第五章 泉美と圭・命と月下 その2・泉美
明日、圭さんとデートに行く事になりました。
今は明日のデートに着る服や、荷物なんかの準備中。隣では姉さまが不勉強なわたしに、デートについてあれやこれやの説明をしてくれています。
「………」
「……不安か、泉美」
反応がないわたしに、姉さまは説明を止めて優しく語りかけてくれました。
「…………はい」
あの日、このデートを提案され。姉さまのおっしゃる事ならばと了承したわたしですが、やはり不安は消えません。
「大丈夫じゃ、安心せい。わしがこっそり後を付いて行ってやるから何も心配せんでええ」
「はい」
話はこうです。わたしは圭さんとデートをして、圭さんがあの人かどうか見極める。何か悪い事が起こったら、尾行している姉さまが助けてくれる。そう言う計画です。
「くふふふふ。ま、泉美は何も心配せんで楽しめばよい」
でも、デートをする事以外にも不安な事がありました。それはこの姉さまの表情です。
義理の姉妹だとは言え、十年以上も寝食を共にしていれば分かります。これは、何か善からぬ事を企んでいる時の顔です。
準備を終え、床に入ってもこの二つの不安はわたしの胸から消え去ってはくれませんでした。おかげでまともに眠れなかったのは言うまでもありません。
圭さんとの待ち合わせは駅前の時計台でした。ここはこの間命さん達と偶然会った場所の近くで、周りにはわたしと同じく待ち合わせをしている男女の姿が多く見受けられます。
「………」
圭さんとの待ち合わせ時間は、とっくに回ってしまっていました。人だかりの中に一人ぼっちで居るのは落ち着かず、気持ちが焦ってきます。
「ごめんごめん、お待たせ!」
そうしているうちに、ようやく圭さんの姿が人だかりの中から現れました。余程楽しみにしていらっしゃったのか、そのお顔はこれ以上ないくらいの笑顔でした。
「い、いえ。わたしも今来たところですから」
楽しそうな圭さんに水をさすのも悪い気がして、わたしは不安な気持ちを押し殺して笑顔を作りました。幸いにも、圭さんには気が付かなれかったようです。
「そっか。んじゃ行こうぜ。せっかくのデートなんだから時間を無駄にしてらんないし」
圭さんが差し出した手こそ掴めませんでしたが、わたし達はデートへと出発しました。