ダンスバトル シュタインベルクのターン
「誕生日おめでとう!シュタインベルク!」
家族のみんなが僕にキスをしてハグをしてそれぞれステキなプレゼントをくれた。
今日は僕の16歳の誕生日だ。
母上と姉上達は僕のために朝からご馳走を手作りしてくれた。
特にこの、大きいチョコレートケーキは僕の大好物。
誕生日だから大きめに切ってもらってがぶりとかぶりつく。
ミューリッツ伯爵
「おいおい、そんなに食べると太って姫に嫌われるぞ。
母
「いいではありませんか、誕生日ですもの。
姉
「もう、こんなに口の周りにつけて、まだまだ子供なんだから、シュタインベルクは。
3番目の姉上が僕の口を拭いてくれる。
僕の家族はみんな僕に甘い。
だけど、僕もそんな優しいみんなが大好きだ。
ミューリッツ伯爵
「ああ、そうだ来月だが城で舞踏会が開かれることになっている。
僕はケーキを食べる手を止めた。
姉
「まあ、ステキ、楽しみだわ!
姉
「ドレスを新調しなくては!
ミューリッツ伯爵
「もちろん姫もお出になる、わかっているな、
シュタインベルク。
バラトンのやつも、辺境警備から戻ってくるらしい。
頼んだぞ。」
僕は食べるのをやめて立ち上がった。
シュタインベルク
「姉上!ダンスの練習を手伝ってください!
帰ってくる!トゥルカナが!
あの闘技大会からまったく会っていない。
トゥルカナはバラトン将軍と辺境警備に行ってしまったからだ。
僕はウキウキが止まらなくてテンポの速いダンスを姉を取っ替え引っ替え踊りまくった。
そんな僕を見て両親は抱き合って涙ぐんでいた。
……………………………
そして、長い長い一月が過ぎ、舞踏会の夜が訪れた。
僕の服は紫の長めの丈のスーツだ。
白いひらひらのブラウスが袖から出ている。
髪は一つに束ね、紫のリボンでくくってある。
今回は姉上たちのプロデュースらしい。
一年で僕は随分背が伸びた。
ついでにヒールの高い靴も履いている。
これで姫より目の玉一つ分くらい高いはずだ。
トゥルカナにもうチビ助とは呼ばせない。
僕はトゥルカナをキョロキョロして探した。
胸はドキドキして足はそわそわ動く。
突然肩が掴まれた。
ミューリッツ
「シュタインベルク、ここにいたか!」
なあんだ、父上か。
シュタインベルク
「どうなさいました?父上。
ミューリッツ伯爵
「実はな、国王陛下がお前のピアノを聞きたいとおっしゃってるんだ。
さあ、こっちへ来て弾いてくれ!
シュタインベルク
「陛下が!わ………わかりました。
ピアノは趣味で毎朝弾いてるからなんとかなると思うけど、
陛下にお聞かせするなんてドキドキだなあ。
問題は何を弾くかだなあ。うーん。
即席のコンサート会場にようなものが出来上がっていて、
陛下始め、沢山の方が僕を待っていた。
お辞儀をして椅子に座ると遠くの方にいるトゥルカナが見えた。
その瞬間僕は即席に作った曲を弾くことに決めた。
トゥルカナへの思いをメロディに込めた曲だ。
トゥルカナの方を見ながら思いが届くように念じて弾く。
かっこよくて、強くて、トゥルカナの事を考えると胸がキューっとなって。
大好きで大好きでしょうがない。
トゥルカナは僕の気持ちを知らない。
この気持ちは誰にも言えない。
トゥルカナに嫌われてて良かった。
だって、優しくされたらもう止められない。
僕の初恋の人。
僕の曲が終わると大きな拍手が沸き起こった。
感動して泣いている人もいる。
ミューリッツ伯爵
「よくやったぞ、素晴らしかった、シュタインベルク。
見たか、あの親子の悔しそうな顔。
バラトン将軍
「だれの顔がどうだって?
ミューリッツ伯爵
「これはこれは将軍。
父上がうやうやしく態とらしく、お辞儀をする。
しかし、僕は、僕は…
将軍の隣にいるトゥルカナに目が釘付けになった。
トゥルカナは背が伸びたというか、がっしりとしてさらに大人っぽくなっていた。
これじゃ、差が縮まってないじゃあないの、あう……。
辺境警備のせいか、ワイルドな雰囲気が漂っている。
昇級してるんだろう、青い軍服になっていてとても似合っている。
物語に出てくる若い勇敢な騎士そのものだ、カッコいい!よだれが出そう。
まずい、口をポカーンと開けて見てしまった、惚けていると思われるな。
それにしても、なんだかすごく………トゥルカナが………。
激怒している!?
目に炎を宿らせながら今にも僕を斬り殺しそうな殺気を出して睨んでいる。
握った拳もプルプルと小刻みに震えてる。
僕は本能で身構える。
後ずさったり視線を外して逃げるわけにはいかない。
よくわからないが、とにかく…負けるわけにはいかない!
とりあえず僕も渾身の力を目に込めて睨みつけた。
トゥルカナ
「シュタインベルク殿………、ちょっと話がある、よろしいか?」
ドスの効いた低い声だ。声も変わった気がする。
僕はゴクンと唾を飲み込む。
呼び出しだ!
トゥルカナは人気のないバルコニーに僕を連れ出した。
親たちは心配そうに見送っていたが止めはしない。
トゥルカナから斬り殺されるか殴られるか、はたまたバルコニーから突き落とされるか…
事故を装って。
そういう状況なのに、僕はこのシチュエーションにドキドキした。
もう、僕はおかしい。
バルコニーに出るなり、トゥルカナが僕に詰め寄ってきて
バルコニーの端まで僕を追い詰めた。
これ、落とされるパターンかな!?
トゥルカナは両手を手すりの上に置いて身体を近づける。
ち、近いし!
僕の上半身は手すりから出て背中は折れ曲がった。
お、落ちそう!
だけど、日に焼けた精悍な顔から目が離せない。
トゥルカナの片足が僕の足の間に入ってきた。
僕は興奮しすぎてクラクラした。
倒れそうだ。
もうキツイっと思った時、トゥルカナが僕の胸ぐらを掴んで自分の顔に近づけた。
僕は呼吸を忘れてしまった。
トゥルカナの鼻と僕の鼻がくっつくくらい近かったからだ。
トゥルカナ
「おい……、んのっゲス!
こんな至近距離で怒鳴られたら耳がキーンってなるよ、トゥルカナ。
トゥルカナ
「腐ってドロドロになったオレンジに蛆虫が生えたような頭しやがって、
俺がいない間、姫に何をした!」
今、少し顔を動かせばキスできるなあ。
やってみようか?きっと殴られるな。ボコボコに。
シュタインベルク
「臭いな、辺境警備でオークと乳繰り合ってきたか?
頭からオークの淫毛の臭いがするぞ、トゥルカナ殿。」
トゥルカナの吐息で僕の前髪ががふわっと浮く。
やっぱりいい香り…ワイルドで…もっと近づいて首元の香りかぎたい。
あう…自然と鼻息が荒くなる…落ち着かなきゃ。
トゥルカナ
「話をはぐらかすなよ、腐れオレンジピューレ!
姫とはどうなってる!
トゥルカナの熱気がむわっと伝わってくる、たまらない。
シュタインベルク
「貴様がオークのケツを舐めている間に、
僕が何もしなかったと思うのか?
僕は毎週姫のお茶会に参加しているのさ。
姫は僕に抱きついてキスをなさる、何度もね!」
そう、毎週僕はフリフリの服やら動物の着ぐるみを着せられ、
姫たちにもみくちゃにされている。
トゥルカナはフンっと言って僕の胸ぐらを離すとバルコニーから宮殿の中に戻った。
そしてすぐさまオルタ姫にダンスを申し込んだ。
僕も慌てて近くに観に行く。
ちょうど演奏され始めたのはワルツ。
トゥルカナは見事に姫をリードして優雅に踊る。
これってまさに、ヒロインと素敵な王子様だよ!
ワルツのリズムに合わせてオルタ姫の長く垂らしたプラチナブロンドが美しく揺れてる。
僕はうっとりと二人に見惚れた。
なんて綺麗なんだろう。
会場も感嘆のため息をもらす。
完全に二人の舞台だ。
トゥルカナが姫の腰を片手で楽々と持ち上げてターンする。
ああこれは僕には無理だ。
僕は心臓がキューンとした。
僕もトゥルカナと踊りたい………なんて思ってしまった。
トゥルカナは優しく微笑みながら…、そう僕には見せたことのない顔だ…
姫を見つめて、姫もまた頰を赤らめてうっとりとトゥルカナを見つめている。
ああ、あれが僕だったらなんて幸せだろう…。
僕は少し泣きそうになった。
その時、僕の前を二人が通りかかり…。
トゥルカナが僕を見て、ニヤリと笑った。
トゥルカナのあのイタズラそうな口の端だけあげて、眉毛も片方あげて、
笑うあの表情だ。
挑発…だよね、でも僕は心臓がズキューンと破裂しそうになる。
慌てて心臓を両手で抑えた。
するとワルツが静かに終わり姫の顔とトゥルカナの顔が近づいた瞬間、
トゥルカナは姫にキスをした。
会場は息を飲む。
今度は僕は両手で口を押さえてよろめいた。
心臓がズキンと疼いた。
嫌だ、こんなの見たくない!
オーケストラの演奏が明るいリズムを奏ではじめた。
これは僕の得意なフォークダンス!
僕はトゥルカナから姫の手を奪った。
オルタ姫
「きゃあ、シュタインベルク!
姫の返事も聞かずに、手を絡み合わせてくるくる回る。
シュタインベルク
「姫、あいつばっかりずるい。
オルタ姫
「もう、シュタインベルクはやきもちやきね。
姫も楽しそうに踊り出す。
姫はきゃあきゃあ笑いながら回る、とっても可愛い。
砂糖菓子のような甘い香りと爽やかな木々や春の野花の香りがする。
姫にはエルフの血が入っているっていう都市伝説は本当かもしれない。
だけど…………。姫、ごめんなさい。
別にあなたと踊りたいわけじゃないんです。
そう、これは間接ダンス!
僕は姫を通じてトゥルカナを感じる。
トゥルカナが触れた姫の手、姫の腰。
トゥルカナと踊っている気分だ!
会場が手拍子してくれる。
本当に練習していてよかった。
ちらりとトゥルカナの顔を覗き見ると眉間に深いシワを作って睨みつけている。
僕に姫を取られて嫉妬に狂っているんだね、トゥルカナ。
最後に姫がくるくるターンしてポーズを決めた。
もちろん僕は姫の唇にキス。
ああ、これって間接キスだよね!
トゥルカナとキスしてるよ。
突然腕が掴まれて姫から引き離される。
トゥルカナだ。
僕とトゥルカナは姫を真ん中にして見つめ合うというかにらみ合った。
オルタ姫
「ちょっと二人ともお辞めなさいよ!」
姫は顔を赤く染めて僕たちを離そうと頑張っている。
トゥルカナが僕を睨みつけながらピンクに染まったオルタ姫の左の頰にキスをした。
僕もすかさずトゥルカナの灰色の瞳を見つめながら彼女の右頬にキスをした。
僕の中で一瞬時間が止まった。
ガラス越しにキスしているかのような不思議な感覚。
どうしよう……泣きたくなるくらいトゥルカナが好きだよ。
トゥルカナ
「ゲスったオレンジが。
シュタインベルク
「いっぺん死ねよ、陰毛。
姫の頭の上で小声で囁いた後、僕たちは別れた。
今夜はもう眠れそうにない。