プロローグ
「イオリ、人間の街に行きたいって本当?」
「うん、いい加減、この世界に来た理由も知りたいなって思ってね」
この世界に来て一月くらい経ち、私はようやくこの森から出て、人の住む街に行く決心がついた。
私は元々この世界の人間ではなく、日本という平和な国にいたのだ。
何ら変化のないいつも通りの日常を過ごしていたのだが、突然足下に現れた魔方陣らしきモノに吸い込まれ、気付いたらこの森にいたわけである。
魔方陣と言うことは、アニメみたいに目を開けたら周りには王族がいたりするもんだけど、私の場合は全く違った。目を開けたら、周りには動物であふれていた。
しかも、見たことある動物から見たことのない動物と、様々な生き物がいた。
最初はビックリして、腰を抜かしてしまったのは…恥ずかしい過去の出来事と忘れ去りたい過去の一つだ。
最初は皆警戒していたんだけど、私から敵意がないと分かるとすぐに懐いてくれた。
野生動物ってもっと警戒心が強いと思ってたけど、この森に住む動物達は何故か話すことが出来るうえに、人間の本質を見抜くことが出来るとのこと。
それですぐに私は安全と判断したらしい。この森の動物達すごすぎないか?なんて思ったけど。
一月も一緒に過ごして分かったことは、この森の子たちは、とてつもなく親切なのだ。
私がお腹を空かせたら、果物を持ってきてくれるし、寝る時に寒そうにしたら皆が囲んで温めてくれた。
そして、この森の中で最も仲良くなったのが―――
「イオリには僕たちがいないと困るでしょ?一緒に行ってあげてもいいよ?」
「お、それいいな!俺もついて行ってやるよ!」
「私も是非、お供します」
「……俺も一緒に行く」
「俺も!俺も行くっす!」
今こうして、私にもうアピールしているこの5匹である。
ちなみに上から、黒い狐くん、レッサーパンダ、うさぎ、ハリネズミ、フェレットである。
黒い狐くん――もとい、ネロは黒い毛を持ち、瞳は青色をしている。2本の尻尾に、耳には桜の飾りをつけている。大きさは、子犬くらいかな?私の両腕に収まるくらいだ。
レッサーパンダくん、もとい、アルはオレンジ色の毛をしており、瞳は赤い。そして、耳にはシルバーリングのピアスが2つ。ネロと比べると少しアルの方が体が大きい。小型犬くらいの大きさかな?
うさぎ君の名前は、ヴィオレ。水色のふわふわした毛をしており、さわり心地は最高。瞳は紫色をしている。首には赤色をした紐のリボンをしている。
ハリネズミ君はリュイという名前で、灰色をしており、瞳は緑色。そして、頭には軍帽。
そして、最後はフェレット君だが、ベージュの毛をしており、瞳は黒色。首には大きなリボンを付けている。
ちなみに5匹の名前と、リボンや帽子の飾りを上げたのは私です。
なんか、この森に来て数週間した時に、名前と物をくれと言われて…言われるがままに名前を付け、モノを上げた。
まぁ、可愛いおねだりと思って、私がこの世界に来た時に一緒にあった鞄の中から選んでそれぞれこの子たちに上げたのだ。
何でこんなものを持っていたかと言うと、こういう小物を作るのが得意で…人形用に作ったやつなのだ。
それを、友達見せようと鞄の中に入れていたんだけど…まさかこんな形で誰かにあげることになるとは思わなかった。
まぁ、また作ればいいから、こんなので良ければ喜んで差し出すけどね。
「連れて行くのは構わないけど、皆は本当にいいの?私、この世界の人じゃないから、皆に迷惑書けちゃうと思うんだけど…」
「イオリ一人で人間の街にたどり着けるとは思えないからね。それに、この森は安全だけど、外は危険な生き物も多いし、イオリ一人だとすぐ食われちゃうでしょ?」
だからついて行ってあげるよ、なんて上から目線の物言いに、頭にきたけど…ここは我慢だ。
だって、否定できない…。この世界に来て、私は一回もこの森から出たことが無いのだ。だから、森の外がどんなに危険な世界なのか、私は知らない。ネロが言うとおり、危険な生き物がいっぱいいるかもしれないし、なによりこの世界の人が皆親切だとは限らない。
未知の世界なのだ…本当はすっごく怖い。だけど、ずっとこの森にいても、元の世界には帰れないと思うから……。
「ネロ、ありがとう。私のこと心配してくれてるんだよね」
ネロを抱き上げて、頬ずりをする。そしたら、ネロがやめろと言う様に両手で押しやってきた。
ネロはツンデレだから、このやりとりもいつもの事である。
「イオリには、僕たちがいないと困るでしょ?仕方なくついて行くんだからね」
フンっと顔をそっぽに向けるが、顔がちょっと赤くなっている気がするから、きっと照れているんだろう。
動物なのに顔が赤くなるとか、ありえないから、私の勘でしかないけど。
「みんなも、ありがとね。それじゃ、出発は明日にしよっか!今日は色々と必要なものを準備して、明日に備えよっか!」
皆の頭を撫でてから、私は必要な物を鞄の中へと閉まっていく。
私が唯一向こうの世界との繋がりであるこの鞄…気付いたら、四次元空間になっていた。
森で果物をみんなで取りに行ったときに、鞄に詰め込んでいったら、何故か重くならないこの鞄に「あれ?」と思って中をのぞいたら、真っ暗で、何も入っていなかった。
だけど、手を突っ込めば果物が出てきたのだ。これはもう、異世界トリップ特典としか思えない。
わーすごい!と棒読みで思わず口から出たのを未だに覚えている。
「イオリ、私は果物を取ってきますね」
ヴィオレが率先して私の手伝いを申し出てきてくれて、果物を取りに森の中へと入っていった。
他の子たちも「また後で!」と言って、散り散りに散っていく。
そしてあっという間に私は一人取り残されてしまった。
「…嵐のように去って行ったね」
さて、私は…この森の子たちとお別れの挨拶でもしてこようかな。
何も言わずに出ていくのは流石に非常識だし、なのより、この森の子たちは私の命の恩人だからね。
「イオリ、本当にいなくなっちゃうの?」
「僕、イオリと一緒に行きたいよぉ…」
なんて皆が寂しそうに言ってくるもんだから、私の胸はさっきからズキズキと痛むばかりである。
もういっその事、ここに残るって言いたくなるけど…私は、元の世界に帰りたいから。だから、この森から出てこの世界について知らなければいけない。
「ごめんね?また絶対みんなに会いに戻ってくるから」
「……うん。寂しいけど、我慢する」
シュンっと落ち込んだ子供のリス君の頭を撫でてから、他の子たちにも挨拶をするべき移動する。
順調に森の皆に別れの挨拶を済ませていき、そろそろ自分の寝場所に戻ろうとした時だった。
――ドォン!!
まるで何かが爆発したような音が響いた。