八話 優しい人
「本当に、申し訳ないことをした。自分の家の将来を優先した結果、まさか無関係の君を傷つけてしまうことになるなんて……」
ルカーシュ様が、頭を下げたまま静かな声で言葉を紡ぐ。
私は一瞬ポカン……としてしまったけれど、すぐに我に返って叫んだ。
「お、お顔を上げてください! ルカーシュ様は、何も悪くありませんわ!」
「いいや、間接的に君を傷つけた。マージェリーを自由にしたら、こういうことが起きると予測できたはずなんだ……」
「……それでも、ルカーシュ様のせいではありません。悪いのは、次期侯爵という立場でありながら、婚約者以外のご令嬢に手を出すエイドリアン様ですわ」
「だが…………」
「……それに、私とエイドリアン様の間には、最初から愛も絆も何もないのです。こうなったのも仕方ないのかもしれません」
私はハッキリとそう宣言してから、言葉を続けた。
「ですから、ルカーシュ様は謝らないでくださいませ。……エイドリアン様ではなく貴方に謝られたら……私、どうしたらいいかわからなくなってしまいます」
そう言うと、ルカーシュ様がハッとしたように顔を上げた。
……よかった、やっとお顔を見せてくれたわ。
私は安堵しながら口角を微かにあげて、「お気持ちは嬉しかったです、ありがとうございます」と告げた。
「君は……聡い人だな。本当に、噂とは大違いだ」
「ふふ、実は勉強は得意なんです。テストでは敢えて点数を調整しているんですよ。……エイドリアン様より高い点を取ったら、怒られてしまいますもの」
私がそう笑いながら話すと、ルカーシュ様は少し悔しそうな、そんな表情で「そうか」とだけ言って頷いてくれた。
……優しい人なのね。
もっとも……こんな評判の悪い私に声を掛けて、頭まで下げてくれるような人が優しくないわけないのだけれど。
私はふぅ、と息を吐いてから、ルカーシュ様に問いかけた。
「……そろそろ本題に入りましょう。……『復讐』とは、一体どういうことですか?」




