第21話:森林内激闘(一)
セラはユウがコッホラゴーに近づいて行くのを見ていた。
ユウは、目を離すと、どこにいるのかわからなくなるほど存在が希薄になっている。
なにか特殊な身氣術を使っているのだろう。
以前から思っていたことだが、ユウのエーテル操作はすごい。
身体機能強化なら私は負けないだろうが、あの器用さは真似できない。
そう感心しつつ、目を離さない。
少しでも危なくなたら飛び出そう・・・・。
「おーい!!セラちゃんじゃないか!!何してるんだ?僕に会いに来てくれたー?」
なにっ!?
ユウのほうに集中していたため、後ろから誰か来ていたことに気ずかなかった。
後ろを振り向くと、4人の人影。
一人は知っている。
店の常連だ。赤毛の詠唱師の男。名前は・・・・忘れた。
他の人は、みな傭兵のようだ。
どうやら、集団のようだ。
いきなり大きな声を出されたので、とっさに大声を出した赤毛の腹に拳を入れた。
「がふぅ・・・・なんで?」
そう言って赤毛の男はうずくまった。
やばい!!ユウが気付かれた!?
「お、おい、あれ、コッホラゴーじゃ・・・・」
「やべぇ・・・逃げるぞ!!」
後の三人は、事態の深刻さに気づいたようで、さっさと逃げていった。
うずくまっている赤毛を放置して・・・・・
「お〜い・・・・おいてかないでくれ〜」
赤毛の男はまだ立ち上がれず、情けない声を出した。
(こいつはもういい!!ユウは?)
ユウはすでに戦闘を始めている。
助けなければ!!
「チコ、私は行ってくる!!」
「は、はい!!邪魔にならないように遠くから援護しますです!!」
チコは大きなリュックから、どでかいハンマーを取り出し、ぐっと気合いを入れている。
チコは自分が足手まといに成りかねないことを自覚しているようだ。
戦闘を見極める目を持っている。
こういう所は年上であると思えるな。
よし、行くぞ!!
〜〜〜〜〜〜
先手必勝!!
アルベイン流 戦刀術 五ノ太刀 『桜花連刃』
舞い散る桜の花びらの如く、一瞬のうちに六つの斬撃を放つ高速剣術だ。
僕は限界で六つしか放てないが、おっさんは一瞬で二十発ほど放っていた。
つまりは、熟練者ほど強くなる技だ。
まあ、おっさんは異常だが・・・・
コッホラゴーの胴体にずべての斬撃が直撃した。
(な!?何だこの手応え!?)
斬れていない。すべて筋肉の鎧によって阻まれている。
コッホラゴーは、両手を組み叩きつけてきた。
右に転がって、回避。
ドゴォォン!!
僕がいた場所は陥没しえぐられている。
一発でもまともに食らうと終わりだ。
回避した動作そのままに、ゴリラの脇腹に左で拳を三発ほど入れる。
それを牽制として、身体強化した脚力でバックステップ。距離をとる。
(な・・・・・!?)
距離をとったつもりが、もう目の前にいる。
でかいくせに速い!!
コッホラゴーはもうすでに右腕を振りかぶっている。
やばい、直撃コースだ!!
回避が間に合わない!!
ボゴッ!!
セラの飛び蹴りが、コッホラゴーの側頭部に直撃した。
ゴリラは20メートルほど吹っ飛んだが、転がって受け身とるようにしてすぐに立ち上がった。
おいおい・・・・セラの蹴りをまともに受けてそれか・・・・
「ユウ、すまん。遅れた。」
「いやいや、いいタイミング。助かったよ。」
コッホラゴーのほうは、立ち上がったのはいいが、さすがに少しふらついている。
このすきに逃げる選択肢を考えたが、無理そうだ。
先ほどのスピードでは到底逃げきれない。
コッホラゴーから目を離さず僕たちは会話する。
「セラ、あの赤毛のアルフレッドだっけ・・・・どうなった?」
「一発入れてやった。まったく・・・奴のせいで!!」
怒ってる、怒ってる。こわいなー・・・
チコのほうに視線をやると、なにやら薬品を取り出して混ぜたりしている。
その横には、この状況の原因であるヘタレイケメンが座り込んでいる。
セラの与えたダメージなのか、腰でも抜かしているのか、立ち上がれないでいる。
奴を囮にする・・・とか考えたが、やめた。
まあ、怒るのはあとだ。今はこいつをどうにかしないと・・・・
「セラ、さっきの蹴りどれぐらい?」
「7割程度の力だ。人型状態ならあれが精一杯だな。龍声を使うか?」
「ああー・・・・まだ、だめ。ホントにやばくなったら。」
正直セラに龍声を使わせたくはない。
見ている人がいる
チコは信用できるが、あの赤毛は信用できない。
セラが龍族であることを知られるのはまずい。
まあ、これは建前で、実際は僕が個人的に使わせたくないだけだ。
セラは昔の龍の力を暴走させた記憶から、龍の力に対して嫌悪感に近いものを感じている節がある。
だから、できるだけ使わせたくはない。
「セラって殴る以外に、浸透打撃とか使えないの?打撃を内部に伝える技。」
「使えることは、使えるが、苦手なんだ。失敗するかもしれん。」
まあ、何となくわかる。不器用だもんね。
ゴリラはもう戦闘態勢を整え、こちらに向かってこようしている。
よし!!
「目を狙う。目から刀を突き刺し、脳を破壊する。」
「わかった。なら、陽動は私が受け持つ!!」
どんなに筋肉で体が守られていても、目は守られてはいない。
そこを狙う!!
コッホラゴーが突進してきた。その大きさから、まるで大型トラックが正面から接近してくるようですさまじい圧力だ。
その圧力を振り払い、僕は脚力強化による高速移動で正面から突進する。
ちょうどぶつかりそうになった瞬間、スライディング。
股の下を抜け、後ろに回り込む。
コッホラゴーは標的をセラに変更して、マンホールの蓋ぐらいの大きさの拳を振り上げた。
セラは正面から迎え撃った。
右の拳を握り、突き出す!!
コッホラゴーの拳とセラの拳が真正面からぶつかり合った。
ドゴンッ!!
激突の衝撃ですさまじい風が巻き上がり、セラの足もとは陥没した。
だが、拮抗している。
どちらも動けないでいる。
今だ!!
後方に回り込んでいた僕は、いっきにコッホラゴーの背中を駆け上がった。
コッホラゴーの肩の位置に来て、刀を逆手に持ちかえ、目に突き刺すべく振り上げた。
そこで予想外のことが起こった。
コッホラゴーが飛びあがって回転したのだ。
ちょうど前方宙返り見たいな感じで・・・・
コッホラゴーの肩にいた僕は、振り落とされた。
なんとか空中で体勢を立て直し、着地。
コッホラゴーは少し離れた位置に轟音をたてて、着地。
そしてこちらに向かってくるのかと思ったのだが、様子が変だ。
こちらを向いて、口を開けている。
はぁ?
と思ったのは束の間、セラが大声を出した。
「避けろっ!!」
とっさに横っ飛びで移動した。
ガアアァァッァ!!
コッホラゴーの口から圧縮されたエーテルの塊が射出された。
僕の真横をエーテルの砲弾が通り過ぎた。
こ、こいつエーテル操作ができるのか!?
エーテル操作が可能な生物は、人間だけではない。
だが、こいつができるとは知らなかった。
エーテルの砲弾は僕の後方で地面に着弾、爆発した。
ドンッ!!
うわぁ・・・・やべぇ・・・
爆発地点は半径10メートルの範囲が消し飛んでいる。
この威力は危険だが、連射はできんだろう。
さて、目を狙う作戦は失敗だ。もう通用しないだろう。
どうしよ・・・・・
コッホラゴーは完全に僕に対して怒っている。さっきの目を狙う行動で頭に来たようだ。
「げぇ・・・・・なんて運がないんだ・・・」
接近してくる。
〜〜〜〜〜〜
チコは大きなリュックから手持ちの薬品を取り出し、調合を始めた。
調合しつつ、戦いを観察する。
ユウとセラは、コンビネーション攻撃が破られたので、正攻法で戦っている。
コッホラゴーの攻撃は大ぶりでなかなか当たらない。だが当たれば、大ダメージだ。
ユウとセラの攻撃は確実にあたり、ダメージを入れている。
この戦いは持久戦だ。
(あの二人を少しでも助けるために、私が何とかしなくては!!)
チコは薬品を混ぜ、体内エーテル操作。エーテルを薬品に流し込む。
錬成と呼ばれる、魔法技師特有の技術だ。
エーテルを流し込まれた薬品は変異し、特殊な効果が付与される。
「よしっ!!」
「お、おい・・・ちびっ子。なにやってんだ?そんなことより逃げないのかよ?」
チコが気合いを入れていると、近くで腰を抜かしている赤毛の男、アルフレッド クロストラフが声をかけてきた。
「あなたも、あの二人を助けようと思わないんです?この状況を作り出したのはあなただというのに・・・」
「お、おれは知らなかったし・・・・俺の力なんて・・・」
はぁー・・・・
チコは呆れてしまった。
「あなたは、なぜあの二人が逃げないのかわかりますか?」
「なぜって・・・・逃げきれないからじゃないのか・・・・・?」
「私たちがいるから、厳密に言うとあなたがいるからですよ。」
「は・・・・ど、どういうことだよ。」
アルフレッドは意味がわからないようで、首をかしげている。
「あなたも二人の戦いを見ていたはずです。あんな戦いができる二人が逃げきれないはずがないでしょう。私を連れていたとしても、ユウさんかセラさんに抱えてもらえば逃げきれます。あなたがいるから、あの二人は逃げられないんですよ。」
「そ、そんなわけ・・・・」
「そうなんですよ。セラさんは戦闘中は、ユウさんの言葉に従います。つまりは、ユウさんがあなたを殺さないようにしているんですよ。」
「なんで・・・なんだ?」
「さあ・・・・?ユウさんがどう考えているのかはわかりません。とにかく、私はユウさんが戦うというなら、それを手伝います。それじゃあ。」
戸惑っているアルフレッドをおいて、チコはハンマーと錬成で作り出した薬品の瓶を持ち、立ち上がった。
助けます!!
〜〜〜〜〜〜
「ユウさん!!爆発します!!」
チコの声だ。
爆発?
チコは瓶をコッホラゴーに投げ飛ばした。
うーん、見事な遠投ですな・・・
コッホラゴーは自分に対して投げられた瓶に気づき、左手で叩き落とした。
瞬間
ドゴンッ!!!
爆発。
チコの投げた瓶は割れた瞬間、大爆発をおこした。
コッホラゴーの左手は赤くただれている。
あの小さな瓶にこの爆発力はすごい。
コッホラゴーはひるんでいる。
ナイス、チコ!!
接近、刀を納刀する。
「ふっ・・・・!!」
アルベイン流 戦刀術 四ノ太刀 『斬鉄閃』
斬鉄の理をもって相手を切り裂く、居合だ。
納刀した刀を構え、片膝をたて、腰を浮かす。
抜刀。
抜刀する腕の振りの力、エーテルが徹された鞘と刀を操作することで発生させた反発力、踏み込み、あらゆる力の流れを合成し、一刀に込める。
ゾンッ!!
コッホラゴーの脇腹から刀が入りこみ、筋肉の鎧をぶちぬき、内臓まで達した。
が、止まった。刀は腹の中央辺りまで進んだが、筋肉に巻き込まれ止められた。
(くそっ、勢いが足りなかったか!?)
「ユウ、さがれ!!」
コッホラゴーが平手を振り上げている。
とっさに、刺さったままの刀から手を離し、避けようとした。
左からの衝撃。吹っ飛ばされた。
「がっ・・・・・・!!」
僕は吹っ飛び地面を転がった。
「ぐぅぅぅっ・・・・」
いてぇ・・・・左腕が折れた・・・・あばらも何本かイッた・・・・
「ユウさん!!」
「ユウ、くそっ!!使うぞ!!」
チコとセラの声か・・・・意識が・・・
だめだ、ここまできて龍声を使わせるのはいやだ。
それに僕の刀は突き刺さったままで、良い状況だ。
「セラ、使うな!!あと、刀を抜かせるな!!」
何とか大声を出し、セラに指示を飛ばす。
セラは苦い顔をしたが、分かってくれたようだ。
セラはまた戦闘に入った。チコの爆薬で奴は片手を使えないようで、セラは僕抜きでも渡り合えている。すげぇ・・・
近くに気配を感じた。
転がっている僕の目の前には、この状況の原因、アルフレッド クロストラフがいた。
「こんにちは・・・・」
何となく挨拶してみた。
「お、お前、なんで逃げないんだよ!!」
なにやらアルフレッド怒ったように言った。
まあいろいろ理由がある。
「アルフレッドだっけ?僕はあとでちゃんと君をぶん殴るつもりだよ。だからこそ、今はこの状況をどうにかしなくちゃいけないし、君に死んでもらったら困る。」
そう言いつつ僕は、左手を使わないように立ち上がる。
「お、おい、動くな!!今、治してやる。」
治す?
アルフレッドは詠唱杖を構え、目を閉じ、僕の左腕に手をかざす。
詠唱杖の上部、詠唱器の部分が、カシャという音と共に起動。
アルフレッドの足もとに術式の描かれた魔法陣が発生し、かざしている手が輝き、青く柔らかな光が僕の左腕を包む。
治癒系大氣術『第一治癒法』だ
骨折の痛みが引き、骨が繋がったようだ。
すごい・・・・
大氣術の中でも治癒系の大氣術は難度が高い。
治癒系が使えるなら、中級以上の大氣術が使えるはずだ。
「よし、いいぞ。あくまでも応急処置だからな。あとで病院行けよ。」
「ほー・・・すごいな。よし、手伝え。」
こいつ、結構使えるな。予想外。
「て、手伝うって、俺はあんな奴の相手はいやだぞ!!」
アルフレッドはビビるように言った。
「いいだろ、別に。ちょっと動きを止めるだけでいい。」
「簡単に言うな!!もし俺が標的にされたらどーしてくれるんだよ!!」
おいおい・・・・お前のせいでこうなったんだろうが・・・
「はぁ・・・もし、君が標的になったら、僕が助けるよ。それでいいだろ。」
「信用できるか!!お前もあいつらのように、危なくなったら逃げるんだろ!!」
あいつら?誰のことだ?まあいいか。
「約束する。君がやばくなったら、体を盾にしてでも守ってやる。」
本気だ。詠唱師と共に闘うということは、詠唱師を守ることと同義だ。
昔、おっさんに教えられたことだ。
詠唱師の盾となるのが、集団を組んだ氣闘士の役目、そう教えられた。
「くっ・・・・・わかったよ!!やれば、いいんだろ、やれば!!」
しばらく僕の目を見て、迷っていようだが、決心したようだ。
「よし!!」
「動きが速すぎると狙いが付けられない。できる限り奴の速さを落としてくれ。時間は二十秒後!!」
僕は今、刀を持っていない。奴に突き刺さったままだ。
格闘で攻めるしかない。
ああー今日は疲れた。あばらの骨は折れたまんま。
戦いが終わったら、アルフレッドに奢らせて、たらふく飯を食ってやろう。
あと、チコの頭をなでなでして、セラのメイド服姿を堪能する!!
おしっ!!やる気でできたー!!
次で終わりにする!!