エルカーンファミリー ボスの部屋
エルカーンのボスはその頃はまだ自分の部屋で推移をうかがっていた。
と言うより、元々たった一人の侵入者で、騒ぐことなど必要ないと考えていた。
それだけに、銃撃が止まぬ状況に苛立ち気味の表情で、手にしていた葉巻をぎゅっと灰皿に押し付けると、部屋で彼を警護しているソルジャーたちに怒鳴った。
「一体、何をしている。たった一人の侵入者に」
「ただ、恐ろしく強いようで。
ボスは念のため、地下室に避難しておいてください」
「たった一人にか?」
「必ず我々が倒しますが、念のため」
そう言いながら、一人のソルジャーが部屋の片隅に進んでいく。
そのソルジャーに視線向けたエルカーンのボスは忌々しげな表情を浮かべながら、立ち上がった。
ソルジャーが部屋の片隅に到着すると、そこに備え付けられていた棚に手をかけ、ぐっと気合のこもった表情で、目いっぱいの力で棚をずらし始めた。
その先には暗く、細い通路がつながっていて、さらに先には下る階段がある。
「こんな事は屈辱だ。
必ず倒せ」
ボスはそう言い残して、一人でそこに入って行った。
屋敷の中には止むことのない銃撃音が満ち、それに混じって何かと何かがぶつかるような鈍い音、そして時々聞きたくもない低い男の悲鳴がしている。
ボスの部屋の中では、ソルジャーたちがそんな屋敷の中の音に、じっと耳を傾けている。
一瞬の静寂。
ボスの部屋の中のソルジャーたちが顔を見合わせる。
階下が制圧された。
そう感じ取り、お互いの気合を確かめ合った。
再び銃撃音が轟き始めた。
今までより、はるかに大きな音となって、ボスの部屋の中に響いてくる。
敵は確実に自分たちのところに向かってきている。
ソルジャーたちの神経がますます研ぎ澄まされていく。
近くで轟く雷鳴かと思われるほどの大きさだった銃撃音が、瞬く間に静まっていく。
仲間がやられた。
残すは自分たちだけかも知れない。
ボスの部屋の中で待ち構えているソルジャーたちに緊張が走り、額に脂汗がにじむ。
銃を構える手も、小刻みに震え始めている。
不意打ち。
ソルジャーたちの脳裏に浮かぶ戦い方はそれだけだった。