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===大通り===




 さて、取り敢えずギルドに戻る道すがら、コイツの喉と足をどうにかしなくては。特に喉の方は今のままだと文字通りの意味で話にならないからな。そんなわけで取り出したるはスキルで生成した、されど今までのとは一味違う───中級ポーションである。


 色は白で下級の白ポと同じだが、こちらのポーションは何故か人肌程度に生ぬるい。故に命名は『ぬるポ』とする。ガッ!


 そして肝心の回復量は『HPを60%、MPを30%回復し、重傷を癒す』と倍増している。ちなみにマナポ系だと回復量が逆転するのも同じである。

 しかし、これ1つ生成するのに160ものMPを消費する。とろポは10で、白ポは40で、ぬるポは160。どうもワンランク上がる毎にMP消費量が4倍になっていくらしい。


 あと、やや話が本筋から逸れるのだが俺のMP最大値が235。とろマナポ生成の消費MPが10なのに対してMP回復量は約35であり、白マナポ生成の消費MPが40なのに対してMP回復量は約70である。つまりは10分のクールタイム毎にマナポ系を生成して回復すれば擬似的にMP回復速度を高められるのである。


 まぁ、現実問題として10分に一回、試験管一本分の液体を飲み続けたりすれば、1~2時間で腹がタポタポなって限界が来る。口惜しや。


 閑話休題。


 このぬるポを飲めばコイツの喉も治るのではないだろうか、と俺は考えた訳である。『重傷を癒す』がどこまで有効なのか知らないが、何もしないよりはマシになってくれるだろう。


「おい、お前ちょっとこれ飲んでみろ」

「.........?(コテン」


 首傾げんな、何なんだその不思議そうな顔。


「別に毒なんかじゃねぇよ、むしろそいつはお前の喉を直す為の薬だ」

「.........(ジトー」


 ヤメロォ! お前みたいな眼光の鋭い奴のジト目なんて怖すぎるわ! 疑わしいのは分かるがさっさと飲め!


「.........(ハァ...」


 なんか露骨に嫌そうな顔してため息吐きやがったんだが。野郎腕輪通して命令してやろうかコンチクショウ。


「.........(ゴクゴク」


 やっと飲み始めた。


「どうだ、なんか癒されてる感じとかしないか?」

「.........(?」


「......もしかしてダメだったか?」

「.........(!」


「そうなると、更に上の奴を作れるようになるまではこのままかぁ」

「.........(.........驚いた」


 うん?


「.........(まさか本当に治るとは思っていませんでした」

「声、か細ッ! 俺はそっちの方に驚いたわ!」


 一瞬空耳か何かかと思った程である。


「.........(私は元より声量は低いし無口だったのです」

「見た目とのギャップがすげぇなぁオイ!」


 いや、寡黙そうなのは何となくイメージ出来るが、この声の小ささは予想外である。何より物凄い小さい声なのに何故かしっかりと聞き取れるのだ。不思議。


「.........(そんな事より、斯様に素晴らしい薬を奴隷である私などに使っても良かったのですか? いくらかは分かりませんが、さぞお高い品でしたでしょうに」

「別に気にしなくていいぞ、ありゃ俺の自作品だ。俺は薬師だからな」


 厳密に言うと一般的な薬師とは作ってる物が違うが。


「.........(......自作? ウソを言うものではありません、このような薬はたとえ宮廷仕えの薬師ですら作れはしませんよ」

「って言われてもなぁ、何だったらもう1本あるぞ? つーか、両足の分であと2本はお前に使うつもりだが」


 そう言いつつ懐から更に2本のぬるポを取り出す。


「.........(まさか、本当に......? 一体何者......?」

「その問い、そっくりそのままお前に返すわ。つーか、せめて名前くらいは教えろ。俺はミューラーだ」


「.........(む、これは失礼しました。どうも初めまして、私はロンドールと言う者です。以後お見知りおきを」

「......なぁ、その話し方は素でそれなのか?」


「.........(はい? 何処か変な所があるでしょうか?」

「いや、別に変でもダメでもないんだが」


 こんな顔立ちの整った中性的なイケメンに、こうも丁寧な話し方をされると、こう、なんか。変な気分になる。


「念のために確認するが男なんだよな?」

「.........(こんなに目付きの悪い女性は居ないでしょう?」


 いや、確かに目付きは最悪最低だが、その他顔面パーツが余りに完成され過ぎだろコイツ。男だと言われても些か信じきれねぇよ。


「まぁ、いいか。取り敢えずこのぬるポはもう渡しとく。10分経てばまた栓が外れる様になっから、足の方にもかけてみろ。それでソッチも元通りになんだろうよ」

「.........(足も喉も最早ダメだと思っていたのですが。まさかこうも容易く治してもらえるとは......このご恩、いつか必ずやお返し致します」


 別にまだ足の方も治ると決まった訳じゃないのだが。まぁ、多分大丈夫だとは思うけど。


「いつか、じゃなくてこれから毎日返してもらうぞ。その為に治したんだからな、頑張って俺の事を守ってくれよロンドール」

「.........(それが主の願いならば。しかし、守るとは一体...? 主は何者かに命を狙われているのですか? 確かにこれほどの薬を作れるのであれば、さもありなんと言ったところですが」


 んー。やっぱ普通に考えると命狙われるレベルで凄いポーションなんだなぁぬるポ。作れるようになっても、一切誰にも教えなかった俺、大正解。


「いや、別にそういうわけじゃねぇが俺は一応冒険者でな。こういう職業にゃ危険は付き物だろう? でもその辺ド素人だし、腕前もからっきしでな。パーティーの足引っ張るのも心苦しくてよ、つーわけでロンドールには俺の分まで一緒に冒険者として頑張ってもらうぞ」

「.........(.........ふむ、まぁ、どうせ主の命令には逆らえない身故、望まれるのならそれに私も従いましょう」


 当初は街にいる間のボディーガードだけのつもりだったが、これだけ強いのならいっその事ロンドールにも冒険者になってもらい、パーティーも組んで依頼をこなしてもらう事にしよう。あの双子にロンドールが加われば鬼に金棒。虎の威を借る俺である。


「期待してるぞ、ロンドール」

「.........(主様の御心のままに」


 ふむ、一先ず差し当っては何かサングラス的な物を探さねば。多少は見慣れてきたがやはりロンドールの目付きがヤッバイ。並んで歩いてるだけで人が避けていくのでちょっとしたモーゼの十戒気分。生の『シッ、見ちゃいけません!』なんて初めて見たわ。




===冒険者ギルド===




 ようやく冒険者ギルドに到着である。ここまで来る間に両足にもぬるポを使ってみたが効果は抜群。ロンドール曰くむしろ全盛期以上に調子が良くなったとのこと。善きかな善きかな。


 で、帰ってきたわけだがギルド前でそわそわと辺りを見回して、落ち着きのない青年の姿が1つ。ハァ、またか。


「あー! 先生やっと帰ってきた!」

「よぅ、ランド。お前が外に居るって事は今日怪我したのはギークか、毎日毎日飽きもせず良く怪我するよなぁお前らさぁ」


 この男の名前はランド。そして今は居ないがもう一人ギークという青年がおり、2人は銅級冒険者同士でパーティーを組んでいる間柄である。


「いや、別に俺達も好きで怪我してるわけじゃないからな先生!」

「俺が医務室出入りするようになってから皆勤賞じゃんお前ら?」


 最初怪我を治した時に先生と呼ばれ始め、毎日毎日『先生、怪我した、治して!』と来るので、今では他の冒険者からも先生呼ばわりであり、更には徐々に医務室の俺に怪我を診てもらいに来る冒険者も増える始末である。


 まぁ基本的に無料診断の上、備え付けてあるギルドの薬品類も(無断で)使ってタダで治しているので、遅かれ早かれ人は増えたとも思うが。


「つーか先生、誰その隣の美じ、怖ぁあああッ!」

「.........(人の顔を見るなり悲鳴を挙げるとは失礼な」


.........無理もないと思うんだが。


「んな事よりギークはもう俺の部屋か? だったら行くぞ、どうせ今日も夕方には怪我人が来るんだろうしな、サッサと済ませよう」


 そう言って俺はギルド内の自室に入る。するとそこには右肩からダラダラと血を流している青年がベッドに横たわっている。流れで分かると思うがコイツがギークである。


「ようギーク、今日は一段と派手な怪我してきたなぁオイ」

「痛てぇ、痛てぇよぅ先生」


 さーと、鑑定、鑑定、と。


「へーきへーき、それ生きてる証だから。良かったなぁギーク、お前さんまだ元気に生きてんぞぉ」

「いっや、マジで痛いんで軽口は後でお願い先生」


 『切り傷:少』『出血:中』ね。血のせいで見た目派手だけど、大した怪我じゃねぇなコレ。あぁいや、それとも時間が経って治りかけてる最中なのかな。


「いや、俺って実はSだから『人の痛みで歪んだ顔』とか大好きでさ? ほぉら、真上向いてねぇで左向いて俺に良く見せてみ?」

「痛った! 無理やり動かさないでくれよ!」


 取り敢えずは心臓より高い位置に怪我した所を置いときゃそれだけで出血量も減るだろう。あとはアルコール......なんて上等な物は無いので自前の酒でもぶっかけて適当に消毒。


「どーくーきーりー(ブッパァ」

「ぎゃぁああああ! 沁みる沁みる、痛いってばぁ!」


 んであとは綺麗な布を傷にあてて圧迫してりゃ大丈夫だろう。


「ほれ、そのタオルで傷口巻いてから手で押さえてろ」

「毎度毎度思うけど、もう少しマシなやり方無いのかよ先生!」


きっとあると思うが、ヤブ医者にマトモな治療法を期待されても困る。


「いや、だってバカは痛みがないと覚えないだろ? どうせ敵いもしねぇ魔物に挑んだんだろうが、ちったぁ懲りろよお前ら」

「ルドウルフ位なら俺達でも勝てるよ、バカにすんな。ただちょっとアイツらの数が多かったのはあるけど......」


 ちなみにルドウルフというのは、ララ達が会った時に戦ってた狼達の事である。恐ろしい事に街道から一歩逸れればあんなのがウヨウヨしているのがこの世界である。恐ろしや。


「基本的にルドウルフは群れで行動すんだから当たり前だろうが。お前らそれでもしマザーの方まで居たらもうここにいねぇぞ」

「うっ...」


 ついでに言えばルドウルフは銅級、マザーウルフは銀級の魔物である。


「別にただ単に怪我したってんなら治してやるがな、流石に死なれちまったら俺にゃどうにも出来ねぇんだよ」

「ご、ごめんなさい」


 マザーの突進をまともに受けたら銅級のギークなど下手すりゃ一撃死だろう。ソースは俺。経験者は語るのだ。


「分かりゃいいさ.........これでもし、明日も怪我してきやがったらホント覚悟しろよマジで」

「ひぃ! ごめんなさい!!」


 よっし、こんだけ脅しかけとけば大丈夫だろう。明日も怪我して来やがったら傷口に塩塗りたくってやるわ。


「んじゃまぁ、血が止まるまではそんまま寝てろ。俺はちょっと酒場の方でメシ食ってくるから」


 そう言って俺は部屋を出る。すると部屋の外にはランドとロンドールの姿。恐らく治療の邪魔にならない様に外で待っていたのだろう。別にそんな大した事もしてないので気にせず入ってくれて良かったんだが。


「もう中に入っても構わねぇぞ。あと、ランドも中の話は聞こえてたな? 頼むから俺の手に負えない様な怪我してくんじゃねぇぞ」

「さっきも言ったけど、別に好きで怪我してる訳じゃ「あ"ん"?」なんでもないです、気を付けます!」


 逃げるように部屋の中に行きやがった。まぁ、一応怪我する経緯を毎度確認してるんだが、確かに話を聞く限りじゃアイツら明らかに不運なんだよな。


 薬草を探して森に行けば道に迷って魔物の寝ぐらに突っ込むわ、護衛依頼受ければ毎度魔物に襲われるわ、今回の件も討伐依頼でも受けてたんだろうが相手は群れだったみたいだし......街道沿いなら群れからはぐれたルドウルフもチラホラいるはずなんだがなぁ。


「.........(主は治療費などは取っていないのですか?」

「あ? ああ。別に治療って程の事はしてねぇしな」


 あれで金取ってたら詐欺だろう、酒ぶっかけて布巻いただけだぞ。


「.........(.........もしかして主は意外と善い人?」

「意外とは余計だ。いや別に善人なつもりはねぇけど、悪人のつもりも俺にはねぇよ」


 目の前に怪我してる人間がいて、それを治せそうだから治療してるだけだ。そんな事は善悪以前に人として当たり前の事だろうと俺は思う。


「.........(では、私が勝手にそう思っておく事にしますね」

「好きにしろや、それよりメシにしようぜ。昼もだいぶ過ぎてっからな、急がねぇと」


 早く食っておかないと早目に依頼終わらせた連中が戻ってきそうだしな。まぁ、そういう奴らは基本優秀なんであんま怪我してこないけど。


「.........(分かってると思いますが私に持ち合わせは有りませんよ?」

「分ぁってるよんなもん、勿論俺の奢りだ」


 今の俺はちょっとした小金持ちだからな、いくら食ってもらっても構わんぞ。


「あら嬉しい、良いタイミングだったわねニーア」「......依頼も受けずに何処に行ったかと思えば女連れ......お兄さんにはガッカリです」「その分食べさせてもらえば良いじゃない」「破綻させてやるのです」


 いきなり現れて不穏な事を言うんじゃない。


「毎度毎度、飯時に......どっから現れやがんだお前ら」

「貴方も隅に置けないわねミューラー、何処でこんな美人引っかけて.........目、怖っ」「身長高し、スタイル良し、オマケに何だか強そう。お兄さんには勿体無い......目が怖いけど」


「.........(先ほども似たような事を言われたのですが、そんなにですか? 少々目付きが悪いだけでしょう?」


「「「いや、少々どころじゃないぞ(わね)(です)」」」


「.........(あ、主までそんな風に思ってたんですか!? 微塵もそんな素振り見せなかったのに!」


 止めろ。凄むな睨むなコッチ見んな。多少慣れてても眼力込められて見つめられるとまだ怖いんだよ。


「マスター、取り敢えずいつもの4つでー」


 秘技:話題逸らしの術!


「.........(主! 誤魔化さすに私の目を見て弁明を!」

「ちょっとミューラー! 貴方私達にまであんな犬のエサみたいな料理食べさせる気なの!」「あんな酒場の余り物炒めただけの物を料理とは言えない」「そうよそうよ!」

「お前らさぁ作ってる俺の目の前で、よく犬のエサだのなんだの言えるよなぁ。ちょっくら懲罰部屋に顔出してみっか? おん?」


 なんというか、俺の周りもいつの間にか随分と賑やかになってきたなー。まぁ、賑やかなのは嫌いじゃないから歓迎するけどな。うん。


 早いとこララ達も帰って来ねぇかなー。酒呑んだ時のララが一番面白い、あの姉妹の絡みは何時見ても笑えるわー。毎夜毎夜お酒一つでお胸様は絶好調だからな!




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