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十話 夢みたいな日

「……なんだか、すごい一日だったわ……」


 放課後、寮のベッドで仰向けになりながら、私は今日の出来事を思い返してみる。


 本当に、すごい一日だった。


 ……というより、ものすごく濃いお昼休みだった、という方が正しい。


 だって……私はいつも通りサンドイッチを頬張っていただけなのに!


 まさか婚約者の……エイドリアン様の浮気現場を目撃することになるなんて思わないじゃない……!


 ……というか、私があの中庭で毎日昼食を取っている、という話は有名だと思っていたのだけれど。


 仮にも婚約者だと言うのに、何も知らなかったのね。


 本当に、私に興味がないんだわ……。

 まぁ、わかっていたことだけれど。


「いつか私のことを愛してくれるかも……なんて、馬鹿みたいね……」


 私がそんな風に縋っている間に、彼は別の女性に恋をしていたんだわ。


 本当に、馬鹿みたい。


 あの瞬間見たものは……まるで悪夢でも見ているかのような、そんな光景だった。






 ____でも、悪夢だけでは終わらなかった。


 まさか、悪女として皆から避けられている私に、話しかけてくれる人がいるなんて思ってもみなかった。


 それも、あのコーウェルズ公爵家のルカーシュ様だなんて!


 ……こんなことを言ってしまうのは、不謹慎かもしれないけれど……。


 ルカーシュ様に声をかけてもらって、頭に手を置いてもらえた瞬間……私、ほんの少しだけ浮気されてよかった、なんて思ってしまったの。


 だって、あの場でエイドリアン様に浮気されていなかったら……私はきっと、誰とも話せずに卒業を迎えていた。


 あんな風に、私に優しくしてくれた人は人生で初めてだった。


 あんな風に、自分の心情を誰かに吐露したのも初めてだった。




 本当に、自分が単純すぎて笑っちゃうけれど……。


 私なんかに話しかけてくれる人がいるとわかって、まるで夢でも見ているような気分になったのよ。




 エイドリアン様にされたことは、許せないし、悔しい。

 悪夢を見た時みたいな、そんな気分よ。


 けれど、ルカーシュ様とお話できたことは……本当に嬉しかった。

 夢なら覚めないでと、願ってしまったくらいには。






「私……明日からどうしたらいいのかしら……」





 悔しさ、悲しさ、嬉しさ……色んな感情がごちゃ混ぜになって、もう頭がおかしくなりそう。


 でもとにかく……明日のお昼休みもまた、いつもの中庭に行ってみるわ。



 だってそうしたら、またルカーシュ様とお話出来るかもしれないから。






 ____いつか、友人と呼べる日が来るのかしら? 私の人生で、初めての友人。


 ……なんて、流石に烏滸がましいかしらね、私なんかが……。


 けれど、心のどこかで期待してしまうの。






 そんなことを考えながら……私は初めて、眠って朝起きる瞬間が楽しみに思えたのだった。

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