血みどろの女性
その屋敷は少し小高い丘の上にあった。その広い敷地には木々と花が植えられており、空から降り注ぐ強い日差しが木々の緑を輝かせている。
吹き抜ける地中海気候らしい乾燥した風が木々の木の葉を揺らしている。
そんな木の葉のざわめきは屋敷の部屋の中にまで、心地よい音を届けていた。
屋敷の二階。
窓から差し込む日差しが部屋の中に適度な明かりを提供していた。
部屋の中を満たす豪華な調度品。木でできた大きな机。
そこに座る初老の男は立派な体格で、深く腰掛け、葉巻をくゆらせながら、鋭い眼光で前に立つ男と女性を見つめている。
その初老の男を囲むように男が三人、背後に立っている。三人の男の一人は初老の男と年のころは同じくらいだが、残りの二人は20代くらいだ。
三人とも、初老の男と変わらぬ鋭い眼光を放っている。並みの男たちではない。そんなオーラさえ感じられる。
しかし、それ以上に奇妙な者が、その場にいた。
初老の男たちの前に立つ女性である。
長く、本来は金色に輝き、風になびくであろうその髪。
今はべっとりと黒色に変色したものがこびりつき、鉄臭さを放っている。
鉄臭さを放っているのは髪だけではない。
女性の身を包む服は元のデザインが分からないほど、黒色に変色し、生地が持つ本来のしなやかさもなく、ごわごわに固まっている。
それは明らかに血である。
女性の顔にも、返り血がこびりついていて、本来の白い肌を覆い隠してしまっている。
そんな状態であるにもかかわらず、その女性は何の表情も浮かべず、平然と立ったままである。
そんな異様な女性の横に立つスーツに身を包んだ男はやたら興奮気味で、はや口で何かをまくし立てている。
時々、大げさなジェスチャーも入るが、初老の男はそんな興奮気味の男とは対照的にどっかりと構えたままである。
やがて、男の話が終わった。
「その話を奴にも聞かせてやろうではないか」
初老の男はそう言うと、机の引き出しを開け、その中に手を伸ばした。
初老の男の指先が引き出しの中に隠されたSWを探り当てると、男たちの背後の棚が静かに動き始めた。
棚が移動した空間に現れたのは金属のドアだった。その横にあるボタン。
明らかにそれはエレベータである。
初老の男が椅子から立ち上がる。背後の男たちが進路をさまだけまいと、左右によける。
初老の男がエレベータに近寄りボタンを押すと、金属のドアが開いた。
ビルにあるようなエレベータとは違い、中は広くは無い。それでも、この部屋にいる6人くらいが乗るスペースはあった。
6人が乗り込み、エレベータのドアが閉じられると、瞬く間にその狭い空間を女性の体中から放つ血の匂いが満たした。
静かに下降を始めたエレベータが到着したのはこの屋敷の地下だった。
静かに開くエレベータの扉。
開いた扉の先に見える空間は、どこかのハイテク企業の実験室。そう誤解さえしそうな空間だった。
その部屋の左側にずらりと並ぶワークステーション。その前に座る技術者らしき者たち。
そのワークステーションの画面に映し出されているのはプログラム、電気系あるいは機構系の設計ツールなどである。
そして、部屋の右側には様々な装置が並び実験、試作の環境が整っていた。