のぞみ
目が覚めると、目の前に黒猫がいた。
「…ん…????
えっと…」
真っ白だった頭の中に、さっきまで起こっていた不思議な出来事の数々がよみがえってきた。
「あれっ、私…?」
お腹の痛みが消えている。
刺さっていた筈のナイフも消えていて、制服には血の跡も無く綺麗。
「!?」
思わず、制服をめくったら、そこには何の傷も無かった。
「!?」
「星志…、大丈夫?」
「え?」
声の方に振り向くと、月姫がいた。
心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫っていうか、どうもないよ??
月姫が手当てしてくれたの??」
「いえ…私は何も…。」
「そう?
なんか、すごく、気持ち良かったような感じがしたんだ~」
私は眠ってた(気を失ってた?)ようだけど、温かくて、満たされる感じがした時があった。
「それは良かったわね…」
月姫はそう言って笑った。
とても優しい笑顔だった。
否定したけど、きっと本当は、月姫が手当てしてくれたんだろうと思った。
「…さて。
無事に前世からの因縁を克服できたおぬしらじゃが」
「え!?」「え!?」
突如、喋りだしたのは、黒猫だった。
「もしかして、あなた、この前の公園の黒猫さん??」
声や話し方が同じだったのでそう思った。
「あの猫に体を借りた声の主がわしじゃ」
「へぇ~…。体を借りたって言ってたから、本当の体は人間なのかと勝手に思ってました」
おじいさんの姿を想像していたので、びっくりした。
本来の体も黒猫だったのか。
「わしはこのままでは、おぬしらの世界にはおられぬのでな。
おぬしらの世界に存在する何かに体を借りないと行けないのじゃ。そして体を借りるなら、いつもとなるたけ同じような体の方が身動きがとりやすいじゃろう?」
「ふむふむ…。それもそうか…」
確かに、私達人間が何かの体を借りるとして動物を選んだら、動きにくいだろうと思った。
「わしの話は置いといて。
今度は、現世での問題を解決する番じゃ」
「?
現世での問題?」
「おぬしらの持って生まれた、不思議な力にまつわる問題じゃ」
「!」「!」
「その力により、二人とも、苦しんだようじゃの」
「…苦しんだというより…、
私は利用してきました」
私は呟いた。
「それが、苦しかったのじゃろう?」
「苦しい…というより…。
寂しかったです。
その人の色で、その人が良いか悪いかを判断して、仲良くするかどうかを決めて。
嫌な色の人とは関わらないように、避けてきました。
穏やかな色の人ばかりと仲良くしてきました。
だから、皆に対して、後ろめたかった。
それに、それが、本当の友達じゃないって分かってました。
私には本当の友達は一人もいません。心の奥底でそれが分かってました。でも、その事実は見ないようにしてました。
だからずっと、心の奥底で、寂しかったです。
自分が小さい人間だって分かってます。
だから、月姫に、自分の色が黒いって教えて貰った時、ショックだけど、やっぱりそうかって思ったよ」
「…あの…、
ごめんね、星志」
「ううん、そうじゃないかなって、分かってたから」
「ううん、違うのよ。
私には、あなたのように、色は見えないの」
「…え????」
「私の不思議な力はね、人の考えてることが分かるの」
「………ええぇっ!?
そうなの!?!?!?」
「…プライバシーを侵害して、本当にごめんなさい。
知りたくないんだけど、聞こえてきちゃうの…。
他の人の考えと同様に、あなたの考えも聞こえてきて、それで、あなたがどうやら、他人の色が見えてるようだって分かって…。
しかも、私には、その人が無意識に抱えてる不安な事とかも分かっちゃうのね…。
だから、あなたが、自分自身の色は見えないけど、嫌な色なんじゃないかっていう事に怯えてる事も分かったの…。
それで、あの時、自分の怒り…蓮華の時から引きずってた感情に任せて、あなたを一番傷付ける言葉を言ったの…」
「…そっか…
そうだったんだね」
「ごめんね…。
自分の考えや、弱みを他人に知られるなんて、本当に、嫌よね…。
こんな力を持って私は何で生まれてきて、どうすれば良いんだろうって、ずっと、悩んできた…。
友達…。
私にとっても、大きな憧れだったわ。
こんな力を持ってて、誰かと仲良くなるなんて出来ない。
絶対に自分には手に入れられない大きな憧れ…」
「月姫…。
月姫は、すごいね。
とても、誠実だよね」
「え?」
「他人の考えや弱みを知るなんて、悪用したらとんでもないことになる力だよね。
あと、その力を使えば、どんな生き方でもできるよね?
相手を簡単に理解できるから、相手のほしい言葉をかけれて、信頼を簡単に築ける。
いさかいなく、他人と打ち解けられる。
自分を慕って、周りには常に人がいる状態になると思う。
…でもそれは…」
「…そうよね。
それは本当の友達とか、そういうのじゃないわよね。
人の考えを読んでるから、むしろ、周りを裏切ってるっていうか…。自分を友達と思ってくれる相手に対して、ものすごく失礼な事をしてるわよね」
「…でも、私がその力を持ってたら、そうやって生きたと思う…。
むやみに利用はしないけど、友達と喧嘩しないように、周りから嫌われないように、その力を利用して生きたと思う」
「…私には、それが出来なかっただけ。
頑固者なのよ、私」
「ううん。立派だよ。
じゃあ、ずっと、周りを避けてきたの?」
「そうね。
私には、どうやっても、本当の友達は出来ないって、分かってたから。
あ、でも、この力を全然使ってなかった訳じゃないのよ。
周りを避けてると、どうしても、いじめの標的になりやすいわよね…」
「…うん、そうだと思う…。
正直、転校してきてからの月姫を見てて、いじめられるだろうなって思ってた…」
「そうならないために、私は力を利用してたわ」
「?」
「苛めをしようという考えが浮かんだ人物にね、その人が誰にも知られたくないと隠してる弱みを彷彿させるような単語を、3つくらい投げ掛けるの。
それで、その人は私を恐れ、苛めようという気持ちなど、吹き飛んでしまうのよ」
「…なるほどね…、
それで、苛めが起こらなかったんだね」
「人を嫌な気持ちにしかさせないこんな力、なんで持ってるのかしらね…」
「意味はあるぞ」
これまで私達の話を黙って聞いていた黒猫が、そう言った。
「月姫は、他人の考えや心の内が分かる力、
星志は、他人の魂の色が見える力。
それぞれ、持って生まれたのは意味がある」
「魂の色…!
私に見えてるのは魂の色なんですか??」
たましい…。
幽霊とか、そういう本当にあるかどうか、わからないものだと思ってたけど、本当にあるんだ…。
「そうじゃよ。
そして、星志、お主が自分の魂の色が見えないところに、おぬしらが欲しているヒントがある」
「??」「え??」
「本来、人間の視覚には、全てのものが見えているのじゃ」
「全てのもの…??」
「そうじゃ。しかし、それら全てを認識していたのでは、莫大すぎる情報量で、とても生活などできん。じゃから脳がそれらをふるいにかけ、必要な映像だけを《見えた》と認識させているのじゃ」
「…」
「それと同じ事を、星志、お前の脳がしているから、自分の魂の色が見えないのじゃ」
「…えっと…?」
「お主の脳は、自分の魂の色は、必要のない情報とみなしていて、だから、認識させないようにしているのじゃ。
なぜなら、そんなもの見えなくても、自分がどういう人間かは自分が一番よくわかっておるからの。
騙そうとしても、自分自身は騙せぬ」
「…そうなんですね…」
正直あまりよく分からなかったけど、確かに、自分で自分の色を知るのはそんなに必要ないなとは思う。
知るのが怖いとも思うんだけどね…。
「つまり、おぬしらが望んでいる、その力の制御は、そうやって出来るという事じゃ」
「!」「!」
「その力を消して生活したいのじゃろう?」
「はい!」「…はい!」
私達は力一杯頷いた。
「では、暫し、ここで鍛練をつむがよい」
「…鍛練?」
「ほいっ」
黒猫はピョンと空中に飛び上がり、1回転した。
すると、
「え!?」「何!?」
目の前に霧が立ち込めたが、その霧は数秒で晴れた。
そして…
「…えええ!?」
霧が晴れた跡には、大きな神社のよう建物が建っていた。
「ここで暫く、このスケジュールで生活するのじゃ」
ヒラリ
「!?」「!?」
突如私達の目の前に白い紙が現れ、舞いながら床に落ちた。
床に落ちた紙には何やら文字が書かれていた。
「えっと、六時半起床、
掃除
朝食(支度と後片付けも含む)
掃除
昼食(支度と後片付けも含む)
瞑想
夕食(支度と後片付けも含む)
風呂(支度と掃除も含む)
九時就寝」
「…えええ??」
「暫くって…、どれくらいでしょうか?」
母が頭に浮かび、心配させてしまうと思った。
「おぬしらが力を制御できるようになるまでじゃ。
じゃが、安心せい。
ここでは、お主たちの世界よりも、時の流れがずっと遅い。」
「…ずっと…ですか??」
「うむ」
黒猫は器用にニヤリと笑った。
「お主の心配するような事にはならぬ」
「…そうですか…」
ホッとした。
最早何が起こっても不思議ではなく、その黒猫の言葉をすんなり信じれたのであった。
こうして、私と月姫との不思議な鍛練の日々が始まった。




