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異界の旅路  作者: Posuto
26/53

第25話:騎士の役割

いきなり大声を出した少女。

身なりからして、傭兵には似つかわしくない気品がある。騎士の風格だ。


少女は、帝国軍の高機動猟兵イエーガーが用いる軽装甲鎧に近い形のものを着ており、足には膝辺りまで覆う金属製の脚甲。

武器は持っていない。

背は高く、美しい金髪が腰辺りまであり、後ろ髪は見事にくるくる縦ロールだ。

顔立ちはきつめの顔であるが、美しく、瞳は碧い。


誰かに似ているような?


と、まあいい。

8人もの傭兵相手に手ぶら!?

こ、これはやばいんじゃないか・・・・


 「話は聞かせてもらいました!あなた方がやっていることは、ただの恐喝ですわ!!」


 「ああん?なんだてめぇ・・・・邪魔するつもりかぁ?」


8人の傭兵の中のボス格の大柄な男がドスの利いた声で話した。


 「直ちにその人を解放して、去りなさい。今なら許して差し上げますわ。」


 「ちっ・・面倒だ。やっちまえ。」


ボス格の男が部下に指示をした。

部下の男二人が、腰から剣を抜き、少女に近づいていく。


助けに入ろう。


と思って瞬間、少女は、背中の腰あたりから何かを引き抜いた。

その何かに少女がエーテルを徹した瞬間、それは一瞬で連結、長大な斧槍ハルバードになった。


おおっ!?

折りたたみ式!?

三つに分割されていてコンパクトになっていたようだ。


斧槍ハルバードはその名の通り、槍に斧のような大きな刃がついたものだ。

本来突きをメインとする槍に、斧の刃をつけることで、斬ることも可能とした武器だ。

その分重量が増し、扱いにくい物となっている。


少女の手にいきなり武器が現れたことで動揺した部下の二人は、一瞬隙ができた。


その隙をついて、少女は斧槍を振り、男二人の武器を叩き落とす。

その動きを殺すことなく、斧槍を回転させ、柄の部分で片方の男のみぞおちを突き、もう片方の男には、脚甲のついた脚による蹴りが顔面に炸裂した。


一瞬のうちに2人を無力化した。

お見事。


今の動きでボスの男は、警戒したようだ。


 「おい、女。調子に乗るなよ・・・・・」


今度は部下たち全員でかかるようだ。

氣闘士ファイターは剣を抜き、詠唱師キャスター詠唱杖キャストスタッフを起動させる。

まずいことに、残りの6人の中に詠唱師キャスターが2人いるのだ。

さすがに遠距離攻撃があると、彼女もつらいだろう。


ちょっとお手伝い。

戦闘が始まる前に、僕は倉庫の陰から飛び出した。


コートの中からダガーを抜き、投擲。

目標は詠唱師の持つ詠唱杖キャストスタッフだ。


 「ぐあっ!?」


 「な、なんだ!?」


二人の詠唱師はいきなりの後方からの攻撃に驚いた。


高速で飛ぶダガーは風を切り裂きつつ目標に直撃。

ちょうど詠唱杖の重要部分である杖の上部、詠唱器キャストコアの部分だ。

もう大氣術スペルは使えない。


僕の攻撃を機に少女が動いた。

体を地面すれすれまで体を倒した前傾姿勢で、高速移動。


接敵。


相手も傭兵だ。瞬時に攻撃態勢をとり、エーテルの徹された剣を振る。


少女は攻撃はすべて弾き、斧槍で武器を巻き込み、叩き落とす。

そして、斧槍の柄による打撃、間合いの近い相手には蹴り。

まるで踊っているかのように勢いを殺さず動き回り、斧槍を頭上で回転させ、足技を放つ。


すでにボスの男以外は地面に這いつくばっている。


 「まだやりますの?」


少女は余裕の構えだ。


 「ふ、ふん・・・俺をこいつらと同じだと思うなよ!」


ボスの男は剣を構えた。剣には十分にエーテルが徹されている。

大柄な体に似合わぬ高速移動で近づき、横薙ぎに払った。


少女はその場から跳んだ。

恐ろしく身軽に跳び上がり、空中で一回転し、ボスの男の後ろに着地。

そのまま足払いを放ち、仰向けに倒れたボスの男のみぞおちに斧槍の石突きを刺し、昏倒させた。


戦闘が終わると、少女は斧槍を一瞬で折りたたみ、腰に戻した。


 「ふぅ・・・・商人の方、大丈夫でしたか?」


 「は、はい!ありがとうございます、助かりました!!何かお礼を・・・・・」


 「いえ、その必要はありません。市民を助けることが騎士の役目ですもの。当然のことをしただけですわ。」


という騎士の少女と助けられた商人の会話。

やはり見た目通り、高潔な感じだ。


僕はたいして役に立っていなかったので、このままこっそり帰ることにした。



〜〜〜〜〜〜



港まで戻って来た。


そう言えば僕は考え事をしていたんだった。

ああー・・・セラになんて言えばいいんだー・・・

言ったら言ったで、絶対に帝国に行くことになるだろう。

でも、危険だな〜。言うべきか、言わないべきか・・・・・・


僕が頭を抱えながら歩いていると後ろから肩を叩かれた。

振り向く


 「はい?」


 「さっき助けてくれたのはあなたでしょう?どうして逃げるんですの?」


そこにはさっきの女騎士がいた。ちょっと怒ったような顔だ。

追いかけて来たのか・・・・


 「あー・・・まあ、たいして役に立ってなかったし。」


 「そんなことありません。見事なナイフ投げでしたわ。お陰で助かりました。」


褒められた。


 「えーと・・わざわざそれを言いに?」


 「いえ、その、それだけではなく、わたくし道に迷ってますの。道を教えてくださりません?」


若干、恥ずかしそうに言った。

この人、迷子か。それで倉庫街なんかにいたのか。


 「いいですよ。どこすか?」


 「『ニニギ亭』というお店です。ご存知?」


 「うっ・・・・!!」


この人を『ニニギ亭』に連れていくということは、必然的に、そこで働くセラと合うことになる。

言うか言わないか決めてないんだが・・・・


 「どうしたんですの?知りませんの?」


 「あー、いや、知ってるよ。案内する。」


行く道で考えるか・・・・


 「ありがとう。わたくし、ルーリアと申します。」


丁寧な自己紹介だ。なんか新鮮だ。


 「僕は、ユウ。よろしく。」


僕はルーリアを連れて、アルプス通り『ニニギ亭』に向かった。



〜〜〜〜〜〜



 「ユウは『ニニギ亭』に行ったことがありますの?」


港から『ニニギ亭』に向かう道で、ルーリアさんが聞いてきた。


 「うん。仲間がそこで働いてるからね。ルーリアさんはどうして『ニニギ亭』に?」


僕が聞くと、ルーリアさんは少し怒ったような感じで


 「ルーリアでよろしいですわ。歳はたいして変わらないでしょう?私もユウと呼ばせてもらいますから。」


と言った。

呼び方のことか。まあ確かにルーリアと僕はたいして変わらない歳に見える。


 「わかった。えーと、ルーリア、『ニニギ亭』にはどうして?」


 「知り合いがいますの。その人に会いに。」


ふ〜ん・・・・

ユウラさんかな?


と、もうすぐ着く。港と『ニニギ亭』はたいして離れていない。

セラの母親についてはどうしようか・・・・


うーん・・・・


あ、そうだ。ルーリアにちょっと聞いてみるか。


 「ねえ、ルーリア。関係ない話なんだけどいいかな?」


 「なんですの?」


首をかしげている。その仕草、いいね!!


 「えーと、友人の大切なものを見つけたんだけど、そこにはすごい危険がある、そんな場合、君ならどうする?友人に教える?」


ルーリアは少し考えたようだが、すぐに返事を返した。


 「わたくしなら、教えますわ。それを取りに行くかは、自分で決めたいですもの。大切なものであるなら、なおさらですわ。」


自分で決めるか・・・・・

セラもそう思うだろうか。


思うだろうな。

それに僕はセラの大切な写真を預かって、情報収集をかってでたんだ。

このまま黙っているのは、道義に反する。


 「ありがと、ルーリア。参考になった。」


 「どういたしまして。もしかして、ユウが先ほどから悩んでいる様子だったのは、このことですの?」


うっ・・・悩んでいたのは、ばればれか。

表に出してないつもりだったのに。


おっと、もう着いた。


『ニニギ亭』の扉をあけ、中に入る。


 「い・・・・・なんだ、ユウか。」


いらっしゃいませってちゃんと言って!!

僕にもお客様としての対応をしてください!!


セラが僕の後ろにいる、ルーリアに目をやった。

と思ったら急に目がつり上がった。

あれ?怒ってる?


セラは小さな声、囁いているかのような声で、僕に言った。


 「ユウ。君は私が汗水たらして働いている間、女の子とお出かけか?ふふふ・・・・後で・・・・」


後で!?その先は!?

後で何されんの!?

こえー、ちょーこえー。

いままでのセラの中で一番怖い。すごい圧力だ。


 「こちらへどうぞ。」


セラはそのまま仕事モードで座席を案内した。

それがますます怖い。

後ろにいるルーリアは僕がビクビクしている様子を、不思議そうに見ている。


カウンター席に座り、セラが離れていったところでやっと緊張が解けた。

ふ〜怖かった。


 「ルーリア。知り合いは見つかった?」


 「いえ、まだです。」


とにかく何か注文するか・・・・


 「おう、ユウ君。いらっしゃい・・・・って、あれ?その子・・・」


そう言ってきたのは、店長のユウラさんだ。

ユウラさんはルーリアを見て驚いている。


 「ユウラさん、おひさしぶりです。」


ルーリアは丁寧にお辞儀をした。


 「あんたは確か・・・・ハルギートのおっさんとこの・・・」


 「はい。長女のルーリアです。」


 「ほー・・・大きくなったな。なるほど、今回は君か。」


 「はい。」


どうやら知り合いは、ユウラさんだったようだ。

会話の内容は、聞いてもいまいちよくわからなかったが。


 「それで、ユウ君はなんでルーリアと?」


 「道案内をしただけですよ。」


 「ふーん、そっか。おっと、注文は?」


思い出したようにユウラさんは言った。

僕たちは昼食のメニューから適当に選び注文。

ユウラさんは注文を聞いて、さっさと行ってしまった。


 「少ししか話してないけどいいの?」


 「ええ。十分ですわ。」


今ので十分?変なの。



〜〜〜〜〜〜



昼食を食べ終わったころ、『ニニギ亭』にアルがやってきた。


 「おーい、ユウ。今日は仕事・・・・・・はじめましてお嬢さん。俺の名前はアルフレッド クロストラフ。ユウの友人、よろしく。良ければ、この後どこかで遊びませんか?」


僕への挨拶なしに、速攻で隣にいたルーリアに自己紹介を始めた。

ははは、殴る。


 「ぐおっ・・・・な、なにするんだ!!」


 「いきなりやめろ。見境なしめ・・・・」


ルーリアは訳がわからない様子だ。


 「ユウ。この方は、なんですの?」


 「えーと、変人ってやつだ。近づくと妊娠するぞ。」


 「うぉおおい!?なんだそれは!!ちゃんと紹介しろ!!」


おかしいな。ちゃんと紹介したつもりなんだが。


 「つまり、近づいてはいけない方ですのね。」


 「その通り!!」


 「違う!!」



それから、僕はアルと依頼請負屋クエストショップに行くことにした。

当然、アルは嫌がったが、問答無用だ。


ルーリアはこれから宿を探すようだ。


 「ユウ、道案内助かりましたわ。ありがとう。」


そう言って、ルーリアと別れた。


 「くそぉ・・・・どうして、どうして、こんなその他大勢顔の奴にセラちゃんや、さっきの美人さんみたいなのが寄ってくるんだ・・・・・」


と、意味のわからんことを言うアルを引きづりながら、依頼請負屋に向かった。


あっ!!セラにお母さんの情報のこと言うの忘れてた!!

セラがずっと怒っている様子だったので、すっかり忘れてた。


また、明日にするか。



〜〜〜〜〜〜



深夜。

『ニニギ亭』店長のユウラは閉店作業をすべて終え、自室へと帰ろうとしていた。


ん?

部屋の中に誰かいる。

もう来ていたのか。


ドアを開けると、部屋の中央にはテーブルとイスがあり、そこには金髪の少女が座っていた。


 「お邪魔しております。」


金髪の少女、ルーリアは椅子から立ち上がり礼をした。


 「おう。今回の伝令はきみか。意外だな。」


 「皆、忙しかったのでわたくしが参りました。」


 「なるほどね。まあ、座りなよ。」


ルーリアは先ほど座っていた椅子に座り、ユウラはテーブルをはさんで反対側の椅子に座った。


 「で?そっちの様子は?殿下は元気?」


 「はい。国外に出ることを今も勧めていますが、一向に聞いてはくれませんの。」


 「ふふ・・・・頑固なのは相変わらずか。そっちの戦力はどうなんだ?」


 「少し不安があります。」


そうか・・・・

ユウラは少し考え込む。


 「ユウラさん、共和国のほうはどうですの?」


 「あっちは凶一郎が向かった。なんとかするだろう。」


戦力不足か・・・・

ユウ君とセラはどうだろうか?

ユウ君は凶一郎の弟子。

セラは恐らく、あの体内エーテルの質から見て、龍族だ。


協力させたら凶一郎は怒るだろうか?


ユウ君はなんだかんだで引き受けてくれそうだし、セラはあの様子だとユウ君に付いていくだろう。


 「ルーリア、君をここまで道案内してきた子がいるだろ?」


 「ユウのことですの?それがなにか?」


 「どうだった?」


 「少しひ弱そうな印象がありましたが、ナイフ投げがうまかったですわ。」


 「あの子は凶一郎の弟子だ。」


ルーリアは目を見開いた。


 「凶一郎さんの!?あの方の技を教えられて、使える人間がいるんですの!?」


 「意外だろ?私も直接実力を見たわけではないから、詳しくはわからないが、いい腕を持っていると思うよ。」


 「ユウに協力してもらえとおっしゃるんですの?」


 「できたらね。無理強いはしないさ。」


 「凶一郎さんに怒られませんの?」


 「怒られるだろうな。わざわざ、行方不明になって手伝わせないようにしてるんだから。だが、そんなこと言ってられないだろう?」


 「まあ、そうですが・・・・」


 「ま、考えとくってレベルの話だ。もし、そうすることになったら私から頼むよ。ほら、長旅で疲れたろ?今日は宿に帰ってゆっくり休みなよ。」


 「はい。お邪魔しました。」


そう言ってルーリアは立ち上がって、礼をして、窓から出て行った。

相変わらず身軽な子だ。


ルーリアが帰ったのを見届けたあと、就寝の準備をしながら考える。

凶一郎は前の戦争で異界人の友人を死なせてしまったトラウマがある。

ユウ君から聞いた凶一郎の行動から考えて、ユウ君は恐らく異界人だ。


もし、私の考えた通りユウ君が異界人であるなら、私が何もしなくとも戦いの渦の中に飛び込んでいくことになるだろう。

イヴの導きによって。



(11/15)

ちょっと更新が遅れたような・・・・


登場人物紹介をちょびっと追加してみました。

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