第16話:あっちいけわんわん!!
首都ペルート近郊には、森がある。
フロリア森林地帯と呼ばれている。動植物が豊富な広大な森だ。
魔法技師達にとってこの森は、魔道具の材料の宝庫である。
「ほんとに一緒に来るの?」
「はい!報酬少ない分お手伝いしますです!そのコートの性能を見てみたいですし!」
フロリア森林地帯の入口についた。
依頼主のチコがついてきている。ついてくるぐらいなら自分で探しに来ればいいのに・・・
手伝いより、コートの性能見るのが目的だな。
「危ないかもしれないよ?」
「こーみえても、今まで長いこと旅してきました!ドワーフの秘伝で、ばっちりお助けするです!」
「自分で採りにきたらいいのに・・・・・」
「さすがに、一人でブラスドッグを相手にするのは怖いんですぅー。」
まあ、確かに。依頼は、牙を8本採取だ。一匹に牙2本だから、少なくても4匹と戦わなくてはならない。
しかも、ブラスドッグは群れで活動するため、運が悪いと4匹以上と戦わなくてはならなくなる。
僕も少々不安だ。
「じゃあ、手伝いよろしくね。危なくなったら逃げていいからね。」
「はい!おまかせくださ・・・うおぉおおお!!」
ひぃっ!!またか!!
どうやらチコは魔道具に目がないらしく、たまに暴走する。
さっきはコートだったが、今回は僕の左腰に差してある刀に目がいっている。
「ゆ、ユウさん!!どこで!!その刀!!」
文章が無茶苦茶ですよ。
「これも先生からもらったものだけど・・・・」
「ユウさんの先生はふとっぱらですね!!これは、鬼族の作品です!!銘はなんです?」
「ええっと『銀月華』だけど・・・・・」
「銀っ・・・・!?す、すげぇー・・・・」
な、なんかキャラが変わってるよ・・・・
鬼族というのは、東方の国ヤマトに住む種族だ。ドワーフと同じく優秀な魔法技師一族として知られている。
魔法技師といえば、西のドワーフ族、東の鬼族、とよく言われる。
「そんなすごいの、これ?まあ、確かに使いやすいけど・・・・」
「すごいってもんじゃないです!!『銀』が銘についているということは、鬼族の名工、村井 銀次郎の作です!!名作中の名作ですよ!!」
「へ、へ〜・・・」
すごいのか?そもそも、これをくれたおっさんは、何者なんだ?
自分の師匠ながら、よくわからない所が多い。
「ユウさんはすごいですね〜。」
「なにが?」
「貴重で、すごい作品ばかり持ってます!兄はあまり多く魔道具を作るタイプじゃなくて、すごい作品を一つずつ作るタイプですし、鬼族の魔道具はあまり西側には流通しません。しかも、名工の作品です!!いいなーいいなー。」
いいなーって、かわいらしいなーうんうん。
それにしても、自分持っているものは、以外とイイものだったんだなー。
森の中を進む。
僕は、なんというか、ピクニックに来た子供の保護者の気分を味わっていた。
僕の前を歩くチコは、スキップしている。たまに走り出して、自生している薬草を摘んで、背負っているバカでかいリュックに入れる。
結構、凶暴な動物がいたりする地域なので、勝手に走りだされるとハラハラする。
「おおーい、チコ。あまり先に行くと危ないよ。」
「はーい!!」
僕は完全に保護者ですね。
ん・・・・?なんか大気エーテルが少し乱れているか・・・・?
「やばいっ!!囲まれたっ!!」
瞬間的に体内エーテルを操作、身体機能を強化する。
高速移動で、チコがしゃがんで薬草を取っているところまで移動。
「ふぁ?ユウさん、どうか・・・わっ!?」
チコを抱えた瞬間、前後左右の草むらから黒い影が飛び出してきた。
脚力強化による高速移動で、地面を這うような低い姿勢で回避。
さっきまでチコがいた場所には、5匹の黒い獣が降り立った。
獣の瞳には、強い殺意があり、体毛は黒く、口には長い牙が2本ある。
ブラスドッグだ。
5匹か。どうにかなるか・・・?
片腕で抱えたままのチコに声をかける。
「チコ、平気?」
「は、はい!降ろしてくれていいです!私のことは気にせず、がんばってください!お手伝いしますでふ!か、かんだ!!」
「ん。ありがと。」
5匹が連続で攻撃してくると厄介だ。先制で数を減らす!!
抜刀、刀にエーテルを徹し、斬れ味と頑丈さを増幅。
アルベイン流 戦刀術 二ノ太刀 『天衝烈破』
一ノ太刀『天衝破』は斬撃によってエーテル衝撃波を飛ばす。
ニノ太刀はこの技の強化版で、衝撃波を同時に3発放つ。
ドカッ!!
衝撃波がブラスドッグがいた地面をえぐり、爆発した。
2匹巻き込んだが、3匹は分散するように動き、回避した。
「ちっ!!」
一匹が右から跳びかかって来た。チコが近くにいるから、回避できない。
チコを目標にされるとまずい。
跳びかかって来た瞬間に、ブラスドッグの下にもぐりこみ、腹を蹴り飛ばす。
キャウンッ!!
よしっ!
だが、たたみかけるように、2匹目と3匹目が来た。
「ほいっ!!」
なんか気の抜ける声を、チコが出した。
チコのほうを見ると、いつの間にか、手にすごくでかいハンマーを待っている。
チコの体とほぼ同じ大きさだ。
リュックから飛び出していた、槍の柄みたいなのはハンマーだったのか!!
チコのフルスイングのハンマーが直撃した。
ボゴンッ!!
肉を打つ音と共に、ブラスドッグが回転しながら飛んで行った。
そーいえばドワーフ族は、腕力がすごい強いんだっけ・・・
跳びかかって来たもう一匹には、僕がカウンターで顔面に左フックをいれ、失神させた。
ふぅー、なんとかなったー。ちょっと危なかった・・・・
「チコ、お手伝いありがとう。すごいね、そのハンマー。それが、ドワーフの秘伝ってやつ?」
「はい!!ドワーフ秘伝のひとつ、撲殺術です!!それにしても、ユウさん以外と強いんですね。驚きました・・・・はっ、すいません!!以外とは失礼でした!しゅいません!!」
「いいよ、別に。まあ強そうに見えないのは、自覚あるからねー。」
むしろ弱そうに見えたほうが、油断してくれるので、都合がいい。
まあ、それは置いといて、
「チコ、牙の採取は?」
「あっ!そうでした!」
チコは倒れているブラスドッグから、牙を採取し始めた。
ブラスドッグが復活した時のために、抜刀状態のまま警戒を怠らないようにする。
「採取おわりましたー!」
「よーし!じゃあ帰ろうか!家に帰るまでが遠足ですよ〜」
「は〜い・・・・・ってなんで遠足なんですか!?」
さて帰ろう、と思い、刀を納刀しようとした時、大きな大気エーテルの乱れを感じた。
何かでかいやつが来る!!
僕とチコの位置から10メートルほど前方に、木をなぎ倒しつつ、大きな物体が現れた。
ブラスドッグだ。でかい!!乗用車ぐらいの大きさをしている。
さっき倒した奴らのボスか!!
「やばい・・・・」
「わ、わ、わわわ・・・」
これはまずい。ボスクラスになると、僕とチコだけだと危険だ。
無理すれば勝てるかもしれないが、今無理したところでメリットがない。
「チコ。僕が仕掛けたと同時に、町まで逃げて。」
「そ、そんな!!ユウさんはどーするんですか!?」
「いいから!君のことを気にしながら戦っていられる相手じゃない!」
「で、でも・・・・」
「行けっ!!」
ボス犬がこっちを見た。獲物として認識されたようだ。
グルルル・・・・
チコを標的から外さないと!!
僕はチコと離れるように走り出し、左手でコートの中からダガーを二本取り出す。
エーテルを徹して、二本同時に投擲。
風を切り裂くような音を出しながら、ダガーは直撃した。
キキンッ!!
、という金属がぶつかり合うような音がした。
「なにっ!?」
体毛にはじかれたようだ。
僕の投げたダガーは、エーテルを徹してあるうえに、身体強化した腕力で投擲されている。
岩盤に突き刺さるぐらいの威力はある。
それをはじいたのか!?なんて硬い体毛だ!
今の攻撃でボス犬は僕に狙いを定めた。
巨体に似合わぬスピードでこちらに接近、前足を振り上げて、跳びかかって来た。
僕は強化された知覚によって、紙一重で見切り、体をずらした。
すさまじい速さで、僕の目の前をボス犬の前足が通りすぎた。
ドガンッ!!
という音と共に、地面にボス犬の前足が突き刺さった。
その無防備な前足を斬りおとす!!
刀に限界までエーテルを徹し、無防備な前足に向かって振り下ろした。
「ふっっ!!」
ギィンッ!!
これでも刃が通らない!?
ボス犬は、突き刺さっていない方の前足を振り上げている。
すかさず、バックステップで距離を稼ぐ。
ボス犬の攻撃をかすめ、髪の毛が数本吹き飛ばされた。
あぶない・・・・
刀では無理だな・・・体毛が硬すぎる。
打撃で勝負するしかない。
衝撃を体内に浸透させる内部破壊か、脳を打撃で揺らして失神させるか・・・・
どちらにしてもかなり接近しなくてはならない。
さっきはうまく避けれたが、次もうまくいくとは限らない。
多少のケガは覚悟しなくては!
そう考え、ボス犬に接近しようとした瞬間
「ユウさん!!そいつの動きを止めてください!!」
「チコ!?何で逃げてないのっ!?」
「いいからっ!!そいつの動きを止めてください!!私が何とかします!!」
あー言い合っていてもしょうがない!
動きを止めればいいんだな!
ボス犬が再び跳びかかって来た。今度は避けない。
直撃の瞬間を見極める!!
アルベイン流 格闘術 五式 『剛体陣』
体内エーテルを全身から瞬間的に放出することで、敵の攻撃をはじく技だ。
バァンッ!!
振り下ろされたボス犬の前足をはじいた。
その隙に、発剄によってボス犬の顔面に向かってエーテルを射出。
効きはしないだろうが、動きは止められる!!
キャウンッ!!
ボス犬がひるんだ!
「止めたぞっ!!」
「了解でふっ!!ほいっ!」
掛け声とともにチコはガラス瓶のようなものをボス犬に向かって投げた
噛んでるし、気合いの抜ける掛け声だが・・・・
チコの投げたガラス瓶は、ボス犬の鼻先にあたり、割れた。何か液体のようなものが飛び散った。
キュゥゥン・・・・・
さっきまで凶暴だったボス犬が犬っぽい声を出して、のたうちまわっている。
「ユウさん!!今のうちに逃げますよっ!!」
「あ、ああ。」
僕たちは、森の出口まで走った。
森林地帯を抜け、首都に続く街道まで帰って来た。
「ふぅー・・・助かった・・・」
「ふぁー・・・助かったですぅー」
チコも僕もクタクタだ。
息を整えてから、聞いてみる。
「チコが投げたあの瓶何だったの?」
「あれもドワーフの秘伝です。犬系の動物が苦手な匂いを濃縮した液体で、『あっちいけわんわん!!』という薬品です。」
「あ、あっちいけわんわん・・・・?」
「はい!『あっちいけわんわん!!』です!かわいい名前ですよねー」
もうちょっといい名前なかったのか?
薬品の効果の割に気の抜ける名前だ・・・・
「ユウさん。気を抜いちゃだめですよ。帰るまでが遠足です!」
「はーい。」
というわけで依頼は何とか達成。
首都に向かう。
つ、つかれたー