怪談バトル シュタインベルクのターン
来ない……来ない………来ない………来ない………
トゥルカナが帰ってこなーーーーい!
僕は池に石を全力投球した。
最近、エルヴィアの辺境にオークの群れが出没するようで、
バラトン将軍がオーク退治に出向いている。
もちろんトゥルカナも一緒だ。
だけど、もう半年になる。いくらなんでも長すぎる。
僕は17歳の誕生日を迎えたし、姫だって会いたがっている。
相変わらず僕は毎週姫のお茶会に参加している。
お茶会の度に姫は、今週のトゥルカナはオークを何匹倒しただとか、
どんな友達ができただとか、鎧下のシャツは何色かだとか…
変に細かい情報を教えてくれる。
姫との仲が進展する様子はまったくないし、
僕もフリルやリボンがいっぱいついたドレスを着せられた状態で
姫を口説き落とそうなどという気は起きない。
サイマー
「シュタインベルク、ここにいたのか。」
シュタインベルク
「サイマー!」
僕はサイマーとハイタッチした。
サイマー
「大図書館に行くところだが、一緒にどうだい?」
シュタインベルク
「もちろん行くよ!」
サイマーは僕よりも五つ年上。
貴族の御曹司だ。
短い栗毛色の髪、優しそうな人の良さそうな顔で、
目立つ方ではないがみんなに好かれている。
背は僕よりも高いけど体つきは筋肉質じゃない感じ。
鹿狩りで僕が倒れた時に介抱してくれたんだ。
彼がいなかったら僕は死んでた。
サイマーとはそれから友達になって、
毎日のように一緒に何かしている。
おかげでトゥルカナがいない寂しさも少しは紛れる。
それに、僕は姉上達が大好きだけれど、
こういう兄上がいたら良いなあっていつも思ってた。
…………………
サイマーと本を探したり読んだりして大図書館から家に帰ると、
父上が宮殿から戻っていた。
ミューリッツ伯爵
「姫から預かって来たぞ。
なんでも特別なお茶会を開くとの事で、
ぜひお前にも来て欲しいとおっしゃっていたぞ。
どうやらうまくいっているようだな、シュタインベルク。」
シュタインベルク
「も…もちろんだよ。父上!」
ミューリッツ伯爵
「ああ、それと、バラトンの息子も帰ってくるらしいぞ。
おそらく参加するだろうな。
こちらの方が有利なのだから、姫との仲を見せつけてやりなさい。」
シュタインベルク
「え!いつ、いつ戻ってくるの!?」
ミューリッツ伯爵
「ん、来週あたりだそうだが、なんでも負傷したらしいぞ。
情けない男だな、ははは。」
シュタインベルク
「そ、そうだね。」
負傷ってトゥルカナ、怪我したのか?
僕は心配でたまらない。
もし手とか足が一本無くなってたら、もう戦場には出れない。
そうしたら僕は…王様になるのはやめてトゥルカナをずっと助けてあげよう。
だけどもし、致命傷だったら………
あと少しの命だったら………
僕は不安でたまらなくなって一晩ずっと泣いてしまった。
翌朝、目がぱんぱんに腫れてみんなもびっくりしてた。
もう何も手につかず、池のほとりに座って泣きべそをかいてたら、
サイマーが心配して来てくれた。
多分姉上が教えたんだろう。
サイマー
「どうしたの?僕でよかったら話を聞くよ。」
僕は頭を振った。
サイマーは怒るかなって思ったけど、
僕の頭をポンポンと叩いて…
サイマー
「わかった、話したくないならそれでいいよ。
おいで。」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
サイマーって本当の兄上みたいだなって思ったら、
また涙が出て来て泣いてしまった。
トゥルカナの事になると涙腺が緩くて困る。
…………………………………
不安な毎日を送り、ついにオルタ姫の特別なお茶会とやらの日が来た!
サイマーも心配だから一緒に行くと言ってきかないので
連れて行くことにした。
あんまり、僕の変な服着た姿は見せたくなかったけど。
宮殿に着くと案の定、姫の手下の娘達に連行された。
サイマーもついてこようとしたが娘達がバリケードを作って足止めしている。
オルタ姫
「シュタインベルク、待ってましたわよ。」
オルタ姫はプラチナブロンドの長い髪を二つに分けて結んでいる。
変な黒い三角帽子が頭の真ん中に乗っているが、
どんな男でも顔がふやける可愛さだ。
シュタインベルク
「姫、今日はあの男、トゥルカナも来るんですか?
それとも怪我がひどくて動けない状態とか…。」
オルタ姫
「あら…………心配なの?」
シュタインベルク
「そ、そんなわけないじゃないですか。
来なきゃいいなと思ってるんですよ。」
オルタ姫
「ふーん、残念ね、彼も来ますわ。」
シュタインベルク
「そうですか…。」
僕はホッとして力が抜けた。
その隙に姫の手下が僕の服を脱がせる。
シュタインベルク
「うわあっ!ちょっと!」
オルタ姫
「今日は特別な趣向を凝らしていますのよ。
ですから、シュタインベルクも協力してくださいね。」
よく見ると姫もその手下もみな魔女のような格好をしている。
なんだ、なんだ、一体何が始まるんだよー!
……………
僕はまたもや人形のように着替えさせられて、
お茶会会場に連行される。
さすがにこれで通路は歩けず、黒いマントを羽織っている。
会場に入ると真っ先にトゥルカナが見えた。
腕も足もある!
負傷って、どこ?
僕はトゥルカナを上から下まで舐め回すように見た。
おでこに少し傷のようなものがある。
まさか、あれか!?
その瞬間僕はブチ切れた。
シュタインベルク
「いっぺん死ねよ!ゲロ野郎!」
ダッシュで駆け寄り、トゥルカナの顔面に蹴りを入れた。
どれだけ僕が心配したと思ってるんだ!
同時にマントが落ちて、僕の姿があらわになった。
頭には黒い猫耳、
ビロードでもふもふのクロップド丈シャツ、
思いっきりヘソが見えている。
下は上とお揃いの生地で作ったショートパンツ。
しかも長い尻尾が付いている。
首には鈴のついた首輪がつけられている。
一同がおーーーっと声をあげた。
サイマーも顔を赤らめてこっちを見ている。
トゥルカナも一瞬ギョッとしたように見たが、
すぐに気を取り直して僕の胸ぐらを掴んだ。
トゥルカナ
「何しやがる!バカ猫!」
いつにもまして、顔が近い!
鼻先がくっついて、あれ……なんだか唇の先もかすかに擦れている。
シュタインベルク
「離せ!オークのゲロの匂いがする!臭いんだよ!」
涙が滲み出そうなのを悟られたくない!
トゥルカナ
「ふざけんな!」
トゥルカナは僕を床に押さえつけた。
オルタ姫
「シュタインベルク!
確かに今のはあなたが悪いわ。
謝るのです。
さあ、『ごめんにゃあ………』と言いなさい。」
はあ?なんで?
だけど、ここは大人しくするしかない。
このままだとドキドキしすぎて気を失いそうだ。
オルタ姫
「これは、命令です!」
シュタインベルク
「YES……………マイ レディ………」
僕は一度深呼吸した。
何故か姫のお友達がわらわらと周りを取り囲む。
シュタインベルク
「う…………ごめん……………にゃあ……。」
僕は恥ずかしくて、トゥルカナから目をそらしながら言った。
顔が火照って熱い。
トゥルカナはうぐっと言って手を離した。
気持ち悪そうに眉をしかめている。
トゥルカナも姫の無茶振りにあわせてやっているのだろう。
サイマー
「おいで、シュタインベルク。
ダメじゃないか、あんなことしちゃ。」
サイマーが僕の腕を引っ張って、自分の座っているソファの隣に座らせた。
トゥルカナがすごい形相で睨んでいる。
もちろん僕も睨み返す。猫の格好で。
オルタ姫
「さあ、皆様方、今日はトゥルカナの帰還祝いも兼ねて、
ハロウィンパーティをしたいと思います!」
シュタインベルク
「は…………ハロウィンパーティ?」
オルタ姫
「まあ、ご存知ないの?
いま、国中で流行っているお祭りよ。
元はイミダゾール王国の伝統行事みたいだけれど。
お化けの格好をしてお菓子を食べてそれから怖いお話をして楽しむの。」
男性陣はキョトンとしている。みな、知らないようだ。
まあ、それで僕は魔女の使い魔、黒猫の格好なのか、ってなんで僕だけ…。
サイマー
「シュタインベルク、君、お化けにしては、
可愛いな…。」
サイマーが僕の頭をよしよしと撫でた。
シュタインベルク
「からかわないでよ!もう……。」
僕がふくれると、サイマーは謝りながら笑って僕を抱きしめた。
オルタ姫
「サイマー!」
サイマー
「はい。」
オルタ姫
「あなた、シュタインベルクといつからそんなに仲良くなったの?」
オルタ姫を見るとなんだか怒ってるようだ。
目が座っている。
もしかしてサイマーに嫉妬しているのかも!
シュタインベルク
「僕が説明します。
サイマーはこの前の鹿狩りの時に倒れた僕を介抱してくれたんです。
僕はサイマーがいなかったら死んでいました。
彼は命の恩人なのです。」
オルタ姫
「まあ、そうだったの。
シュタインベルクを守ってくれてありがとう、サイマー。」
オルタ姫
「だ、け、ど…今日はわたくしの使い魔なの、サイマー、その黒猫いただいてよろしいかしら。」
サイマー
「え、ええ、もちろん。」
僕は急いで姫の隣にちょこんと座った。
第6感が囁いている、姫には逆らわない方がいい。
姫の反対側には大好きなトゥルカナが座っている。
さっきの一件でまだ、怒ってるけど。
しばらくお菓子を食べながら歓談した後、姫の手下が窓のカーテンを閉めて暗くした。
テーブルの上に一本ローソクがともされる。
オルタ姫
「では、これから一人づつ怖い話をしていただきますわ。
一番怖かった人には私とデートする機会を与えましょう。」
姫とデート!
男性陣がざわついた。
これは負けられない!
トゥルカナ
「姫!俺から!」
先を越された!
トゥルカナが僕を見てニヤリと笑う。
ああ、その顔好きだ。
トゥルカナ
「辺境で俺が一人で偵察をしていた時のことだ、
小さく古びた塔を見つけたんだ。
その塔の中から何か変な感じがしたので、俺は偵察に入ってみた。
階段を真ん中まで登った時、
上から下からゴブリンがウジャウジャと襲ってきた!
俺はそいつらを無我夢中で切りまくった。
終わった時にはゴブリンの死体で塔が埋め尽くされたぜ。
………………。」
オルタ姫
「えっと………、終わり?」
トゥルカナ
「ああ、終わりだ。」
オルタ姫
「あ、ありがとう…なんというか、
すごい経験よね、ね、皆さま。」
ええ、ええ、と女子たちがざわざわした。
シュタインベルク
「次は、僕がお話しします!
あれは、ある雨の日だったよ…、
僕はバスルームに入ったとたん何かむにゃっとした奇妙なものを踏んだんだ。
それはなんと、手のひらくらいのナメクジだったんだ!
………………………。」
オルタ姫
「お、終わりかしら?」
薄暗闇でトゥルカナが吹き出すのが見えた。
笑うな腐れゲロって怒鳴ってやった。
シリヤン
「では、次は私が。」
姫の手下、大臣の娘シリヤンだ。
シリヤン
「私がお父様と王都から領地へ向かっている時のことでしたが…
嵐になり、しょうがなく古い廃城に泊まることになったのです。
その城は割と綺麗で私達はホッとしましたの。
それぞれ部屋に入って、ゆっくり休む事にしたんですけれど…
私が眠ろうとしたら、部屋のタンスの中からカタカタと音がしますの…。」
その時、ろうそくの明かりが消えた!
部屋が暗闇に包まれる。
正直言ってめちゃくちゃビクビクしていた僕は、
とっさに隣りの姫君にしがみついて震えた。
なに、この話!なんだか、本当に怖い!
シリヤン
「私はネズミかなって思ったんですけれど、
気になって眠れないので、勇気を出して開けて見ることにしました……。」
シリヤンはろうそくが消えたまま話を続ける。
僕は背筋がゾクッとなって、しがみついた姫の腕に顔をくっつけた。
だけど、姫にしてはかなり太い腕でめちゃくちゃ固い筋肉がある。
その時気付いた、この筋肉、この匂い、トゥルカナだ!
ゆっくり力を緩めて手を離そうとした瞬間、
ガシッと身体を掴まれてキスをされた!
トゥルカナは完全に僕を姫と勘違いしている!
強引にトゥルカナの舌が口の中に侵入してきた。
とろけるようなキスだ。
ああ、これってトゥルカナとキスする最初で最後のチャンスかもしれない。
僕はトゥルカナの首に手を回すとキスに答えた。
シリヤンの怖い話が遠くに消え失せていく。
頭がとろとろに溶けて、何も考えられない。
その時、何人かのきゃーーーーーーーーーという悲鳴が聞こえて、我に帰った。
パッとトゥルカナから離れて口を拭った。
まだ心臓がバクバクと音を立てて、飛び出しそうだ。
トゥルカナにバレたらどうしよう…。
姫は一体どこに行ったんだろう。
シリヤン
「後でわかったのですが、
その城は残虐な奥方が住んでいて何人もの娘を殺していたらしいのです。」
隣からふわりと香る、緑と花の香り、オルタ姫だ。
その瞬間ろうそくの灯りがついた。
僕とトゥルカナの間にオルタ姫が座っている。
一体途中からどこに行ったんだ?姫は。
オルタ姫
「とても怖かったですわ!シリヤン!」
シリヤン
「光栄ですわ、オルタ姫。」
僕はトゥルカナの顔を見るのが怖くて俯いていた。
頼むからトゥルカナ、気づかないで…。
その後も怖い話が続いたがトゥルカナが気になってまったく頭に入ってこなかった。
結局一番はシリヤンに決定して、デートはシリヤンとショッピングに行くらしい。
僕は一刻も早くこの場を去りたかったので、1番に扉から飛び出した。
急に目の前に腕が現れて壁に叩きつけられた。
またこのパターンだ。
見上げるとやっぱりトゥルカナが上から睨みつけている。
気づかれてませんように………。
トゥルカナ
「おい、誰彼構わず襲いかかる凶暴な野良猫の親を持つ性格の悪いチビ猫!
お前…さっき姫にキスしたと思っているだろうがなあ…
あれはお、れ、だ!
ザマアミロ。」
シュタインベルク
「う…あ…!」
ば、バレてる!
トゥルカナ
「情熱的なキスだったよなあ。よかったぞ、バカ猫。」
シュタインベルク
「あ…き、きさま…きさまああああ!
辺境でオーク達に囲まれて周りでフォークダンスを踊られた挙句、
抱きしめられて死んでしまえーーーーーーー!」
僕はジャンプしてトゥルカナの顔面に頭突きして猛ダッシュで逃げた。
トゥルカナは鼻血を出して突っ伏した。
僕が喜んでトゥルカナとキスしたなんて思いもしないだろう。
バカなトゥルカナ………。
そして哀れな僕………。
つづく




