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指輪が二つ

今回で一応の完結です


 「それじゃ、宜しくお願いします。」


 アーサーの手紙への返事を、もうすっかりと馴染になってしまった商人に託して俺は店へと戻った。


 それにしてもあいつ筆まめ過ぎ!

 二週間に一度は手紙を寄越すから、俺みたいなヤツじゃなきゃ返事を出す金や手立てにもひと苦労だろう。

 

 結果としてあいつのトコの領地の近況についてはこの街で一番詳しい人間になってしまっている。


 「是非、遊びに来てくれ!」って毎回書いてきてるから、その内行かないとな・・・。


 


 ◆

 ◆




 仕事の方は店番や在庫の整理だけでなく、職人への発注やら、材料やら完成品を扱う商人への応対やら、ほぼ全面的に手伝うようになった。


 街にもすっかり馴染んだと言えるのではないだろうか?


 まあ、住所だけ聞いて大体どの辺り、とは分からないから、ずっと住んでいる人間とはまだまだ差があるけどな。


 うちの店の客層は街の住人7割、冒険者等の非定住者3割といった感じで冒険者もそこそこ顔を出すのだが、今、店に顔を見せている女性は「客」ではあっても「お客さん」じゃあない。


 買い物に来たお客さんじゃなく、コレットに会いに来た客だってことだ。


 いや、同年代の友人とか居ないのかな、と密かに気にしていたところだったが、ちゃんと友人が居たようでほっとした。

 おっさんやおばちゃん達には可愛がられているが、友人といった感じの相手はここでの生活でお目にかかったことが無かったのだ。


 「なるほどぉ・・・そういう趣味だったのね。道理で紹介してあげた男にはいい反応しない訳だ。」


 「いや、あの違うからね! そういうんじゃないから!」


 「いやいや。目を見れば分かる! 例えばこーんなことをしたら・・・。」


 「なにやってんの! レウスから離れなさい!」


 「おお、怒った、怒った、こわいこわい♪」


 仲が良さそうで実になにより。

 

 再会を喜び合うのもそこそこにコレットがいじり倒されている。

 昔からこういう力関係だったのだろう。

 このコレットの友人は魔法の才能があった事から、早い時期から冒険者として活動をしており、こうして近くで仕事があった際には必ず顔を見せに来るのだという。


 二人の会話で結婚して別の街で暮らしている共通の友人が居るなんてことも分かった。

 なんかコレットが若返ったように見えた。

 まあ、ある意味子どもっぽい感じになったとも言えるんだがな。


 さんざんコレットをいじり倒し、コレットに一番効果があると見て俺にちょっかいを出し、ふだんこの店ではあまり感じる事のない騒がしさを撒き散らして「しばらくはこの街に滞在するからまた顔を見せるわね!」と元気に去っていたコレットの友人。


 解放されたコレットは少し疲れた様子を見せていたが、それでもその表情は嬉しそうだった。




 ◆

 ◆




 王国では数年に一度の大哨戒が行われた。


 これは国が軍を用いて訓練を兼ねてモンスターや害獣の討伐を行うもので、冒険者や猟師の一部も駆り出されたりする。

 ついでに街道沿いのモンスター避けの塔の整備や補修も行われ、橋なども老朽化が進んでいるものはこの時に国費で補修や新設が行われる。


 流石に国も人員の面でも費用の面でも国内全てを一遍にやることは難しいので、今回はこの地域、次はこの地域といったようにエリアごとに行われており、今回は俺たちの住むこのエリアが対象となったのだ。


 商売ににとっては大商いのチャンスで、これを見越して畜産農家などでは少しずつ頭数を増やす等して、数年前から備えていた者も居る。


 コレットの店でも消耗品の魔法のアイテムがかなりの売り上げを見せ、一年分に当たる金額を一月で稼ぎ出した。


 ただ、この反動でモンスターなどの数が減る事からここを拠点にする冒険者の数が減ったり、一般の人やお店でもこの期に合わせて色々なものを新しく買い替えたりした結果、エアポケットの様に大哨戒後は普段より大幅に売り上げが落ち、店も暇になった。


 「暇だなぁ」「暇だね」と二人で言い合っていても仕方が無いので、これをいい機会に俺は村に里帰りしようと思い立った。


 コレットに話すと俺以上に乗り気で、「一度きちんとご挨拶にうかがいに行かなくちゃと思ってたのよね」とテキパキと支度をしたり、お土産に持っていくものを準備したりし始めた。

 俺一人で行くつもりだったが、確かに今世話になってるコレットと一緒に行った方が親も安心するだろう。


 俺が都で買ったものや、コレットが用意したもので、思っていた以上に荷物が増えたため、馬車まで借りることになった。


 意外なことにコレットは馬車が扱えるのだという。


 どっちかというと日常生活では、料理をする時以外は鈍臭いところがあるコレットが馬車を扱えるとは思わなかった。

 そんな思いが顔に出ていたのだろう、むくれたコレットをなだめるのに時間と気力をかなり使う事になる俺だった。




 ◆

 ◆




 来る時には自分の足で、不安と何故か増える金と言う困惑を抱えて歩いてきた道を、呑気に馬車に乗って進んでいく。


 コレットの借りてきた馬車の馬は、見た目はもっさりとした冴えない感じだったが賢く大人しいいい馬で、動かし始めた時、まるでペーパードライバーが教習所以来久々に車に乗った時の様にぎこちなかったコレットの手綱でも、問題なくここまでの道を運んできてくれた。


 時々、教わる形で手綱を交代しているが、俺が馬車の扱いを上達したわけではなく、この馬だからうまくいっているんだろうな。


 大哨戒後で安全性が高まっていることもあって行き交う人々は多い。

 そうした人たちと会話を交わしたり、疲れた様子のお年寄りを荷台に乗せてあげたりとしながら道を行く。

 

 長時間乗ってはいるもののお尻が痛くなったりはしない。


 お店の売り物の、上に乗せた物の重量を軽減し、震動を抑えるクッションという密かなヒットアイテムを使用しているからだ。


 元々は壊れ易い荷物などを安全に運ぶ為に作られたエンチャントを、個人で使用するサイズに付与したこのクッションは行商人のマストアイテムになっている。


 二人分しか無いのでお年寄りを乗せてあげた時などは貸してしまって使えないが、宣伝と思えばいいし、ずっと使えなくなるわけでもない。


 そんな道中を過ごし、村まであと少し。

 俺以上にコレットが嬉しそうなのが不思議だが、まあ機嫌がいい分には問題はないだろう。


 久々だが、あんまりこの辺は変わってないな・・・。




 ◆

 ◆




 久々の実家、全然変わっていない。

 父も母も元気そうだ。

 コレットを紹介したり、お土産を渡したり、都で俺が買ったお土産の説明をしたりと一通りバタバタしている間に兄が帰ってきて、挨拶もそこそこに馬車の馬を馬車から外して世話をしにいってくれた。


 あー、大人しく待っててくれたんだな、あの馬には悪い事をした。

 兄が戻ってきてくれなければ更に放置したまんまだった。


 その足で三男の兄も呼びに行ってくれて、隣村へ婿に行った次兄以外の家族が揃った。

 デリオおじさんのとこのアニタも何故か居たので不思議に思っていたのだが、兄との結婚が決まって時々この家に来ているのだそうだ。

 知っていたなら何かお祝いでも買ってきたのにな。


 まあ、おめでたい話だ、祝福の言葉を述べ「義姉さん」と呼ぶとアニタは真っ赤になって照れていた。


 三男の兄はどこか職人街のおっさんたちを思わせる筋肉のつき方をしていて、将来的にはあんな感じになるのかな、などと思ったら少し笑えた。


 「すっかり息子がお世話になってしまっているようで・・・。」

 「いえいえ、こちらこそレウスにはすっかり頼ってしまってばかりで・・・。」


 そんなことを考えていた俺の横では大人な挨拶が行われている。

 お互い悪い印象は無かったようでなにより。


 どちらも俺にとっては大事な人だ。

 いい人同士でも相性が悪いということもある。

 これからも仲良くしていけそうで、ほっとした。


 「これからも息子のこと、どうかよろしくお願いします。」

 「はい! 一生大事にします!」


 え?

 あれ~?



 

 ◆

 ◆



 俺の生まれ育った村で少しのんびりとして、街に帰って来た俺たち。


 村の家では街での暮らしを語ったり、村での変化を聞いたり、都に行った話をしたり、コレットと母とアニタが料理を一緒にしたりと、穏やかな時間を過ごした。


 でもって、まあ、その、なんだ。


 「そういうこと」になった。


 文句は無いんだ、文句は。


 「どっちからもプロポーズとかしてないよな」とか、「村に行くのに妙に張り切ったり緊張したりしてたのはそういうことだったのか」とか、まあそういったことはあるが、不満など言おうもんなら職人のおっちゃんたちに寄ってたかってボコボコにされるだろう。


 報告に行った際にも励まし半分、脅し半分でバシバシ肩や背中を引っ叩かれて、ドワーフのおっちゃんにいたっては肩をガッシリ掴んで「泣かせるんじゃねえぞ!」と指の跡が痣になるくらいの力でやってくれちゃったしな。


 すぐにどうこうということではない。

 俺が十五歳になったら、ということになっている。


 今日はドワーフのおっちゃんに頼んでいたものを受け取りに行くところだ。


 「おう、出来てるぞ。にしても珍しいエンチャント頼みやがるな。」

 「あんまり頼む人いませんか?」

 「おう、やれ防御力アップだの、属性防御だのそんなのばっかでな! 幸運上昇なんてのは存在自体知らねえヤツの方が多いんじゃねえか?」

 「腕輪と髪飾りがありますからね。あとはささやかな幸せがあれば十分じゃないですか?」

 「はは、まだガキの癖に枯れてやがるな。まあ、変に冒険心のあるヤツより嬢ちゃんの相手にはいいかもな。しっかりやれよ!」

 「はい!」


 また叩かれた。

 むこうにしてみりゃ激励なんだろうけど、おっちゃんたち力が強いから痛えんだよな・・・。


 ポケットの中には指輪が二つ。

 俺の分とコレットの分。

 この世界では婚約指輪だの結婚指輪だのは無いが、増やしたので無い「稼いだ」といえる金で作りたかったので、頼むまでに少し時間がかかってしまった。


 持っている金が増える不思議な力。

 別に封印するつもりは一切無い。

 必要になればいつだって使うつもりだ。


 別に自分の自制心や判断力を過信するつもりは無い。


 俺が馬鹿なことをすればコレットが怒ってくれるし、しょうもないことに金や力を使おうとすれば悲しい顔をするだろう。


 だから平気だと思う。


 

 店のドアを開けながら、さてどうやって渡そうかと考える。


 喜んでもらえるといいな・・・。




口に咥えた金属が銀になってしまうという

主人公の娘を主役にした続き等も思い浮かんでいますが

取り敢えずはここで完結です

コメント、評価、更新の度の愛読ありがとうございました




色々と面白がっていただけた主人公の力ですが

町に生まれて良識的な親に育てられてたら

全くと言っていいくらい問題にならないんですよね、実は

この作品のコレットが親に変わるだけ

「増えて焦る」って事態が全く発生しなくなっちゃうんです


 金の問題を解決させない場合は短編で書いたように

 ①自分が上の立場で同等や上の人間に頼ったり、誰かにお金を預けたり出来ない

 ②非・社会的な立場で公的なものの力を借りられない

 ③たとえ自分が稼がなくても他の人間が金を持ってくるのでお金を減らすのが難しい

 とかをプラスする必要があるかな等と思います


 もっとド田舎に生まれて、町に着く前に重さに負けてへばって

 もったいなけど捨てなきゃいけないって事態を経験させた方が良かったかも?


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