神々の遊び
男は隣村から徒歩で帰る。
街道沿いならば、比較的安全なのだが、男は森を抜ける事を選択する。
この森は、強い魔物は生息していない。スライムや角ウサギが居るくらいだ。
ようは帰り道にひと狩りして、稼ぐつもりなのだ。
これがこの男の運命を変えた。
「今日は調子良いぞ!角ウサギ3匹も取れた。」
ニックはホクホク顔で呟いた。
角ウサギは1匹銅貨30枚はするだろう。
ちなみに銅貨1枚でパン1つ買える。
銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨10枚で銀板1枚、銀板100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚である。
宿一泊に、銅貨50枚で素泊まりできる。
遠くで何か音がする。
ニックには、この音が戦闘によるものだと分かった。
ニックはたまに冒険者パーティの荷物持ちという仕事が来る。
冒険者が何日も森やダンジョンにこもるとき、自分達だけでは荷物を運びきれない為だ。食料やテントなど、日数によってはかなりの量になる。ニックにはスキル【体力レベル10】があるため、戦闘では役立たずだが、疲れ知らずの体力自慢なので、大量の荷物を運ぶことが出来る。そのため、冒険者パーティと行動する事がたまにある。そこで色々戦闘を見てきた。隠れて見ていただけであるが。
「あっちに行かないほうがいいな。」
ニックは自分が弱い事を知っている。
そして、音のする方で、かなりの戦闘になってる事も分かる。
「魔法の撃ち合いだ。」
爆発音や雷鳴が轟く。雲も無いのに雷の音がするのは、魔法で雷を使っているからだ。爆発音は炎の魔法だろうか。
音から逃げるように歩きだすのだが、音はどんどん近づいてくる。
「ヤバイな…」
この一言がニックの最後の言葉だった。
「あんたが邪魔するからじゃないの!」
白いドレスの美しい女性が、顔に似合わぬ怒鳴り声をあげる。
金髪に青い瞳、白い肌。この世の者とは思えない美貌。
「うるさい!おまえがバカな事をするからだろっ!」
黒い服を着て、黒髪に黒い瞳、少し日焼けしたような肌の青年。
周りでは炎が爆発し雷が落ちる。
「私は良かれと思って!」
女性が叫ぶと、
「良かれと思ってやった事が罪にならないなら、警察は要らないんだよ!」
男は女に言い返す。
この2人の説明もしておこう。
先ずは黒い男、この世界での名をアマテ-ラス。
元地球人、いや、日本人。
本名、鈴木武。
全能神の手違いにより、地球人としての生命を、強制終了させられ、この世界での神となる。
白い女性、名をマリア。
鈴木武が全能神より貰い受けた力により、自分の相棒として作り出した女神。
この2人によりこの世界は作られた。
何もないところから、鈴木武が大陸と海を。マリアが太陽と月を。
鈴木武が空気を、マリアが植物を。
鈴木武が、獣を。マリアがヒューマンを。
鈴木武が、魔族と魔物を。
マリアがエルフとドワーフを。
なお、ダークエルフと獣人は、この世界の中で発生した。
ダークエルフは、魔族とエルフの交雑。
獣人は魔物とヒューマンの交雑である。
で、2人が何をしているかというと、この世界で自分達のゲーム、つまり魔族対ヒューマン組というゲームをしているのだ。神なんてそんなもんである。
勝ったほうが、負けたほうに何か1つ言う事をきかせられる。そう言う賭けだ。
生きてる者は、たまったもんではない。
遅々と進まぬゲームだけでは飽き足らず、たまにこの世界に降臨し、自分達でもバトルしていたらしい。
「ちょこまか逃げやがって、喰らえ![紫雷]」
鈴木武が叫ぶとマリアが逃げた方向に、紫色をした凄まじく大きな雷の光が飛ぶ。
「なんの![灼炎]」
マリアが叫ぶと、地獄の炎かと見紛う大きな炎が鈴木武のほうに向かう。
「「あっ!」」
チュドォォ〜〜ンン!
雷と炎がぶち当たったその場所に、音から逃げてるはずのニックが居た。
なんと間の悪い、なんと運の無い、なんて間抜けな男だろう。
「どどどどうしょうっ!」
マリアが叫ぶ。
「これ、ヒューマンだよねっ!?なんとか治さないと!」
鈴木武も叫ぶ。
この2人、自分達のバトルにルールを決めていた。
現地の魔族魔物、ヒューマン、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人たちを手下にしたり巻き込んだりしない事、自分達の魔法でのみ勝負する事。と。
ゲームと勝負を分けるためである。自分勝手な。
2人の間に、無残な黒焦げたヒューマンであった物体が転がる。
「マリア!とりあえず君は、こいつの魂を至急回収してきてくれ!俺はこいつの体を治す!」
鈴木武はマリアに叫ぶ。
「わわわ分かった!」
マリアは叫ぶと、天高く上昇していった。
「ヤバイな、治るかなこれ?」
無残な黒焦げを見て鈴木武は呟く。
このまま魔法で治療を試みても、治りきらないだろうと思う。さて、どうするか。
鈴木武は、左手の小指を風の魔法で切り落とした。すぐさま魔法で治療し、小指は元どおり生えてきた。
自分の小指と黒焦げ遺体を魔法で一体化し、こねて伸ばして人型に成型していく。
その頃マリアは
「あった!」
ニックの魂が魂保管所にたどり着く寸前であった。
魂の尻尾をマリアが掴み、引っ張る。
「あ、少し欠けてる。保管所に入っちゃった。」
魂保管所とは、この世界に生きるものすべての魂が、輪廻転生する場所だ。ここの中には、2人の神さえ入れない。全能神より貰い受けた場所だからだ。
「どうしよ。」
マリアは悩む。
魂の欠けは、ほんの僅か。
マリアは自分の魂の一部をニックの魂に混ぜた。
「捕まえたか?」
鈴木武が戻ってきたマリアに尋ねる。
「当たり前じゃないの!私なのよ!私には可能なんてないんだから!あんたはちゃんと治したんでしょうね?」
マリアは魂を混ぜた事は内緒にした。
「当たり前だろう!俺はこの世界の創造主だぞ!治せるに決まってるだろう!」
鈴木武も、自分の体を混ぜた事を内緒にした。
お互いのプライドだろう。
しかし、この事が、この世界の歯車を少しズラす事になる。
体に魂を戻す。
鈴木武とマリアの共同作業の開始である。
体の方に鈴木武が、自分の魔力を注ぎ込む。
マリアは魂に魔力を注ぎ込む。
鈴木武の魔力とマリアの魔力を繋げる。そして、鈴木武の体とマリアの体を繋げる。
繋げる?どうやって?
「え?え?どう繋げるの?まさか?」
顔を、真っ赤にしてマリアが声をあげる。
「えっと、そのなんだ。粘膜と粘膜の接触による…」
鈴木武が顔を背けながら言う。
「え?ええ?!ふ、服脱ぐの?」
さらに顔が赤くなるマリア。
「いやっ!そっちじゃなくて、唇のほう。」慌て鈴木武が訂正する。
キスだ。
「そそそそれでも、キキキッキスよね?」少しホッとしたような、何故か残念そうな声を出すマリア。
「うん、俺となんか嫌だろうけど…」
鈴木武は声のトーンを落とす。
「嫌じゃないわよ!!てか、この時を待っていたと言うかなんと言うか…」
つまり、この2人、素直になれない馬鹿ップル。相思相愛なのに、俺は創造主だから女神に手を出してはいけない。私は女神だから、創造主に想いを向けてはいけない。そう思い込んでいた。
そしていつしか喧嘩になり、ゲームだバトルだとなったのだ。
鈴木武は自分の理想を思い浮かべて女神マリアを創造した。ようはモロ好みの女性を造ったのだ。惚れない方がおかしい。マリアにしても、創造主を尊敬し、尊敬が愛に変わることなど、普通のことだ。
ようやくこの世界の神2人が素直に心を開いた瞬間であった。
もちろんキスだけでは終わらなかった。