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「元々マナポーションなんざダンジョン都市でもねぇウチじゃ中々お目にかかれねぇからな。それが安定して供給出来るっつうならこの辺りで活動してる冒険者も大助かりだろうよ」
「それは確かにマスターの言う通り。魔法使いというのは大抵魔力が尽きればお荷物にしかならない職業」「それが魔力残量を気にせずに済むって言うのなら、これほど助かるものはないわね。パーティーの生存率にも関わってくる話よ」
確かに、魔法使いは基本的にはパーティーのダメージソース的役割だろうし、『MP切れで魔法が使えずパーティーが危機に陥る』という事態も回避出来るだろう。
「それにさっき口ぶりだとあんちゃんが作るポーションってのは、ダンジョン産のポーションと同じで割合回復するんだろ?」
............あ......。
「......そういえばお兄さん、『3割』回復って言ってたような......」「......言われてみればそこから既におかしな話よね、複合ポーションとかマナポーション以前に......」
「「ダンジョン産のポーションを......作れる......?」」
......俺さ、隠し事下手過ぎじゃない? へこむわぁ。
「まぁ、別にそこを詮索するつもりはねぇさ、冒険者なんてのは秘密の1つや2つはあるもんだしな。ここがもし学問都市のギルドなら拉致監禁コースまっしぐらだったろうがな」
学問都市が何処で何なのか知らんが、絶対そこには近寄らないと今決めたわ。
「で、どうだいあんちゃん。悪い話でもねぇはずだぜ」
うーーん...まぁ、確かに何処か店に売るにしても露店で売るにしても、複合ポーションだのマナポーションだの言っても信じてもらえなさそうだなぁ、てのは分かる。前者は他に存在するのかも分からんし、後者もこの辺りでは滅多にお目にかかる代物ではないという。
強いて言えばダンジョン産のマナポーションって事にして売る事も出来そうだが、1、2回目は大丈夫でも、何度も売ってたら疑われそうだ。
その点ギルドに卸すのは、ギルドマスター自身が既に秘密を知ってるから誤魔化す必要がない。それに露店で売る場合と比べて、販売するのが俺ではないので自分の自由時間を確保出来る。まぁ、だからといって何をするという訳でもないが。
だからこの際ギルドに卸売りというのも悪くはないと思う。ただ、いくつか問題もある。
「ギルドへの卸売り、条件付きで良ければ構わないぜ」
俺がギルドマスターに提示する条件は3つ。
1、仕入れ先については秘匿する。
2、銀級冒険者以上にしか販売しない。
3、種類を問わず1人1日1個ずつしか販売しない。
「うーむ、1つ目は分かる、あんちゃんの事が広まりでもすりゃどうなるか分からねぇからな。2つ目も分かる、酒場で嬢ちゃんらも言ってたが元々ダンジョン産のポーションってのは上級者向けだからな、銅級冒険者なら普通のポーションの方がコスパが良いからな。しかし、3つ目が分からん、普通は売れるモンは売れるだけ売るモンだが......あー、もしかしてそんなに数は揃えられねぇのか?」
「まぁな、仮に24時間ぶっ続けで作っても無色なら200個弱、白色なら50個弱が限界。実際はそんなポーション作りばかりやるわけにもいかねぇから、無色と白色各20個が1日の生産量だな」
「いや、1日でそんだけ作れりゃ普通は十分なんだが......確かにそれだと一応買い占め対策も必要か、なんせ物が物だ」
「それもあるんだが......実は俺のポーションは連続使用が不可能でな、1度使うと10分位は間を空けねぇと2回目の使用が出来ないんだよ。でも最初から1つしか買えないようにしときゃ関係無いだろ? まぁ、数日かけて複数所持する奴も居るかもしれねぇから、その事は売る時に良く注意して聞かせてやってくれ」
「普通は連続で戦闘にでもならなきゃ10分ありゃ決着がつくから、あんま要らねぇ注意になりそうだなそりゃ。まぁ、それも条件の1つって事で了解だ」
ふむ、これで考えられる問題は特にない......はず。そこからは俺が作れるポーション4種類の細かい効果量の説明をした。同ランクだと見た目がポーションとマナポーションで変わらないのは、マナポーションの方に印を付ける事で見分けがつく様にして売るらしい。まぁ、そうは言ってもしばらくはマナポーション類だけを集中して卸して欲しいという事なので、普通のポーションが店頭に並ぶ日はまだ先になりそうだ。
あと既存のポーションと比べ効果が一線を隔す代物なので独自の名前を着けた方が良いという事になった、見も蓋もない言い方をすれば商品名である。
変に拘るつもりもないので初級ポーションはとろみがあったので『とろポ』、下級ポーションはその色合いから『白ポ』、マナポーションは前に習えで『とろマナポ』『白マナポ』という名前でいく事にする。なんか周りから『もう少し捻れや』という視線を感じるが敢えて無視する、商品名なんて分かりやすいに越した事はないのだ。
「さて、まぁとりあえずはこんなもんでいいんじゃねぇかギルドマスター?」
「そうだな、つってもどうせ追々また話し合う事が出てきそうだが、一先ずはこれで良いだろう。そんじゃ、最後に一番大切なお金の話をしようじゃねぇか」
あー来たか。
「さて、こっからは企業秘密っつー事で関係ない部外者はちっと席を外してもらえるか嬢ちゃん達」
「なによ、ここからが面白いところなのに、マスターのケチ」「至極残念、でも仕方ない。私達はもう宿に戻るからまた明日ねお兄さん」
口ではそう言いつつも言われた通りに出ていく2人。
「それじゃ私達も失礼しますねミューラーさん」
「値段。交渉。健闘。期待。」
続いて出ていく2人.........と引き摺られる1人。お胸さまが憎いのは分かるけど、せめて仰向けで引き摺ってやれ。
さて、貨幣価値が分からないので伸ばし伸ばしにしてきたが遂に来てしまった。唯一参考になるのは先程ミーアとニーアがポロっと溢した『下級マナポーションは銀貨数枚』『中級マナポーションは大銀貨数枚~金貨1枚』という話だけだ。
でも数枚って具体的に何枚だよ。そんな料理本の『醤油を適量』『塩を一掴み』みたいな事言われても分かんねぇよ。
「まーここらじゃ手に入らねぇ代物だからな俺も覚悟はしてる。単刀直入に聞くぜ、いくらなら売ってくれるんだあんちゃん?」
「......そいつは違うだろギルドマスター。『俺が』じゃねぇ、『ギルドが』いくら出せるか、だろ? ギルドは俺の白マナポをいくらで買い取ってくれるんだ?」
うーん苦しい。ここでスパッと言えればカッコいいが如何せんいくらなら良いのかサッパリ分からん。なのでここは向こうに決めてもらう形にしなくては。
「ハッハ、商売上手だなあんちゃん。じゃおまけして大銀貨4枚でどうだ」
「───ハァ? 冗談だろう?」
あ、しまった、驚いて変な声出た。
いやでも、店で売られてる値段が『大銀貨数枚~金貨1枚』なんだろう? なら卸売り価格はさらにそれを下回るものだとばかり考えていたので、精々大銀貨1、2枚...良くて3枚程度に思っていたのだ。
それをいきなり大銀貨4枚だと言われれば驚きで変な声の1つも出ようってもんである。思わずそれ以降口ごもってしまい沈黙が痛い。
「......はぁー、あんちゃんはホントに商売上手だなぁ......しゃーねぇ、もう一声で大銀貨5枚だ」
「...........................?」
黙り込んでいたら値段が上がっていたでござるの巻。
イヤちゃうねん、今の驚きの『ハァ?』は値段の低さに驚いてたんじゃないねんマスター、逆やねん。なんか勘違いして値段増してきたけど、そんな事しなくても俺は大銀貨4枚でえぇねん。
「大銀貨5枚、5枚ねぇ。なぁマスター落ち着いて良ーく考えてくれ......この白マナポを見てもう一度よく考えて欲しい」
4枚でいいんだぞマスター。俺はそれで満足なんだ。
「.........ッ! ......そうか......いや、そうだな。俺も勘違いしてたぜ、コイツは只のマナポーションじゃあねぇ。『白』マナポ、つまりは複合ポーションだもんな。そこを含めて考えりゃ大銀貨7...いや8枚まで出そう! コイツが限界だ!」
勘違い正そうとしたら加速しやがったでござるの巻。
イッヤ、だからちゃうねん! 今の白マナポ見て云々はそんな事言いたかったわけじゃないねん、『コレにそんな価値ホントにある?』的な事言いたかっただけやねん!
あっるぇ......なんか気付けば卸売り価格倍増してらっしゃるわ。不思議。なんかこれ以上なんか言うとまた値段跳ね上がりそうな気がする。もういいや、うん、別に俺は損しねぇし。むしろ得するし。
「オーケー分かった、大銀貨8枚でいこうマスター」
「商談成立だな。ったく、ちったぁ手加減してくれよ」
ボヤキながらも握手の手を伸ばしてくるマスター。ボヤキたいのはこっちである、と思いつつも笑顔で握手に応じる。
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その後も続いて『とろマナポ』の値段交渉が始まったわけだが、同じ轍を踏む俺ではない。今度は最初から銀貨1枚でいいと値段を提示しておいた。こちらでまで暴利を貪ろうものなら絶対になんか罰が当たるわ。
なにやらマスターが「本当にいいのか?」とか「手加減しろとは言ったが...」とか言っていたが別に気にしない。「俺からの配慮だ」と素直に言ったらそれで納得してくれたし、やはり人間素直が一番である。さっきのも最初から素直に分からないと言ってれば違う結果になっただろうが、まぁ覆水盆に帰らずというやつだ。
その後も少し細々とした事を話し合い、ようやく卸売りに関する話が終わった。地下なので良く分からないが、なんだかんだでもう夜も更けた頃だろう。そういえばうっかり宿を探すのを忘れていたのでどうしようかと思ったのだが、ありがたいことにマスターに話したらギルド内にある医務室でよければ使っていいとの事。
なのでこれ幸いと使わせてもらうことにし、早速マスターにお礼を言ってから向かってみる。医務室、とは言ったが簡易ベッドがいくつかと薬品棚が並んでるだけで、別に医者が常駐してるわけではなく、単に冒険者が自分達で簡単な応急処置をする為の部屋らしい。
まぁ、何はともあれベッドはベッドである。異世界に来て早3日目の夜、ようやくマトモな寝床で寝る事が出来そうだ。現代人に野宿だの硬い馬車の上だのはキツかったのだ。あぁ、今日はゆっくりと眠れるだろう......おやすみ。
.........あ、寝る前に白マナポ作らねぇと。
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『白マナポをギルドで販売する時は金貨1枚で売る』それはあんちゃんと値段交渉をする前から決めていた事だ。こんな辺境の街で中級マナポーションと同等以上の物が買えるのだ、むしろ安い方だな。本場のダンジョン都市じゃねぇんだ、普通だったら金貨2、3枚でも文句は出まい。
まぁ、ギルドに卸すあんちゃんからすりゃふざけんなって話だよな、大銀貨4枚は流石に吹っ掛け過ぎた。あんちゃんが呆れてものも言えなかったのも仕方ねぇわな。俺だって反対の立場なら金貨から話が始まると考えるだろうからな、そこから何枚大銀貨を引き出せるか......みてぇにな。でも俺はギルドマスターだ、ウチで依頼受けてる冒険者達の事を考えりゃ少しでも安く売ってやりてぇと思うのは当然の事だろ?
あんちゃんもそこん所を気に掛けてくれてたのか......それとも俺が大銀貨8枚で限界だと言った事で俺の考えに気付いたか? 結局はその値段で決まっちまったしな、多分そうなんだろう。
その後のとろポに関しちゃ自分の儲けを無視して端っから銀貨1枚で良いって言いやがったからな、ありゃこっちの考え気付いてなきゃそうはならんだろう。
『俺からの配慮』か......ありがたいねぇ。
お陰で回復量がより多いとろマナポを、下級マナポーションよりも安価で売れるという驚きの展開だ。この値段なら売り切れ間違いなしだろう、あんちゃんが買い占め対策を条件にしてたのはもしかしてここまで考えての上かもしれねぇな。でなきゃ間違いなく買い占める奴が出てきただろう、つーか俺なら間違いなくあるだけ買い占めるな。
まぁ何はともあれ、これで魔法使いのいる冒険者パーティーは実質的に戦力増強だろう。嬢ちゃん達も言っていたが、いざという時に魔力の回復手段があれば危機を脱する事も出来る。普通は銀級でも上位くらいからしか手が出ねぇが、あんちゃんのとろマナポは銀級成り立てでも問題なく買える程度の値段だ。
こりゃあ、この街の魔法使いは作り手のあんちゃんの事を知ったら頭が上がらなくなるだろうな。まぁ知られるわけにはいかねぇんだが。
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