鹿狩りバトル トゥルカナのターン
あれ、ここどこだっけ…。
見知らぬ小さな部屋のベッドの上、隣には知らない女が寝ている。
昨晩は城下町で一番大きな酒場で飲んでて、踊って、
それから思い出せないな。
俺は女を起こさないように部屋を出た。
最近は酒を飲んでも女を抱いても満足感がない。
どうしてもベルの姿が頭に浮かんでしまう。
しかし、ベルのやつ俺がいない間にあの姫といい感じになりやがって。
完全に恋する目でピアノを弾いてた。
ベルはああいう…
可愛くてふわふわした守ってやりたくなる女が好みなんだろうな。
まあ、世の男どもは大抵そうだ。
俺も嫌いじゃあないが…正直嫉妬する。
ベルにあれほど好かれるなんて、羨ましい姫様だぜ。
姫様といえば今日何かあったような……。
ああ、そうだった!
今日は姫様主催の鹿狩りだったな、ベルに会える!
俺は急いで屋敷に走った。
………………………………………………………
広大なコモの森の手前にある広々とした草はらに一同は集合した。
今回の鹿狩りはオルタ姫と友人の貴族の娘がぜひ見てみたいという事で企画された。
どうやら鹿をたくさん狩ったものには姫のキスがプレゼントされるらしい。
そんなものいらないが、若い貴族の男子はやる気満々、気合いを入れている。
その中にベルもいた。
綺麗に飾られた白馬に乗っていた。
髪は一つに束ね、美い刺繍がほどこされたダークグリーンのコートを着ている。
だが、いつも白い肌が今日はさらに白い、いやむしろ青いくらいだ。
目の下にクマのようなものもある。
それにぼーっとしている。
王の言葉も耳に入っていないだろう。
俺は試しに近づいてみることにした。
トゥルカナ
「おい、ちび太!ここはお子ちゃまの来るとこじゃねえぜ。
シュタインベルクはゆっくりと俺の方を見た。
なんだか荒い呼吸をしている。
シュタインベルク
「……………………。」
シュタインベルクは嫌そうにひと睨みすると俺から離れて行った。
ベルが言い返さないなんて珍しい。
どこか具合でも悪いんだろうか。
心配でたまらない。
もちろんこっそりベルの後をつける。
ベルは小ぶりな鹿を一頭見つけて追いかけ始めた。
打った弓矢もことごとく外している。
かなり、集団から離れてしまった。
ベルはきっと気づいてないだろう。
切り立った崖があり、岩がゴロゴロした場所に入った。
これはもう、一度戻ったほうがいい。
晴れていたはずの空が真っ暗になり、
雷鳴が聞こえ始めた。
これは降るな!
空を見ていて、ベルに視線を移した瞬間、ベルが馬から滑り落ちた。
トゥルカナ
「ベル!」
俺は馬から降りてベルを抱き上げる。
ベルの身体が熱い。
多分、熱がある。
空が光り、大きく雷鳴が轟くと同時に大粒の雨が降り出した。
俺はベルをマントでくるんでさっき見かけた岩肌の洞窟らしいところに駆け込む。
大きい洞窟でなんとか雨はしのげそうだ。
トゥルカナ
「ベル、おい、しっかりしろ。」
頰に触れるがまったく返事がない。
俺は急いでマントを折り曲げ、そこにベルを寝かせる。
乱暴に自分の白シャツを破いて雨に濡らし、ベルの額に当ててやった。
水の入った皮袋…………しまった馬に置いてきた。
ザーザーと降る大雨を手のひらにためてベルに飲ませようと口に入れるがごぼっとむせて咳き込んだ。
殺すところだった……。
俺はもう一度手のひらにためて自分の口に含んだ。
ベルの身体を起こして、唇を重ねた。
むせないようにゆっくり流し込んでやる。
ベルの唇は火にように熱い。
ベルの喉が小さくこくんと動いたのを見て、心底ホッとした。
トゥルカナ
「はあ…………………、良かった………。」
ため息をついたら、急に胸が締め付けるような苦しさが込み上げて、
俺はベルを抱きしめた。
トゥルカナ
「まったく、無茶しやがって………、お前一人じゃ死んでただろ…。」
ベルの荒い吐息が聞こえる。
トゥルカナ
「心配かけるなよ、本当にもう勘弁してくれ。」
ベルの胸が上下に苦しそうに動いてる。
トゥルカナ
「死んだりしないでくれよ…早く雨上がれよ………。くそ……。
俺はベルの頰に頰をすり寄せた。
ベルの金色のまつ毛が涙か汗でキラキラしている。
トゥルカナ
「ベル………、俺、お前の事が好きなんだ。
本当に辛い…、どうしていいかわからない…。
お前はあのプリンセスに夢中だし…
俺は………。」
俺はベルの唇にもう一度唇を重ねた。
今度はキスをするために。
もうこのまま時が止まってしまえばいい。
ずっと二人でいられる。
その時鍛えられた俺の第6感が痺れた。
洞窟の奥から何かくる。
ベルを静かに横たえると愛剣を構えた。
グルルっという獣の唸り声。
ああなんて事だ………、魔獣の巣だ……………。
5………だな。
俺はベルの前に立ちはだかり深呼吸をした。
トゥルカナ
「来いよ、こいつには指一本触れさせない!」
ワーグは人の二倍ほどもあるデカイオオカミだ。
俺はタイミングよく突っ込んできたワーグを切り裂く。
しかし同時に来た片方をさばけず、腕に噛み付かれた。
トゥルカナ
「ちい………。
皮の小手が鋭い牙に貫かれて、腕に突き刺さる。
怯んだ瞬間足にも噛み付かれた。
トゥルカナ
「くっ………!」
一匹がベルに狙いを定めている。
トゥルカナ
「させるかよ!」
足元のやつを叩き切り、手を振りほどくと、振り向きざま、
ベルを狙ったやつを真っ二つにする。
後の二匹も仕留め、一息ついた。
ワーグの血で身体中がベトベトだ。
トゥルカナ
「あーあ、またワーグ臭いのなんだの言われるな。
この匂いフェチに。」
外が静かだと思ったら雨が止んでいる。
猟犬の声が聞こえて来た。
これは、離れた方がよさそうだな。
俺はベルの綺麗な顔を見納めして急いで洞窟を離れる。
猟犬と貴族の若い男が洞窟に入って行くのが見えた。
あーあ、損な役回り。
元の広い拠点に戻ると姫様たちが騒いでいた。
オルタ姫
「戻って来たわ!
まあ、トゥルカナ、血だらけよ!早く手当を!」
トゥルカナ
「大丈夫ですって…。」
と言ってニヤリと笑うつもりが気づくと地面に寝転がっていた。
ワーグって、毒があるんだ、そういえば…。
姫の心配そうな顔をみながら俺の頭は真っ白になった。
つづく