オッタビアの手に渡った写真
大きな革張りの椅子に深く腰掛け、オッタビアが座っている。
その口にくわえた葉巻が紫煙をたゆませている。
その前に立っているチェーザレに向けられているオッタビアの目は、自分の煙が煙たい訳でもないはずだが、かなり目を細めている。
チェーザレはオッタビアに語りかけながら、二人の間に置かれた机の上の写真を並び替えている。
「まず、これが最初です。
あすかがこの通りに到着したところです」
チェーザレが一番左に置いた写真を指し示しながら言った。
「ここで重要なのは、あすかが現れるところから写真に撮られていると言う事です。つまり、最初からそのつもりだったと言う事です。
ここにあすかが現れると分かっていて、待ち構えていた」
「つまり、全ては仕組まれていたということか?」
すべてを悟ったオッタビアが、そう言うと共に、苦々しげな表情で、葉巻を押しつぶして、その火を消した。
「はい。
ヴィクトルのところにこの写真があり、カタラーニを攻撃したのがコルレオーネと言う事は、ヴィクトルとコルレオーネが裏でつながっていた。
目的はこのあすかと我々のヒューマノイドを戦わせるため。
どちらが潰れても、奴らに損はありません。
しかも、その戦闘能力を計る事もできますしね」
「それだけではない。
カタラーニも組んでいた可能性があるな。
裏切り者には死をだ」
オッタビアはそう言うと、写真を見たくないと言わんばかりに椅子を反転させ、机に背を向け、窓に顔を向けた。
「しかし、奴らが戦わそうと考えただけあって、このあすかも異常です。
あのセレンが負けてしまうなんて、普通ではありえない話ですよ。
見てください。このセレンの攻撃力」
そう言いながら、チェーザレが二枚の写真を手にした。
オッタビアが再びチェーザレの方に向き直り、チェーザレの手から写真を受け取った。
その一枚の写真にはセレンの攻撃によって折れ曲がった街路灯が、もう一枚の写真にはセレンによって叩き潰された車が写っていた。
「ヒューマノイドの威力など、写真に頼らずとも承知している事ではないか。
問題はこれほどまでのセレンの攻撃をかいくぐって、どうやって、このあすかはセレンを倒したのかと言う事だ」
オッタビアが苛立ちからにらみつけるような視線を向けながら、チェーザレにたずねた。
心の中に一つの仮説はあった。しかし、それは信じられないものでもあり、信じたくもないものであった。
「この女もヒューマノイドなのでしょうか?」
チェーザレの言葉もオッタビア自身の仮説と同じだった。しかし、この仮説には大きな謎があった。誰が、いつ、どこで造ったのか。
「しかし、そう簡単にヒューマノイドは作れんぞ」
「原があの地下でこっそりと作っていたと言うのは?」
「あそこには我々の部下が多くいたのだ。そんな事は出来るはずもない」
「では、その後で作ったと?」
「それもありえんだろう。あの女が現れ始めた時期を考えても、ヒューマノイドを作るには短すぎる」
「では、やはりただの人間なんでしょうか?」
「分からん。
が、セレンがやられたと言う事は、クラウディアが戦ってもやられる可能性があると言う事だ。
いや、他のヒューマノイドを倒したのも、この女と考えるべきだろう」
「このあすかがセレンを倒す事が出来たのは、この武器のおかげですね」
チェーザレがあすかがレーザー銃を構えている写真を取り上げながら言った。
「レーザーと言う話だが、こんな小型で強力なレーザーは原が作った物以外考えられん気がする。やはり、原と何らかの関係があるのだろうな」
「まずは、この神父をあたりますか?」
チェーザレがあすかが乗ってきた車の前席に座る神父を指して言った。
「神父か。この写真一枚で調べるには数が多すぎる。
しかし、教会の聖職者がこの女とどう言う関係なんだ?」
オッタビアは腕組みをしながら、思案気だった。




