7話
『ALICEポート、事故船との通信回復・救難支援に』
翌朝のニュースは全てこんな見出が踊った。
昨日まで、乗員乗客全員が絶望的と言われてきた遭難船が、ここにきて正反対に情報が上向いた。
どこのポートが試みても返事がなく、最初の遭難信号が徐々に消えてしまったあとは、その受信すらままならなかったのに。
事故当時、何も注目されていなかった小さなポートが、今や世界中から見守られる場所となった。
数十台のカメラが並び、ひっきりなしに質問が飛び交う。いくら奏空でもこの全員を相手にするのは無理な話で。彼女は移民局に助けを求め、応援をもらっていた。
「しかし、誰も出来なかった船との通信をどのように回復させたんですか?」
やはり、質問はそこに集中した。
「簡単なことです。船には電気を使わずに受信してもらいました」
奏空が渚珠とのやり取りを簡単に説明していく。
「私たちは、所長が何もしていないとは思いませんでした。絶対に私たちと連絡しようとしていると信じて準備を進めました。また、所長も同じでした。仲間を信じて堪えてくれていました」
それを聞いた一同はあっけにとられていた。ループアンテナを使った鉱石ラジオの仕組みは、小学校の授業でも登場する簡単なものだし、学校によっては実習もあるくらいの話だ。また、弥咲が言っていたように、その回路は基本的に全ての船に仕込んである。
それを誰も思い付かないとは……。星間運行本部から誰も出席者がいないというのは、そこを指摘されたくないからだろう。
型にとらわれず使えるものは何でも使う。本来はルナ=モジュールの電波天文台のアンテナなど、使う頭もないかもしれない。
それを弥咲は逆の発想で使った。
通信アンテナではないが、広範囲な周波数を見られるし、他との競合で時間で区切られることもない。また大気圏外の望遠鏡だから機器の感度はとてつもなく鋭い。
これを微かなレベルでしかない受信用に使い、送信は自分たちから大出力で行う。これで救難のモールス信号から一歩一歩ここまで持ってきたのだ。
「先ほど、軌道の修正が終わりました。メインエンジンが使えないので、速度が上がりません。そのため、到着は予定より2日遅くなります」
「空気や食糧は?」
「空気などについては問題ありません。食糧は非常用などを使っています」
聞くまでもない。今奏空がしたいことは、熱々のスープを鍋いっぱいに持っていって振る舞ってやることなのだから。
「この数字でいい?」
『大丈夫。でも自動のオンオフ出来ないから、タイミングは任せるよ』
本来ならば、航行中の軌道修正はコンピュータが勝手にやってくれるわけで、コックピットはそれを監視しているだけだ。今回は違う。全部自分たちで操作する必要がある。それでも時間や方向などは地上からの指示があるからまだ気分的には楽だ。
渚珠が昔訓練したときは、アナログ計器だけで通信機器も使えない状況でも目的地に辿り着くもの。ルナ=モジュールの軌道上であったにしても、孤独の中で全部を自分だけで操作する訓練は一番辛かった。こんな試験を受けることを周囲が知ったら止めさせただろうが、その時の経験があるから今回の対応ができる。まさか使うとは思っていなかった手法を次々に使った。
「じゃあ、始めます。45秒で切ってください」
コックピットの三人でそれぞれ役目を決める。リンは時間を読む、ジャックが上下、渚珠が左右と決める。
「いつでもいいよ」
「じゃあ始めるぞ、3、2、1、ゴー!」
中型機とは言え、これだけの機体を自分たちで操作するのは大変だ。
「あと15秒」
「もっと左!」
「上に上げて」
使えている計器は水準機だけ。これが唯一の道標だ。もちろんメインの画面は消灯のまま。
「あと10」
「いいぞ、急に素直になってきやがった」
「あと5、4、3、2、1」
「切ってください!」「落とせ!」
船体からエンジンの音が消える。
「ALICEポート、軌道修正終わりましたぁ」
『了解。ちょっと待ってて』
結果は自分たちで知ることができないので、地上で見てもらう必要がある。
『渚珠ちゃんお疲れさま。完璧よ。ルナ=モジュールまで軌道にバッチリ乗ったわ』
「ふぅ。もうやだぁ~」
『あとは減速があるけと、それはこんなに凄くないから大丈夫』
「了解だよ」
全員力が抜けて、ドッシリとシートに座り込んだ。




