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異界の旅路  作者: Posuto
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第13話:セラの日記(1)

 銀龍のセラ、本名セラ S.D.《シルバードラゴン》ライノスは日記を書いていた。

現在は、旅の仲間であるユウとともに、乗り合い獣車に乗り、首都へと移動中だ。

明日の午後には、首都に着くそうだ。

隣に座るユウは、さっきから、口を開けて寝ている。


 (バカな顔してるなー)


彼の顔を見ていると、昨日のでき事を思い出した。

彼は、私のことを仲間だと言ってくれた。

その言葉を聞いた時、私の中にはとても大きな喜びと、よく理解できない温かい感情があった。

そして、しばらくの間、彼の顔から目が離せなかった。心がとても振るえていた。


 (私はあの時、感動していたんだろうか?)


よくわからないな。

そこでようやく、自分がユウの寝顔を、じっと見ていることに気づいた。

少し恥ずかしくなって、目をそらした。


暇だし、ユウが寝ているなら、少し自分の日記を読み返してみよう。




大陸暦1999年

3月2日

私が、監禁されてから2年がたった。つまり、父上が亡くなって2年だ。

監禁と言っても、自宅はとても広いうえに、近くの公園程度なら出ていける。

だが、会える人は限られている。

父上の片腕として活躍していた、ノクス S.D. カンドス、

父上の古い友人である、ジョフ F.D.《ファイヤードラゴン》 ガイエン、

世話係でジョフの娘である、ミリス F.D. ガイエンだけだ。

窮屈だが、普通に暮らすだけなら不自由はなかった。


一か月前、父上の遺品の机に、手紙が隠されていることの気づいた。

それは、私に宛てた手紙と、母に宛てた手紙だった。

私への手紙には、自分が先に逝くことへの謝罪と、困った時はノクスさんとジョフおじさんを頼れ、というものだった。

もう一つの母への手紙は、開封していない。


私は母にあったことがない。母は、私が生まれてすぐ龍の国を出たらしい。

その母への手紙だ。できれば、会って手渡したいと思った。

私は、龍の国を出ることを考え始めていた。


ノクスさんは、人間嫌いであるため、反対した。

ジョフおじさんは、私の考えに感心して、大陸公用語のフェイタル語を教えてくれた。教え方にとても問題があったが・・・・・

ミリスは何も言わなかった。いつも通りだった。


明日は出発する日だ。

今日ノクスさんは、人間を信用するな、という忠告と、母の写真を手渡してくれた。

この時初めて、私は母の顔を知った。母の写真はどこにも残っていなかったのだ。


明日に備えて今日は、早く眠ろう。




3月3日

うまく、だれにも見つからず、脱走することができた。

地上に降りた私は、現在位置を確認した。

近くの街を回り、情報を集めて行こう。



3月20日

これまでいくつかの街を回ったが、やはり簡単に情報は手に入らない。

写真一つでは、やはり大変だ。

だが諦めるつもりもない。

明日もがんばろう。



4月1日

前から感じていたのだが、街にいるとよく視線を感じる。

自分はどこかおかしのだろうか?

やはり、混血である私はどこか違うのだろうか?

不安を感じる。



4月5日

用意していた、お金が少なくなってきた。

どうしようか。

最近、妙な気配を感じる。

用心しておこう。



4月8日

昨日、私は襲撃された。

とても練度の高い黒い服装の兵士たちだった。

手強い相手であったため、私は龍化した。服を脱いでいる暇がなかったので、服は駄目になってしまった。


兵士たちを、何とかしのいだ時、私を見る視線に気がついた。

その視線の先には、木のてっぺんに立つ少年がいた。

視線には敵意も、恐れも、嫌悪もなかった。純粋に感動しているような眼だ。

その眼を眺めていた私は、油断してしまっていた。

兵士たちの生き残りに、地面に引きずり倒されてしまった。


その後、先ほど見ていた少年が助けに来てくれた。

ノクスさんに、忠告を受けていたため、最初は信用できなかったが、話してみると悪い人と感じられなかった。

私の歌を褒めてくれた。とてもうれしかった。


彼の名は、ユウ キリシマというそうだ。不思議な響きの名だ。

彼の言葉に乗せられて、私は一緒に旅をすることになった。

首都まで、という条件付きだ。

実際、それほど嫌ではなかった。


一人でいることが、少しつらかったのだ。



4月10日

ユウと旅を始めて、いろいろ戸惑うことがある。

ユウは少し変だ。いや、かなりか?

私をからかったり、変な行動をしたりする。

故郷のジョフおじさんに通じる部分がある。

陰湿ではないので、殴って、許してやっている。


こういう旅も面白いと感じている、私がいる。

ユウには、絶対言わない。つけあがりそうなので。




4月20日

ゆっくりしたペースの旅だが、ユードラットについた。

この街で、ユウに服を買ってもらった。

服を買ってもらったのは、初めてで浮かれてしまった。

ユウに、かわいい、と褒めてもらった。

恥ずかしかったが、こういうので褒められたのは、初めてだったので、内心うれしかった。

まあ、絶対言わないが・・・・・・



4月22日

昨日、魔物との戦いで、またユウに助けられた。

助けてくれたことには感謝するが、その後の行動が許せん!!

人が心配しているのに、私の胸に顔を押し付けてニヤニヤしてやがった!!

ぼこぼこにしてやった。


その後、酒場で酒を飲んでからの記憶がない。

ユウは、疲れた顔で、もう飲まないでくれ、と言っていた。

なにがあったんだ?




そこで日記を読むのをやめた。

ユウが目を覚ました。


 「おはよー。また日記書いてるんだ?」


ユウが声をかけてきた。

私は、彼に日記を見られないように閉じた。

見られると恥ずかしい内容が多い。


 「もう昼だ。よく寝るな、君は。」


 「僕は乗り物に乗ると、すぐ眠くなるタイプなんだ。」


そう言って、彼は私の日記に目を移した。


 「ねぇ、その日記ちょっとみ・・・・・」


 「ダメだ。」


ユウが言い終わる前に言った。

当然だ。


 「ショボーン・・・・・」


何やら意味のわからないことを言って、落ち込んでいる。


さっき日記を読み返してみて、やはり私は変わったのだと思う。

ユウと出会い、旅をすることで、私は変われたのだ。

昔の自分より、今の自分のほうが、少し好きだ。


明日、首都に着く。

その時が、ユウとの別れの時だ。

そう考えると、自分の中の何かが疼く。


 (私は狙われている。これ以上、ユウを巻き込みたくはない。)


そう、自分に言い聞かせる。


別れの時は、近づいているのだ



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