スカーフが一枚
あと少しで完結予定です
完結までノンストップでいきます
「ふはははは・・・」という俺様笑いが似合うお貴族様。
イケメンマジ爆発しろ!
俺と同じ年なのに背が高いのもムカつく。
金持ってる貴族なら乗合馬車なんか乗ってるんじゃねーよ!
大金貨見せびらかしてるんじゃねえ、この国じゃなければ「ころしてでもうばいとる」になってるトコだぞ!?
俺らのことを「庶民、庶民」言うんじゃねえ!
一言で言うならアーサー・クルツ・ラングというその貴族は「気に食わないヤツ」だった。
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馬車で都まで一週間。
今暮らしている街の隣の町から乗って来たアーサーは、俺から見れば典型的な貴族のお坊ちゃまという感じだったのだが、意外と言うかコレットの評価は高かった。
「随分しっかりした子ね。親御さんがきちんと教育と教養を身に付けさせているのね。剣も飾りのようじゃないし・・・。それに彼が買おうとしてる『龍芽のしずく』って重い病気の人の治療に使うアイテムよ?」
都で開かれる魔法アイテムやレアアイテムのオークションに参加するため、アーサーは都に向かっているのだという話だ。大金貨を見せていたのも「これだけの大金貨を用意したのだ」という入手の自信を語る過程の出来事だ。ただ馬鹿みたいに見せびらかしてたんじゃないってことは、きちんと言わないといけないトコだったな。
馬車の中でも本を読み、休憩時や夜の宿泊前、朝の出発前には剣を振っている。
まあ、真面目なのは認めてやってもいい。
ちょっとこれ見よがしな気もするが。
「ほお、魔法の入門書か、庶民にしては実に感心だな。魔法が使えるのか?」
「いえ、魔法は使えませんが、魔法のアイテムのお店で働いていますので、魔法に関してある程度は知識を持っておきたいと思いまして・・・。」
相手は貴族だ。
俺も前世じゃ社会人経験あるし、嫌いな相手でも礼儀というフォーマットでやり過ごすことくらい出来る。
「うむ、向上心があって実に素晴らしいな! コレット殿も鼻が高いであろう!」
上から目線にカチンとくるのは前世の感覚が残り過ぎてるんだろうな。
他の同乗者は別にアーサーの言動に特に感情を動かされた様子は無い。
第一印象と庶民扱いは気に障ったが、年も同じな上にあちらから良く話しかけてくるので話をする様になった。
些細な引っかかることをスルーすれば、最初の印象と違ってアーサーはいいやつだった。
ていうか、聞けば聞くほど貴族に生まれなくて良かったって思うぞ?
勉強、食事、勉強、訓練、食事、勉強、訓練、勉強、食事、勉強、自習、睡眠がアーサーの普段の生活だそうだ。
学ぶ内容も税法や裁判などの領地経営に関することから、軍事に関する戦略、兵站、戦術等の知識と、剣術、馬術、弓術といった武術の鍛錬、 他所の貴族に関しての家紋や歴史、宮廷での地位、所領に関する情報、宮廷作法や貴族同士での付き合いに関する様々なお約束、ダンスや手紙の書き方、美術品、骨董品などに関する知識・・・「この世界の貴族は化け物か!」と言いたくなるハードさである。
「作法やダンスとか無駄じゃないの?」とコレットに聞いてみたところ、むしろその辺りが最重要なのだそうだ。
どういうことかと言うと、話し合いや利害調整の場合、相手と思考や知識に差が有り過ぎるとすり合わせが難しく、その部分に非常に時間がかかるのでそれを確認するのに時間がかかるが、作法等が出来ていれば「当然、この程度の教養はあり、貴族としての考え方が出来る人間」と見做して対応して良いということで、仕事をスムーズに進めることが出来るのだそうだ。
余計な調整や過程をすっ飛ばしたり出来るんで、時間なんかの無駄が大幅に省けるんだという。
しかもだ、趣味的なことすら貴族の場合、道具というか武器になるんだそうで、それはどういうことかというと、仕事上や領地の位置関係、これまでの親族関係なんていう繋がり以外の新たな繋がりが作れる上に、別の関係で対立状態にある相手でも、そうした趣味の場を通じて意思の疎通を図ったり、信頼関係を築いたりして、どうしようも無いほど決裂するのを防いだり出来ることもあるというのだ。
いや、もうこれはお気楽に生きてる庶民は下に見られても仕方がないな?
下に見てるって言っても馬鹿にしてるってわけじゃなくて、大人が子どもを見つめる目の様な目だしな、少なくともアーサーは。
農作業に励んだり、街で商売をする人なんかを見るアーサーの目は、微笑ましいものを見るような喜ばしさに満ちている。
「半分、休暇みたいなものだな、今回の都行きは。剣はともかく弓はかなり鈍ってしまいそうで不安だが、まあ、庶民と共に行くのに弓であちこち射てみたり、狩りをしたりするわけにもいかぬからな、」
俺の弓は自作、自己流、対小動物専門だからなぁ、比較対象なんかにならないだろうな。
そんな感じで当初思っても見なかったほど親交を深めた俺たちは、都へと到着したのだった。
◆
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アーサーが泣いている。
あの不敵で、見方によっては傲慢にすら見えるアーサーが泣いている。
都についてコレットと不足していたアイテム材料の手配を済ませ、頼まれていた買い物のいくつかを済ませて宿に戻った俺たちが目にしたのは、本来ならたとえ泣くにしても人の目に着かない場所で一人で泣くであろうアーサーが、そうした取り繕いさえ出来ぬほど落ち込み、泣いている姿だった。
アーサーが見せびらかす様に見せていた大金貨二枚。
実のところ使うことが出来るのはその内の一枚のみで、もう一枚は他の購入希望者を牽制する噂を立ててもらうことを狙いに親から借りて来た領地の為に使用する事が決まっている決して使えない大金貨だったのだそうだ。
それでもアーサーが買おうとしているアイテムはこれまでの例では金貨60枚から80枚で取引される品で、競合する相手が熱くなって競ってでも来ない限り100枚は超えないため問題なく購入出来るはずだった。
なにせ、今回は同じアイテムが3つ出展され、それも一日にまとめてではなく、三日間にわたって一つずつオークションにかけられるため、もし万が一、初日で百枚を超える様なことになっても残りの二つのどちらかは買えたからだ。
アーサーにとって運が悪かったのは、このアイテムを「恩を売ったり、なにかあった時の代価」として使う為に購入しようと思い立った、これまで何人も大臣を出してきた家系の伯爵が居たことだ。
大金貨四枚という予算で、今回オークションに出されるものを全て買おうとしており、今日もアーサーが予算ギリギリの百枚という価格を提示しても百二十枚という一気に突き放す価格で落札してしまった。
このペースで競り合っても120枚×3=360枚と十分大金貨四枚の枠に収まってしまうため、どうやってもアーサーが落札することが出来ない。
アーサーがこのアイテムを求めた理由は乳姉妹の為、乳母の娘で仲良く育ち、現在はアーサー付きの侍女として仕えている少女がかかった病の治療に必要だったからだ。
一刻を争うというほどではないが、さほど遠くない内に命を失うことになるという病。本来、アーサーの鎧を仕立てるためにとって置かれた大金貨を、親を説得してこのアイテムを入手するためにやってきたアーサー。購入資金の他は自分自身が折に触れてコツコツと貯めたお金であった為、乗合馬車を使い、俺たちが泊まるようなレベルの宿を取っていたのだった。
「大事な子なのね、それにしても無茶をするわ。」
親がその為にわざわざ取っておいた鎧の購入資金。
それが無ければ有り物の量産品や中古品になる。
貴族の見栄えは同レベルの教養、知識、常識を持つ者だと周りに伝える意味があるから、それが出来なければ侮られたり、馬鹿にされたり、あるいは相手にされなかったりする。
お金持ちお坊ちゃん高校の入学式に制服が買えなくて、白ワイシャツに中学の制服のズボンで出席した生徒の学校生活がどうなるかを考えてもらえば分かりやすいだろう。
自分がそうした一生モノのデメリットを背負ってまで助けようとしたのに、想定外の事態でそれすら不可能になろうとしている。
・・・そりゃアーサーじゃなくても泣くわ。
でも泣いてる暇はないよな?
俺はアーサーの頭をぶん殴るとこちらに注意を向けさせる。
不敬だ?
非常時だ、仕方ないだろ!?
俺はアーサーへと語りだした。
◆
◆
「心の友よ! 何かあれば是非、今度は俺に力にならせてくれ!」
笑顔で手を振るアーサーと別れる。
ジャ●アンかよ!
まあ、心の友かはともかくとして友人と呼ぶのは吝かでないがな。
あの後、俺は有無を言わさずアーサーに大金貨一枚を金貨百枚に崩させようとした。
その上でその百枚を俺に貸すよう強要した。
それまで実験したとことは無かったがたぶん大丈夫だろうし、これ以外手はなかった。
とはいえ金額が金額だ、多少程度の信頼では難しいだろう。
そこで俺は商業ギルドの登録カードを担保として押し付けた。
これにはむしろコレットが慌てた。
「レウス、あなた、なにするの! これを渡すってことがどういうことかわかってるの?」
「人生の半分預けるようなもんだよね?」
「下手すりゃそれだけじゃ済まないわよ!」
「そんくらい信じなきゃ、信じてもらえないでしょ?」
「す、すまぬが、どういうことなのだろう。」
「いいからお前はその大金貨両替してこい!」
「う、うむ、なんだかわからぬがわかった・・・。」
そんな経緯で強引にアーサーから金を借りる形を取り、翌日には想定通り金貨が二百枚、その二百枚を持ってアーサーとオークションに参加する。
伯爵の代理人との競り合い、二百枚の予算があったが伯爵が二百十枚で落札。
落ち込むアーサーの手に残った二百枚を押し付け「これで明日は買えるな!」と肩を叩く。
初日120枚、二日目210枚、計330枚。
最終日の伯爵の残予算は金貨70枚。
他の相手が競ってきても二百枚あれば問題無く落札出来る。
理解したアーサーの顔が輝くのを見て一言。
「これで借りた金の返済はオッケーだよな、カードの返却よろしく!」
結局、最終日目掛けて金をかき集めていたらしい第三者との競り合いで落札価格は金貨150枚になった。
アーサーは残った50枚を俺に渡そうとしたが、俺もそれを辞退して金貨の押し付け合いの挙句結局コレットが仲裁に入って、それぞれ25枚ずつということで落着した。
帰途に金が増える恐怖に、俺が都を駆けずり回って散在する羽目になったのは言うまでもない。
色々考えた末、いつになるかは分からないが村に帰った時の為、父母や兄たちへのお土産になるものを買った。
色々と目移りしてしまって、結局自分のために残ったのは金貨一枚。
奇しくもコレットに預けてあった、店を出る時に持って来た金額と一緒になった。
家族へのお土産を買ったことで、自分自身の購入欲は満たされてしまったので、自分のために何かを買うという気は起きなかった。
結局最後の金貨一枚はコレットにあげるスカーフを買った。
そんなバタバタとした出立で都を離れ、先ほどアーサーとも別れて後は店に帰るだけ、疲れが出たのかコテンと俺の肩に頭を預けながら眠るコレットと共に、馬車に揺られる俺だった。
コメントなどでいただいた「お金の問題解決しちゃうの?」
「魔法のアイテムとか増えないの?」という声に応えて
この連載の設定のままだと難しいので色々変えて短編にしてみました
転生義賊・半ズボン仮面↓
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