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二話 愛されたいだけ

 私の婚約者に選ばれたのは、エイドリアン・フォン・ロックウッド様。


 私と同い年で、ロックウッド侯爵家の跡継ぎの御方だった。


 ……いえ、違うわね。選ばれたのは私の方。

 私には選択肢も、拒否権すらも残っていなかったわ。


 それでも、私は数多くいたらしい婚約者候補の中からロックウッド侯爵子息に選んでいただけたのだ。


 理由は、婚約者候補の中で私が一番教養があって美人だったから……らしい。

 本当かどうかはわからないけれど、父が自慢気にそう話していたからそうなのだと思う。


 確かに、私の母は大層綺麗な人だ。

 一代限りの男爵令嬢だった母が、代々続く伯爵家の跡継ぎだった父に見初められるくらいには。


 そして私は、そんな母によく似た容姿をしていた。

 髪の色も、瞳も、顔の造形も……。


 思い返してみれば、婚約が決まった時以外で両親が褒めてくれたのは、この容姿くらいだったと思う。


 ……だから、私は少し期待していたのだ。


 両親から得られなかった愛を、婚約者からは得ることが出来るかもしれない。


 だって本の世界の登場人物たちは、例え最初は辛い境遇でも、最後には必ず愛を手に入れて幸せになっていたもの。


 そんな微かな期待を抱いて、初めて迎えた顔合わせの日。


 …………私の期待は粉々に砕かれることになった。


「私の名前はエイドリアン・フォン・ロックウッドだ。いいか、私は君より偉いんだぞ! せっかく選んでやったんだから、私の婚約者として相応しい振る舞いをするように!」


 ____あぁ、やっぱりこの人も、私を愛してなんかいないのだわ。

 いえ、愛する気すらないと言った方が正しいかしら。


 それにしても、初対面での挨拶がこの態度なんて……本当に、侯爵家の教育は大丈夫なの?


 それでも私は、次期侯爵の妻……未来のロックウッド侯爵夫人になるのだ。

 ならば、夫を立てるのは貴族の女性として当然のこと。


 私は散々叩き込まれたカーテシーを披露しながら、エイドリアン様に静かに告げた。


「お初にお目にかかります、私はエイクハースト伯爵家のキャロラインと申します。本日はお会いできて光栄に存じます」


 私の挨拶を聞いたエイドリアン様は、それはそれは満足そうに頷いていた。


 ____それから、何度かお茶会を通してエイドリアン様とお話をしたけれど……エイドリアン様は、私が思っていた以上の方だった。


 何がって、なんというか……ものすごく、甘やかされて生きてきたのだな、と言うことがわかるような性格をしていたのである。


 私は、とにかく頑張った。

 エイドリアン様が勉強に詰まってしまった時は、さり気なく答えに導いた。


 マナーも注意した。ナイフとフォークの使い方だとか、そんな簡単なことだったけれど……エイドリアン様は、基礎もまともに出来ていらっしゃらなかったから。


 時には厳しく接することもあったと思う。


 ……本当に、ロックウッド侯爵家はどんな教育をされてきたのかしらと、何度も疑問に思ったわ。


 ____これはあとから知ったことだけれど、ロックウッド侯爵夫妻は私の両親と同じく、中々子宝に恵まれなかったそうだ。


 だから、やっと生まれてきた男の子であるエイドリアンを、それはもう甘やかして育てたのだという。


 ……私の両親とは正反対ね。


 そして私は、本来なら侯爵夫妻や家庭教師が注意するようなことまで進言する生活を続けた。


 その度にエイドリアン様との心の距離が離れていくことにも気付いていたけれど……未来の侯爵夫人としては、放って置くことなんてできないもの。




 そして私達が十五歳になった時のこと。

 私達は、王立ハルモニア学園前の中等部に入学した。


 五年間私によって鍛えられたエイドリアン様の振る舞いは、随分貴族らしく成長していた。


 周りの生徒達は、そんなエイドリアン様を褒め称えていた。

 隣にいる私のことなんて、まるで見えていないみたいに。


 ……そのマナーを叩き込んだのは、私だというのにね。


 けれど、そんなことは誰も知らない。


 それどころか、エイドリアン様は私のことを「一々揚げ足を取ってくる性格の悪い女」だと周囲に吹聴したのだ。


 その噂はあっという間に広がった。そうよね、だって、侯爵子息の発言なんだもの。


 ……きっと、私は知らず知らずのうちに、エイドリアン様のプライドを傷つけてしまっていたのだと思う。


 それどころか、きっと本気で「見下されている」と思っていたのだわ。


 当然、私に友人なんて一人もできなかった。

 エイドリアン様も、ご学友と過ごされてばかりで、私のことは放置するだけ。


 私は、いつも孤立していた。




 ____けれど、私の地獄はこれだけでは終わらなかった。


 いいえ、こんなものは……あくまで始まりに過ぎなかったのよ。

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