開幕 雨と坂と自転車と
どうも蒼月です。
これは以前とらる新人賞に応募して見事に一次で落選したものなのですが、このまま埋もれさせておくのも作者としては残念で、こうして投稿してみました。
できれば今後の参考のために感想がほしいです。
望んだのは再会。
伝えたかったのは謝罪と感謝。
求めたのは………。
ザァアアアーー
服越しに肌を叩く雨の感触に、ぼくはうつ伏せに倒れているのを自覚した。
身体のあちこちが痛くて、頭がグラグラと気持ち悪い。
倒れる直前の記憶もないので、どうやら気絶していたようだ。その事に不安を感じて、ぼくは急いで他の事を思い出してみる。
ぼくは日野命。今年から渡瀬高校に通う一年生。
……………よし、少なくとも記憶喪失にはなっていない。
「大丈夫ですかっ!」
ぼくが自分の状況を把握するのに必死になっていると、すぐ横から声が聞こえた。まだ若い、ぼくと同い年くらいの少女の声音だ。
「だいじょ~ぶ、で~すぅ~」
少女の声に答えた自分の言葉に驚いた。思った通りに発音出来なかったからだ。
「不味いな、急いで運ぶぞっ!」
「はいっ!」
少女とは別にもう一人声が聞こえた。こちらも女性の声で、声を聞く限りではぼくよりも年上の印象を受ける。
誰かの腕がぼくの体を揺する。
次の瞬間、ぼくは背負われてどこかへと運ばれていた。
動かされた時にまた意識を失ったらしい。
布越しに感じる柔らかな肌と細い身体の感触。背負われているだけでも分かるほど女性らしい身体つきとは裏腹に、軽い振動として感じるその足取りは軽く速く、力強い。
薄っすらと開けた目には、後ろへと流れていく木々が映る。
雨はまだ止まず、ビショビショに濡れた服に体温を持っていかれる。
瞬きをすると、周りの光景が一転、ぼくは朱色の柱の間を通り抜けていた。
気持ちが悪くて頭を動かせないので、周りを確かめる事は出来ないが。ぼくの身体には雨が当たっているし、柱の向こう側には変わらず木々が見えるので、まだ外なのだと思う。
「大丈夫か? 踏ん張れよ」
「がんばってくださいっ!」
ぼくを背負ってくれている人達が、僕を励ましてくれる。この時、どこに連れて行かれようとしているのかを疑問に思わなかったのは、彼女達の声が優しかったからだろう。
彼女達の励ましを聞いているうちに、段々と意識が朦朧としてきた。また、気を失ってしまいそうだ。今度のは少し深くなるかもしれない。そう言う予感がした。
意識が途切れる前に、ぼくは上手く発音できない喉で「ありがとう」を二人に伝えた。
自分がこの先どうなるのかとか、彼女達が誰なのかとかよりも、その言葉がちゃんと伝えられたかどうかの方が、心配だった。