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異界の旅路  作者: Posuto
20/53

第19話:残念なイケメン

 僕とセラが首都に来てから、一週間がたった。

セラの『ニニギ亭』の仕事もだいぶ板についてきたように思う。

僕はこの一週間、飛空挺への荷物の積み込みといった重労働から、魔道具作りの材料調達といった使いッパシリなど、様々な仕事をした。お金も少し余裕が出てきた。


今日、依頼請負屋クエストショップで受けた依頼の依頼主はチコだ。


僕が依頼請負屋の掲示板でいつものように依頼書を眺めていると、子供らしい、丸みのある大きな字の依頼書が目に付いた。

依頼内容は以前と同じく、材料調達。マルポカ草の採取だ。

報酬は、これも以前と同じく少ない30Rx。


僕もいつもならこんな依頼スルーだが、チコの依頼だ。

お金にはだいぶ余裕が出てきたし、簡易詠唱杖ライトスタッフのこともあるので、できるだけ協力してあげたい。

というわけで、依頼を受けることにした。



〜〜〜〜〜〜



僕は首都の西側に位置する、クロック通りに来た。

クロック通りは魔法技師クリエイターの工房が立ち並ぶ、工房街だ。

魔法技師の商品を買いにきた商人や傭兵の姿があり、賑わっている。

立ち並ぶ工房らしき建物からは煙突が立ち、煙を上げている。


通りを歩いていると、赤や黄色といったヤバイ色の煙が出ている煙突が何本かあったりするし、妙なにおいが漂う場所がたまにある。

そんな場所ではあるが、人は多く、活気がある。


依頼書に書かれてあったチコの住所は、このクロック通りのレンタル工房の一つのようだ。


 (そういえば、以前別れる時にレンタル工房にいるって言ってたっけ・・・・)


レンタル工房とは、その名の通り使用料を払うことでレンタルできる個人用の工房だ。

旅をする魔法技師たちが重宝している。


住所の場所までやって来た。

通りから少し路地に入った場所だ。ドアの横にあるネームプレートにはチコ ラクロックとある。

ノックをしようと、ドアの前に立った。


いきなりすさまじいスピードでドアが開いた。


ゴンッ!!


 「ぐおっ!?」


ドアは外開きだったようで、ドアは前に立っていた僕の額に直撃した。


 「ありゃ?何かいい音がしたような・・・・・」


そう言いつつドアの向こうから現れたチコは、痛さにうずくまっている僕を視界に入れた。


 「わ!?ご、ごめんなさいです!!人がいるとは思わなくて・・・・」


 「ああ痛い・・・・。チコ、君はドアを開けるときは、いつもぶち壊すつもりであけるのか?」


僕は額をさすりつつ立ち上がった。


 「あれ?ユウさん、どうしたんですか?もしかして簡易詠唱杖のことですか?すいません、今急いでて・・・・・」


 「ちがう、ちがう。チコ、依頼出しただろ?」


 「はい。今から依頼請負屋に行って、急ぐようにお願いするつもりでした・・・・ってあれ?何で知ってるんです?」


チコは首をかしげている。その仕草は子供らしい、つい頭をなでたくなるようなかわいらしものだ。実際は20歳なんだが・・・・


 「僕が依頼受けて来たんだよ。」


 「わぁ!ほんとですか!?ありがとうございます!あ、どうぞ、入ってください。お茶出します。」


そう言って、僕を部屋の中に招いた。


部屋の中は、雑然としていた。いろいろな物がある。

金属加工するための炉や、何かわからない薬品が置かれている棚、部屋の中心にある机の上には大陸公用語のフェイタル語ではない言葉で、何か書かれた紙が散乱している。チコがいつも着てる作業着は、この風景によく合っていると思うが、汚いな・・・・。


 「さあ、どうぞ、どうぞ。」


そう言ってチコは僕に椅子をすすめた。チコは机の上にあった紙を乱雑に集め、部屋の端にあるベッドの上に置いた。


 「そんな、無茶苦茶に置いていいの?」


 「はい。どこに何があるかは大体分かるんで、大丈夫ですよー。」


そう言いつつ、チコはポットを火にかけ、お茶の用意をしている。

しばらくするとチコがコップを二つ机の上に置いた。

お茶は一般的なクイール茶だ。味は、僕の世界の紅茶のようなものだ。

お茶を飲みつつ、チコに聞く。


 「よく考えたら、急いでたんじゃないの?お茶なんか飲んでるけど・・・・・」


 「だいじょぶです。商品の納期は明後日なので。依頼を受けてくれる人が今日見つからないとまずいな〜と思って急いでただけなので。それよりユウさん!!簡易詠唱杖はどうですか?感想が聞きたいです!!」


魔道具の話になって急にテンションが上がった。いつもどおりですね。


 「あー・・・実はまだ戦闘では使ってないんだ。この一週間は、戦うような仕事はあまり受けなかったからね。」


 「そーですか・・・・・じゃあ今回の依頼もついていきます!簡易詠唱杖のできを見ておきたいです!」


ここで断ってもどうせついてくるだろうから、僕は了承した。




〜〜〜〜〜〜




お茶を飲んでから、チコを連れて出かける。


 「チコ、寄り道していい?」


 「はい、どうぞ。どこです?」


 「この前会った店『ニニギ亭』があるだろ。あそこ。仲間が働いてるんだ。」


 「仲間ですか?」


 「うん、一緒に旅してる人なんだけど・・・あの店のウエイトレスに銀髪の女の子がいたの覚えてる?」


 「はい!あのとっても綺麗な人ですね!」


というわけで、まずはセラのいる『ニニギ亭』に向かう。

セラは今日の昼から仕事が休みなので、どうするのか聞いておきたい。

都合がよければ、ついてきてもらいたい。セラがいるとだいぶ楽だ。


『ニニギ亭』があるアルプス通りは首都の東側、クロック通りから中央通りをはさんで、ちょうど反対側にある。

歓楽街であるアルプス通りには、店が数多く立ち並んでいる。


『ニニギ亭』に入る。


 「いらっしゃ・・・・なんだユウか。」


ちゃんといらっしゃいませって言って!!、と言いたいが、まあいい。

今日のセラはいつも通りミニスカメイド服姿だが髪形が違う。

いわゆるポニーテールだ。


 「いいものだなー・・・・・」


 「はあ?」


セラは首をかしげている。その仕草で髪の毛がしっぽみたいに揺れる。

そこでセラはチコに気がついた。チコは、ぼーっとセラを見ている。


 「君はたしか・・・・ユウが前、世話になったドワーフの人だな。はじめまして、私はセラ。」


 「ふぁ!?いえいえ!お世話になったのは私のほうです!!わ、わちしは、チコだす。はじめますて!!」


チコの様子が変。なんだかいつもよりぼーっとしてるし、噛みすぎ。


 「まずは席に着くと良い。こっちだ。」


セラの案内で店の隅のテーブル席に案内される。少し早い昼食になった。

セラは僕とチコの注文を聞いて、離れて行った。

どうもチコの様子が変なので、聞いてみる。


 「チコ、さっきから変だよ。」


 「え、そりゃあ、あんな綺麗な人始めてで、見惚れてましたー」


そういえば、そうか。セラはとても美人だ。しかしチコはビビりすぎだ。


セラが注文の品を持ってきた。パスタっぽい麺料理だ。


 「で?どうしたんだ?」


セラは皿を置いたあと、聞いてきた。


 「うん。セラは昼から仕事休みだよね。どーするのかなーって思ってね。」


 「ふーん。特に予定はないが・・・・情報集めは君のほうでやってくれてるんだろ?」


 「うん。今は連絡待ち。」


情報というのは、セラのお母さんについてだ。

闇雲に探しても見つからないだろうと思い、情報屋に頼んだのだ。結構お金がかかったが・・・

現在は連絡待ちだ。


 「君はどうするんだ?」


 「僕はこの後、チコの依頼でマルカポ草を採取しに行くから、フロリア森林地帯に向かうことになるね。」


 「そうか・・・・じゃあ私も・・・・・」


 「セラちゃんは、今日俺とデートの約束があるぜ!!」


セラの言葉を遮って、座っている僕の後ろから男の声が聞こえた。

振り向くとそこには、赤毛の青年が立っていた。

髪はサラサラで、顔はさわやかな雰囲気を醸し出している。いわゆるイケメンだ。

服装は詠唱師キャスター達がよく着るローブで、手には豪華な詠唱杖キャストスタッフを持っている。

誰だ?


 「・・・・・セラ、知り合い?」


セラは嫌そうな顔をして言った。


 「知り合いじゃない。この店の常連だ。おい、お前、私はそんな約束した覚えはないぞ。」


 「セラちゃんが今日は休みだと聞いてたからさ、待ってたんだよ。今日は一緒に遊ぼうよ!」


 「悪いが私はこれから行く所ができた。そもそも何で私の休みを知ってるんだ・・・・・」


 「ユウラさんに聞いたら教えてくれたぜ。行く所ってどこ?どうせそこにいる、その他大勢顔の奴の誘いなんだろ?俺と一緒のほうが楽しいよー。」


その他大勢顔って僕のことか・・・・。まあ自分の顔がたいして特徴がないことは、自覚している。

でも他人に面と向かって言われると多少傷つくね。

僕の横でチコはもぐもぐパスタを食べている。食べることに夢中だ。

セラはため息をついている。


 「はぁー・・・・。そもそも、私は名前も知らない輩と関わるつもりはない。」


 「ええっ!?この前、名前教えただろう?アルフレッドだよ!アルフレッド クロストラフ!」


な、名前忘れられてる・・・・・・ぷぷぷ


 「お、おい!!てめぇ、今笑っただろ!」


こっちを睨んでくる。さっきのその他大勢顔と、今までの言動から多少イライラしていたので、視線に若干殺気を入れて睨みかえしてみた。すると、目に見えてうろたえた。


 「ひぃっ!!くっ、お、おまえなんかに負けはしない!お、おれはクロストラフなんだぞ!」


言葉の意味がわからん。

僕が首をかしげていると、さっきまでもぐもぐ食べていたチコが説明してくれた。


 「クロストラフ家は、この国で飛空挺貿易を営んでいる大金持ちです。」


ほーつまりはいいとこのお坊ちゃんか。


 「へー」


 「へー、ってそれだけか!?くっ、この俺を怒らせてしまったようだな!!俺はペルート魔法学院でトップの成績だった男だ!勝負したら、当然俺が勝つ!」


 「じゃあ表出てやる?」


 「い、いや、今日はこれから用があった。助かったな、その他大勢顔の男!じゃあね、セラちゃん。デートはまたの機会に。」


そう言ってサラサラの赤毛をかきあげ、セラに流し目をして、店を出て行った。

正直、かっこつけた態度はさまになっている。セラにそういう態度が通用しないと思うが・・・・

なんとなく情けないキャラを持つ奴だ。

いろいろ言われたがあまり嫌いにはなれないタイプだ。


 「ユウ、冷めてるぞ。」


セラにそう言われて気がついたが、僕は運ばれてきたパスタにまだ口をつけていなかった。

ああ、もったいない。



〜〜〜〜〜〜



結局セラはついてくるらしい。


 「着替えるの?」


 「あたりまえだろ!店の制服だぞ!」


ですよねー。でもなー、戦うメイドも見てみたかった。


しばらくしてセラが店から出てきた。普段通りの白い軽装甲服に外套姿だ。髪の毛もいつも通りおろしている。

残念!!


 「なんだその顔は?」


はっ!!気持ちが顔に!!

顔を引き締める。


 「セラは休まなくていいの?せっかくの休みなのに。」


 「セラさん無理しなくていいですよ?」


チコも少し気にしている。


 「いや、大丈夫だ。むしろこの一週間ストレスがたまって、たまって。少し暴れたいんだ。」


なんてことだ。今のセラの言葉は、今日出会う敵に対する死の宣告だ!!

みんな逃げろー!



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