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栞が一葉

本の内容ネタがメイン

と見せかけて世界とかの紹介です


 雨が降っている。


 コレットは鼻歌を歌いながら料理を作っている。

 

 俺は店番をしながら買った本を読んでいる。


 読み書きは一通り習ったとはいえ文語的表現や特殊な言葉など分かりづらいところが出るとコレットに尋ねている。


 これまでに本屋で買った本は6冊。

 最初に買った三冊に加え、お小遣い制になる前に金を減らす為に買った魔法の入門書上下巻二冊と男の子心をくすぐる伝説の武器についての本。

 魔法は使えないが、どういったものがあるかを知るのはこの仕事にも役に立つだろうというのを表向き、魔法への単純な興味が本心で買った魔法入門書はなんだか簡単なことをやけに難しく書こうとしているようで読み辛かった。


 モンスターの図鑑は寝る前や暇な時にパラパラと見ている。

 意外なことに結構身近なところにもモンスターが居た。

 

 コレットも良く買い物をする八百屋で飼われている、ファンシーなアルマジロといった外見の生き物。

 図鑑を見るとモンスターの一種だが、草食性でクズ野菜や少し傷んだ果物などを餌にして飼っているそうで、「ウチ向きのペットだろ!」と八百屋のおっさんが可愛がっているように、人間に対する危険性は全くといっていいほどない。

 体の表面を覆っているアルマジロだと硬い部分。

 触らせてもらったがスポンジの様にふわふわだ。

 まさに「歩くぬいぐるみ」。

 図鑑の解説によれば、岩山などに住んでいて、外敵に襲われるとそのクッション性の高い体を生かして丸まって斜面を転がり落ちて逃げるのだという。

 チョコチョコとコミカルな歩き方だから、走って逃げるのは無理だというのは分かるが、随分と思い切った生態だと感心した。


 ただ、こうした例を見て分かるように普通の動物とモンスターの境界線が俺には非常に分かり辛い。

 学者的には境界線がしっかりあるのかと思いきや、どこで線を引くかは学者たちの間でも議論が絶えず、いまだに確定していないとのことで、「これは動物、これはモンスター」と言われた通りに覚えているしかないようだ。


 今読んでいるのはこの国の歴史。


 正直、わりと退屈な本だ。


 この国の歴史、なにしろ戦争が一切無い。


 建国もモンスターや害獣の脅威から身を守る為、集団武装化していった街が、周辺の村や別の町との協力関係を築き、何かあったときの助け合いの精神で友好を深め、規模が大きくなって気が付けば国と呼べるレベルに達してたんで建国を宣言し、代表者に対して「もう、王様と名乗っちゃってもいいんじゃないかな?」と周りが薦めて王が誕生したという、歴史に権謀術数やらドラマチックなエピソードを求める人からしてみれば「なにそのおとぎ話」と言いたくなる様な歴史なのだ。


 歴史的事件としてメインはモンスターの大量発生や天変地異で、モンスターの家畜化に成功したなんてことが大きな王室の功績として語られていたりする。


 ただ、著者(貴族らしい)のこの国への愛情とか誇らしさなんかが文章から溢れまくっていて、微笑ましい気持ちで読める。



 いい匂いがしてきた。

 今日はチーズを使わないピザの様な、薄焼きパンの上に具とソースと油と香辛料を乗せて焼いたもののようだ。

 焼きたてがおいしいんだよな。

 

 正直な腹の虫が鳴き声をあげた。

 



 ◆

 ◆




 お小遣い制になって気持ちに余裕が生まれると、金の使い道などを考えずに休みの日などに街の中の行ったことのない場所へ探検気分で足を運ぶ、なんてこともするようになった。


 コレットと一緒のこともあれば一人で出かけることもある。

 神殿ではすっかり顔を覚えられた。


 急に行かなくなるのも変なので、お小遣いの銀貨を使って発生した銅貨は無理に使い切ろうとせずに取っておいて、すこし貯まったら(あるいは増えたら)神殿に寄附している。


 銅貨のみなので、そのまま普通に受取ってもらえている。


 興味が無かったんで前世の日本人的感覚で、敬いはするものの信仰はしないといった感じで接して来た神様だが、買った神話の本を見る限りそれで十分なようだ。


 一神教なのか、多神教なのかさえ分からず「神様」と俺は呼んできたし、村の人なんかも大人でもそう言ってたが、この世界の神様は多神教で大勢居るのだという。

 

 神話の本を読むと似通った名前ばかりで混乱してしまうのだが、神殿ではそうした神様たちを纏めて祀っていて、神様たちの側でもそれは問題視していないらしい。手の空いてる神様や興味を持った神様が手を貸してくれることがあるといった感じで、「これは俺の権能だからお前は口を挟むな!」とかの神様の縄張り争いみたいなものは一切ない。それどころか、ちょっとした困りごとに暇を持て余した神様たちが寄ってたかって手を貸したために、想定を超えた大事になってしまったなどという神話すらある。


 親切でおせっかいなおじさんやお姉さん(自称でもされない限り「おばさん」と言うべきでないと前世や村での数少ない女性との関わりで理解した)たちの様な神様ばかりで、たまにぐうたらな怠け者の神様が居たり、寝てばかりで滅多に起きない神様がいたりするそうだ。


 国の成り立ちがああで、神様までこうなら、そりゃのどかというか暢気な国風にもなるのも理解出来る。


 神殿を後にした俺は最近では買うより立ち読みをすることが増えた本屋へと向かった。




 ◆

 ◆




 小遣い制になると流石に以前ほどの頻度では本を買えないので、自然と立ち読みで済ますことが増えた。


 結果として「これは買わないだろ」という本にも接する様になった。


 買うとなると何回も読めるとか、役に立つとか、あるいはコレットに見られたらどう思われるかなんてことを考えなくてはいけないが、立ち読みはその場だけの話なんで「これなんだろ?」とか「綺麗な装丁だな」とかでも手に取って読んだりする。


 立ち読みせずに買う人間でも年に二桁の本を買う人間は滅多にいないそうで、短期間で既に六冊の本を買っている俺は本屋からすると「上客」のようだ。


 本屋の店主に栞を貰った。


 常連客へのサービスだそうでこれを持っていると立ち読みの費用が半額になる。

 買う本に関しての割引は行わないのが残念だが、まあ有り難く受取りポケットに入れる。


 今日は立ち読みで目を付けていた本を買う為に小遣いをまとめたお金を持っている。

 お店の手伝いや勉強などで外に出ない日もあるため、目標額を決めればお小遣い制であっても比較的簡単にお金は確保出来る。


 今日買うのは旅行記とガイド本の中間の様な、この国の色々な町を紹介した本だ。主観満載でちょっとグルメ気取りが鼻につく描写が多いが、それでも結構面白い。

 流石に俺の出身村は紹介されていないが村から一番近い街は載っていて、そこの説明にうちの村も軽く触れてあったのがなんだか嬉しくなってしまい買う気になったのだ。


 その内、村にも帰ってみたいな。

 たくさん、おみやげ抱えてさ・・・。




 ◆

 ◆




 


 伝説の武器の本にどっかで見た様な苗字を見かけたんで尋ねてみたところ「俺の爺さんだ」といつもの調子でぶっきらぼうな返事が返ってきた。

 

 こちらはお小遣い制になって気軽に買える状態では無くなったが、職人街にはたまに足を運んでいる。


 顔を出すと鬱陶しがる様な言葉を吐くのに、しばらく行けないで居ると「なんでえ風邪でも引きやがったのか?」と来なかった理由を気にするドワーフのおっさん。

 ツンデレという言葉を現実のものとして理解するきっかけが、可愛い女の子でなくドワーフのおっさんというのは悲しいものがあるな。


 コレットの身内と見られていて、職人街のおっさんたちは口調こそ乱暴なものの俺に親切だ。

 鍜治場とかも覗かせてもらったことがある。


 凄かったが、暑いので時間を忘れて見入るなんてことは無かった。

 塩と水が切らせないというのは良く分かる。


 下働きの子らは忙しげに動き回っているので一緒に遊んだりとかはないが、それなりに顔馴染みになっていて挨拶をしたり、俺が果物なんかを抱えてたりする場合は、差し入れというかおすそ分けというかしたりもしている。


 冒険者を見かけてもビクつかずに済むようになった。

 職人街では良く見かけるし、女将さんのトコだとリラックスした感じの冒険者が多いので少し話をしたりもするので慣れた。


 女性の冒険者というのは少ないようだ。

 ローブを着た魔法使いっぽい女性を見たことがある程度で、男性の冒険者に多い剣と鎧の装備をした女性は見たことが無い。

 この辺りだけの話なのか、他の国とかでもそうなのかは分からない。

 

 この国の場合色々な意味で豊かなので、無理をしてまで冒険者をして金を稼がなくても他の仕事で十分に暮らしていける、というのも女性の冒険者が少ない理由としてあげられるかもしれない。


 お小遣い制になったことで「自分が使う為に買う」という意識が無くなったことから、武器屋や防具屋なんかも冷やかしたりするようになった。

 たいていがどこのお店でも「おお、これは!」という様なものがあって、そうしたものをじっと見ていると「分かるか、坊主」と言いたげな、顔は普段通りだが目だけ嬉しさを漏らすという器用な表情をおっさんやお兄さんが見せてくれる。

 職人の技の成果を見るのも楽しいが、そうした職人の微妙なプライドを垣間見させる表情の変化も楽しい。


 最後にドワーフのおっさんのトコにもう一度顔を見せて「今度は嬢ちゃんもつれて来い」とのセリフに「わかった」と返事をして職人街を後にした。




 ◆

 ◆



 

 「都に行くわよ!」

 俺が店に戻るなりコレットが唐突に宣言した。


 なんでも魔法のアイテムの作成に必要な素材のいくつかの流通が滞っているらしく、注文をしてもなかなか届かず、いつになったら手に入るか分からないといった状況で、職人さんたちも困っているのだそうだ。


 この地域最大の町だけあって、この街はこの地方で手に入るものならば大抵のものは手に入るのだが、国内でも別の地方でしか入手出来ないものは、大量に消費されるものはともかく、それ以外はなかなかこちらまで回ってこない。


 それでも都まで行けば、けっこうあっさりと入手出来たりするということで、今回、コレットが都に行こうとしているのはそうした理由だ。


 ついでにまだ不足はしていないが、この地方では入手が難しいものや、他の人に頼まれたものなども買うため、かなりの買い物をすることになる。


 「大変そうだな」などと思っていたら「レウスも行くのよ、当然でしょ!」とのこと。

 それならばと甕に入れて埋めてた金貨を取り出し、重量軽減の背負い袋を買うことにした。

 中の物の重さが半分になるというかなり効果の高いものだが、今の俺が背負えるサイズなので容量的にはそれほど大きくない。


 金貨四枚で購入。

 残りの金貨はまた甕に入れて土の中へ。


 出発直前に、また金貨一枚だけ取り出すつもりだ。


 コレットは「買わなくてはいけないもの」と「買いたいもの」のリストを作っている。

 コレットの話を聞きながら、俺も都行きが楽しみになってきた。



栞は一枚、一葉、一本、一片など色々な数え方があるようですね

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