七話 俺のせい
ルカーシュ様の眼差しが、真剣なものに変わる。
先程までとはまるで違うその表情に、私は思わずごくん、と生唾を飲み込んだ。
「キャロライン嬢。俺はまず、君に謝らなければならないことがあるんだ」
「……謝らなければならないこと……ですか?」
「あぁ」
私は困惑した。
だって、私とルカーシュ様は今日が初対面だ。
むしろ私が先程までの態度を謝らなければいけないくらいで……ルカーシュ様が私に謝るべきことなんて、一つもないはずよ。
そんな私の考えを感じ取ったのだろう。
ルカーシュ様は困ったような笑みを浮かべたあと、フイ、と私から目を逸らす。
そして、少し躊躇ってから口を開いた。
「……数ヶ月前まで、俺にも婚約者がいたんだ。だが、彼女の浮気が原因で婚約破棄をさせてもらった」
「ル、ルカーシュ様という素晴らしい婚約者がいながら、浮気ですか……!?」
「はは、ありがとう。……なんというかまぁ、彼女は少し……男性を好きすぎるところがあってさ。お互い愛し合っているというわけでもなかったし、将来的なことも考えて破棄したんだ」
衝撃的な話に、私は呆然とした。
……ルカーシュ様も、婚約者の浮気の被害者だったのね。
なんだか、急に親近感が湧いてきてしまうわ。
相手は公爵子息なのだから、伯爵令嬢の私が親近感を覚えるのは不敬かもしれないけれど……。
「そうだったのですね……。ですが、そのお話と私に謝りたいことにどんな関係が……?」
私が戸惑いながら尋ねると、ルカーシュ様は苦虫を噛み潰したような表情をしてから、口を開いた。
「……その、俺の元婚約者というのが……君の婚約者であるロックウッド侯爵子息の浮気相手なんだ」
「え……?」
私は思わず目を見開く。
ルカーシュ様は苦しそうに顔をくしゃりと歪めたまま、話を続けた。
「マージェリー・メッツ・ダールベルクと言うんだが、彼女は君と同じ伯爵令嬢でさ。自分より身分が高い男に嫁ぐことが最終目的らしい」
「……それなら、ルカーシュ様とご結婚されるのが一番良かったのでは……? なぜ浮気なんて……」
「……はは、そう思うだろ? でも、彼女には他の女性の男を奪うという悪癖があってさ……。何度もそれで男遊びを繰り返すものだから、遂に婚約を破棄したというわけ」
____と、とんでもない女性ね……。
つまり、婚約破棄をされてフリーになったのをいいことに、堂々とエイドリアン様を私から奪うおつもり?
……いいえ、もう奪われているも同然ね。
それにしても、どうしてわざわざ他人の婚約者を奪う必要があるのかしら?
まだ婚約者が決まっていない貴族の男性もいらっしゃるのに……。
まぁ、隣の芝生は青く見えるというものね……。
それとも、私なんて取るに足らない相手、ということかしら?
私がそんな風に心の中で自嘲していると、ルカーシュ様が言葉を重ねてきた。
「だから、俺のせいなんだ。俺が婚約破棄をしていなければ、彼女が君の婚約者を奪うような真似はしなかったと思う」
「……でも、マージェリー様には元々、そのような悪癖があったのでしょう? でしたら、婚約破棄をされていなくても、同じことになっていたのではないでしょうか」
私は思うまま、ルカーシュ様に返答をした。
だが、ルカーシュ様は眉間に皺を寄せながら、小さく首を横に振った。
「いや……今までの彼女は、あくまで遊びとして男にちょっかいをかけるだけで、手に入ったらすぐに相手を捨てていた。それに、絶対に自分より身分が低い男としか遊ばなかったんだ。今までは俺という婚約者がいたから」
「……そんな……」
「けれど……今回は初めて、自分より身分の高いロックウッド侯爵子息に手を出した。つまり、彼女は本気で、未来の侯爵夫人の座を君から奪うつもりなんだと思う」
そう言ってから、ルカーシュ様は私に向かい合うように座り直した。
そして_____なんと突然、私に向かって思い切り頭を下げたのである。




