第10話:はじめてのお仕事
首都ペルートへの道の、通過点にある都市、ユードラッドについた。
ひさしぶりに、まともな食事と寝床にありつけそうで、テンションが上がる。
しばらく食事は、乾パンばかりだった。
「さて、服を買いに行こうか。」
セラは、機嫌良さそうに言った。
僕は一つ気になることがあった。
「セラ、お金あるの?」
そう言うと、セラはこちらを見た。
すごい、見てくる。
まだ、見てくる。
「・・・・・・・ぼくが出すの?」
セラは、下は黒いスパッツ、上に白地の軽装甲服を着て、腕には格闘用のグローブ、足には戦闘用のブーツを履いている。
制服姿も良かったが、こういう格好も戦う女性という感じで、トテモイイデスネ!!
それから、この街に来て改めて分かったことだが、セラはこの世界の人たちから見ても、かなりきれいに見えるようで、よく目立つ。
いちよう彼女は、狙われている身なので、フード付きの外套を買ってあげた。
フードをかぶれば、ある程度は人の目を避けられるだろう。
「どうだ?」
セラがその場でくるっと回って、聞いてきた。
「それはもう!!かわいいね!!」
「そんなこと聞いていないっ!!これで目立たないかを聞いたんだ!!君が目立つと言ったから、気にしているんだ!!」
ふっふっふ。うっすら顔が赤くなっていますよ。
ニヤニヤしてたら睨まれた。
服飾店を出ると、
「必ず、お金は返す!!」
セラは、強く僕に言った。
まあ、そんなに気にしなくていいけど・・・・・
実際、お金はもうほとんどない。
この大陸の共通通貨の単位は、Rxだ。僕の感覚だとほぼ、ドルとかわらない。
今の所持金は、20Rxほど。二人で二食と一泊ぐらいしかできない。
これからの旅の食糧や、この前の戦闘で消費した、ダガーも補充しておきたい。
「働くしかないか・・・・・」
「働く・・・・まかせろ私がやる!!」
「働いたことあるの?」
「・・・・・・・・・・・ない。」
前から思っていたのだが、もしかしたらセラは、箱入りお嬢様なんじゃないか?
だが、大丈夫だろう。これぐらいの大きさの都市になら、セラ向きの仕事は多いはず。
ぼくらは、依頼請負屋に向かった。
依頼請負屋とは、簡単に言うとバイト募集所、求人事業所。
つまり、傭兵のたまり場だ。
僕は、おっさんとの訓練中、何度か依頼を受けたことがある。
依頼請負屋に入ると、大きな掲示板と、受付がある。
掲示板に貼り出されている依頼を選んで、受付に申し込むシステムだ。
セラに、システムについて解説すると、熱心に掲示板の依頼を選び始めた。
(これなんて、いいんじゃないかな。)
『魔法技師の指示する、材料の調達。』
魔法技師は、エーテルによって動作する道具を作る職人だ。
そのため、様々な材料を必要とする。
セラと僕なら、そんなに苦労しないだろう。
「ねぇ、セラ。これはど・・・・・」
「これにしよう!」
僕の言葉にかぶせて、セラは宣言した。
セラの見ている依頼の張り紙を見る。
『魔物討伐!!ユードラッド駐屯騎士団と協力して、キリギスの森の魔物を倒しましょう!!ジャンジャン応募してネ!!』
うわ〜。やばそうだ。文章のノリと依頼の重さが、全然かみ合ってないんだが・・・・・
魔物というのは、この世界の動物を指す言葉ではない。
この世界の生物は、一様に大きく、凶暴ではあるが、それはエーテルの影響だろうと、僕は考えている。
おっさんに聞いた話だが、魔物とは、200年ほど前に現れた、異形の生物らしい。
魔物の異常発生と、魔王と呼ばれる、魔物の親玉が出現したことによって、当時戦争をしていた帝国と共和国は休戦、その後協力し、エルフの支援を受けて戦いを終わらせた。
その時英雄として名を馳せた、フランク ペルートによって、この国カスロアは建国された。だからこそ、今でも中立を守っているのだとか。
こうしたことから、魔物は200年前にほぼ駆逐されている。
しかし、数は少ないが、いまでも生き残りが、たまに現れるそうだ。
魔物相手なんてやばいだろ〜。
「ねぇ、セラ。もっと安全なのにしない?」
「いや、私はこれでいい。金額を見ろ。これぐらい稼がないと、君に借りた金は返せない。それに、助けてもらった恩がある。」
僕が勧めようとした依頼の報酬は、80Rx。だいたい、八千円ぐらいだ。この世界では2Rxぐらいで、普通の昼食が食べられる。
そして、セラがやろうとしている依頼の報酬は、1500Rx。じゅうごまんえん・・・・・・・すごい。
いや、惑わされてはいけない!危険だからこそ、この値段!
よく見ると、張り紙の端っこのほうにちっちゃく、『死んでも、責任はおいかねます。自己責任でネ!!』、って書いてあるぞ!!
そもそも、僕がセラの装備に払ったお金は、50Rxくらいだ。こんな依頼にしなくても・・・・・
僕が難しい顔をしていると、
「ユウは、どこかで休んでいてくれ。私ひとりでやる。」
と、セラは言う。どうやら何が何でもこの依頼を受けるようだ。
う〜ん。セラが強いのは知っているが、とても心配だ。
それに張り紙にも、『定員十名、あと残り二人!!そこのあなたどうですか!?』、とまるで僕にも参加しろという雰囲気だ。
「あー・・・・・・ぼくもやるよ。」
セラはこちらをちらりと見て、
「別に嫌ならいいぞ。つきあわなくて。」
「セラは、危なっかしくて、見てないところで何かされると、落ち着いて休んでられないよ。それにほら、定員あと二人だし。」
「君はいつから私の保護者になった!?・・・・・・・まあ、ついてきてくれることには、感謝する。ありがとう。」
セラは、うっすら微笑んだ。
その表情を見ただけで、自分は最良の選択をしたと思えてしまった。
「おいおい、こんな奴らが最後のメンバーかよ。」
受付を済ますと、さっきまで近くのテーブルにいた、ガタイのいい男が、イライラした様子でそう言ってきた。
「ジョーダンじゃねぇ!てめえらみたいなのは、足手まといにしかならねぇよ!!サッサと依頼を取り消せ!!」
テーブルには7人の人がいる。人種は様々だが、みんな腕利きの氣闘士や詠唱師に見える。
今文句を言っているこの人と、テーブルにいる人たちが、この依頼を受ける人たちなのだろう。
「特に男のお前だ!!女にいいカッコ見せたいからって、身に余る依頼を受けようとするな!!お前なんかいても、そのひょろい体じゃ盾にもなんねぇんだよ!!」
ああーこの状況はまずい。テーブルに座っている人たちも同意見なのか、止めに入ろうとしてくれない。
盾としてがんばります!、とか言ってにげられないかな〜、と思っていると、
「盾になるのは、貴様のほうがお似合いだぞ、デクノ坊。他人の技量を測れないようじゃ、貴様の程度も知れるな。」
セラが、怒ったように言った。うあ、売られた喧嘩を買っちゃた!!
「ちょっと、セラ。落ち着いて・・・・・」
「君は、侮辱されたんだぞ!!なぜ怒らないんだ!!君はそこの、肉の壁なんかより数段上のはずだ!!」
セラに火がついた!!それにしても、に、肉の壁・・・・面白いこと言うな。
喧嘩を売って来た男を見ると、額に青筋が現れていた。お、怒ってるよね。やっぱり。
男は、背中に背負っている大剣に手をかけながら、
「じゃあ、見せてもらおうか!!俺より数段上の力ってやつをな!!」
と言い、僕の胸倉をつかみ、身体強化された腕力によって、依頼請負屋の外に向かって投げ飛ばした。
僕は、扉をぶちぬき、外の道まで転がった。
男が外に出てきた。
僕は、住人の人たちが止めてくれないかなー、とか思っていたのだが、喧嘩か!!いいぞー!!やっちまえー!!、みたいな声が多い。
この付近は酒場が多いため、こんな喧嘩はいつものことなのだろう。
立ち上がると、大剣を抜いた男は、もう目の前まで来ていた。
来た!!
かなりの速さで、大剣がこちらに向かってきた。僕は脚力強化で跳び、男の頭上を跳び越え、着地した。
男が振り向く前に僕は、抜刀し、構える。
どーしよ・・・・・カウンターで、投げるか。
男が大剣を振り回し近づいてきた。避けつつ、その動きを観察すると、割とうまい。
大剣を腕力だけで使っているわけでなく、ちゃんと力の向きを操作し、制御している。エーテルの徹りもいい。
剣を刀で受け、反りを使って、いなす。
本来なら、刀はへし折れるところだが、エーテルを徹すことで、斬れ味と、頑丈さは増幅されている。
男がバランスを崩した。その瞬間、刀を地面に刺し、素手で懐に飛び込む。
そのまま、胸倉をつかみ、背負い投げの要領で投げ、男を地面に叩きつけた。
ドスンッ!!
失神しない程度に加減して投げたので、男は驚いた顔で目を見開いている。
「え〜と・・・・大丈夫ですか?」
僕は、いちよう聞いてみる。
「チッ・・・・・!俺の負けだ!!」
男はそう言い、さっさと立ち去った。
認められたってことでいいのかな?
野次馬の住人に、すごかった!!、おみごと!!、とか言われた。
大変な目にあった。
町の酒場で夕食を終え、宿に泊まった。
お金がないので、二人で一部屋だ。僕は床で寝る。
セラが文句を言ったが、これは譲れない。女の子を床でなんて寝かせられません!
セラと、今日のことを話す。
「もう少し冷静に対処しようよ。」
「あそこは怒るべきところだ。自分が認めている相手を侮辱されて、そのままにしておけるか!」
おっ?僕は認められているのか・・・・・そうか、そうか。
「なに、ニヤニヤしてるんだ!い、今の発言は、なしだ!!」
いいこと聞かせていただきました。
魔物退治は、明日行われる。