13話
朝の山には、まだ夜の匂いが残っていた。
おれは前の畑に立っていた。
畑には、これまで来たものたちの跡が残っている。
でかいやつの足跡。
石の王を止めた場所。
鳥が羽を落としていった場所。
ひとつひとつを見ると、よく分からない。けれど全部をまとめて見ると、もっと分からない。
お父さんは、それを見て少し黙った。
お母さんは、いつものようにおにぎりを持ってきた。
ばあちゃんは、おかわりもあると言った。
じいちゃんは、わしの若いころにもこういう朝があったと言った。
たぶん、なかったと思う。
ねえちゃんは言った。
「働け」
朝から強い言葉だった。
その時、前の畑に透明な人が立っていた。
向こう側のいもが見える。
「わたしは、目に見えぬ者」
見えている。
少し透けているだけだった。
透明な人は言った。
「わたしを倒すことはできない。見えぬ者に、拳は届かない」
なるほどと思った。
おれは拳を出した。
透明な人は倒れた。
見えないと言っていたが、当たるらしい。
透明な人は、畑に寝転んだまま言った。
「なぜだ」
おれは考えた。
見えていたからだと思う。
でも、それを言うとかわいそうかもしれない。
お母さんが言った。
「大丈夫ですか」
透明な人は泣いた。
ばあちゃんがおにぎりを出した。
透明な人は、おにぎりだけ食べて帰った。
ねえちゃんが言った。
「もう何でも来るじゃん」
おれもそう思う。
でも強い。




