第17話:セラの接客訓練
首都まで帰って来た。
朝早くに出たのに、もう昼過ぎだ。
中央広場まできて、チコがこちらに手渡してきた。
「ユウさん。ありがとうございました!これ報酬の20Rxです!」
「おー、ありがとー。」
報酬を受け取る。
「それから簡易詠唱杖なんですが・・・・」
「ああ・・・まあ、いつでもいいよ。急いでたんじゃないの?」
チコはこの依頼を受ける人を探すとき、急いでいるように見えた。
「ああっ!!そーでした!納品期日が今日までなんで、急いでたんです!これから採取した牙を調合しないといけません!」
「じゃあ、簡易詠唱杖は今度でいいよ。僕はいつも夕食時はアルプス通りの『ニニギ亭』にいるはずだから、完成したら持ってきてくれればいいよ。」
「ありがとうございます!ちゃんと作って持ってきます!今日はありがとうございましたー!」
チコはそう言って、大きなリュックを揺らして、トテトテ走って行った。
ふぅー、これで依頼は終了。
次は図書館行って、調べものか。
近くの店で軽い昼食をとり、図書館に向かう。
また、図書館の中で迷った・・・・・
目的の本を二冊ほど持って、備え付けのイスに座り、読む。
2分後には夢の中だった。
〜〜〜〜〜〜
昼は定食屋、夜は酒場の『ニニギ亭』は、多くの客でにぎわっていた。
中はカウンター席とテーブル席があり、そこに座るのはほとんどが男性客だ。
セラは接客というものに苦労していた。
もともと、監禁生活が長いため人との対話が得意とは言えない。
しかも、ひらひらして心もとない衣装を身につけている。
朝にはあまり客が来なかったが、昼になると急に客が増えた。
今は少し落ち着いているが、それでも満席だ。
「セラちゃん、聞いてます〜?」
「あっ!すいません!なんですか?」
話しかけてきたのは、この店で働く猫人のミスカさんだ。
この店には、私を除き6人の従業員がいる。
厨房には店長のユウラさんと調理担当が2人。
後の、3人はウエイトレスだ。
ミスカさんは、私の教育係だ。基本的な接客について教えてもらった。
「もーちょっと、にこやかにできない?」
「これが限界です。」
愛想笑いなんてしたことないのだ。
いきなりできません。
「もーしょがないなー。今日はセラちゃんのおかげでお客さんが多いから、注意してね。」
「はい・・・・・私のおかげ、って私は何もしてませんよ?」
「ふふっ・・・セラちゃんきれいから、みんなセラちゃん見に来てるのよ。」
「はぁ・・・・」
自分は目立つ容姿であることは、自覚している。
だが、きれい?珍しいもの見たさじゃないのか?
そう考えていると、
「セラちゃーん!注文とってー!」
という、男の声が聞こえた。
客だ。客だが、むかつく。なれなれしすぎるだろ。
「お客さんに失礼なことしちゃだめよ〜」
「わかってます。」
テーブルに座る三人組のほうに行く。
傭兵のようだ。みな武器をテーブルに立てかけている。
「はい、ご注文は何でしょう?」
「そんなことよりさー。これから俺たちと遊ばない?」
またか・・・・。
こんな奴らが朝から後を絶たない。
怒りを押し隠しつつ聞く。
「ご注文は?」
「だからさぁ・・・・」
「ご・注・文・は?」
「そんな怒んないでよ〜。」
と言いつつ、こちらを触ろうとしてくる。
(見つからないように一発入れてやるか。)
そう考えた時、
「セラ。ちょっと来な!」
カウンターの向こうからたユウラさんが呼んだ。
「はーい!ご注文が決まりましたら、またお呼びください。」
客には教えられた通りの言葉を言い、ユウラさんのもとに向かう。
「なんですか?」
「あんた、今なんかしようとしただろ。視線に殺気が混じってたぞ。」
まさか気付かれているとは・・・
前から思っていたのだが、ユウラさんは氣闘士としてかなりの実力者であるように思う。逆らったら怖いし、なぜか勝てる気がしないのだ。
「すいません。」
「まあ、我慢してたみたいだからいいけど。あんたのキャラなら多少、愛想が悪くても別にいい。そのキャラにも需要があるからな。それから、触られそうになったら避けろ。殴ろうとするな。あんた、氣闘士なんだろ。攻撃よけれるなら、あんなやつのおさわりぐらい、さりげなく避けて見せろ。あと、周りの奴らの動きを見ろ。ミスカとかな。あいつは避けるのがうまい。」
「はぁ・・・わかりました。」
キャラがどうこうの意味がよくわからないが、なるほど。
あれが攻撃だと思えばいいのか。うん、そう考えるとやりやすい。
ミスカさんの動きをしばらく観察する。
なるほど、位置取りがうまいのか。触れるには近くなく、注文するには遠くない。
私がこうしている間もユウは頑張っているだろう。
よし!がんばろう!
〜〜〜〜〜〜
アーよく寝た!!
図書館を出ると、もう夜になっていた。
本を開けてからすぐ寝てしまった。結局今日は何も調べていない。
まあ、いっか。
夕食は『ニニギ亭』で食うか。セラの様子見ときたいし。
アルプス通りに向かう。
『ニニギ亭』の扉を開けると、席はほぼ満席だった。
カウンター席が、ちらほら空いている。
「いらしゃいませー・・・ってユウか。おかえり。どうだった?」
「まあ、そこそこ。さぁ、座席にご案内したまえ!」
「なんで偉そうなんだ?・・・・まあいい。こっちだ。」
うん?案内されて席につくまでの間、殺気のこめられた視線がいくつも飛んできた。
なんでだ?・・・・ああ、セラと仲良くしてるからか。
こんなに客がいるのも、セラ効果か。
ふっふっふ、優越感ですね。
カウンター席に着くと、カウンターの向こうにはユウラさんがいた。
満面の笑顔だ。
「おう、帰って来たのか。あんたのお姫様は、すばらしね。こんだけ客が入ったのは、ひさしぶりだよ。」
「うんうん。感謝してください。」
「おい!否定すべきところがあるだろ!いつから私は、ユウのお姫様になった!?」
「まあまあ、気にしない、気にしない。ユウラさん、焼肉定食ください!」
「あいよー。」
額に青筋立てているセラをほっといて、注文する。
お客が多いので、忙しそうだ。
お客が注文を待っているようだ。
「セラ、お客さん呼んでるよー」
「アトデオボエテオケ・・・・」
ひぃっ!!
こ、怖くなんかないもんね!!
ほ、ほんとですよ・・・・
〜〜〜〜〜〜
焼肉定食を食いつつ、セラをはじめとするミニスカメイド姿のウエイトレスさんを観察する。
(すばらしい・・・・・)
「おーい。顔がゆるんでるぞ。」
カウンターの向こうのユウラさんだ。
客も減って来たようで、少し暇になって来たのだろう。
セラの事が少し心配だったので聞いてみる。
「セラはちゃんとやれてますか?」
「まあね。心配?」
ユウラさんは、ニヤニヤしている。
「そりゃまあ、僕が勧めたことですから・・・」
「安心しな。そんなに悪くない。少し人と会話することに慣れていないような気もするが、そのうち物になるさ。あんた達がいつまでここにいるか知らないけど・・・」
いつまでか・・・・
僕もセラも次に向かうべき道筋がまだ見えてきていない。
セラもお母さんに関する情報を、まだ見つけていないだろう。
僕はセラが異界人の末裔かもしれないことは分かったが、まだセラにこのことについて話していない。
まだしばらくは、ここにいることになるだろう。
「しばらくはここに滞在するので、セラのことよろしくおねがいします。」
「はい、まかされました。ところで・・・・」
ユウラさんは僕の横を指さした。
「その子はユウ君の知り合いか?」
「ん?」
横を見ても、何もない。
「ユウさん、こんばんわ!」
何もない所から声がする。
「下です!視線を下げてください!」
視線を下げると、小さな女の子と大きなリュックが目に入った。
チコだ。
「ありゃ?チコ、どうしたの?」
「ユウさんに簡易詠唱杖をお持ちしましたです!!」
「もうできたの?今日じゃなくてもよかったのに・・・」
「ユウさんにはお世話になったので、がんばってみました。」
ほー、よくできたお子さんだ!!
感動した!!いい子、いい子。
「ちょ、ユウさん!?頭をなでるのは、やめてください!!」
〜〜〜〜〜〜
ユウラさんに、チコのことを紹介し、チコも一緒に食事をすることになった。
チコは僕の隣で、お子様ランチみたいなのおいしそうに食べている。
これで子供扱いを嫌がる所が謎だ。
ユウラさんとチコがしゃべっている。
「ドワーフか・・・ファミリーネームは?」
「ラクロックです。うまうま。おいしー」
「ラクロックって言えば、まさかワイザー ラクロックの・・・」
「おじいちゃんです!よく知ってますね。うまうま。」
「10年前の戦争でちょっとね・・・・・」
ユウラさんも、戦争を知ってるのか・・・・っていうかユウラさんって何歳なんだ?
見た目は20代後半なんだが、実際どうなんだろ?怖くて聞けないが・・・
「うまうま、ごちそうさまです!!おいしかったです!!」
「ありがとう。」
ユウラさんはうれしそうに笑い、食器を下げた。僕の分も食べ終わっていたので、持って行った。
水を飲んで一息つくと、チコがリュックから何か取り出した。
グローブだ。
左手は格闘用のもので、がっしりした造りだ。
右手は左手とは違い、スマートな印象を受ける。
どちらのグローブも甲の部分に、簡易詠唱杖の装置が取り付けてある。
「ユウさんは、左手で格闘、右手で刀を使う変則的な戦闘スタイルなので、左手は格闘用のグローブにして、右手は剣術用のすべり止めグローブにして、そこに簡易詠唱杖をつけてみました。どうです?」
驚いた。
チコが僕の戦っている姿を見たのは、先の依頼の時だけだ。
それだけで僕の戦闘スタイルを見極めたことになる。チコは僕が思っている以上に、優秀な魔法技師なのかもしれない。
僕はもともと右利きだったが、おっさんとの訓練を始めてから利き手が無くなった。
でも、昔の名残なのか、刀は右で振ることが多い。左腰に刀を差しているのもそのためだ。
グローブを手に取り、つけてみる。
しっくりくる。実際使ってみないと細かいところはわからないが、とてもいい感じだ。
「いいかんじ。チコはいい仕事するねぇー」
「ありがとうございます。注意点ですが、ユウさんも知っていると思いますが、簡易詠唱杖は詠唱杖よりも体内エーテルの術式変換効率が低いです。多用すると、体内エーテル欠乏症になる危険があります。くれぐれも使いすぎには注意してください!」
「はーい。」
簡易詠唱杖は、体内エーテルを炎や雷撃に変換する。当然体内エーテルを消費することになる。
あまりに体内エーテルを消費すると、体内エーテル欠乏症という貧血に近い状態になる。
「不具合とかあったら言ってください。私はクロック通りの工房街で、工房をレンタルしてるんで、来てくれたらいつでも直しますです。」
「うん、ありがとう。」
チコは椅子から立ち上がって、床に置いていたリュックを背負った。
「それじゃあ、私は帰ります。お金は・・・・」
「ああ、いいよ。僕が払っとくから。こんないい物、作ってもらったんだからそれぐらいするよ。」
「ありがとうございます!!ユウさん、ふとっぱらです!!それじゃあ、また!」
「うん。またねー」
こちらにパタパタ手を振りながら、店から出て行った。
〜〜〜〜〜〜
ユウラさんとしゃべったり、酒を飲んだりしながらセラの仕事が終わるのを待った。
酔っ払ったおっさんに、
「おい、おまえ・・・・セラちゃんとはどんな関係だ〜?あんな、なれなれしくしやがってよ〜・・・ウップ」
とか言われ、絡まれまくった。
つらかったー
すこし眠気を感じ、うつらうつらしていると閉店時間になった。
みな閉店作業をしている。
セラが後片付けを終え、こちらにきた。
僕はあくびをしつつ迎える。
「ふぁ〜・・・・・もう仕事終り?」
「ああ。わざわざ待っていたようだが、何かあるのか?まあ私も話したいことがあるしな。ここじゃなんだから、私の部屋に来い。」
「セラの部屋?」
「普段はミスカさんとの2人部屋なんだが、今日は彼氏の家に泊まるそうだから迷惑はかからん。」
ほー・・・・・
セラの部屋か・・・・
女の子の部屋か・・・・・
ドキドキワクワクがとまらねぇー!!!
というわけで、セラの部屋に向かうことになった。