予備校という選択
変な夢を見た。
工場で食料品の仕分けのバイトっぽいものをしている自分がいて、周りには自分の高校の友人がいる。女の子友達までいて何か現実より距離が近い……。妙にスキンシップが多くてお互い触れ合っている……その事を分かっていながら夢の中でその事態を受け入れている(楽しんでいる)自分がいる。何なのだろう、この感覚は。
そして夢は良い所で覚めた。
ぼーっとした頭のままベッドの上で一体自分はどの大学へ仕分けられるのだろうと少し自虐的なことを考えていると、ふと時計を見て重要なことを俺は思い出した。
「今日は合格発表の日じゃんか!」
時間は? いま十時半か。じゃあもう……
リビングに降りると家族が全員揃っていて、まるで俺が降りてくるのを待っているかのような態度で俺におはようと声を掛けてきた。結菜は相変わらずデコったジャラジャラの携帯をいじっているがその姿にいつものような楽しさは感じられない。しかも横目でちらちらと俺を見てくるし。
妹を視線を無視しリビングのテーブルに向かうと、洗い物をしていた母が俺に一枚の茶封筒を手渡してきた。
「あんたにこれ来てるよ」
手渡されたそれを見るとやはり俺が受けた大学からだった。A4サイズの封筒に俺の名前と家の住所が記載されている。……開ける前に詠唱とかした方がいいかな。ほら、某アニメに出てくるジャンヌダルクみたいに封筒を持って「主よ、この身を捧げます」みたいな。
まぁそんなおふざけは置いておいて、実は俺は開ける前からなんとなく予想が付いていた。
得てして、俺の予想はすぐに当たることになる。
時刻は十一時だった。時期は三月の上旬、高校三年生以外の高校生は今頃学校で授業を受けている時間。(なぜ結菜が家にいるのかは今は置いておく)
「ダメか……」
茶封筒は薄かった。俺がダメだったことを書類を見て確認する前に、リビングに集まっている家族全員もなんとなく分かっていたんだろう、俺に何も言ってこなかった。
しばしの静寂。テレビで有名なコメンテーターが朝のニュース番組で何かを話しているのだが、それすらも頭に入って来ず、家族全員が揃ったこの居間だけが現実世界と切り離されて制止してしまっているようだ。
やがて無言の雰囲気に耐えかねたのか、スマホをいじっていた結菜が立ち上がって俺の方を向いた。
「お兄ちゃんはよく頑張った。……んーっと、もう一年リベンジしたらいいんじゃないの」
浪人を促す発言だった。俺は慌てて母と父を交互に見る。
「そうねぇ。私立行くよりはもう一年やって国公立に入ってくれたほうが……ねぇ、あなた」
「そうだな」
父もまんざらでもない様子で答えた。その声色からは俺が落ちて浪人することに絶望も呆れも悲嘆も悲哀もこれといって感じられない。
三人のやり取りを聞きつつ黙っている俺を母が見つめながら俺の意思を問うかのように言った。
「あんたは私立も受ける予定がないからこれで受験は終わり。まぁ今回受からなかったってだけでどこかの大学には夏の推薦入試で名前さえ書けば入れる所はあるかもしれないけど。それか、もう一年真面目に勉強して国公立大学に受かって私たち家族を喜ばせてくれることは出来る?」
俺の答えは即答だった。