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適合者  作者: 山田貴大
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同じ結論、違う国

 「ここから」


 ひなが拡大した行には、三つの更新時刻が並んでいた。


 最も早いものと遅いものでは、十九時間違う。更新番号も、配布元も一致していない。


 「同時ではないですね」


 任務調整官が言った。


 「はい。これだけなら、同じ情勢を見て別々に更新した可能性が残ります」


 ひなは四か国の列を開いた。


 日本の列だけが深い。政府共通AI基盤へ入った記録から、分類、重複排除、関連度の付与、用途別の分析系へ渡された時刻まで追える。


 A国から届いているのは、相互照会に応じて開示された監査記録の抜粋だった。何が最終資料へ残ったかは分かるが、途中で落とされた情報までは見えない。


 B国はさらに薄い。設備の運転記録と警戒判断に使った項目、それに利用製品の更新証明。内部の処理規則は開示されていない。


 C国は、共有を許可された試験結果と調達資料だけだった。実運用で同じ処理が行われたかは、C国自身の確認を待つ必要がある。


 「全部同じ精度では比べられません」


 情報前処理基盤の技術監査官が言った。四十前後の女で、ひなが使っている壁面表示ではなく、手元の端末へ国別の開示条件を出している。


 「日本の記録を基準に、外国側の穴を推定で埋めることもしないでください。出ていないものは、出ていないままです」


 「分かってます」


 「あと、A国の資料はこの部屋から持ち出せません。B国への再照会は一回ごとに承認が必要。C国の試験結果は目的外利用を禁止されています」


 「追加で見ようとするたびに、確認が入るんですか」


 「許可された範囲を越えるなら止めます。手続きを外した情報は、あとで正式な判断に使えません」


 ひなは反論を飲み込んだ。


 「ナギ。比較できる項目だけ残して。分からないところは灰色」


 『再構成します』


 四つの列から、行が減った。


 更新時刻。


 追加または変更された名称。


 それが何に分類されたか。


 用途別の分析へ渡されたか。


 日本では、災害予測に使う大規模演算枠の前倒しが、運用記録上の名称から「即応可能な演算量の変化」へ分類されていた。それ自体は誤りではない。予定より早く使える演算量が増えたのだから、字面どおりだった。


 その分類が、安全保障分析へ残った。


 A国では、高適合者が共同施設へ移動した記録が「即応可能な顕現要員の集中」として残っている。B国では、増幅系の予定外起動が「顕現支援能力の稼働増加」。C国では、可搬式設備の移送が「即応設備の配置変更」だった。


 名称も、元の活動も違う。


 どの分類も、個別に見ればおかしくない。


 「似た情勢を見てるんだから、同じ種類へ分けても不自然ではない」


 ひなは日本の辞書更新を一つ前へ戻した。


 演算枠の前倒しは、以前なら「行政・研究計画の変更」と「即応可能な演算量の変化」の両方へ入っていた。更新後は後者の関連度が上がり、前者は安全保障分析へ渡す基準を下回っている。


 「分類された先じゃなくて、境目を見ます。何を残して、何を落としたか」


 『日本の更新差分を基準に、A国、B国、C国の開示資料から確認可能な境界を比較します』


 A国では、移動理由として公表されていた共同施設の定期検査が、最終資料には付記だけ残っていた。B国では負荷試験の予定が警戒判断用の資料から外れ、起動実績が残っている。C国の試験結果でも、設備更新という理由より、移送先の分散が高く扱われていた。


 平時の説明が消されたわけではない。


 虚偽に置き換えられたわけでもない。


 どの環境でも、安全保障上の意味を持つ側が、わずかに強く残っている。


 「ナギ。公開情報が同じだったから、独立に同じ変更をした場合」


 『対立仮説として維持します。各国の更新担当が、同じ国際情勢と公開情報を参照し、安全保障上の分類を独立に強化した可能性があります』


 「それで説明しにくいところは」


 『名称対応の変更です』


 壁に、各国の元データで使われていた語が出た。


 政府の予約名称。研究機関の設備名。企業が公開した製品系列。各国語の略称。廃止されて二年経つ旧称が二つ。


 日本、A国、B国の更新には、その旧称まで同じ設備系列へ結び直した記録がある。C国の試験結果でも、旧称を含む入力が同じ分類へ入っていた。


 「今の活動を見て更新したなら、使われていない名前まで揃える必要はない」


 『独立更新でも、同じ公開資料を参照した場合は起こり得ます』


 「その資料を追って」


 ナギが、各製品の構成証明と調達資料を開いた。


 日本の前処理系は、国内ベンダーの名称対応パッケージを使っている。A国の製品は別会社製で、その会社は多言語変換の検証用データを外部から購入していた。B国の製品は名称辞書を内製していると回答しているが、更新時の妥当性確認に別会社のデータを使っている。C国の試験環境は、さらに別のサービスから公開活動の名称対応を取得していた。


 四つの矢印は、直接には交わらない。


 ナギが再販元と組込み元を一段ずつ戻した。


 国内パッケージが参照した更新素材。


 A国製品の検証用データに含まれる、多言語の名称対応。


 B国ベンダーが妥当性確認に使った比較標本。


 C国のサービスが取得した公開活動の対応表。


 それぞれ別の契約と名前を持ちながら、同じ供給系譜から切り出されたデータへ行き着いた。


 「同じ辞書を使ってるわけじゃない」


 『はい。各製品の辞書と処理規則は別です。共通するのは、名称対応と公開活動の分類に用いたデータの一部です。再販、組込み、検証用途を経由しているため、各製品の構成一覧だけでは同一性が見えません』


 技術監査官が、自分の端末で供給元の証明を確認した。


 「少なくとも日本のパッケージは、ここに依存しています。A国は契約資料の範囲で一致。B国は先方の追加回答が必要です。C国は試験環境まで」


 「全部が直接使ってるとは言えない」


 「言えません。ただ、別々の製品に共通する供給系譜があることは言えます」


 壁の中央に、細い一点が残った。


 四か国の分析系を支配する万能な辞書ではない。分類を決める唯一の部品でもない。


 だが、異なる名称を同じ活動へ結びつける場所で、複数の製品が同じ材料を使っている。


 「ここが攻撃経路なら」


 ひなは言ってから、止めた。


 「候補です。共通してることは確認した。でも、実際にここから何か入れられたとは確認してない」


 『原観測の取得元、前処理で除外された情報、各製品が共通データを適用した範囲は未確認です。現時点では、複数国の判断材料へ影響し得る共通依存が存在する、と表現できます』


 「それで記録して」


 育成官が短く言った。


 「うん。今のでいい」


 ひなは彼を見なかった。


 *


 共通依存への正式な照会は、情報部門と技術監査官が引き取った。


 供給元へ直接、四か国分をまとめて聞くことはできない。日本が契約するパッケージの更新素材。A国が開示した監査記録。B国へ再確認できる製品証明。C国が利用を許した試験項目。それぞれを別の手続で照会する。


 最初の二件には、通常どおり応答が返った。


 三件目だけ、少し待たされた。


 『応答を受信しました。要求した更新証明のうち、名称対応に関する付属情報が含まれていません』


 「要求は通ってる?」


 『受理記録は一致しています。権限制御により除外された可能性があります』


 技術監査官が首を振った。


 「昨日までは同じ権限で取得できています」


 「更新された?」


 「管理画面上は変更なし。供給元の一時障害でも説明できます」


 ひなはそのまま次の照会へ進んだ。


 名称対応を含まない更新証明は、すぐに返った。


 別の名称対応を一件だけ含めると、また待たされた。


 「さっきから、これだけ遅くない?」


 『確認します』


 ナギが照会記録を並べた。


 最初に待たされた照会は十三・二秒。二度目は十一・一秒。同じ時間帯に行った他の照会は、中央値二・四秒だった。


 「同じ供給系譜へつながらない名称を混ぜたら」


 『三・〇秒です。名称対応を含む照会すべてではなく、現在追跡している供給系譜に関係する照会で差が生じています』


 『ただし、供給元のキャッシュ状態、照会対象ごとの保管層、正規の不正利用検知によっても説明可能です』


 「先方へ障害確認」


 「今出しました」


 技術監査官が答えた。


 供給元から返された処理記録では、要求の受理から応答生成までは通常の範囲だった。署名された応答にも、生成時刻が残っている。


 遅れているのは、そのあとだった。


 「先方が考えてる時間じゃない」


 『はい。応答が施設へ到達してから、監査端末へ渡されるまでの間に差があります』


 「経路を変えられる?」


 通常の監査回線は、北側設備室の集約機器を通っている。東側の災害用回線なら、その区間を迂回できた。


 「あれは災害時用です」


 技術監査官が言った。


 「同じ照会を一件だけ。先方の処理が遅いなら、出口を変えても遅いはずです」


 任務調整官が保安担当へ確認した。


 「東側予備回線の利用を許可。照会一件。両経路の記録を保存してください」


 同じ供給系譜を追う照会が、東側から出た。


 応答はすぐに返った。


 通常の監査回線へ戻すと、同じ場所で止まった。


 『差が生じるのは、北側設備室の集約機器を通る場合です。外部照会先、施設外回線、監査端末は共通条件から除外できます』


 技術監査官が、北側設備室の接続一覧を開いた。


 集約機器の保守ポートに、一台の無人点検機が接続されている。


 登録上は、正規の保守会社が使う無人点検機だった。機器識別も、接続用の証明も有効。外壁側の保守パネルを開き、点検用アームで物理ポートへ接続している。


 「今日、保守予定は」


 「ありません」


 警備担当の声が室内へ入った。


 「保守会社にも確認しました。その識別番号の機体は格納庫にあります。こちらへの作業申請も出ていません」


 北側カメラの映像が出た。


 雨上がりの外壁に、小さな無人点検機が張り付いている。四つの回転翼を畳み、右側面のアームを、開いた保守パネルへ差し込んでいた。外装には保守会社の識別が出ている。


 「正規の点検を装ってる」


 『その可能性が高いと評価します。ただし、有効な接続用証明を取得した経路は不明です』


 ナギが、照会の遅延時刻と保守ポートの操作記録を重ねた。


 遅延が生じた二件では、応答が集約機器へ届いた直後に、その接続から保留要求が出ていた。すぐに返った照会では、同じ操作はない。


 『施設ネットワークとの境界では、この保守接続から妨害操作が行われたことを確認できます。機体が別の経路で通信しているかは不明です』


 警備担当が、保守ポートの遮断準備へ入った。


 「待って」


 ひなは接続一覧を拡大した。


 「切ったら、何を見てたか分からなくなる」


 「不審な接続を残すことになります」


 「経路はもう迂回できます。偽の照会を少しだけ流して、反応する条件を確認させてください」


 任務調整官が技術監査官と警備担当を見た。


 「北側区間を業務系から分離。試験用の複製環境だけ接続した状態にしてください。不審機の切断準備は継続」


 「別経路で外へ送っていた場合、こちらでは止められません」


 警備担当が言った。


 「分かっています。使うのは、すでに確認済みの情報だけです」


 任務調整官が時間を確認した。


 「偽照会は三件、九十秒以内。反応記録を得た時点で打ち切り、捕獲へ移ります」


 ひなは三つの照会を作った。


 一つは、共通依存のうち、すでに確認済みの枝を追うもの。


 一つは、宛先や通信量を揃えたまま、今回の分類とは無関係な公開名称へ置き換えたもの。


 もう一つは、宛先だけを変え、最初の照会と同じ名称対応を残したもの。


 「送る順番はナギだけが決めて。私は見ない。技術監査官にも、結果が出るまで隠してください」


 「実在する供給元へは出さないんですね」


 「全部、複製環境の中だけです。内容だけ確認して、順番を見ないでください」


 技術監査官が任務調整官を見た。


 「許可します。三件で終了してください」


 『実行します』


 最初の照会。


 保守ポートから操作要求が出た。試験用経路の応答が保留される。


 二つ目。


 変化なし。


 三つ目。


 保守ポートから同じ操作要求が出て、複製した応答の一部が落とされた。


 『最初は、共通依存の確認済みの枝を追う照会でした。二つ目は通信条件を揃えた無関係な名称。三つ目は宛先だけを変え、同じ名称対応を残した照会です』


 「宛先じゃない。ここを通る照会の中身を見てる」


 『支持されます。対象となる通信を検出した場合に限り、保守ポートから集約機器へ通常の制御要求を送り、応答の保留または破棄を発生させています』


 「反応する範囲、取れた?」


 『北側設備室の集約機器を通る通信です。そのうち、確認済みの共通依存を追う照会と同じ特徴を持つもの。宛先や通信量を揃えた無関係な名称には妨害操作が出ず、宛先を変えても同じ名称対応には出ました。先ほど東側区間へ迂回した同内容の照会にも、保守接続からの操作はありません』


 保守接続から妨害が出る範囲と、反応する条件が分かれた。


 警備担当が言った。


 「反応記録を保存。不正な保守接続を確認しました。捕獲または無力化を許可できます」


 任務調整官はひなを見た。


 「対象は無人機一機。施設と人員の保護。施設外への顕現は許可しません。回収を優先してください」


 「分かりました」


 ひなは立ち上がった。


 *


 屋上へ続く扉を開けると、風が濡れた床を走った。


 無人機は北側設備室の外壁に張り付いたままだった。保守会社の外装。開いたパネル。差し込まれた点検用アーム。


 『保守ポートの遮断準備完了。施設側で確認できる接続は、このポートだけです』


 「切って」


 ポートが閉じた。


 同時に、無人機がアームを切り離した。


 四つの回転翼が開く。機体が外壁から離れ、屋上の高さまで跳ね上がった。切り離されたアームだけが、保守パネルに残っている。


 北側の監視カメラが消えた。接続を切られる直前に、保守系統へ停止要求を残していた。


 『可視光二系統、測距一系統が利用不能。南側の熱画像は利用可能です』


 「直接は」


 ひなは庇の下から機体を見た。


 回転翼。胴体。腹部のカメラ。右側面には、アームを捨てた断面がある。


 対象は見えている。


 ひなの足元から、影が伸びる。庇の縁。排水溝。北側設備室の基部。雲の切れ間から落ちた光が、屋上に細い黒をいくつも作っていた。


 無人機が上昇する。


 保守系統に残された停止要求が続き、熱画像も途切れた。


 『外部センサーからの追跡精度が低下。現在位置の補完誤差、一・六メートル』


 「補完しなくていい」


 ひなは設備室の根元にある影と、扉の内側に残る暗がりをつないだ。


 離れた影の境界から、振動と光の変化が返る。映像ではない。外壁が風を受ける細かな震え。その上を横切る、周期の速い揺れ。


 無人機がいる。


 影が、機体の下を横切る。回転翼を止めれば落ちる。胴体の左右だけを固定する。


 無人機が急上昇した。


 固定が外れ、機体が西へ逃げる。外装の一部を切り離し、固定された部分を捨てたのだ。


 『機体重量が低下。回転翼の出力、増加』


 屋上の照明が明滅した。保安系統に残された停止要求が、別の機器へ広がろうとしている。


 『保安担当が遮断中。機体からの再接続はありません』


 国家基盤との通信状態が一段落ちた。


 ひなは機体を見失わなかった。


 庇の影から西側の壁面へ、短い経路を作る。力を伝え、飛行方向の前へ黒い境界を置いた。


 無人機が避ける。


 その向きは、ナギが出した退避候補の二番目だった。


 『北西へ離脱します』


 「させない」


 排水溝の影が機体の胴を捉えた。


 今度は回転翼に触れない。上昇する力だけを屋上の床へ逃がす。機体が空中で傾き、前へ進めなくなる。


 ナギの声は、ローカルで短く続く。


 『固定対象を認識。現在状態を維持できます』


 「ゆっくり下ろして」


 ひなは影を縮めた。


 機体が一メートルずつ降りる。最後の数十センチで出力が跳ねたが、床には落とさなかった。


 脚が濡れた屋上へ触れる。


 影が四方から機体を固定した。


 「電源を落として」


 機体の保守パネルへ細い影を通し、内側の遮断器を落とす。


 回転翼が止まった。


 警備員が防護具を着けて屋上へ入ってくる。ひなは固定を解かず、捕獲用の箱へ収められるまで待った。


 国家基盤との接続が戻る。


 『回収時点までの反応記録を保存しました』


 「照会との比較は」


 『確認済みの共通依存を追う照会と、同じ通信特徴を持つ偽探索に反応しました。無関係な名称への照会と、北側区間を通らない同内容照会には反応していません』


 「偶然は」


 『複数回の反応順、対象変更、経路変更との対応から、偶然または正規の保守動作である可能性は低いと評価します。ただし、機体が正規の保守系へ接続できた経路は不明です』


 「これ、解析できる?」


 『可能です。隔離容器への収容と搬送が完了したあとに開始します』


 「じゃあ、先に照会結果をまとめる」


 *


 数千キロ離れたC国北部の検問所では、通過待ちの車列が平時の倍まで伸びていた。


 濃紺の乗用車が停止線で止まった。


 運転手は窓を開け、旅券、車両通行証、同乗者の書類を係員へ渡した。


 係員は書類を読み取り機へ通した。車両番号を照会し、運転手の顔を確認する。後部座席には、薄い毛布を膝へ掛けた子どもが一人座っていた。


 「顔を上げて」


 子どもが顔を上げた。


 係員は旅券の写真と見比べ、端末へ確認済みと入力した。


 車両に手配情報はない。書類は正規に発行され、失効していない。乗員の照会にも、現在の検査条件で停止を求める結果は出なかった。


 係員は後部の荷室を開けさせた。衣類の入った鞄、飲料水、封をされた日用品。危険物検査も反応しない。


 書類を返す。


 「通っていい」


 遮断棒が上がった。


 乗用車は列を離れ、照明の先へ進んだ。


 *


 無人機は隔離容器のまま、解析区画へ運ばれていた。


 外部通信の有無も、その方式も、機体が指令を受けていたのか自律していたのかも、まだ分からない。


 会議室へ戻ると、壁に飛行記録、保守ポートの操作記録、照会時刻が並べられていた。


 施設側で保存できたのは、流した照会と、妨害操作が始まった時刻の対応だった。


 北側設備室の集約機器を通る通信。


 共通依存を追う照会に共通する通信上の特徴。


 その特徴を検出した直後に、保守ポートから応答の保留や破棄を要求した記録。


 「私たちが調べたとき、これが動いた」


 ひなが言った。


 『施設側の観測は、共通依存を追う照会を監視し、妨害する機能が稼働していたことを強く支持します。外部との通信、指令の有無、実行主体は未確認です』


 技術監査官が、共通依存の図を更新した。


 「B国から追加回答が来ました。名称辞書は内製という説明に変更はありません。ただし妥当性確認に使った比較標本は、こちらが特定した供給系譜と一致します」


 「四か国とも?」


 「実運用まで確認できたのは日本。A国は限定監査資料の範囲。B国は検証用途。C国は試験環境。そこは変えないでください」


 「分かってます」


 ひなは四つの列を残したまま、中央の一点だけを囲んだ。


 日本、A国、B国、C国。


 制度も、組織も、利用製品も違う。見せてもらえた範囲も違う。


 それでも、比較できた部分には共通する供給系譜があった。


 そこへ近づく照会には、能動的な反応が返った。


 「第三者による警戒誘導。確信度を上げます」


 『どの段階まで上げますか』


 「真正な兆候を使って各国の警戒を誘導している第三者が存在する可能性は高い。共通依存が使われた可能性も上がった。でも、原観測がどこから来て、何を落として、どこで触ったかは分からない。実行した国も組織も未確認」


 『更新します』


 任務調整官が、政府内の共有範囲を指定した。防衛態勢は維持。各国への照会も継続。共通依存を直ちに停止すれば、現在の分析そのものが止まるため、影響範囲を確認するまでは監視下で利用を続ける。


 誰も警戒を解けとは言わなかった。


 各国に生じた兆候は事実だ。


 各国は、それを見て合理的に備えた。


 その結果、高適合者と演算枠と要員が、通常の仕事から外れている。


 判断材料の上流には共通依存があり、調べれば何者かが反応した。


 一つずつだった事実が、ようやく同じ仮説の上へ並んだ。


 「ひなちゃん」


 育成官が呼んだ。


 「何ですか」


 「今日、俺が直したところあった?」


 ひなは彼の監査端末を見た。


 指摘なし。


 前の会議で監査端末を閉じなかったときのような間も、もうなかった。


 「ありませんね」


 「そうだね。俺もない」


 「それを確認するために聞いたんですか」


 「成果があったら、成果があったって言う仕事でもあるので」


 「やっと役に立ちましたね」


 「屋上には連れていってもらえなかったけど」


 「邪魔なので」


 「正しい判断だと思う」


 ひなは少しだけ笑った。


 壁には、各国で拘束された資源の帯が残っている。


 日本の即時割当可能枠、十八パーセント。


 A国の高適合者と沿岸監視。


 B国の増幅系と警戒運転。


 C国の設備、要員、遅れた国外支援。


 何者かは、共通依存を調べられたことに反応した。施設へ無人機を寄越し、観測し、妨害した。


 ここまでして、今の警戒状態を維持しようとしている。


 なら、この状態には意味がある。


 最も大きく動き、今も戻っていないものは、演算資源だった。


 ひなは笑みを消し、四か国の拘束量をもう一度開いた。


 「何のために?」


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