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婚約破棄された私は無能令嬢のふりをやめた途端、隣国の冷酷王子に溺愛されて元婚約者を地獄に落とすことになりました

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/27

「レティシア・フォン・アルヴェルト。お前との婚約は、ここで破棄する」

 王宮の大広間に、冷たい声が響いた。

 ざわめきが広がる中、私はゆっくりと顔を上げる。

 目の前に立つのは、元婚約者――第一王子エドガー。

 その隣には、彼が庇うように抱き寄せている伯爵令嬢ミレイユ。

「お前のような無能な女では、王妃は務まらない。代わりにミレイユを妃とする」

 ……ああ、やっぱり。

 私は静かに息を吐いた。

「そう、ですか」

 あまりにもあっさりとした返答に、周囲がどよめく。

「……何だ、その態度は。もっと取り乱すかと思ったが」

「取り乱す理由がありませんもの」

 私は微笑む。

 その瞬間、エドガーの眉がぴくりと動いた。

「むしろ――やっと終わるのですね」

「なに……?」

 その一言で、空気が変わった。

 私はゆっくりと扇を閉じる。

「“無能な令嬢”を演じるのも、もう必要ありませんから」

 ――その瞬間。

 大広間の空気が、凍りついた。

 

 ◆

 

 その夜、私は屋敷を出た。

 家族は誰一人として私を止めなかった。

 当然だ。彼らもまた、私を「役立たず」として切り捨てた側なのだから。

 だが――

「本当に、それで良かったのか?」

 背後から声がした。

 振り返ると、そこにいたのは黒衣の青年。

 鋭い金色の瞳。

 隣国の第二王子――カイル・ヴァルディス。

「見ていらしたのですね」

「全部な」

 彼は肩をすくめる。

「ずいぶんと面白い芝居だった」

「お褒めに預かり光栄です」

 私は軽く礼をする。

 すると、彼はふっと笑った。

「お前、魔力を隠しているな。それも、王宮の誰よりも強い」

 ……やはり気付くか。

「ええ、少しだけ」

「“少し”であれなら、規格外だ」

 カイルは一歩近づいてくる。

「どうだ、俺の国に来い。お前を正当に評価してやる」

「……随分と軽い勧誘ですね」

「軽く見えるか?」

 次の瞬間。

 彼の魔力が、空間を圧し潰した。

 だが――私は微動だにしない。

「いいえ。むしろ、誠実ですね」

 私は微笑んだ。

「その代わり、一つ条件があります」

「言ってみろ」

「――復讐に、手を貸してください」

 カイルの口元が歪む。

「いいだろう。むしろ望むところだ」

 

 ◆

 

 それから数ヶ月。

 私は隣国で「宮廷魔術師」として迎えられた。

 表向きは新人。

 だが裏では――国家最強の切り札。

「レティシア」

 執務室で、カイルが書類を放り投げる。

「例の王国、もう崩れ始めてるぞ」

「そうでしょうね」

 私は淡々と答える。

「貿易ルートを遮断し、魔力供給を断ちましたから」

「容赦ないな」

「当然です」

 私はペンを止める。

「彼らは、私を捨てたのですから」

 

 ◆

 

 やがて、崩壊は決定的となった。

 元婚約者エドガーは政務に失敗し、民の支持を失い。

 ミレイユは不正の証拠を暴かれ、処刑。

 そして――

「レティシア……なぜだ……」

 牢に囚われたエドガーが、私を見上げる。

 私は静かに彼を見下ろした。

「なぜ、ですか?」

 少し考えるふりをしてから、答える。

「あなたが、私を捨てたからですよ」

「そんなことで……!」

「“そんなこと”?」

 私は笑った。

 その笑みは、氷よりも冷たい。

「私の人生を壊したのに?」

 沈黙。

「安心してください」

 私は背を向ける。

「殺しはしません」

「……!」

「あなたには、生きて後悔してもらいますから」

 

 ◆

 

 すべてが終わった後。

 王宮のバルコニーで、私は夜風に当たっていた。

「終わったな」

 隣に、カイルが立つ。

「ええ」

「満足か?」

 私は少しだけ考え――頷いた。

「はい」

 すると彼は、ふっと笑った。

「なら次だ」

「次?」

「俺の隣に立て」

 その言葉に、私は目を瞬かせる。

「……それは命令ですか?」

「違う」

 彼は私の手を取る。

「願いだ」

 ――心臓が、わずかに跳ねた。

「お前が必要だ、レティシア」

 真っ直ぐな視線。

 私は、ふっと息を吐いた。

「……仕方ありませんね」

 そして、彼の手を握り返す。

「その代わり」

「なんだ?」

「一生、溺愛してください」

 一瞬の沈黙の後。

 カイルは低く笑った。

「最初からそのつもりだ」

 

 ◆

 

 こうして――

 無能を演じた令嬢は、最強の魔術師として。

 そして、王子に溺愛される存在として。

 新たな人生を歩み始めるのだった。

 

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