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星空のパッセージ【改稿対象】  作者: 小林汐希
5/12

5話

「松木さん、こちらです」


 コックピットに入ってきた少女を、船長のジャックは最初怪訝そうにしていた。


 この状態は通常の緊急時の対応では無理だと。外からの応援を依頼するしかないが、その手立てをパイロットのリンと考える段階に来ていたからだ。


「計器を見せてください」

「しかし……」


 しかし、彼女の胸元のネームプレートと一緒につけられている標を見付けて、ジャックは信じられない気がした。


「一等航行士……。これなら助かるかもしれない」


 コンピュータが使えない今、計器だけで運行するには、この少女の腕に任せなければならない。

 仮にコンピュータが再起動出来なくても、通信手段すら動かせば誘導で動かせる。


「お願いします」

「やってみましょう」


 リンの代わりにパイロット席に座ってみると、メインモニターは消えている。アナログの計器をいくつか読んでみると、とりあえず生命維持には当面問題なさそうだ。


「弥咲ちゃんここにいればなぁ……」


 彼女ならこんな状態でも抜け道を探し出してくれるだろう。


「リンさん、救難信号は出してますよね?」

「はい。ただメイン電源が使えないので、かなり出力は落としていますが」

「分かりました……」


 さて困った。デジタル通信機ではアンプがないと音声通信が出来ない。


 昔、技術の講義で受けたことを思い出す。アナログのAM変調方式なら、アンプが無くてもダイオードとヘッドホンを回路に直結させて受信はできるし、受信には電源もいらない。そして、最悪の場合に備えて、どの船にもその思想は備わっているはずだと弥咲も言っていたし、その際の回路の作り方も教えてくれていた。


 そして、弥咲は笑っていた。


『この滑走路も、丸ごとアンテナになっているんだよ』と。


 そうだ、絶大な信頼を寄せる仲間たちが何もしていない訳がない。ここは彼女たちからの声にかけるしかない。


「凪紗ちゃん、力を貸して……」


 予備回路から必要な部品を探し出して、即席の受信機を作り出す。


「リンさんは、そのまま遭難信号は出し続けてください。ジャック船長さんは、補助動力装置の起動をマニュアルで探してもらえますか? 外部の電源が使えない状態の動かし方が必ずあります」


 手分けが決まると、ヘッドホンをかぶって音を確認する。そんなときの周波数は凪紗と打ち合わせてある。ポケットの手帳の一番隅にそれを見つけた。


 ヒューズボックスを外してみると、やはりあった。船体全体をアンテナにして受信する裏技的とも言う手法を実現するためのループ回路だ。


「あったぁ!」


 これで凪紗が高出力で電波ビームを送ってくれれば、あちらからのメッセージは電気がなくても受け取れる。




 しばらく周波数を合わせてみるが、なかなか上手くはいかない。

 雑音で耳が痛くなりそうになったとき、微かに信号音が聞こえた。


「え? 書くものをください!」


 チューニングを合わせて、メモ帳に信号を書き出していく。


「凪紗ちゃんだ……」


 目に熱いものが溢れてくる。間違いない。自分に向けての連絡だからだ。


『遭難信号を確認。応答されたし』


「ちょっと待ってください。遭難信号のスイッチどれですか?」


 リンに聞いてみると、自動用のスイッチの隣に、手動で信号を発信できるスイッチがある。


「これで会話ができるよぉ」

「え?」


 渚珠は文字をコード表とにらめっこして、間違えてないことを確認すると即座に送信を始めた。


【凪紗へ、渚珠より】


 数秒後、受信信号のペースが変わった。

 間違いない。この先には凪紗たち仲間がいる。

 こちらからはまだ音声送信が出来ないことを知らせる。構わないから音声で指示を出してほしいと。


『渚珠ちゃん! 無事なの?』


 こちらは無事だ。あちらは三人だし、翻訳だって自動でしてしまう。


『よかった……。ちょっと待って、弥咲に変わる』

【了解】


 凪紗の最後の声は涙声だった。打ち合わせていたとはいえ、本番で使ったことは一度もなかったからだ。


『渚珠ちゃん、まず電源立ち上げるよ。それが出来れば、船の無線機使えるから』


 マニュアルを見ていたジャック船長を呼んで、二人でその内容を聞く。


「本気ですか? それで起動するんですか?」


 二人は客室内を抜けて後部の機器室に急いだ。もうそろそろ、素人には無重力状態での影響が出てしまうだろう。


 電源さえ入れば人工重力も復活する。もう少し頑張って。


 タービンを紐で引いて回して、そこに起動用の圧着点火プラグを動作させると、唸りをあげて発電機が回り始めた。


「やったぁ!」


 機内に明かりと重力が戻った。

 電子機器類が徐々に立ち上がってきた。しかし、メインコンピュータを起動できるほどの出力はない。

 それでも最悪の状態は切り抜けた。


「すごい子もいるもんだ……」


 状況を送信している渚珠を、船長は腕組みをして見ていた。



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