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魔法石が一個

職人のおっさんといえばツンデレでしょう?


 色々と実験をしつつ、店の手伝いなども勉強の合間にする様になり、本屋で金を使ったり、10枚なら受取ってくれるから神殿に寄附をしたりしてた。魔法のアイテムも買ったが、俺が買うと店の利益を奪う形になるんで、どうしても欲しいものだけ、読書用に照明の石を買うだけにとどめた。


 埋めた金貨は増えなかったし、店に払ったお金も増えなかったんで実験第二弾をやりたいトコなんだが、「借金をしてお金を得た場合、そのお金はどうなるのか?」というものなんで、こちらが借金返済に協力したコレットに頼むのもおかしな話だし、かといって他に金を貸してくれる人は(まあいい人多過ぎるんで、あまり知らない人でも頼めば貸してくれそうなところが怖いが)いないので今すぐ確認することは出来ない。


 現状分かっているのは①身に着けていなくても増える②分けてもそれぞれ増える③人に預けると増えない④店に支払った金は増えない⑤埋めると増えない、あ、あと追加で実験したんだった⑥「これは自分の分、これはお店の分」と自分で決めて分けておいても、自分の手元にある限り関係無しに増える。

 おそらく「こうであろう」と予測しているルールは「どういう形であろうと『手放した』お金は増えない」というもの。

 もし借金しても増えるならこれに「どういう形であろうと手元にあって使えるお金は増える」ということになるのだろうか?


 それと商業ギルド関連の説明でコレットに聞いた話だが、商人同士の取引にしか使用されない「大金貨」と呼ばれるものがあるのだそうだ。


 今の俺の握りこぶし程度の大きさで中央に石が埋め込まれ、一枚で通常の金貨百枚分。

 最初聞いた時「最悪、それに両替しちゃえば重さとかの心配は要らないか」と希望を見た気がしたが、魔法的に石に、物理的に金貨自体にナンバリングされている上に、偽造の罪が「死刑+晒し首」、しかも偽造した大金貨を口に咥えさせるえげつない晒し方だという話。

 「使えないどころか、間違っても入手しないようにしないと」と青くなった。


 というのも倍倍ゲームで増えている金。

 よくよく一枚一枚見ると、「全く同じ」ものがあるのだ。

 

 金貨や銀貨や銅貨では問題は無いが、一枚一枚ナンバリングされている大金貨の場合、これは致命的だ。


 実際に手に入れる前に情報をきちんと知ることが出来たのは非常にラッキーだった。

 下手をしたら晒し首になるところだった。 

 人生どこに落とし穴があるかわからないな。


 まあそれでも、ある程度法則的なものは把握したんで、空になった酢漬けの甕に何かあった時用に、現状手元にある金貨全部、十四枚を入れて、普段は銀貨以下のお金しか持たないことにすると決めた。


 後はアクセサリの出来上がりを待つだけだ。

 あれが完成すれば、現状での一番の懸念が解消されるからな。




 ◆

 ◆




 アクセサリの完成まであと三日、というところで、恐れていた事態が発生した。


 ・・・風邪を引いた。


 それも熱が出て動けないタイプ。


 病気やら怪我で俺が動けなくなると、必然的に金を使うことが出来ず、雪ダルマ式に金が増えていってしまうことを俺は恐れていた。

 その為に病気や怪我の元になりやすい「疲れ」が出ないアクセサリを買おうとしていたのだ。

 注文した腕輪は更に対病魔まで付けてもらえることになってたんで、それを身に着ければ一安心と思ってたんだが・・・。


 父親を亡くした時を思い出させる状況なのか、コレットは俺の側から離れようとしない。


 涙目どころか、眠りから目を覚ますと泣いていることすらある。

 「大丈夫だから」と俺が口にしても不安はそうそう抜けないだろうし、ここは良く寝て少しでも早く治すしかない。


 自分でも意識してなかったけど村を出てから張ってた気が、コレットがらみの一連の騒動やらお金の倍倍ゲームに目処が付いて、抜けてしまったのだろう。

 

 こちらに生まれて、凄く小さい時はどうだったかはっきりとは覚えてないが、初めてなんじゃないか、こんな本格的な風邪を引くなんて。

 心配をかけているコレットには悪いが、こうして体調が悪い時に心配してくれる人が居るというのは非常に有り難い。


 コレットが摩り下ろしてくれたリンゴを食べさせてもらうと、、俺はまた眠りに付いた。



 

 ◆

 ◆




 風邪を引く前日に65枚有った銀貨は、俺が風邪で寝込んでいる間に260枚となった。

 時々やるように金を入れた袋を枕元に置いた状態だったんで、当然、コレットにバレた。

 一日目はともかく二日目となれば一目瞭然、いくら俺の風邪に不安定になっていたとはいえ、それに気付かないほどコレットはポンコツじゃない。


 正直、バレてほっとした。


 提供したお金の出所をコレットが知りたがっている素振りも見せていたし、何より一緒に暮らしてそれなりに親愛の情を抱いている相手に隠し事をしているという状態もつらかった。


 「バレてしまったんだから仕方が無い」と頭の中で色々とそれまで考えていたことを吹き飛ばして、コレットに自分自身で既に把握していることを説明する。


 「なんか分からんが手持ちの金が毎日、倍倍で増える、以上!」


 「いや、なによ、それ? でも、それが本当なら今まで疑問に思ってたことに説明付くのよね・・・三日間とか、そういうことでしょ?」


 思ってたより飲み込みが早くて助かる。


 「あの時は助かったけど、あんまりお金を増やすと大変なことになるわ。」


 はい、十分理解してます。


 「お店の売上げ、色々かかるお金とか引いた残りを共同経営者として半分ずつにしようかと思ってたけど、そういう事情じゃしょうがないわね。」


 うん、お金あんまり持たないでいたい。


 「というわけでお小遣い制にしましょう!」


 え?

 お小遣い?

 そんなまるで子どもな、いや子どもだけど、いやそれでも・・・そうだ、サラリーマンのお父さん的に考えれば・・・でも微妙。


 「一日銀貨一枚、分かりやすくていいでしょう? 何かどうしても欲しいものがある場合は要相談。お小遣いとして渡す分以外はこっちで保管しておくから、いいわよね?」


 「・・・はい」


 こうして、俺は金の悩みから開放されたのだった。




 ◆

 ◆




 アクセサリーの完成予定日、とくに何か言って寄越したりしないので予定通り完成しているだろう。


 本当は折を見て、何かの時にコレットの髪飾りは渡すつもりだったが、既に金に関してはバレているし、あのおっさんが俺の顔を見かける度にコレットからの感想を聞きたがるのはなんとなく予想出来る。

 それなら最初からコレットを連れて行ってしまった方がいいだろう。


 そう判断した俺は、コレットと共に外で食事をすると、その足で職人街の方へと歩く。


 俺より顔見知りの多い(まあ当然なんだが)コレットは街を歩くとそれなりの頻度で声をかけられる。

 単なる挨拶程度もあれば、八百屋や肉屋が「いいのが入ったよ!」と言ってくるのに「帰りに寄らせてもらうわ」とかやり取りしたり、俺が紹介されて挨拶をしたりと一人で歩く時より移動に時間がかかっているが、まあ、コレットが愉しそうなんでいいかなとも思う。


 職人街に入ってもおんなじというか、むしろ声をかけられる頻度が上がってる。

 おっさんたちにモテモテじゃないか、コレットは。

 若手の職人もぼーっとしてどつかれてる。

 この辺、そういや女性あんま見かけないしな。


 ドワーフのおっさんの店に入る。


 一見、最初に会った時と同じ様なムスッとした顔だが、俺には分かる。

 あれはニヤけるのを我慢しているせいで、普段以上にしかめっ面になってる顔だ。

 

 「おう、来たか。坊主のはこれだ、問題ないだろ?」

 ろくにこっちを見ずに腕輪を渡してくる。

 注文通り、銀を加工して光り具合を鈍くして、目立たないようにしてくれてる。

 よくよく見ればシンプルな飾りも実に見事な加工だ。

 ・・・いいね。

 思わずニヨニヨしてしまう。


 「でもって、おい、これお前から渡すのか? 直接渡していいのか?」

 「直接渡してあげてください。」

 ってか、最初から自分が渡す気満々じゃねーか。


 「あーっと、この髪飾りが嬢ちゃんのだな。金とミスリルで色々と身を守る付加を付けてある。うん、似合うな。」


 おっさんやるじゃないか。

 金とミスリル(初めて見るから分からんがそう言ってるからそうなんだろう)でところどころで絡まりながらも、全体としてのラインはシンプルで美しい。


 単体で見ても綺麗だが、コレットが身に着けるといっそういい感じになる。

 職人の本気の技だ。


 これを見ると俺用の腕輪は「いいもの」ではあるが「物凄くいいもの」ではないというのが良く分かる。

 

 元々何かしてやりたかったけど機会が無かったのを、俺からの注文を絶好のチャンスとしてやらかしやがったな?

 金貨240枚というかなりの値段だが、240枚出して他の人間が注文してもここまでの物は作らないだろ、おっさん?


 そういった思いを笑みに乗せておっさんを見ると、しかめた顔の皺が一層深くなる。


 「ありがとう!」


 コレットの言葉におっさんの口元がにやけた。




 ◆

 ◆




 上機嫌で歩くコレットに街の人たちが振り返る。


 うん、いや、整った顔をしてるな、とは思ってたよ?

 内側から出る喜びの輝きとか、髪飾りを付けるのにアップにした髪形とか、そうした今の姿に良く似合った髪飾りとか合わさって、なんか気後れするくらいに美人です。


 普段、地味・・・とは言わないけど抑えた感じなんでそんなに感じずに済んでたんだけどねぇ・・・。

 

 店に戻ってもコレットの上機嫌は続いた。

 今にも踊りだしそう。


 前世ではミュージカル(小学校で学年揃って見に行かされたのしか実物は見て無いけど)で「何故そこで踊る、何故そこで歌う!?」とか思ったりしてたんだが、嬉しさとか楽しさが極まった状態を踊りで表すのはある意味正しいのかもしれないな。


 一緒に振り回されるように踊ったりなんてことにはならなかったが、ハグ攻撃を受けた挙句おんぶお化け状態で貼り付かれた。


 「ありがとう・・・。」


 「うん、喜んでもらえてよかった。」


 しみじみとした雰囲気から唐突に「あ、そうだ!」とコレットに放り出される形になってよろける。


 ゴトゴトと棚の中を漁るコレット。


 「あれ? ここに・・・一昨年の在庫整理の時に移したんだっけ! えっとそうすんと・・・・・・あった!」


 魔法具の石に似ているが、もっと宝石っぽい。

 ミルクを水で薄めた様な色合いの石。


 「はい! お礼に受取って!」


 「なんです? これ?」


 「治癒の魔法石よ、お守りに持ってて。治す怪我の程度で使える回数が変わる上に、残りがどれくらいあるか分からないけど、結構いいものだから。」


 「いや、コレットが持ってた方がいいんじゃない?」


 「ふふ、この髪飾りに治癒が付いてるしね、大事な共同経営者パートナーだしね。」


 お礼と善意か、素直に受取るべきか。


 「ありがとう。」


 受取った石をポケットにしまう。


 冷たい筈の石にはコレットの体温が残っている気がした。



 

Before:金貨が増えて大変だ!

After:お小遣いは一日銀貨一枚!

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