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一話 キャロライン・ティア・エイクハースト

 エイクハースト伯爵家の長女、キャロライン・ティア・エイクハースト。それが私。


 お金のことに関して言えば、何不自由ない人生を送ってきたと思う。


 欲しいものは比較的なんでも手に入ったし、毎日美味しいご飯だって食べさせてもらえた。


 平民や貧しい民からして見れば、さぞ羨ましい生活だったのかもしれない。

 けれど、彼らは私には決して与えられなかった大切な宝物を持っていた。


 彼らだけじゃない。私が大好きだった小説の主人公達も、必ずその宝物を与えられていた。


 私には、幼い頃からそれが羨ましくて妬ましくて仕方がなかった。

 願わくば、私も小説の世界で生きていきたいと思うほどに。





 私が決して手に入れることが出来なかった宝物…………。それは、『愛情』だった。


 というのも、父と母は昔から私に興味を示さなかったのだ。

 理由は単純、私が女の子だったから。


 長い間子供ができなかった両親は、この家の跡継ぎとなる男の子を切望していたのだ。


 しかし、念願叶って妊娠して、生まれてきた子の性別は女だった。


 両親は、心の底からガッカリしたんだそうだ。

 幼い頃から、何度も何度もそんな愚痴を聞かされてきた。


「貴女が男の子だったらよかったのに」

「どうしてやっと生まれてきた子が貴女なの」


 そんな、愛情のカケラもないような言葉をずっと浴びせられ続けてきた。


 そんな言葉を何十回、何百回聞いたところで、私の性別が変わる日なんて永遠に訪れないというのに。


 それでも、野心家の両親は諦めなかった。


 両親……特に母は、私に貴族としてのマナーや教養を叩き込んだ。

 おかげで私は、同年代の子供に比べてかなり聡い子供に育っていたと思う。


 友達なんて一人もいなかったからわからないけれど、家庭教師はそうやっていつも私を褒めてくれていたから、多分そうなんだと思う。


 私はとにかく努力した。

 遊ぶ暇なんて一切なかった。


 それも全ては、両親をこれ以上ガッカリさせないため。

 両親に「私達の子供がキャロラインでよかった」と、褒めてもらうため。


 精一杯頑張れば、きっと両親は認めてくれるはず。

 私のことを、愛してくれるはずだと信じて。


 ____そしてその日は、突然訪れた。


 あれは私の十歳の誕生日。

 いつも仏頂面をしている父が、初めて笑顔で私に告げてきたのだ。


「キャロライン! 今日はお前にとっておきのプレゼントがあるぞ!」


 私はその言葉に胸を踊らせた。

 プレゼントなんて、生まれてこの方貰ったことなんて一度もなかったからだ。


 ワクワクドキドキしながら父の方へ駆け寄ると、父は私の頭を優しく撫でながら、嬉しそうな声でこう言った。


「お前の婚約者が決まったんだ! なんと、相手はあのロックウッド侯爵家の長男だぞ! キャロライン、お前は私達の自慢の娘だ!」


 ……父のこの言葉を聞いた瞬間、先程まで浮かれていた私の頭は一瞬にして冷えた。


 けれど、それと同時に、初めて自分の存在を認められたことが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


 そして私はこの時、幼心に理解してしまったのだ。


 家庭教師を通して母からマナーについて厳しく叩き込まれたのは、有力貴族に私を嫁がせるためだったのだということを。


 そして、エイクハースト伯爵家の娘として生まれた私は、一生この家のために尽くさなければならないのだということを。


 心の底ではわかっていた。

 けれど、信じるのが怖かっただけ。




 両親は、私を……『キャロライン』を、愛してなんかいない。


 私はただの、エイクハースト家の道具でしかないのだわ。





 ……そんな残酷な事実を突きつけられても尚、十歳の私は両親に……いいえ、誰かに愛されたいと願ってしまっていたのだった。

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