4話
『弥咲! すぐに来て!!』
この日は宿泊客もいなかったので、全員がそれぞれの部屋で寝静まっていた時、凪紗の叫び声が全館放送で流れた。
「どうした!」
「何かあったの?」
呼ばれた弥咲だけでなく、奏空も飛び起きてパジャマのまま凪紗の部屋に集まった。
自動管制にしてある機器から、個人の部屋のモニターに転送してあるデータに赤い文字が点滅している。
『遭難信号・テレメトリバースト受信』
凪紗や弥咲には一番恐ろしいメッセージだ。
自動的に発信されたもので、船体のコンピュータが自己修復できないと判断したときに、いわばダイイングメッセージのように保存していたデータを一気に送信する仕組みだからだ。
弥咲はその場でデータを見て断言した。
「機体のダメージはなさそう。今のところみんな無事だと思うよ」
「ねぇ……」
それまで二人のやり取りを見ていた奏空が座り込んだ。
「どうしたの奏空ちゃん?」
顔が真っ青になった奏空に驚く二人。
「便名見て……。渚珠ちゃん……」
「えっ!」
今度は二人とも顔が固まった。
レーダー記録の一番上を見る。奏空の言うとおりだ。
「と、とにかく私管制室に行ってみる。二人とも力を貸してちょうだい」
凪紗がすぐに着替えて飛び出していく。
さすがにパジャマでは行けない。二人とも各々の部屋に飛び込んだ。
10分後、三人は管制塔のモニターを見つめていた。
先ほどの遭難信号のニュースはすでにテレビなどでも速報で流れていた。
緊急特番が組まれている局すらある。
「とにかく、何が起こっているのか確認しないと」
「うん……。弥咲ちゃんどんな感じ?」
奏空の問いかけに、弥咲は難しそうな顔をしていた。
「うん……、機体は大丈夫だと思うよ。空気漏れとかではなさそうだし。でも、たぶん……」
弥咲はレーダー画面を見ていた。
「音声とデータの通信はどう?」
「ううん……どっちも」
凪紗が首を横に振る。
「ブレーカーが切れてるデータが来てる。だから、それを何とか戻せれば……」
「ブレーカー切れても予備電池があるでしょ?」
「うん。でも出力が弱いから通信に回せるかどうか」
「渚珠ちゃん、何とか出来るかな。お話しさえできればなぁ」
「コックピットにさえ入れればなんとかなると思う」
「でも、普通の人は中に入れてもらえ……あっ!」
奏空と凪紗が顔を見合わせる。
「本人、気付いてるよね……」
「渚珠ちゃん……、お願い。気付いて……。渚珠ちゃんなら入れるんだよ……」
航行中の船内で、操縦室に入れるのは、当然ごく限られた人物に限られる。
それは、仮に弥咲や凪紗でも同じこと。許可がなければ入ることはできない。
しかし、この非常時に例外的にそれが許されている資格がある。
これだけの強力なメンバーが揃うALICEポートの中で、渚珠だけが唯一持っている一等航行士。周回軌道上だけでなく、外宇宙をコンピュータなしでも計器と誘導だけで運行させる事ができる技術。
渚珠はこれを史上最年少で習得していた。勉学には関係なかったので、学校では公表してこなかったけれど、彼女のIDを確認すれば保有資格にきちんと登録されている。
コンピュータを使用して運行ができる二等航行士でも、連絡船の運航は可能で、船長となっている場合も多いし、凪紗もそれは持っている。
奏空の捜索で、この船についてもそのパターンだと分かった。ならば、例え相手が船長だとしても、渚珠が身分を明かせば指揮権を持つことも可能だ。
「渚珠ちゃんと連絡さえつけばきっとなんとかなる。私たちは信じて準備しましょう。弥咲は機体についての情報を集めてちょうだい。奏空は情報収集と、来たら報道の対応お願いできる?」
二人が部屋を出ていった後、凪紗は星間運行本部を呼び出した。
「あの、無線の出力制限を一時解除お願いします」
『どうしましたか?』
「A1592便にコンタクトを試みます。標準出力ではアンプなしでは聞こえません」
『まさか……』
受話器の向こうが絶句した。
「まだ、船内の状態は分かりません。でも、バーストの内容は解読ほぼ終わりました。船体は無事です。最後の位置から各レーダーサイトを使って場所を割り出しています」
それ以上聞くまでもない。運行本部よりも、傍受していた凪紗たちの方が対応が進んでいる。
『分かりました。周波数についてはモニターに出します。出力については無制限とします。進捗が分かりましたらお知らせください』
「ありがとう」
これで弥咲の準備はできた。あとはレーダーからの結果を待つだけだ。
「みんな、アンテナには近づかないでね。溶けちゃうわよ」
「まさか?」
戻ってきた弥咲に冷や汗が浮かんでいる。
「もうすぐ、場所が分かる。そこに向けてフル出力でコンタクトを試みます」
普段は見えない電波でも、最大出力ともなれば近距離で照射された場合、もはや兵器だ。しかし、25万キロ離れた、しかも砂粒のような宇宙船にアンプなしで声を届けるには、かなり乱暴だがこれしかない。
「凪紗、見つけた!」
「どこ!?」
弥咲の叫び声に即座に反応する。
「ルナの天文台経由で見つけたよ。モールス信号にてSOS発信中。場所座標はモニター1番に出てる」
「さすが渚珠ちゃん」
闇雲に動き回るよりも遭難信号を出して、指示を待った方が良い。
「渚珠ちゃん、受け取ってよね……」
凪紗は信号を受信したレーダーにそのまま追跡を依頼して、操作台に座った。




