表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の旅路  作者: Posuto
13/53

第12話:月夜のコンサート

 僕とセラはこの前の仕事の報酬で、かなりお金持ちになった。

そのため首都への旅を再開することにする。


ユードラッドの街で、割と高めの食料を買い込み、ダガーを補給した。

準備は完璧。


 「セラ、忘れ物はない?」


 「ああ。大丈夫。」


よーし出発・・・・・と行きたいところだが、今回は徒歩ではない。

乗り合い獣車というのに乗り、首都を目指す。


乗り合い獣車というのは、バスと大して変わらない。

動力がエンジンではなく、この世界の馬であるだけだ。

普段ならお金がもったいなくて乗れないが、今は違う。


僕とセラを含めて十五人の乗客が、獣車に乗り込む。

中は、割と広く、椅子は普通よりフカフカだ。

けっこうな値段がするだけあって、豪華だ。


セラと僕が座席に座ると、すぐに獣車は発進した。


 「おお。速い。」


思わず声に出てしまうほど、速かった。これから三日間この獣車で移動する。




外を眺めるのにも飽き、隣に座るセラに視線を移すと、ノートに何か書いていた。


 「それって、いつも夜に書いてるけど、日記か何か?」


 「ああ。故郷を出てから毎日書いてる。」


 「へ〜。僕も旅に出る前は書いてたけど、今は書いてないな〜。」


めんどくさくなってしまったのだ。

セラがこっちを見る。


 「のぞくなよ。」


 「そんな失礼なことしません!!」


 「ふーん。君は油断ならないからな。」


まあ実際ちょっと見たい。僕のことも書いてたりするんだろうか・・・・




いつの間にか眠っていた。昼ごろに出発して、もう夕方だ。

獣車は街道の途中で止まった。

今日の移動はここまでのようだ。


運転手のおじいさんによると、近くに湖があるそうだ。

水を汲むついでに、セラと見に行ってみる。

獣車の止まっている位置から、林に入り、ちょっと歩くと湖があった。

水面は鏡のようで、夕焼けの空を映していた。


 「きれいだなぁ・・・・」


 「そうだな・・・・」




夕食を食べ終わり、みな眠りに就く。

僕とセラは、外で寝ることにした。獣車の中は息苦しいのだ。



 (う?)


寝ていると、なぜか目が覚めた。

セラのほうを見る。いつもと違う、かわいらしい寝顔が・・・・・

ない!!

一瞬で眠気が覚めた。


 (セラは!?まさか奴らに!?)


体内エーテルによる知覚強化をすると、何か聞こえてきた。

歌だ・・・・

聞こえる方向は、湖のほうだ。行ってみよう。




林の中から湖のほうを覗くと、セラが歌っていた。


セラの歌は、僕の知らない言葉で歌われている。

歌の意味はわからないが、心地よい歌だ。


僕はセラの邪魔をしないよう、木の後ろに隠れて歌を聴いていた。

すると、突然歌が止まった。どうしたのか、と思い、湖のほうに顔を出すと誰もいない。


 (あれ?どこいった?)


 「なにをしている?」


 「うぉっ!?」


後ろから声がした。振り向くと、怒った顔のセラが、仁王立ちしていた。

いちよう言い訳を・・・・


 「目が覚めたら、セラがいなかったから、探してたんだよ。そっちこそ隠れて歌わないで、聞かせてくれればいいのにー」


 「・・・・・・・練習してから、聞かせてやろうと思っただけだ・・・・・」


 「えっ?」


セラが何か言ったようだが、聞こえなかった。

セラは少し赤くなって、


 「なんでもない!!そんなに聞きたければ聞かせてやる!!」


おっ!ラッキー聞かせてもらえるのか。



セラが、歌い始めた。

月と星を鏡のように映す湖の水辺で歌う、彼女の姿は一枚の絵のようであった。




歌い終わったセラに、拍手を送った。


 「すごい!!やっぱりうまいね!!それはなんて歌なの?」


セラは恥ずかしそうな、うれしそうな顔で答えた。


 「ありがとう。歌は、こちらの言葉で訳すと、『故郷の花』かな。」


 「故郷の花か。龍魔法ドラグラフの歌とはまた違うね。」


 「ああ。私だって龍魔法の歌は、一つしか知らない。そもそも、龍族の中でも龍魔法を使えるのは少数なんだぞ。」


 「えっ!?そうなの!?」


初耳だ。龍族はみんな使えるのだと思い込んでいた。

龍魔法が使えるセラは、龍族の中でも高位の存在なんじゃないだろうか?

そこの所の事情を、少し知りたいと思った。


 「ねぇ、そんなに歌がうまいんなら、故郷の人達は、褒めてくれるんじゃないの?初めて会った時は、お父さん以外に褒められたことがない、って言ってたけど・・・・・」


 「いや、みな、私の歌を怖がっていたな。そもそも、聞いてくれる相手はいなかったな・・・・・・」


あら?すごいテンションが落ちた。どーしよ・・・・・


 「えーと・・・・友達とかは?」


 「友達は二人いたが、もう何年も会わせてもらっていない。」


どういうことだ?会わせてもらえない?

セラはこちらをしばらく見つめ、意を決したように言った。


 「私は純粋な龍族ではない・・・・・・・・・・・・・・人と龍族のハーフなんだ。」


はぁ〜そうだったのか。


 「じゃあ、あの写真の人がお母さんで人間で、お父さんが龍族なんだ。」


 「そうだ。気持ち悪いだろ・・・・・・」


セラは自虐的に笑った。

気持ち悪い、の意味がわからないんだが・・・・・・・


 「えーと・・・・何が?」


 「ハーフなんだぞ!!血が混じっているんだ!!・・・・・・それに、私はハーフであるがゆえに、龍族が持つエーテル共鳴声帯が異常発達している。だから、子供のころ、制御できずに暴走させたことがある。それ以来、私はずっと恐れられてきた・・・・・ハーフであること、力が強すぎること、故郷ではそれが理由でほとんど、、外出できなかった。父上が亡くなる前は、多少可能だったけど、亡くなった後からは、もう完全な監禁状態だったんだ・・・・・」


僕は驚いた。箱入りお嬢様かと思っていたら、監禁されていたなんて・・・・・

ん〜なんて答えたらいいものか・・・・・


 「別にハーフだっていうのが、気持ち悪いと思う理由にはならないし、力が強くても今は制御できるんでしょ?僕は別に気にしないけど・・・・」


 「うそだ!!君だって今の話を聞いたら、私と旅するのは嫌になったはずだ!!」


セラは、怒っている。瞳には、いつもは感じられない、敵意がある。

僕は真面目な顔をした。


 「本当だよ、セラ。ここは、龍の国じゃない。龍の国の常識がこの世界の常識というわけじゃないよ。この世界には、ハーフだ、という理由で君を嫌う人は、あまりいないと思うよ。」


僕は旅に出る前何度か、猫人ウェアキャットと人の混血を見たことあるが、別に迫害されているわけではなかった。

それに僕は、異界人だ。この世界の常識を学んだけど、その常識が身についているわけではない。


 「でも、でも私は・・・・・」


まだセラは、納得してくれない。

よし!それなら


 「セラが自分の秘密を話してくれたんだから、今度は僕の秘密を話そう。僕はね、この世界の人間じゃないんだ。異界人といわれてる。」


 「イカイ・・・・ジン?」


 「そう。異なる世界の人。」


さっきまで怒っていた顔は、驚きに塗りつぶされている。


 「本当なのか?」


 「まあこんなこと、いきなり言っても信じないだろうけど。前、セラに貸した服、あれが唯一の証拠かな。」


 「あれが・・・・・そうか、だから大事にしていたのか・・・・・」


セラは、一応信じてくれるのかな?


 「それで、僕が言いたいのは、世界にはいろんな人がいる、ということだよ。僕みたいな、変な存在の人もいれば、セラを悪く言う人がいるかもしれない。でも、セラの歌が気にいる人もいるんだよ。僕とか。」


セラは、ぼーっとして僕のことを見ていた。

まだ、だめか?


 「ええっと、だから僕にとって、セラは気持ち悪いと思う対象じゃない。セラは、ちょっと力が強くて・・ちょっと?あ、いや、ちょっとですよね!!・・・・歌がうまい女の子だよ。一緒に旅をしていて、楽しい仲間だ。」


おお!僕、いいこと言った!!でも、よくよく考えると、すごい恥ずかしいことを言っているような・・・・・・

うあ!顔が熱くなってきた!!


ぼーっと僕を見ていたセラは、くすくす笑い出した。


 「かっこいいこと言ったのはいいが、顔が真っ赤だぞ。フフッ」


 「ああー!!わかってるよ!!」


あー恥ずかし!!

でも、よかった。セラに笑顔が戻った。


 「ユウ。ありがとう。君の言葉には、いつも元気づけられるよ。」


そう言い、にっこり笑ったセラの表情は、今まで見た中で一番の笑顔だと思った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NEWVEL投票ランキング
HONなびランキング
「この作品」が気に入ったらクリックして、投票してください。励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ