第一話 【奇妙な本】
突然の事に戸惑う流河はしばらく呆然としていた。
(なんなんだよ、これ・・・)
水に映った自分の姿は、人とは大分懸け離れた存在だった。
「でも、ちょっとカッコいいかも」
流河の想像する理想のドラゴン像が、そのまま具現化したような姿に思わず呟いてしまった。
「・・・はっ!」
こんな事している場合ではない。我に返った流河は現在の状況を確認するために歩き回ることにした。しかし彼の姿が人間の姿から竜の姿に変わっていたため、満足に歩くことも出来ず転んでしまう。
ズッシ〜ン!
「あいててて・・・んっ?」
転んだ先で真っ黒なぶ厚い本を見つけた。
「なんでこんなところに本が・・・?」
少し不思議に思ったため、手に取って調べてみようと思ったが上手く手で取れない。仕方がないので口にくわえて取ることにした。
「よいしょっと」
「きゃあっ!痛いわよ!」
「・・・・?」
するとどこからか女の人の悲鳴が聞こえた。周りを見回してもそのような人影は見当たらない。
「痛い、痛いから離してちょうだい!」
(どこから聞こえるんだ?)
もういちど悲鳴が聞こえたので、よく耳を澄まし声の元を探る。
「もう!痛いったら痛いの!いい加減にしないと怒るわよ!」
「え・・・?」
すると、自分の口元から声が聞こえた。恐る恐る本を置くと、
「やっと解放してくれた。ハァハァ・・・。もう、食い千切られるかと思ったわよ。」
「・・・・!?」
なんと、先ほど咥えた本が喋っているではないか。しかも流暢な日本語を女言葉で。
「このまま解放してくれなかったら、魔法で君を燃やし尽くしちゃおうかと思ったわ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「なによ?」
「君はただの本ではないの?かなり日本語ペラペラだけど・・・」
「ニホンゴ・・・?まあ、ただの本ではないわね。魔道書だもの。」
「魔道書?」
「そ、カルテナの魔道書『クルアレイク』よ。」
「クルアレイク・・・」
その本は、クルアレイクと名乗り自分を魔道書だといった。流河の知っている魔道書とは、魔法を使える者が書物にまとめ、後世に魔法を伝えるために残すものだという事のみで、喋るという話は聞いたことも読んだこともない。
そして気になるのはクルアレイクが言った『カルテナ』という単語。
「クルアレイク。聞きたいことがあるんだけど・・・」
「いいわよ。何でも聞きなさい。」
(出会ったばかりで、いきなり上から目線かよ・・・。まぁ、いいけど。)
「さっき言ってた『カルテナ』って何?」
「何って・・・あなた知らないの?『魔王カルテナ』様のことよ。
何呼ばわりすると、罰が当たるわよ。」
「魔王!?」
「そ、私の事を作ったのも、魔族の世界を治めているのも魔王カルテナよ。」
なんとこの世界には魔族という種族が存在しているらしい。そしてその魔族の領地を治める魔王カルテナなる者がいるらしい。そして気になることがもう一つ、
「それはそうとして、君はなぜこんな森の奥深くにいるの?」
「・・・捨てられたのよ。」
「えっ・・・?」
「だ~か~ら~、捨てられたのよ!」
「捨てられたって誰に?」
「魔王」
「えっ・・・?魔王?カルテナっていう人に?」
「そ・・・魔王カルテナに捨てられたの。」
「・・・」
「・・・」
「黙らないでよ。虚しくなっちゃうじゃない。」
「ゴメン」
「いいのよ。捨てられたのもこっちに原因があるしね。」
なんでも彼女が言うには、ある日魔王は酒に酔い泥酔していた。あまりにも酔いすぎていたので、さすがにクルアレイクも注意をしたらしい。しかし、それが気に入らなかったのか魔王は城の窓から力の限り強くクルアレイクを放り投げてしまった。その時、着地の衝撃をやわらげるためにクルアレイクは蓄積されていた魔力を解放し、なんとか無事に着地できたものの、動くための力が残っておらず、その場に放置されてしまっていたのだという。その後何年も彼女はその場所で動くことができずにいた。風雨にさらされ、日光を遮るものもなく、何を考えればいいのかわからなかったクルアレイクは、孤独に耐えかねて、意識を保つことを放棄し眠りにつくことにした。
「そこで、あなたが私のことを咥えこんだから意識が戻ったのよ。」
「なるほどね~。」
一応納得した流河は魔王の魔道書だった「クルアレイク」ならこの世界の事を知っていると思い聞いてみることにする。
どうもこんにちは。作読双筆と申します。
プロローグをお読みでない方はそちらから読むことをお薦めします。
一話目でございます。
今回は主人公「天野流河」と
カルテナの魔道書「クルアレイク」の出会いを書いております。
クルアレイクは魔王「カルテナ」に作られ、
ある出来事がきっかけで魔王に捨てられてしまいます。
そんな魔道書と主人公が、今後共に旅をしていき、
活躍していく物語を書いていく予定なので、
今後とも読んでいただきたいと思っております。
これからも作読双筆を応援よろしくお願いします!