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異界の旅路  作者: Posuto
24/53

第23話:守護四神武家

時刻は夜。『ニニギ亭』。

あれから首都まで戻って、その足で医者に行った。

あばらと左腕の骨を、治癒系大氣術で修復してもらった。

安静にしておけと言われ、今は包帯が巻かれている。

その後『ニニギ亭』に来た。


 「満腹だー」


 「満腹です〜」


テーブル席に座った僕たちは、宣言通りアルの金でたらふく食った。

『ニニギ亭』は庶民的な店であるが、その店の中でも高額なメニューを選びまくった。

僕とチコが満腹で幸せに浸っている横で、セラは僕の倍以上の量を軽くたいらげている。


 「うん。ひさしぶりにたくさん食べたな。」


本気で食ったセラは恐ろしいな。

その細い体のどこにあの大量の食糧が格納されたんだ?

僕の横にいるアルは財布を覗いて肩を落としている。


 「ちょっとぐらい遠慮してくれよ・・・・・」


泣きそうな声だ。

まあ、しょうがないだろー。


満腹感に浸っていると、チコが何やら緊張した様子で話しかけてきた。


 「あの〜、ユウさん。『銀月華』の整備はどうしているんです?」


 「ん?毎晩手入れはしているけど、ちゃんとした整備は旅を始めてからしてないかな・・・」


『銀月華』というのは僕の左腰にある刀のことだ。

自分にできる手入れはしているが、専門の魔法技師クリエイターに見せたりはしていない。


 「えーと、良ければ私が整備をしてもいいです?と、とっても興味が・・・・いや、いや、お世話になったので!!」


ああー興味しんしんなのね。チコは魔道具好きだなー。


 「いいよ。じゃあ、おねがいします。」


僕はそう言って、刀をチコに預けた。

受け取ったチコは、目を少女マンガのキャラの如くキラキラさせている。


 「はい、まかされました!!ふぁ〜美しい・・・・」


刀を眺めて自分の世界にトリップしてしまった。

後ろに気配を感じた。

ん?


店長のユウラさんだ。いつも快活に笑っている黒髪のお姉さんだ。

だが、今は少し真剣な顔だ。


 「ユウ君、チコちゃんが持ってる刀は君のかい?」


 「はい、そうですけど・・・・?」


 「ふ〜ん・・・・どこで手に入れたんだ?」


 「剣を習った師匠にですけど・・・・なんでです?」


 「いや、知り合いの持っていたものと同じだからね。」


なんか尋問みたいなノリだ。だが、逆らえない。

ユウラさん、怖いんだもん。僕は若干ビクビクしながら答える。


 「師匠の名は?」


 「ガウス ランドールです。」


 「ガウス・・・・・?ああ、なるほど!!」


師匠な名を告げた後、しばらく考え込んだユウラさんは、急に何やら納得したようだ。

なにがなにやら。


 「ユウ君、君の流派の名前は?」


 「アルベイン流です。」


 「ほう・・・なるほどね。」


ユウラさんの笑みが深くなった。


 「えーと・・・・それで何がわかったんです?もしかして師匠と知り合いですか?」


 「んー・・・言っていいのかな・・・・?まあ、いいか。君の師匠と私は知り合い、しかも同郷だよ。私の本名は虎島こじま 優羅ゆうらだ。虎に島と書いて、虎島だ。」


 「虎島!?」


と、驚いたのは僕ではなく、さっきまで刀を眺めてトリップしていたチコだ。


 「な、なに、チコ?急に・・・・」


 「い、え、お、こ、虎島といえば東方の国ヤマトの守護四神武家ガーディアンアームズでふお!!」


ヤマト!?日本語とほぼ同じ言語を扱う国。

おっさんはヤマトの人間!?

そうか、それで僕がこの世界に来た時、僕の日本語が通じたのか!!

それにしてもガーディアンなんたらって何だ?


 「守護四神武家とは、ヤマトの戦闘部門のトップです。虎島こじま竜宮たつみや亀平かめひらおおとり、それぞれ格闘、剣術、陰陽道、忍、をつかさどる武家です!!」


すごく丁寧に説明してくれた。

つまりはユウラさんが強いってことだな。わかります。


 「へぇー、チコちゃん、詳しいな。他国の人間がそこまで知ってるとは思わなかったよ。」


ユウラさんが感心している。確かにチコはヤマトについてよく知っている。

刀のことにしても、鬼族のことにしても。


 「私の旅の目的は、鬼族の技術を学ぶことなので、ヤマトについてたくさん勉強したんです!!」


なるほど、そういうことか。


それにしても、一つ疑問が残る。

ユウラさんの本名が和風テイストなのに、同じヤマト出身のおっさんがバリバリのカナ文字的名前なのはなぜだ?

その疑問にユウラさんが、あっさり答えてくれた。


 「ユウ君、その答えは簡単だよ。あいつが偽名を使っているからさ。」


 「なるほど・・・でもなんで?」


 「あいつは、昔から偽名をいくつも持っていたからな。ザック ライネルとか、カール アルベインとか・・・・ガウス ランドールもその一つだ。」


 「ア、アルベイン!?」


流派名と同じ!?じゃあ、アルベイン流っておっさんが作ったのか!?

いや、おっさんが偽名であるなら、そもそもアルベイン流なんて存在しない。

あの野郎、何もんだ!?


 「ゆ、ユウさん・・・・カール アルベインって十年前の戦争の英雄ですよ・・・たしか戦争の原因となった、帝国皇帝を討ったとか・・・・ユウさんの師匠さんは、すごい人です・・・。」


チコがびっくりした様子で言った。


 「ユウラさん、マジですか?」


 「マジ。」


確かユウラさんも戦争経験者だ。嘘ではないだろう。


ああー!!だから、なにもんなんだよあの野郎!?

そんなすごい人だったのか?普段は、ただのエロ親父なのにー!


 「で、ユウラさん。結局、師匠の本名って何なんですか?」


 「んー、秘密。」


 「ええ!?なんで!?」


 「本人に聞くといい。これ以上勝手に話すと怒られそうだ。」


 「その本人が行方不明なんです!!」


 「まあ、いずれ会えるさ。じゃあ、私は仕事があるからー」


逃げられた。

うーん、結局おっさんのうさん臭さが倍以上に跳ね上がっただけだ。

ヤマト出身で、戦争の英雄、僕の師匠。

今はどこにいるのやら。


 「結局、ユウの師匠は何者なんだ?」


 「僕にもさっぱりだ。」


黙って聞いていたセラも驚いているようだ。

チコもびっくり顔で固まっている。


アルは・・・・・ナンパ中だ。

おい・・・・



〜〜〜〜〜〜



夕食が終わり、ナンパをしていたアルを叩きのめし、チコが帰ることになった。


 「アル、チコを家まで送って行け。」


 「なんで俺・・・・分かった、行ってくる!!」


僕の後ろでセラが手をボキボキいわしている。


 「あと、今日のことは、他言無用だ。」


 「今日のことって、コッホラゴーをやったことか?なんで?」


アルのことだから、自慢しまくりそうなので釘を刺しておく。

あまり有名になるのは、避けたい。


 「なんでも。もし、ナンパのための自慢話に使ったら、ビリビリいわすからな。」


 「げぇ・・・・・わかったよ。せっかくナンパのいいネタができたと思ったのに・・・」


やっぱりな。

あとはチコに注意しとかないと。


 「チコ、アルに何かされそうになったら大声出すんだぞ。」


 「大丈夫です。アルさん、ひょろいですから私でも殴り倒せますよ。」


 「おい、いろいろ失礼だろ!!そもそも俺がこんなちびっ子に手を出すわけないだろ!!」


 「むっ・・・・、ていっ!!」


 「ぐおっ・・・・・」


ばっちりドワーフのチコの腕力が身にしみたようだ。


 「ユウさん、刀の整備は任せてください。」


 「うん、よろしくね。」


チコは別れを言い、ぶつぶつ文句を言うアルをつれだって帰って行った。



〜〜〜〜〜〜



 「なあ、ユウ。何であの時、あいつに大氣術スペルをわざわざ使わせたんだ?」


チコとアルが帰ってからしばらくしてから、セラが急に聞いてきた。


 「へ・・・・?何が?」


っていうか、まだアルの名前覚えてないんだ・・・・


 「森でコッホラゴーと戦った時の話だ。あいつにわざわざ大氣術を使わせなくても、君の刀がコッホラゴーに刺さった時点で、私たちの勝ちは確定していた。それなのに君は、わざわざあいつに大氣術を使わせる選択をした。あれはなぜだ?」


するどいな。

セラの言ったことは本当だ。

あの時、別にアルに大氣術でコッホラゴーの動きを止めてもらわなくても、突き刺さった刀に近づくことは可能だった。

つまりは、セラの言うとおりコッホラゴーの腹に刀を刺せた時点で僕たちの勝ちは確定していた。


 「理由ね・・・・実はさユウラさんに頼まれてたんだ。」


 「ユウラさんに?」


フロリア森林地帯に行く前、セラがメイド服を着替えに行っている間、アルについていろいろ教えてくれたのだ。

その時の会話を思い出す。



〜〜〜〜〜〜



セラの着替えている間、僕は『ニニギ亭』の席で待っていた。

チコは店の中で知り合いを見つけたらしく、そっちのテーブルで何か話している。

仕事中のユウラさんが話しかけてきた。


 「なぁ、ユウ君。今の奴のことだけど、いいかな?」


 「今の奴って、アルフレッドってやつのことですか?」


 「うん、そうそう。ごめんねー、あいつ性格悪いから・・・・」


 「なんでユウラさんが謝るんです?」


 「あいつの両親とは旧知でね。息子のあいつについては、少し心配してるんだよ。騎士団入団試験の時に仲間に裏切られたらしくてね。軽い人間不信で、実戦恐怖症になっちまったんだと。」


 「へぇ・・・・・」


まあ、あの性格だからなぁ・・・・・


 「それで、騎士団入団試験に連続で落ちまくって、今じゃすっかりだらけてるんだ。でもな、結構良い腕してるんだよ、あれでも。」


良い腕ねぇ・・・まあ確かに、持っている詠唱杖キャストスタッフはとても豪華で性能がよさげだった。あれがちゃんと使いこなせるなら、確かに良い腕ではある。


 「それで、ユウラさん。そいつの話を僕にしてどうするつもりなんです?」


 「機会があれば喝を入れてやってくれってこと。」


 「はぁ・・・・・どうして僕に頼むんです?」


 「うん。ユウ君、なんだかんだで人がいいからね。頼めそうだと思って。」


いい人って言われるのは別にいいが、人がいいと言われるとなんだか微妙に残念だ。


 「わかりました。あんまり期待しないで下さいよ。そもそも、いつ会うかもわからないのに・・・・」


 「機会があればって言ったろ。心に留めておいてくれればいいさ。」


そう言って、ユウラさんは仕事に戻って行った。



〜〜〜〜〜〜



 「ふーん、ユウラさんの知人か・・・」


 「そういうこと。見捨てるわけにもいかないだろ。それに、実戦で失った物は実戦で取り返すべきかなーと思ってね。それでわざわざ、手伝わせたんだよ。結果うまくいったから、いいんじゃないか?」


セラはまだアルに対して怒りを感じているようだ。


 「でもあいつが大声出したせいで君は怪我したんだ。もっと怒ってもいいんじゃないか?」


 「十分だよ。奢ってもらったし、これから仕事を手伝わせたりするさ。」


 「そうか・・・・君がそう言うならいいか。」


納得してくれたかな?

セラがこんなに怒るのは僕の怪我のせいかな?


 「セラがそんなに怒るのって、僕の怪我のことがあるから?」


 「む・・・・まあ、そんなところだ。」


 「そっか。ありがと、心配してくれて。」


 「別に・・・・礼はいらない。」


そう言って顔をむこうに向けてしまった。

耳が赤くなっているのが見える。

セラのかわいい態度に、癒される〜。


こうして長い一日が終了した。


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