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星空のパッセージ【改稿対象】  作者: 小林汐希
1/12

1話

「もうすぐ春だねぇ」

「そうだね。今年は雪が少なくて助かったよ」

「わたしには雪なんて資料でしか知らなかったからびっくりだよぉ」


 松木渚珠まつきなみ広瀬奏空ひろせそらの二人の会話。ALICEポートの玄関前の花壇に花を植えながらの時間。カレンダーは2月だけど、下旬ともなればすっかり陽の光は春の柔らかいものになっていた。気を抜いていようものならいくらでも昼寝が出来そうなほど。


 午前中の定期ボートを見送ったあと、今日は宿泊も昼食の時間の来客も予定されていない。

 そんな日は大掃除だと奏空は朝から走り回り、渚珠はボートから下ろした荷物を仕訳して、自分の定常作業を終えてから、それに加勢することにした。





 渚珠がこのALICEポートにやってきてから、9ヶ月が間もなく経過する。


 あれほどドタバタと、最初は右も左も分からなかった渚珠。今ではすっかり落ち着きを取り戻して、初期のメンバーである奏空と水沼凪紗みずぬまなぎさ河嶋弥咲かわしまみさきと同じように過ごせるようになっていた。


 仕事の方も、ほぼ全てを移管してもらい、月に1度あるポート管理者の会議にも渚珠一人で出席しているほどで、書類を見ないと彼女がまだ見習い生であることを忘れられてしまう成長を見せていた。。



「ねぇ、渚珠ちゃん。卒業式とかルナでもあるの?」

「そうだねぇ。わたしみたいのってどうなんのかなぁ。一応来週の頭にあることは知ってるんだけど、通知も来てないしなぁ」


 渚珠もまだ形としてはルナ=モジュールのミドルスクールに学籍を置く中学生だ。


 今月の頭に、最後のレポートを提出していた。インターン中では仕事をしながらレポートを提出することで、単位を認定してもらい卒業することも出来る。

 毎年同じようにインターンからそのまま就職というケースもあるはずだが、卒業式をどうするのかと気にしたこともなかった。


「そうだねぇ。行くなら準備しなくちゃだよ。問い合わせてみる」


 花壇の手入れを終えて、時計を見るともう昼食の準備だ。


「私食事の用意するから、渚珠ちゃん問い合わせと用意しておきなよ」


 奏空が言ってくれたので、自分の部屋に戻り、学校の連絡先を確認する。


 時計を確認すると、まだ学校が開いている時間だ。なにしろこのアクトピアだけでも各地の時差があるのに、38万キロも離れたルナ=モジュールの各コロニーとの時差は覚えきれるものではない。


『はい。ルナ第一ミドルスクールです』


 普段はメールやオンデマンドのデータ送信で済ませるのだが、こう言う時のためのリアルタイムも当然ある。


「あ、教頭先生。お久しぶりです。3年3組の松木です」


『おや、松木さん。いかがですかそちらは?』


 星間通信のため、どうしてもリアルタイムで話せる空間には限度がある。ルナ=モジュールとだって送受信まで若干のタイムラグは出てしまう。帯域を絞るため、ホログラムではなく、ディスプレイを使ったモニター通信にしてもこの遅延は仕方ない。


「あの、卒業式なんですが、わたしも参加できるんですか?」


『もちろん、先日のレポートで卒業単位は確認できました。是非いらしてください。あれ、おかしいな。通知は以前の連絡先に送っているはずなんですが』


「分かりました。仕事の調整が出来るか確認してみますね」


 通信を切って、スケジューラを確認する。

 通常、アクトピアからルナ=モジュールまでは約2日半の旅になる。高速船を使えば1日の行程に短縮できるから、そちらでの往復になるだろう。


 通知が以前世話になっていた親戚宅に送られているというが、いつも転送されてくるのが来てないというのも不思議な話だ。

 それでも、別に不都合があることではないので、渚珠は自分のスケジュールを押さえた。


「あぁ、こんな制服だったっけぇ」


 クローゼットの奥に吊るしてあった制服を取り出す。もともとの中学生として生活していた時のもの。ここに来てからは今のALICEポートの制服になっているから、しばらく袖を通していない。


 今から見ればずいぶん野暮ったいデザインのブレザーだと思った。

 でも、これを着られるのも今回が最後になるだろう。

 現地の家族にはメールで行くことを知らせた。

 必要なものをキャリーケースに詰めて、昼食の席に戻った。


「どうだった?」

「やっぱり今度の土曜だったよぉ」

「それじゃぁ、急いで行かなくちゃ。こっちは大丈夫だから行ってきなよ」


 奏空から他の二人には話が伝わっていたらしい。弥咲が言ってくれる。残りの三人は飛び級の卒業を去年しているとのことでこの春は予定が入っていないとのこと。


「明日からお休みして行ってくるよ」


 昼食の時間でそれが決まって、渚珠が午後の仕事に戻ったとき、思いがけない訪問者がやって来た。


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