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「...月がふたつある...。」


 それもただ2つあるだけではない。

 片や赤い月であり、片や青い月であり。

 仲も良さげに隣り合う2つの月。


 それだけで俺の知る月とはまるで別物なのだと良く分かる。


 辺りは暗く、仄かに月明かりだけが降り注ぐ。

 見渡す限りでは特に建物も見えない。いや、強いて言えば背の低い雑草が辺り一面を覆っているし、遠くには山らしき影も見えるが、人工物らしき物は皆無である。


 そんな大自然にポツンと立っている男が1人...俺の事である。


「うぇ? いや、待った待ったどゆ事よ?」


 家帰る→お風呂にはいーる→風呂上がる→ビールで一服↗大自然。


 うん、なんか最後だけ斜め上な展開になったぞおい?一気に酔いがまわったかな...そうだと良いけど違うよな。流石に一口飲んでここまで幻覚見たりはしないよな。


 でもだとしたらあのお月さん達は何なんだろう?地球上であんな物が見れる場所なんて在りはしない。逆に考えれば地球上でなければ見れるかもしれないが。


 .........夢落ちかな...?


 試しに頬を力一杯つねってみる...涙目になる位痛かった。とりあえずは夢でも幻でもないと。


 そしてもう1つ、俺の頭上に2つのゲージが浮かんでる件。奇しくも月と同じ赤色と青色の2つのゲージ。


 特に赤色は150/150っていう表示されてたのが、頬をつねったら149/150になった訳なのだが...あれか、俗に言うHPゲージか?


 となると青色の方はMPゲージなのだろう。MP...マジックポイント...もしかして魔法とか使えたりする?教えて偉い人。


 ───その時!俺の脳裏に電流走る!



 薬品生成スキル

 ┗ポーション生成

 ┗初級ポーション⇐ はい/いいえ



 なんか出来そうなイメージが脳裏に浮かんでるのだけども...まぁ、物は試しということで『はい』と強くイメージする。

 すると光粒子のような物が俺の手から溢れだし、ほんの一瞬で収束し、俺の手には透明な液体の入った試験管が作られていた。


 思っていた魔法とは違うがそれに似たような事は出来たな。この分だと俺が最初に思い付いた火とか水とかの魔法も使えるのか...?


 .........しばらく粘ったが今度はイメージが出てこない。まだ無理らしい。でもそのうち使えるようになるかもしれないので楽しみにしておこう。


 ちなみにゲージを確認すると、HPは自然回復でもしたのだろう150/150で、MPは40/50になっていた。先程の初級ポーション1つ生成する事でMPを10消費するらしい。


 その後、色々と試行錯誤してみたのだが、俺には3つのスキルが備わっている事が分かった。


 1つは先程も使用した薬品生成スキル。

 2つ目は鑑定スキル。

 3つ目は薬効上限突破スキル。


 鑑定は薬品生成で作ったポーションを『で、結局なんぞコレ?』と思いながら見ていたら自動で発動した。ポーション見てたら空中に文字が浮かんできたのだ。その説明文によれば初級ポーションはHPを微量、MPを極微量回復してくれる薬とのこと。


 そして、折角作ったのだしと初級ポーションをイッキ飲み。ゲージを見ればそれぞれ172/150、42/50の表示。『HPが上限超えてるけど?』と思った所でいつもの脳裏に浮かんできたのが薬効上限突破スキルである。まぁ、これは見ての通りHPやMPの最大値を超えて回復出来るようになるスキルだ。


 さて、一先ず自分の事を確認し終えたわけだが、これはもうアレではないだろうか?見覚えのない場所、地球上には存在しない2つの月、それに加えて何故か使えるスキルが幾つか。


 これはもうアレよな。

 俺は、異世界に来たのではないだろうか。




 =========




 しかし、ここが本当に異世界だとすれば少し困った事が一点。俺はここに来る前は風呂上がりだった訳で、パンツ一丁に湯冷め避けに着る毛布を羽織っているだけというスーパークールビズスタイル。全裸コートに似たり寄ったりな格好な訳である。


 そんな持たざる者装備で野原に放置されても困る。幸い気温は暖かい位の丁度良い温度なので風邪は引かなそうだが、この格好で街なり村なり行っても門前払いされる気しかしない。あと、地味にスリッパで外を歩くのも辛い。


 加えて言えば今は真夜中だ。夜中に半裸の男がうろうろうろうろと、おや変質者かな...俺である。でも端から見たら変質者と言われても言い逃れ出来ない状況だ。


 まぁ、じたばたしても服が手に入る訳でもないので、ここはもう諦めて行き当たりばったり...もとい、臨機応変に対応していくことにしよう。


 で、差し当たって今の俺に出来るのは寝て朝が来るの待つか、当てもなく手探りで薄暗い野原を歩き回るか...普通に考えて前者よな。


 あ、でも寝る前に作れるだけ初級ポーションを作っておこう。多分寝て起きたらMPも自然回復してるだろうし、ということで作った4つの初級ポーション。ポーションの口にはコルク栓みたいなのがあるけど、地面に転がしておいて大丈夫だろうか...ポケットの1つもないから収納にも困る。それこそ異世界だというならアイテムボックス的な物は無いのだろうか?



 初級ポーション×4 

 保存しますか?     はい/いいえ



 ......あったらしい。




 ===翌朝===




 快晴。


 いい朝だ、服装も相まって開放的な気分になる。これでトーストしたパンに牛乳があれば最高な気分になれた事だろう。無い物ねだりをしても仕方がないので初級ポーション飲んでおく。腹の足しにはなってくれるだろう。

 無色透明、無味無臭、少しとろみはあるがただ水でしかない。ポーションのランクが上がれば少しは変わるだろうか。ちなみにこのポーションにはクールタイムがあるらしく、二本目を飲もうとしてもコルクが取れなかった。ポーションがぶ飲み薬漬け無双は出来ないようだ。


 そのあと、ゲージを確認してみたのだがMPはしっかりと50まで全快していたので、また作れるだけ初級ポーションを作ってみたのだが、ふとゲージを見るとHP194/158、MP2/53と最大値が増えていた。多分レベルアップでもしたのだと思う。回復アイテム作ってるだけでレベルが上がるとは一石二鳥で実にありがたい。


 さて、そろそろここから移動して人がいそうな場所を探すとしよう。一先ず当てもないので太陽が昇って来てる方へと歩いていこう。




 ===移動中===




 俺はスライムと遭遇した▽


 なんぞ進行方向の先に水色半透明の水っぽい物体がブヨブヨしているでござる。スライム?スライムだよねアレ?何かアイツの頭上にもHPMPゲージ見えるし、恐らくは生き物ではあるよな。

 何か石ころがスライムの中にあるけど...核みたいな物かな。定番で言えばあれを壊すなり何なりすれば倒せるのだろうが...素手でどうしろと?


 んーまぁ、回復手段には事欠かないし、直接手を突っ込んで掴み出してみるか。無理そうなら全力ダッシュで逃げる、動きトロそうだし逃げるのは楽そうだ。


 というわけでスライムに近寄り、そっと手を伸ばして触れてみる。ヒンヤリ冷たい、冷えピタのジェルみたいな感触。スライム側も俺の方に体を伸ばして俺の手のひら全体を包み込んできた。ヒンヤリ。

 ...なんだろう、思ってたのと大分違う。少なくとも俺のゲージを見る限りでは何のダメージも負っていない。ただヒンヤリして気持ちいいだけである。


 とりあえず問題無さそうなので核と思われる石ころを掴み出す。すると核を抜き取った途端スライムのHPゲージが一瞬で0まで減少し、ゲージの色が赤から灰色へと変化した。同時にある程度形を保っていたスライムの体がべちゃー、と崩れていく、どうやら本当に倒せたらしい。


 鑑定で調べてみたところ、掴み出した石は[スライムの魔石]なるアイテムで、スライムの心臓にあたる物らしい。あと、崩れた体の方は[スライムゼリー]というアイテムだった。恐らく何か使い道があったりするのだろう、どちらもアイテムボックスに保存である。


 さて、改めてゲージを確認するがやはりダメージは負っていない。もしかしてこの世界ではスライムとは無害な生き物だったのだろうか。だとすれば悪い事した気分になる訳なのだが...。



 解 酸攻撃に対し薬品耐性スキルで無力化に成功しました。



 あ、はい。攻撃されてたんですね俺、しかもまだスキルあったのか。また薬品関係だしこの世界での俺のジョブは薬剤師なのかね。あとシステムなのかナビなのか知らないけどさっきから俺の疑問に答えてくれてる誰かさんにも感謝である。


 それと少し確認、先程ポーション飲んでから腹時計的に10分位経ってるけどもう二本目は飲めるかな?『取り出す』とイメージしてポーションを手のひらに出す。コルク栓は......開いたな、とりあえず飲んでおこう。ポーションのクールタイムは暫定10分、と。


 それにしても、ある程度予想はしていたがやはり魔物とか魔獣とかがいるんだろうなこの世界。今回はスキルのおかげでスライム相手に無傷で勝利できたが次回もそうである可能性は低いだろう。せめて武器が欲しい...でないと戦いにもならない、急いで村なり街なりに行こう。最悪でも街道とか人が通りそうな場所を見つけねば。


 ..................

 ............

 ......


 ===夕方===


 チクショオオオオオオオッ!

 行けども行けども景色が変わらねぇよ!


 あぁもう陽が暮れて暗くなってきた...結局誰にも会わず道に出ることもなく1日ハイキングで終わってしまった。不幸中の幸いは初級ポーションのおかげで飢えも渇きもしない事だろうか、いや飢えは誤魔化してるだけだが。


 あとMPは1時間もあれば全回復したので、その度に初級ポーションを作って保存している。小腹が空いたら飲んでいたがそれでもまだ30本近くはあるはずだ。それにレベルも3つ上がりHP723/190、MP26/69と上昇している。HPは薬効上限突破とポーションのおかげで大分最大値を上回っていてそっちに目を奪われるが。

 それとレベル5になって初級ポーションの次に下級ポーションが生成出来るようになっていた。残念ながら作るのにMPが足りないらしく灰色文字で表示されており、まだ作れていないのだが。


 はぁ...にしてもまた野宿か。むき出しの地面じゃなくて草なので幾らかマシだが現代人にはちとキツイ。しかも魔物までいるかもしれないとなると何時襲われるかと不安でもある。

 まぁ仮に夜通し移動してようが魔物に出会う時は出会うのだし、それだったら寝てても変わらないだろう。いざという時に疲れて動けないのも困るしな。


 てなわけで、おやすみ。




 ===真夜中===




 なにやら遠くから音が聞こえてくる。


 厳密に言えば人の悲鳴のような声と犬の鳴き声のようなもの。距離があるのか大分聞き取りずらいが確かに聞こえる。行くべきか、行かざるべきか...気になって寝直せないし確認に行くか。


 声の聞こえる方へと足早に移動してみる。すると少し離れたその先には数台の馬車が停まっており、さらにその回りは狼の群れに囲まれていた。


 そう狼である、犬じゃなかった。いや、犬なのかもしれないが、あんな大型犬よりも一回りも二回りもおおきな体躯しているのだ。犬でも狼でも危険なのは変わりない。

 そして、そんな狼が犬歯を剥き出しにしてガルガル唸りながら馬車を囲んでいるのである。悪夢か。そりゃ悲鳴の1つや2つも出るわ。どうやら俺と同じように野宿していたところを囲まれたらしい。運が悪ければ俺が1人であの中に居たのかと思うと心臓がきゅっとなるね。


 どうやら殆どの人は馬車の中に隠れているらしく、外に出ているのは武装した3人だけである。それぞれの手にあるのは長剣と盾にメイスに杖、RPG的に考えれば戦士と神官と魔法使いだろうか。対して狼の数は8匹だ。

 数の差は倍以上だが彼らは果たして大丈夫だろうか。ちなみに俺に助太刀しようなんて気は一切ない。武器:素手、防具:パンイチコートであんなもののけの姫乗せてそうな狼相手にどう戦えと?


 そんなことを考えてる間に3人組と狼達との戦いは始まった。

 まず最初に動いたのは杖持ちの魔法使い。杖を掲げたかと思えばその杖の先に光の粒子が集まりだし、あっという間にそれは大きな火球へと姿を変え、狼達へと撃ち出された。

 狙われた狼は即座に飛び退き回避するも火球の影に潜んで接近していた戦士の長剣による一閃により首を切り裂かれる。仲間の仇と狼達が戦士へと噛みつきやひっかきなど攻撃を加えていくが、戦士の持つ盾に阻まれまともに攻撃は通っていない。

 そうして戦士が囮となっている間にまた魔法使いによる火球が飛んでくる。それに気付かなかった2匹が火に飲まれ、戦士のシールドバッシュにより吹き飛ばされた1匹もその身を火ダルマへと変えた。


 あ、あれ?意外と余裕で対処してるな...あっという間に狼達が半分まで減らされとる。あと、今更ながらに気付いたがあの3人HPMP高ッ!後衛の2人ですらHP1000を超えてるし、戦士に至っては3000超えてるぞ。対して狼達のHPは多少個体差あるが300前後でしかない。

 どうやら端から俺が助太刀する必要はなかったらしいな。その後も危なげなく戦闘は3人組優勢で進み、遂には最後の1匹も力尽きたようだ。どの狼もゲージが灰色になってるし間違いないだろう。


 ...と、俺は思った訳だが現実はそう甘くもなかった。


 3人組も戦闘後に一息つき、集合して神官が回復を施している。そんな3人の離れた場所から先程の狼達よりも更に大きな、いかにもボスらしき狼が音もたてずに凄い勢いで突進していたのだ。3人組も戦闘後ということで気が緩んでいるのか気付いた様子はない。


「アンタら後ろだ!あぶねぇッ!」


 気が付いたら大声で叫んでいた。そんな俺の声にいち早く戦士は反応し大狼に気付くと即座に神官と魔法使いを突き飛ばし、自身は盾を構え真正面から大狼の突撃を受けた。しかし流石に受けきる事は出来ずに弾き飛ばされる。大狼も3人組から少し距離をとってから突進をやめ、辺りの様子を確認してから改めて走り始める。


 .........俺に向かって。


 ひぎぃぃぃいぃいいぃぃぃいッ!?

 ちょ、ちょま、ちょぉッ!軽自動車みたいな図体した狼が自分に向かってくるこの光景───冗談じゃないよ死んじゃいますが⁉


 は?回避?ムリムリムリムリ!

 足がすくんで動きゃしねぇから!!


 は?防御?無理無理無理無理!

 パンツと着る毛布しかねぇから!!


 は?攻撃?むりむりむりむり!

 俺は薬物作るしか出来ねぇから!!



 薬物生成スキル

 ┗劇物生成

 ┗強酸液⇐ はい/いいえ



 なんか出来てるぅ!他に選択肢がないから、『はい』しか選べねぇよ!

 そうして生み出された黄色の液体の詰まった試験管、そのコルク栓を外し中の液体を目の前へと迫った大狼へとぶちまける。結果として液体は大狼の両目に直撃し、煙を上げ肉の腐るような臭いを放ちながら溶かし始めた。しかし、いくら両目に大ダメージを負ったからといって大狼の突進が完全に止まる訳でもなく...。


「ふ"ん"も"っ"ふ"ッ!」


 俺は交通事故に遭ってしまった!▽


 と、しかしながら何故か痛みはない。痛みを感じない程に深刻なダメージを受けたのかと一瞬ヒヤリとするがそうでもないようだ。手も足もしっかりと動く、どういう事かと自分のHPゲージを見上げればゲージは満タンの状態から変化していなかった。

 そして良く見ると数字の方は312/190へ減っていた。たしか寝る前の現在HPが723だったはずなので一撃で半分以上持っていかれたのか。余剰分に関しては攻撃を受けても痛みをを感じないのは朗報だ...もう一度今の突進を受けたら今度は即死しそうなので意味ないけどな!

 というか酸によるダメージで多少なりとも怯ませてなければ一撃で死んでいたのでは...今、心臓が破裂しそうなほど早鐘打ってます。


 そんな感じで俺は九死に一生を得たが、対して大狼の方は完全に視覚を潰されこちらを見失っている様子だ。そんな隙を3人組が見逃すはずもなく、魔法使いの火球が身を燃やし、神官のメイスが脳天に降り下ろされ、最後には戦士の剣で首を半ばまで切り裂かれた。そこまでしてようやく大狼のゲージは底をつき、轟音とともにその場に倒れ込んだ。


 お、終わったぁぁ...殆ど何もしてないけどなんとか勝ったし生き残ったぞ、ぁぁああ...死ぬかと思ったわ...。


「ちょっと君!まともに突撃受けてたけど大丈夫かい!」

「ロロ。回復。緊急。」

「分かってるから待ってお姉ちゃん、今詠唱を...!」


 とかなんとか思ってたら3人組が俺の方に駆け寄ってきて、慌てて俺の様子を確認しだした。まぁ、傍目に見ると正しく交通事故そのものだったろうし3人が慌てるのも無理はない。運が悪ければ即死しててもおかしくない感じだったしな。


「あー、心配させてすまないが、大丈夫。平気だ」

「馬鹿!マザーウルフの一撃を生身で受けて平気なわけないだろ!」


「いや、本当に大丈夫だから。もうこうして立ち上がることも出来るしな」

「...不信。現実。可動。」


「あ、回復も自前のポーションがあるから大丈夫なんで」

「え、あ、はい......え?あれ、無傷...?」


 ふむ、さて近寄られた事で遅まきながらに気付いたが3人共女の子だったのか。しかも髪型や服装は違えど3人は皆同じ顔、姉妹...いや、三つ子かなにかか?

 ともあれコミュニケーションの基本は挨拶、挨拶の第一歩は自己紹介だ。まぁ、馬鹿正直に異世界から来ましたとか言っても信じてもらえないだろうし、適当にそれっぽい話で誤魔化しておこう。




 ===作り話熱演中===




「えーと、要約するとミューラーは薬師で薬の研究で世界中を旅していて」

「現在。迷子。私達。発見。危険。加勢。」

「で、コートと下着以外の荷物は、前日に追い剥ぎに盗まれた。と」


「うん、まぁ、そんな感じだな」


 普通に名字を名乗ったらミューラーなる謎の人物になってるんだが、まぁこの際だしこの偽名でしばらく生きていくか。日本名だとあんまり馴染みが無さそうだしな。

 3人組は戦士がララ、魔法使いがルル、神官がロロという名前で3人は五つ子の長女、三女、五女らしい。これ多分、次女はリリで四女はレレなんだろうなぁ。


「なんと言うか...お互い災難だったな?」

「狼に囲まれるよりは追い剥ぎがマシだと俺は思うがね」


「装備。道具。皆無。早晩。死体。」

「そうなる前に君らに会えて運が良かったさ」


「服の方は馬車にいる商人さん達に言って融通して貰いましょう。命の恩人の為ですから何だったら私が買い取ってお譲りしますよ」


「ロロ。現在。貧乏。」

「お前、前の街で新品のメイス買ったから金ないだろ?」


「ハゥッ!......ご、ごめんなさいです」

「あー、うん、気にすんな気持ちは嬉しかったから」


「まぁ、そこは私が商人達と話をつけてやるから安心しな」

「おう、ありがとな...ところで、ララの方こそ大丈夫なのか?」

「私かい?まぁ、鍛え方が違うからね、これくらいなら問題はないさ。それよりも馬車に戻ろうか、商人達は未だに中で震えてるだろうしね、早いとこ安心させてやろうじゃないか」


 そう言うと3人共動き始める。確かに問題はなさそうだが...いやいやでも勢いの削がれた突撃でも俺は大ダメージだったのに、いくら盾を咄嗟に構えられたとはいえ不意打ちで真正面から受けたララの被害が軽いわけもなく。ロロのお蔭で多少は回復してるが、ララのHPゲージは半分位しか残っていないんだが...ふーむ...ん、そういえば。



 薬物生成スキル

 ┗ポーション生成

 ┗初級ポーション

 ┗下級ポーション⇐ はい/いいえ



 おー作れる作れる、んじゃ早速『はい』と。そうして出来上がる白い液体の入った試験管。下級だと色は白いのか、ちなみに鑑定結果は『HPを少量、MP微量回復し軽い傷を癒す』との事。


 出来立てホヤホヤの下級ポーションを持って俺も馬車の方へと歩いていく。するともう話をつけたのか、ララが馬車の中の商人から男物の服を受け取っていた。


「お、来たね。早速だがコレに着替えてくれるかい、そのままだと流石にあたしらも目のやり場に困るんでね」

「あぁ、悪いな。礼と言っちゃなんだがこいつを使ってくれ、俺の作ったポーションだ」

「あー、格好が格好だから聞き流してたけど、そういや薬師なんだったね。それじゃありがたく使わせてもらうよ」


 俺は着替え着替え、と。


 俺は旅人の服を装備した▽

 俺は旅人の靴を装備した▽

 残念、不滅のキルモーフは外せなかった▽


 あら...着替えの時は脱げたけど、いざ脱いどこうと思ったら脱げなくなったぞ?っていうか脳内ログ的な物に変な文章が...『不滅のキルモーフ』ってなんぞや?えーと、教えて鑑定先生!


 『不明。鑑定レベルを上げて下さい』


 あ、ダメだった。流石に何でもかんでも分かりはしないのか、レベル上げればそうでもないらしいが...使い続けてればそのうちレベルも上がるかな。


「......ラー。ちょっと、聞いてるかいミューラー?」

「...ん。あ、すまん少し考え方してた。どうかしたか?」


「いや、このポーションなんだが、こりゃ上級ポーションだろう?てっきり良くても中級程度だと思って飲んだら大分回復して驚いたよ」


 え、いやそれ下級ポーションなんだが、それが何故上級ポーションと勘違いされるんだ?

 ララのHPゲージを見ると約3割、数値的に1000近くに回復している。ふーむ、もしかするとこの世界のポーションは割合回復ではなく、固定数値分を回復するものなのかな。そんで、恐らく本来の上級ポーションは1000回復するものである、と。

 だとすれば俺の薬物生成スキルは意外と当たりの部類なのか、相手のHPにもよるが下級ポーションの時点で世間一般の上級ポーションに匹敵してる訳だし。


「しかし、流石に上級ポーションを無料で貰うのは少々申し訳なさがあるな。そもそも危ない所を助けてもらったのはこちらであるし...やっぱり代金は払わせてもらうよ、いくらなんだいこれは?」


 んぇッ!いや、いくらなんだろうなぁ?

 俺が教えて欲しい位なんだが。


「んー、んーむ...」


「上級。銀貨。1枚。常識。ララ。無知。」

「へいへい悪かったね、うちはルルが財布の紐を握ってるからあんまりそこら辺気にしないんだよ。ま、だったら謝礼金も込みで銀貨2枚でどうだい」


「それで構わないぞ、元々タダのつもりだったしな」

「はい、んじゃ代金はこれで。実際助かったよ、ウチはロロが神官やってるけどまだ日が浅いから大した事出来ないからさー」


「むぅー、そんなこと言ってると次はララお姉ちゃんだけ回復してあげませんよ」


「そう言いながらロロはお姉ちゃんのこと大好きだから回復してくれるんだもんね?」

「ロロ。素直。赤面。にや。にや。」


「もう!もー!知りませんから!」


 仲良いなお前ら。いや、兄弟姉妹ってのはこんなもんなんかね、一人っ子には良くわからん世界だ。それは置いといて銀貨か...これってどれくらいの価値なんだろうな?一先ずは鑑定してみるか。


『大銅貨10枚分の金額、10枚で大銀貨1枚と同額になる』


 ちゃうねん、いや正しくはあるんだろうがソレジャナイ感。日本円にして幾らなのか知りたかったんだ。まぁ鑑定文に流れからすると大銅貨の下に普通の銅貨があるんだろう、そして恐らくは銅貨10枚で大銅貨1枚と同額...詰まる所銀貨2枚=銅貨200枚という事でいいはず。

 で、問題はやっぱり銅貨1枚の価値が分からないことか。日本で銅貨と言えば10円だがこの世界ではいかほどのものやら。まぁお金であることに変わりはないので、この銀貨はアイテムボックスの中に保存しておこう。


 「そういえば、ミューラーは何処か行くあてはあるのかい?」

 「いいや全く。さっきも言ったが迷子になって野宿しようとしたら悲鳴が聞こえてここに来ただけだしな」


 「じゃあなんだったら私達と一緒にアトルの街まで行かないか?気付いてると思うが私達はこの隊商の護衛依頼を受けててね、ロロ以外の回復要員が居てくれると助かるんだ。あ、心配しなくても護衛料金の分け前も付けてやるぞ」

 「そりゃ願ってもない話だが...本当に良いのか?自分で言うのも何だが自称薬師の得体が知れない男だぞ」


 「お前が本当にろくでもない奴なら大声で危険を知らせたりゃしないだろう?それにほら、あれだよ、困った時はお互い様ってやつさ気にすんなって」

 「そうか...なら、ありがたくお世話になろうかな」


 「よし、じゃ改めて銀級冒険者のララだ。よろしくな」

 「銅級。ルル。歓迎。」

 「銅級冒険者のロロです。お願いしますねミューラーさん」




 =========





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