プロローグ2
遅くなりました…!
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
一瞬何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くしていたが、ハッと我に返った私は爆発が起きた場所へと顔を向ける。
視線の先からは、モクモクと煙が上がっており、この森に住んでいる動物たちの悲鳴が響いていた。
「一体何が起きて…るの?」
弱弱しく呟いた言葉に答える声はなく、私は痛む胸を押さえながら爆発の起きた場所へと走り出した。
息を切らせながらたどり着いた場所には、横たわるこの森に住む動物たちの姿。そして、一人の男性の姿があった。
夥しい出血を目の当たりにして、無意識に体が震える。鼻につく生臭い血の臭いに吐き気がする。
血の臭いにクラクラする頭を押さえながら、ギっと男性を睨みつけた。
「貴方…ここで何をしているの?」
「ほう?この森に人間が住んでいたとは知らなかったな。貴様こそ、何故この森にいる」
質問を質問で返されたことに対して、苛立ちが募るばかりだが、ここで男性の神経を逆撫でするのは得策じゃない。
ここは素直に男性の質問に答えて、早急にこの森から出て行ってもらわねば。じゃないと、またこの森の私の友達に手を出されそうだ。
「私はこの森に住んでるんです。人の家に勝手に土足で上り込んでくるなんて…人としてどうなんですかね?」
「ククク……。それは申し訳ないことをした。私はこの森に人が住んでいるとは思っていなかったのでね」
私が苛立ちを隠さずに言えば、男性は面白いモノを見るような目で私を見つめた後に喉の奥で笑い、私を観察するようにジッと見つめてきた。
「分かっていただけたのなら…さっさとこの森から出ていてもらえますか?これ以上、この森を荒らされては困りますから」
既に、この男性は私の友達にを手を出しているのだ。これ以上何かをされたら…私はどんな手段を使ってでもこの男性を追い出すしかない。
だから、早く出て行ってほしい。今この場に横たわっている子たちを早く埋葬してあげたいから。
「それは無理な相談です。私も出来れば御嬢さんには手を出したくないのですが…この森に受け入れられてる事実に、興味があるんですよ」
「貴方…この森に一体何の用でここに来たんですか?」
まるでこの森が意思を持っているかのような言い方に、眉を顰めて男性を見やる。
「この森に来た理由は簡単ですよ?この森に住む聖獣の捕獲です」
「聖獣…?この森には、そんな生き物いません!だから、早く出て行ってください!」
この森で一緒に住んでから、聖獣がいるなんて聞いたことが無い。
ちょっと色や尻尾が2本ある動物とかはいるけども。でも、ここは異世界だから…こういう姿の動物がいてもおかしくない。
「ほう…。御嬢さんはこの森が聖獣の森とは知らずに住んでいらっしゃるようだ。知らないようだから教えて差し上げましょう、この森のことを」
ニコリと人好きのする表情を浮かべ、この森のことを語り始めた。
男性の話によれば、この森は”聖獣の森”と呼ばれており、聖獣に認められた人しか入れないらしい。
この森には結界が張られており、認められていない人は入っても入り口に戻されるとのこと。
なら何故……この男性はこの森にいるんだ?
こんな残虐なことが出来る人を、皆が受け入れるとは思えない。
「御嬢さんが今考えてることが手に取るようにわかりますよ。何故ここに私がいるか、と考えていますよね?」
「……貴方みたいな人を、皆が受け入れると思えません。どうやってこの森に入ったんですか?」
「それは簡単なことですよ。聖獣と一緒にいれば、入れますから」
言い終わると同時に、男性が手に持っていたモノを地面に投げ捨てた。
その正体は血だらけのまだ幼い聖獣だった。ドクンと胸が早く脈打ち、目の奥が熱くなってくる。
「ッ、ひどい!!こんな、まだ子供なのに…、こんなことをするなんて……」
のろのろと近づき、両腕で抱き上げれば、まだ微弱ではあるが、息をしていたことに安堵する。
もしかしたら、この場に倒れている子たちもまだ息はあるかもしれない。
それなら…手当をすれば助けることが出来る!
「どうやら貴女は知らないようですね。聖獣とは、私のような高貴な存在のための道具なんですよ?だから、こうした扱いをしても許されるんです。まぁ…素直にこの森に案内していれば、こんな怪我を負わずに済んだんですけどねぇ」
クスクスと男性は可笑しそうに笑う。その姿がどこか狂気染みていて、私は言葉を失う。
こんな人が現実にいるのか、と。決してこの子達は道具ではない。
「貴方みたいな人に…私の友達に会わせるわけにいかない。早くこの森から出て行って!」
「貴女はさっきからそればかりですね…。この森は貴女の所有物なのですか?住んでいるだけで、何故貴女にそんなことを言われないといけないんです?」
「―――イオリが僕たちの主だからに決まってるでしょ?それに、君みたいな乱暴者なんか誰が歓迎すると思ってるの?早く出て行ってくれないかなぁ?」
凛とした声が聞こえ、ガサガサと私の後方の茂みから音がしたと思ったら…そこから黒い毛を身に纏った一匹のキツネ――ネロが姿を現した。
ネロの後ろには、見慣れたいつもの姿が4個あった。そう、私に付いてくると言っていたアル、リュイ、ヴィオレ、ネーヴェだ。
「――ほう、人の言葉を話す聖獣ですか。これはまた珍しいですねぇ。人の言葉を離す聖獣はもういないとばかり思っていましたが…これは良いことを知りました」
男性の目と口元がニヤリと弧を描く。その表情から何かをたくらんでいることは明白だ。
「残念だけど、僕はもう契約済みだよ。第一、君みたいな野蛮な人と契約する聖獣はいないよ」
「そーっすよ!アンタみたいな人間大嫌いなんすよねー。早く人間の国に帰ったらどうっすか?」
ネロに続きネーヴェまで悪態をつく。
こんな冷たい声を聴いたことが無かったし、なによりみんなの目にこもる殺気に、身体僅かに震えた。
「みんな落ち着いてください。イオリが怯えていますから、ね?」
ヴィオレが落ち着いた声で、吠える二人を窘める。
この5匹の中で、一番ヴィオレが大人だと思う。皆の年齢なんて知らないけど。
「……即刻立ち去れ。貴様のような者がこの森に足を踏み入れていいものではない」
気付けば皆、私を守るように立っていた。
こんな小さい子たちに守られる私って……情けない。
「おやおやぁ?随分とその女性を気に入ってるようですねぇ…この女性を傷つけたら一体どんな反応のするのか……」
「どうやら僕たちの声は届かないみたいだね。それなら、強制排除するしかないかな」
フゥーっとわざとらしくため息をつき、ネロはギィっと男性を睨みつけた。
何故か今まで一緒に過ごしてきたはずのネロたちの存在が一気に遠くに感じた。
今まで見せたことのない表情、声、雰囲気は…まるで男性と言うより、人間自体を毛嫌いしているような、そんな感じがする。
「ネロ……」
「イオリは心配しなくていいよ。僕がどうにかするから、ね?」
私の声にネロはいつもと同じ声色と笑みを浮かべた。
その笑みを見て、何故か途端に安心してしまって…ふらりと身体から力が抜けてしまい、その場で倒そうになった時――誰かが力強く抱き留めてくれた気がした。
私はそのまま意識が沈んでいく感覚に身を任せた。