九話 ずっとずっと
私が問いかけると、ルカーシュ様は優しく微笑みながら、艶やかな唇を開いた。
「……そのままの意味だよ。やられっぱなしで終わるんじゃなくて、せめて一泡吹かせてやりたくない?」
「けれど、復讐は何も生まないと言うではありませんか」
「……じゃあ聞くけど、キャロライン嬢は悔しくはないのか?」
ルカーシュ様が、全てを見透かしているような瞳で私のことを見つめてきた。
私は思わずドキリとする。
これは決してルカーシュ様にときめいたとか、そういう浮ついたものじゃなくて……。
事実、私はこんな風に裏切られたことが悔しくて仕方がないから。
けれど、復讐なんて……。
頭の中がぐるぐるして落ち着かない。
結局何も言えずに黙り込んでしまった私を見て、ルカーシュ様は真剣な眼差しで言葉を続けた。
「キャロライン嬢。俺は悔しいんだ。少し話しただけでも、君が噂のような悪女でないことがわかる。なぜなら君は、マージェリーを野放しにしてしまった俺を責めずに励ましてくれたんだから」
「ル、ルカーシュ様…………?」
そう言って、ルカーシュ様が私の手を両手でそっと包み込む。
……男の人とこんな風に接触するのは初めてで、心臓がドクンと跳ねた。
「俺は、君に少しでも協力したい。それに……そもそもマージェリーが男遊びをするようになったのは、元はと言えば俺のせいだから」
「え…………?」
「……だから、君にその意志があるのなら……。俺に、君の復讐の片棒を担がせてくれないだろうか」
……そう話すルカーシュ様の瞳は、複雑そうに揺れていて。
私はなんだか、わけもわからず泣きそうな気持ちになった。
____あぁ、私も覚悟を決めるべきね。
「…………ルカーシュ様のお気持ちは、よくわかりました。それに……」
「それに?」
「……私だって、エイドリアン様のことが許せない…………っ! ずっと、ずっと頑張ってきたのに、こんな風に裏切られるなんて、思っていなかったんですもの……! だから、私も……エイドリアン様とマージェリー様に、せめて一矢報いたい!」
はぁ、はぁと浅く息を吐きながら、思いの丈をぶつける。
……こんな風に本音を口に出したのなんて、いつぶりかしら……。
涙が滲んで、視界がぼやける。
泣き顔をこれ以上見られたくなくて俯くと、ぽん……と優しく頭に何かを乗せられた。
……優しくて、温かい。
これはきっと、ルカーシュ様の手のひらね。
何か言うべきなのかと思いながらも、何を言えばいいかわからない。
結局黙ったまま俯いていると、ルカーシュ様が小さな声で「頑張ったんだな」と呟いた。
____そうなんです、私ずっと、頑張ってきたんです。
でも、誰にも認められなくて、辛かったんです。
泣くことも弱音を吐くこともできなくて、朝が来る度に嫌になっていたんです。
でも貴方は、初対面の私を肯定してくれるのね……。
「……ルカーシュ様、一つ、お聞きしてもいいですか」
「なに?」
「…………やっぱり今だけは……泣いても、いいでしょうか」
私が震える声でそう尋ねると、ルカーシュ様は優しい声で「俺の前ではいくらでも」と返してくれた。
その瞬間、私の瞳からはぽろぽろと涙が零れてきて…………。
結局お昼休みが終わるまで、その涙は止まらなかったのだった。




