の冗談ではない様子に、アルが心配そうにしている。
断ろうと僕が口を開いた瞬間、
爆音。
それも尋常じゃない大きさの音だ。
「うわぁぁ!!なんだ、なんだ!!」
店の中が騒然となった。
僕たちは店の外に出る。
僕はまだ頭が割れるように痛く、セラに肩を貸してもらいながら、外に向かう。
外では大勢の人々が逃げ惑っていた。
首都の西側の入口から、大きな煙が上がっている。
アルが近くの人を捕まえて事情を聴いている。
「おい、何があったんだ?」
「魔物だ!!魔物が攻めてきた!!白くてでかいクモだ!!10体以上いやがった!!」
魔物!?
以前相手にした、クモのでかいやつ。あれが10体以上!?
「ユウ、これは・・・・・」
「ああ、まずいな。魔物が以前相手にした奴と同じなら、戦うのに百人以上、必要になる。この国の騎士団が、がんばってくれるといいが・・・・」
僕に肩を貸したセラが、驚いた様子だ。
さっきから騎士団らしき鎧姿の人間が煙の上がる、西側に走っていくのを見つけた。
そこでまた、強烈な頭痛と、今度は鮮明に聞こえるイヴの声。
「ユウ、ユウ!!聞こえる!?西は囮!!本命は湖のある東からよ!!」
何・・・・?
そこでまた爆音。
今日、二度目の爆音は東のフロリア湖、飛空挺の港のほうから聞こえた。