第22話:森林内激闘(二)+おしおき
大氣術を使用する上で必要なこと。
一つは、エーテルの緻密な操作。
一つは、魔法が発動するイメージ能力。
一つは、これらを冷静に行える集中力。
アルフレッドは大氣術の発動のために、詠唱杖にエーテルを徹す。
徹されたエーテルは、詠唱杖の上部にある詠唱器にいたり、大氣エーテル干渉術式に変換される。
(おちつけ、おちつけ、俺・・・!大丈夫だ、俺ならやれる!!)
いつからだろうか・・・・
自分がこんなに実戦に対して臆病になったのは・・・・
思い出す。ペルート魔法学院にいたころ。
俺は、優秀だった。魔法学院の詠唱師の中で一番優秀だった。
模擬戦をすれば、俺のいたチームはいつも快勝だった。
家は富豪。顔は美形。女の子にはモテまくった。
俺は傲慢だった。周りから嫌われていることは分かっていた。
カスロア騎士団入団試験、実戦形式の戦闘試験。
そこで、俺はチームを組んでいた奴らに見捨てられた。
詠唱起動中の動けない状況の俺が、対戦相手のチームの攻撃にさらされても誰も助けてはくれなかった。みな攻撃を避けるため逃げた。
ボロボロになった俺は、試験に落ち、俺は実戦が苦手になった。
実戦をすると、大氣術を発動するのに必要な集中力が得られず、実戦では役立たずに成り下がった。
誰も信用できなくなった。
それなのに、それなのに、俺はなにやってんだ?
あいつの言葉にそそのかされた。体を盾にしてでも守ってやる?
嘘つけ。お前もやばくなったら逃げるんだろ・・・・
でも、あの眼は、あの真剣な眼に信用させられた。
もう一度誰かを信用してみようという気になった
コッホラゴーのほうに目を向ける。
口をあけ、エーテルの砲弾を撃ち出そうとしている。
射線上に俺がいる!?
(こ、こっちにあたる!?)
そう思った瞬間、あいつとセラちゃん、そしてちびっ子が、たたみかけるように攻撃し、コッホラゴーを転ばせた。見事なコンビネーションで、射線からこちらを逸らしてくれたようだ。
(いまのうちだ!!)
イメージする。
コッホラゴーが凍りつくイメージ。
できた。久しぶりの集中力。奴を凍りつかせて捕縛する!!
「いくぞっ!!」
宣言通り二十秒、大氣術が発動する。
〜〜〜〜〜〜
あと十五秒。
アルフレッドから離れ、戦っているセラに声をかける。
「セラ、チコ、十五秒時間稼いで!」
「お、おい、ケガはないのか?」
「そ、そーです!!危ないですよ!!」
「へーき、へーき。」
「ぬ・・・・分かった。時間稼ぎは私がやる。君はあまり前に出るな。」
「私もがんばるです!!」
僕は投擲用ダガーをコートの中から引き抜き、投げ、右手で発剄を撃つ。
そして、高速移動で撹乱。
セラは積極的に前に出て、攻撃を自分に集中させる。
チコは遠距離から大きなハンマーを投げつける。
チコのハンマーはブーメランのように、コッホラゴーに直撃した後、自分のもとに帰ってきている。
すげぇ・・・・なんだ今の技。
あと五秒。
コッホラゴーが口を開いた。
あの技だ!!
奴の射線上には詠唱中のアルフレッドがいる。避けるわけにはいかない!!
「セラ、チコ、転ばせろ!!」
セラはコッホラゴーの膝裏にけりを打ち込み、チコは地面にハンマーを打ちつけ足もとの地面を破壊。
コッホラゴーは足もとが崩れたことと、膝裏の衝撃で転んだ。
よしっ!!
もう二十秒ぐらいだな・・・・
「いくぞっ!!」
アルフレッドの声だ。宣言通りだな。
「全員退避!!」
セラはチコを抱え、跳びさがる。
中級大氣術『第二氷法・縛』
コッホラゴーの足もとに魔法陣が現れ、回転、発光。
バキッ!!
という軋むような音と共に、氷の花が開いた。
体感温度がいっきに下がり、あたりを霧のような煙が包む。
コッホラゴーの下半身は氷で覆われ、身動きが出来ない。
今のうちに僕は接近する。
「ははっ・・・・!!」
接近しつつ、僕は笑ってしまった。
これほどとは!!これほどの威力とは!!
あいつ、やるじゃないか。伊達に魔法学院トップは名乗ってないな。
コッホラゴーは身動きが取れなくなって、ほんの一秒。
すでに、氷を無理やり壊そうとしている。
だが、すごい。
あの怪力のセラとためを張る、コッホラゴーを一秒以上封じ込めている。
これはすごい。大氣術が使えるとは思っていたがこれほどとは。
コッホラゴーの目の前に到着。
僕はコッホラゴーの腹に突き刺さったままの刀をつかむ。
雷撃
それも、さきほどグロウリザードに使った時のように短時間ではなく、本気で雷撃を流し続ける。
バリッバリッ!!
と、まるで雷が落ちたような音。
雷撃は刀を伝って、コッホラゴーの体内に直接叩きこまれた。
両手のグローブの甲についた簡易詠唱杖に全力でエーテルを流す。
オーバーヒートさせないように注意しながらも、自分の体内エーテルの続く限り流す。
十秒近く雷撃を流し続け、停止。
僕が突き刺さっていて刀を抜くと、コッホラゴーは轟音と共に後ろに倒れこんだ。
ふぅ〜終わった・・・・あれ?
膝に力が入らず、そのまま膝をついてしまった。意識が少し朦朧とする。
「ユウ!!」
「ユウさん!!」
セラとチコが駆け寄ってくる。
二人とも心配そうな顔だ。
「立てるか?」
「無理・・・ふらふらする・・・」
「エーテル欠乏症ですね。セラさん、肩を貸してあげてください。」
「ああ。ユウ、つかまれ。」
僕は礼を言い、セラに肩を貸してもらう。
さて、お仕置きの時間だ!!
〜〜〜〜〜〜
「アルフレッド。御苦労さん。」
僕はセラとチコをつれだって、アルフレッドのいる場所まで来た。
「あ、ああ・・・・当然だ!!俺を誰だと思っている、アルフレッド クロストラフだぞ!!」
ふっていう感じで、かっこつけている。
急に偉そうになったな。
僕に肩を貸しているセラから、怒気が噴出している。
チコはあきれた様子だ。
「なあ、ユウ。私が殺っていいか?いいよな?」
「ひぃ・・・・ごめんなさい!!」
セラのリアルな殺気にビビり、瞬時に態度を変えるアルフレッド。
「アルフレッド、お前金持ちだろ?それに詠唱師としても使えるし、しばらくは俺たちの金づる兼雑用係だ。セラもチコも何かあったらアルフレッドを使えよ。」
僕の提案を聞いた、アルフレッドはいきり立った。
「ちょっと待て!!金づるに雑用係だと!?ふざけんじゃ・・・・いいっす、それで!喜んで!!」
セラの威嚇で、即効承諾。
よしよし。
「まずは、夕食だな。腹減って死にそうだから、今日はアルのおごりでたらふく食おー。」
「やたー!!」
チコが万歳している。
「くっそー・・・おい、名前をアルって略すな!!」
「いいじゃないか。名前長すぎなんだよ。雑用アルよろしくなー」
ぐうぅぅぅ・・・・と、悔しがっているアル。
ふぅ・・・まあ、なんとか切り抜けられたか。
帰り道、セラが途中から僕をお姫様だっこした。
嫌がったのだが、肩を貸して歩くと時間がかかると言われ、無理やり従わされた。
なんて、羞恥プレイだ!!