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星空のパッセージ【改稿対象】  作者: 小林汐希
12/12

12話

 翌日、礼を言って一人で家を出た渚珠。平日だったし、みんなに送ってもらったりしたら、決心が鈍ってしまうかもしれない。


 それに、これが本来の自分の姿だ。この先は一人で歩いていかなくてはならない。


 卒業を期にアクトピアへ籍が移る渚珠。生まれ育ったこの街を住人として歩くのは最後になる。少し歩いて目に焼き付けておきたかった。


 生まれてから両親と暮らした部屋を見上げる。もちろんそこには今の住人が暮らしているはずだ。


 よく買い物をしたスーパーや学校の前も通った。


 最後にまた両親の眠る場所に向かう。


「この間はありがとう……。誉めてもらえるかな……、それとも怒られちゃうかな……」


 二人を亡くした原因を知れば知るほど、同じ道に進むことについて何度も悩んだ。それでも考えるほど他に道がなかった。


「これでね……、なかなか帰って来られなくなっちゃうけど、頑張ってくる」


 ヘルメットの中で涙がこぼれた。


「行ってきます」


 振り返らずにエアロックに戻る。圧力調整の作業が終わる前から、宇宙服のヘルメットを外して顔を拭った。


 そこからは出発ゲートに足を向けた。


 途中、幼い頃に遊んだ公園にも立ち寄った。当時は広いと思っていたけれど、今になりあの場所を知ってしまうと小さな味気ない広場だと思ってしまう。


 空調もあり、常に心地よいのだが、その分季節感もない。もしかしたら、自分が子供を産んで育てるのはこの星ではないかもしれない。

 実際に、自分が両親から教えられたのは、この星での生き方ではなかったと思うようになった。アクトピアで急かされない生き方の方があっていると見抜いていたのだろう。


 全ての手続きを終えて、待合室でぼんやり外を眺めているときだった。


「渚珠!」

「あれぇ、みんな……どうして?」


 桃香たちのチームだった。今日から訓練に入ったと思っていたが。


「松木さん、もう出発ですか?」

「あ、先生。ご無沙汰してました」


 渚珠が訓練をしていた時の担任だった。

 訓練初日ということで、各所の見学と挨拶に回っていたとの事。


「落ちこぼれのわたしをここまでしてくれた先生だから、絶対に大丈夫だよぉ」

「他の訓練生でこんなことしてるチームなんて無いってんだけど?」


 不思議がるメンバーに、渚珠は小声で耳打ちした。


「わたし、アクトピアで待ってるからね」


 もうデータを確認するまでもない。彼女は確信していた。半年から1年後、このメンバーは新しいポートのためにやって来る。そのために、校内で一番実績のある教官をつけたのだと。


「それでは、行きますね」


 帰りも高速船を使っての旅だ。渚珠には特に事故の影響はない。

 あれだけ過酷だった行きに比べ、帰りは退屈に感じてしまったほどだ。


「ただいまぁ。あうぅ奏空ちゃん」


 いつもの定期便で、久しぶりにALICEポートの岸壁に降り立った渚珠。仕事で出迎えに来ていた奏空はボートが見えなくなると、その場に座りこんで泣き出した。


「渚珠ちゃんだよね、嘘じゃないよね?」

「うん、ただいまぁ」


 渚珠も彼女の前にしゃがんで声をかけた。


「あ、そうだぁ……」


 帰り道、あまり話しかけられないように、髪の毛を後ろで一つに纏めてきた。もうそんな心配も要らない。いつも通りに両サイドのツインテールにリボンで結わえ直した。


「お帰りなさい」


 後ろから二人の足音が聞こえた。


「ただいまぁ。本当にありがとう」

「こっちこそ。無事でよかった」


「奏空ちゃん、ほら、ごはん用意したんでしょ? 泣いてないで準備お願い」

「うん」


 走っていく奏空。渚珠の荷物を持って弥咲はその後ろ姿を見つめていた。


「奏空ちゃんさ、あの後もほとんど寝れなかったんだよ。お客さんいないのに、毎晩カウンターにいてさ」

「奏空ちゃん……」

「今朝も本当に早くから準備してたし」


 食堂に着くと、二人が言うとおり、テーブルの上には奏空の手料理が並んでいた。


「渚珠ちゃん、お帰りなさい」

「いやー、本当に寿命が縮んだわぁ」


 久しぶりに四人そろっての食事。話題はやはり一つしかなかった。


「みんな、無茶ぶりしたって聞いてるけど、どこかから怒られたりしてない? わたしが帰ったらあちこち連絡するって言っておいたけど」


 自分たちを助けるために、超法規的なことも数多くやったと聞いてはいた。


「そんなの大丈夫。報告書なんかとっくにやっつけておいたから」


 凪紗が言うのだから間違いないのだろう。


「そうそう。秋に修学旅行で来ていた桃香ちゃんたちね、今年の冬くらいかなぁ……、新しいポートを作りに来るよ」

「え? そんな話が進んでたの?」

「それがねぇ……」


 卒業式の後からの一件を話すと、他のメンバーも興味を示したようだ。


「それかぁ……。なんか最近さぁ、知り合いとかから問合せ増えたんだよなぁ」


 弥咲のところにもそんな話が入っていた。


「数が増えるのは嬉しいけど、うちもレベル落とさないようにしないとね」

「みんな、うちが目標だって言うんだもん。嬉しいようなプレッシャーだよぉ」

「大丈夫よ。チーム渚珠は最強だって。今度から緊急事態の第1報告に入ることになったから」


 優秀なメンバーだらけでも大変な話だ。


 一般の旅客だけでなく、危機管理などについては関係者の見学申込も増えたと言う。


「ALICEポートは誰が欠けても駄目なんだよ。初代からそうやって乗り越えてきたんだから」


 そう、その昔ALICEポートを立ち上げたとき初代メンバーはわずか五人。渚珠の先祖でもある朱里は最も信頼できる最高のメンバーだけを残した。誰も欠けてはいけない。今も彼女たちはこの島で五人一緒に眠っている。それだけの信頼感がここの秘訣だ。

 多くの仕事を担当は出来ないが、やることはどこにも負けない。


「あとは、お医者さんだよね。どこにいるのかなぁ」


 各自部屋に戻って、渚珠は久しぶりに窓を開けた。やはり、星空が見られるこの部屋がいい。


「渚珠ちゃん?」

「あ、奏空ちゃん」


 部屋の外を散歩していたのだろう。彼女をデッキのテーブルに招いた。


 部屋の冷蔵庫から飲み物を持ってくる。


「奏空ちゃん、本当にありがとうね」

「え? 私は何も出来なかったよ?」


 どうしても他の技術陣二人に比べて、今回は影が薄くなってしまった感のある奏空。


「知ってるよ。奏空ちゃんが桃ちゃんに誰よりも先にわたしたちが無事だって電話してくれたって。だからルナで準備が間に合ったんだって」


 桃香が話してくれた。絶望と言われた中、その一報で桃香は父親に報告。彼は一番高軌道にある補給ステーションの高度を更に上げ、船を迎える準備を進め到着までの時間の短縮を計った。


 あれがなければエンジンが使えない船では降りていくことができず、また数時間以上を必要とした。その状態では、全員無事は達成できなかったかもしれない。


「渚珠ちゃんにまた会いたかった。それだけだった。本当はあの船の軌道情報を漏らすって大きな違反なの知ってたけど……。だから、処分も受けるよ」


 弥咲も凪紗も知らない彼女の功績。

 ジャック船長も言っていた。この軌道にいてくれて助かったと。しかし渚珠は直感で偶然とは思っていなかった。誰かがこの場所を指示したはずだと。


 うなだれている奏空の前に立って、そっと髪を撫でたあと、彼女の右耳を自分の両胸の間に押し当てるように抱き寄せた。


「奏空ちゃん……聞こえる?」


 柔らかいパジャマを通しても、渚珠の鼓動は奏空に十分届いていた。


「うん。渚珠ちゃんの心臓の音がするよ」

「奏空ちゃんとみんなのおかげで動いてるんだよ。命の恩人だよ」


 渚珠は奏空の涙を指でぬぐった。


「わたしだって、一歩間違えればハイジャックだもん。今回の事故はね、いろいろあったけど、誰も処分はないよ。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」


 その話はここに戻る船内で済ませてきた。確かに問題が無かったわけではないが、結局救出手段を行使できなかった運行本部に非難が集中してしまった。


「その代わりねぇ、今回のやり方をマニュアルに落として公開するってことなんだけど、それはわたしのお仕事だし。奏空ちゃんは何も心配しなくて大丈夫」

「本当に?」


 ようやく奏空が顔をあげた。


「うん。わたしもみんなと一緒にいたいし。わたしの居場所はここなんだぁって」

「渚珠ちゃん……」

「だから今日ね、みんなのこと見たら、わたしも泣きたくなっちゃって。でも奏空ちゃんが泣いちゃったからね。同じだよ」


 満月を見上げる渚珠。彼女は故郷に別れを告げてきた。


「もう、行くところがないんだぁ」

「ここにいてよ。渚珠ちゃんの故郷にしてよ」

「うん、ありがと。そうさせてもらうよ」


 寂しくないと言えば嘘になる。でも、新しい門出を祝ってくれる仲間たちがいてくれる。『ここでいいんだ』と言い聞かせてみる。


 そんな渚珠の気持ちを落ち着かせるように、海の夜風と波の音はいつまでも奏でていてくれた。

今回も最後までありがとうございました。

渚珠というヒロインは、これまでの他のシリーズのヒロインたちと何処か似ているところもあれば、やはり彼女なりにカスタマイズされているという(笑)。

今回のように、一見すると普通の女の子が実は凄い子だったというコンセプトは、実はもう10年以上前、私が物書きの端くれとして動き始めた当初から暖めていたものでした。 ですが、どういうヒロインにどのシチュエーションでスタートさせるか、これが決まらなくてお蔵入りした原案を、「ちょっとだけSF」にしたこのシリーズの渚珠に実現してもらうことになりました。(はい、完全に自己満足の世界ですね)

また、どうしても専門用語が出てしまう所や、技術的にあれ?という部分があるかと思いますが、そこはご都合主義でスルーしていただければとお願いしたい次第です(多謝)。


この段階で、このシリーズについては、後半で出てきました桃香チームの部分も含めて、現在2本の構想が上がっていますが、のんびり続けていこうと思います。

また、次回もお付き合いいただければ幸いです。


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