第15話:ドワーフのチコ
白い空間だ。
僕は今、真っ白な空間に立っている。
(これは、夢か?)
夢にしては、はっきりしすぎているような気がする。
僕がキョロキョロと見回していると、
「こんにちは。」
後ろから声がした。
振り向くと、真っ白な少女がいた。
髪も、肌も、着ているドレスのような服も、すべて白い。
だが、瞳だけは血のように赤い。
「あー・・・・こ、こんにちは。」
とりあえず挨拶を返す。
夢なのに知らない子が出てきたぞ。
しかし、この声どこかで・・・・・
「ひさしぶり。こうして顔を合わせるのは、二年ぶりになるわね。」
「二年ぶり?す、すいません。どこかで会いましたか?」
全く覚えがない。こんなきれいな子、会っていたら忘れないはずだが・・・・・
二年前・・・・・・二年前!?
「まさか、僕がこの世界に来た時に、会ったんですか!?」
「そうよ。あなたは、まだ思い出せていないのね・・・・。大丈夫、もうすぐ思い出すわ。」
「僕はなぜこの世界に来ることになったんですか!?教えてください!!」
「それは、また今度ね。あまり長くは話せないの。今回は顔を見に来ただけだから。私は、イヴ。覚えておいて。」
イヴ・・・・・やっぱり知らない。
この人が僕をこの世界に連れてきたのか?
「あなたとの線が構築できたのは、つい最近だから、まだ安定してないの。それに長居してると気づかれる可能性が高いの。」
少女は少し焦っているようだ。
「もっと強くなって、ユウ。そうすればこの前の戦いのときみたいに、私が助けてあげられし、線が安定する・・・あーまずい!じゃあね!!」
そう言うと、少女は次第に薄くなり消えた。
そして、僕の意識は急速に覚醒した。
目を開けると、天井が見える。
僕が泊まった宿の天井だ。
夢の内容は、覚えている。どうやら僕は過去に、あの子に会っているらしい。
覚えてないな・・・・・・あっ!!
「そうか!あの子の声、どっかで聞いたと思ったら、魔物の時の!!」
セラが魔物に狙われて、助けに入ろうとした時に聞こえた声、あれはあの子の声だったような気がする・・・・・
まあ、あんまり覚えてないから、何となくそう思う。もしかしたら違うかも・・・・・
それにしても、あの子の言った言葉の意味はよくわからない。
う〜ん・・・・・・・
(はっ!!そんなことよりも今日は、セラが働き始める日ですよ!!すぐに見に行かねば!!)
というわけで、身支度を整え、セラの働く『ニニギ亭』に向かう。
生きててよかったー!!
セラは、メイド服だ。
それも、スカートがとても短い。生足グッド!!
普段から軽装であるセラだが、スカートからのぞく足は、また別の素晴らしさがある!!
ほー眼福である。
「この店で働くことを勧める理由はこれだな、ユウ!!」
セラは顔を赤くして、照れている。
ほー眼福。
「なんとか言え!それから、その不気味な顔をやめろ!!」
不気味とは失礼な!だが許す!
眼福じゃ!!
僕とセラがじゃれていると、『ニニギ亭』店長のユウラさんが声をかけてきた。
「まあ、落ち着きなよ。ユウ君、朝食、食っていくかい?」
「はい。いただきまーす。」
朝食をいただく。運んでくれるのは、セラだ。
ぶっ飛ばす、とか、あとで覚えていろ、とかつぶやいているが、聞かなかったことにする。
さて、僕はこのあと依頼請負所で、仕事を探す。
現在、僕は一文なしだ。この食事もツケだ。
これぐらいおごってください、ユウラさん。
朝食後、
「じゃあ、僕は依頼請負所いってくるね。セラもがんばって。お客さん殴らないよーに。」
「君に言われなくても、しっかりやる。そっちこそヘマをするなよ。」
さて、行こう。
依頼請負所についた。首都にあるだけあって、大きい建物だ。
中に入る。まだ、あまり人は来ていない。
掲示板に貼られている依頼の数も多い。
(どの依頼にしようかなー。できれば高額なのが・・・でも危ないのはなー・・・)
そうして、依頼を選んでいると、大きな声が聞こえてきた。
どうやら受付のほうだ。
視線を向けると、受付の台の前で飛び跳ねている子供がいる。その子供は、体格とは合わない、大きなリュックを背負っており、リュックからは槍か何かの柄が飛び出している。
受付のおじさんと会話しているようだ。
「まだ、依頼を受けてくれる人は、いないんです!?」
「ああ。そんな報酬で受けてくれる、人のいい奴は滅多におらんからな。」
どうやらあの子供は、依頼主で依頼を受けてくれる人がいないようだ。
あんな子供でも依頼を出せるんだー、と感心していると、その子の大きな瞳がこっちを向いた。
なんかやばい気がする。すごい期待に満ちた目でこっちを見ている。
すぐに視線を外し、掲示板で依頼を探す。
「お兄さん!この依頼なんてどうでしょーか?」
さっきの子供が、僕の後ろに来て言った。しょうがなく振り向く。
近くで見ると、かわいらしい顔をしている。
栗色の髪をおかっぱにしており、瞳は髪と同じ色をしている。女の子だな。
「えーと・・・僕に言ってるのかな?」
「はいです!!いかがです?」
少女の持っていた依頼書を受け取り、中身を確認してみる。
依頼は「ブラスドッグの牙を8本採取」。
報酬は・・・・・・・・・・20Rx・・・やすっ!!
ブラスドッグというのは、大型の犬だ。大きさは僕の世界の犬なんかより断然でかく、凶暴だ。群れで行動し、群れのボスクラスは乗用車並みにでかい。
結構危険な相手だ。それを、この報酬の少なさじゃ誰も受けないだろう。
「悪いけど・・・この安さはな〜・・・そもそも君みたいな子供が、なんでこんなもの必要なの?」
「こ、こ、子供じゃないです!!背が低いのはドワーフだからです!!もう20歳になった大人の女性でしゅ!!」
少女は顔を真っ赤にして、まくし立てた。
でしゅ、って怒りで最後のほうは噛んでる。
「ああ、ごめんなさい。ドワーフ族の人でしたか。」
ドワーフ族とは、エルフの国ルーンラルドに多く住む、優秀な魔法技師一族だ。ドワーフの特徴は、背が低いことと、力が強いことがあげられる。
「もういいです。依頼は受けてくれま・・・・・うぉおおお!!」
び、びっくりした!いきなり少女が、先ほどまでの声よりも低い声を出して、叫んだ。
そして僕の着ている黒いコートを凝視した。
何なんだこの子?
「お、お兄さん。そのコートどこで手に入れましたか!!」
「ああ・・・僕の先生が特注で作ってくれたらしいけど・・・・・何かあるの?」
「これは私の兄の作品です!!相変わらず素晴らしい技術です!!おおぉーエルメト銀糸で防御術式が織り込んであります!!」
少女は興奮した様子で、僕の周りをぐるぐる回り、コートを眺めている。
どうやらこの子も、魔法技師のようだ。
「ええっと・・・・落ち着け。」
少女の頭を軽く殴った。
「はぅっ!はっ、すいません!取り乱しました!兄は行方不明でして、心配してたんです。でも、こうして魔道具を作り続けているのを知れて、うれしいです。ありがとうございますです。」
「はぁ、どういたしまして。」
「ところで、依頼受けてくれませんか?」
んーさすがにこの報酬じゃあなー・・・・・
あ、そうだ!この子が魔法技師なら・・・・
「ねぇ、その報酬に上乗せとして、魔道具作ってくれないかな?」
「えっと、例えばどんなものがいいです?」
「そーだなー・・・・・簡易詠唱杖とかつくれる?」
簡易詠唱杖というのは、その名の通り詠唱師達が使う詠唱杖の簡易版だ。
杖という名前だが、杖の形ではなく、手のひらに乗るぐらいの大きさである。
大氣術を使うことはできないが、体内エーテルを炎や、雷撃に変換することができるため、武器に仕込んだりするものが多い。
「はい!材料はあるので、できます!作ったら、やってくれるんです?」
「うん。じゃあ、受けようかな。」
「ありがとうございます!やたー!」
少女が飛び跳ねて喜んでいる。
これで、20歳なのだから驚きだ。
「私、チコって言います。よろしくお願いしますです!」
「僕は、ユウ。よろしくー。」
かわいらしので、頭をなでてみた。
「ふぉ!な、なんで頭なでてるんです!?子供扱いしないでくださいっ!!」
ほー、こーゆうのもなかなか。
こうして僕は、チコの依頼を受けることになった。
「いつまでなでてるんです!!」
怒られた。