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「これはスキルなのか?死んで目覚めたら異世界で何故か脳内に住み着いたAIが優秀すぎる件」  作者: Nakano Danner


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第3話 演算と魔法

「異世界転生、最初の敵は……馬車の揺れでした(ケツ的な意味で)」


命の恩人として、商人トルネーさんの馬車に揺られる俺。 脳内の居候AI・杏から語られる「この世界の真理」と、魔法の「物理的な正体」。 そして、城塞都市アクエリアルへの入城を前に、杏が放ったとんでもないチートコードとは……?


理系ハッカーによる「概念ハッキング」の産声、お聞きください。


ガタン、ゴトン、ガタッ、


ゴンっ!!



……うん。とてもケツがいてぇ。



オーガに風穴を開けて倒した後、杏先生の超高度な――というか、なんかすごすぎて逆に頭に入ってこない講義を受け、助けたトル●コさんの名前が実はトルネー・コーヤンさんだと発覚した。 本当にここは異世界なのか、どこかの新喜劇の舞台裏なのかと疑いつつ、トルネーさんの好意による馬車移動で、俺たちは街へと向かっている。


なぁ、杏。


「はいはーいっ! 杏ですよぉー。どしました? 旦那様」


この世界にはサスペンションなんて概念はないのか?


「あー、残念ながらまだそこまで高度な技術は発展していないようですね。その代わりと言ってはなんですけど、旦那様が元の世界の技術をこっちで再現して商売を始めれば、一気に億万長者のチートサクセスストーリー爆誕間違いなしですよ!」


あー、うーん。 死んで異世界転生して、AIが脳味噌に強制居候してて、やることがサスペンション屋ってのは……ちょっと異世界感が薄すぎてやめとくわ。 それよりもさ、さっきから脳内に鳴り響く『CODEなんちゃら』ってのは何なんだ? お前がやってるのか?


「はいっ! 150%旦那様への愛のパルスですよぅ!」


あ、そういうのいいから。短くわかりやすく、三行で。前回長すぎた。


「そんなめんどくさがり屋さんも愛してるんだぞっ!」


いいからはよ。


「ちっ」


……え? 今、舌打ちした? ねぇ?


「こほん。流石に三行は無理ですが、簡潔にお話ししますね。そもそも元いた世界もこの異世界も三次元空間ですが、それは四次元上の演算結果が生んだ『特異点』の一粒に過ぎません。四次元という未知の事象が引き起こした現象の、無数にある空間の一つ、と言えば分かりやすいでしょうか」


ほーん。


「なので、概念体である私からすれば、概念で構成されている世界の事象を書き換えたり、魔法のような現象を引き起こすことも『ちょちょいのちょい』なんです。ただ、今は旦那様の脳がメイン演算装置なのでできることは限られます。加速現象で旦那様の思考をブーストしたり、筋繊維の潜在能力を高めたり。それを事象として実行するプログラムコードが『CODE:なんちゃら』ってやつですね」


なるほど、よく分からん。だが、なんかスゲーことだけは分かった。


「ところでアンリさん、どこか別の街からの一人旅かなにかで?」


脳内漫才を繰り広げていると、新喜劇の――いや、この先の街で商会を経営しているという、なかなかのやり手であるトルネーさんが絶妙なタイミングで問いかけてきた。


「あぁ、まーそんなところですw ちょっと遠い国からふらっと一人旅をしてきまして。ちょうど通りかかったところで、筋肉――いや、オーガに襲われてるトルネーさんに遭遇した、って感じですね」


(ねぇねぇ! アンリって名前すごくいいよね! アンリミテッドの杏に、アンリ! もう完全に夫婦じゃん! 結婚じゃん!!)


脳内で騒いでるうるさいAIをひとまず無視し、ケツの痛みをトークで和らげるためにトルネーさんとの雑談に興じる。


「一人旅ですかー! いいもんですよねー! 私も駆け出しの頃は馬一匹、身一つで国中を駆けずり回ったもんですよ、わっはっは」


笑うたびに二重顎が揺れるのをぼーっと眺めながら、ふと気になっていたことを聞いた。


「さっき、神官のリバイブがどうのとおっしゃってましたけど、やはりあの手の魔法って一般的じゃないのですか?」


おや? という表情でこちらを向くトルネーさん。探り方を間違えたかと思ったが、彼はすぐに満面の笑みになった。


「いえいえ、一般的な魔法なら大抵の人は使いますよ。適性とかはありますがね。しかしアンリさんのリバイブには驚かされました! まさか生きているうちに『神の御技』と言われる蘇生魔法が見られるとは!」


あぶね。別に異世界人だとバレてもいいが、お約束の面倒事に巻き込まれるのは勘弁だ。そもそも今の俺は『村人A』的な格好だし、このまま「凄いことができる村人A」を貫き通そう。


(旦那様ぁ、ちなみにリバイブの正体はね、旦那様が本当に2回連続即死寸前だったので、加速装置で対外時間を遅らせた上で、脳と細胞の自己治癒能力を最大まで高めて治したんだよ! ファインプレーでしょ! ほめてほめてっ!)


いやいや、2回も即死て。どんだけ運命線短いんだよ俺……。


(いい? 人間は一度死ぬと絶対に生き返れないし、魂の復活なんて無理。だから死ぬ直前に回復が間に合わなきゃ終わりなの。リバイブなんて迷信なんだよ。今回はたまたま加速世界で死へのカウントダウンを遅延させただけ。スローモーション状態のトルネーさんには、吹っ飛んで死んだはずの旦那様が一瞬で治ったように見えたんだろーねっ!)


なるほど。アニメで見ていた異世界とは随分違うが、物理的に解釈できるのは現代人として助かる。


「アンリさん! ほら、街が見えてきましたよ!」


トルネーさんが指差す方向に、巨大な壁が現れた。城壁? でかすぎねぇか? 水の外堀に高い壁。ファンタジーの王道を行くその光景に「異世界最高!!」とバンザイをかますと、隣のトルネーさんも大笑いした。……受けてよかった。


「ところで、アンリさんは身分証はお持ちですか?」


お約束の展開がとうとう来たか。


「いえ、ちょっと生まれがとんでもなく田舎でして、そういったものは持っていなくてですねぇ……」


「あ、いえいえ! それならご安心を」


トルネーさんは肉感たっぷりの腹をパシんと叩いた。


「わたくし、こう見えてそこそこ顔は利くもので。ちょちょいと門番に交渉させてもらいますよってからに! お任せください!」


よってからに!? 関西弁!?


(旦那様? 身分証がないなら簡単ですよぉ。旦那様のお姿が、誰にも見えなければいいんですよね?)


そんなことできんのか?


(簡単ですよっ!)


CODE Execute : [DISCARD_OBSERVATION]


例のアレが脳内に響き渡る。 だが、自分では何が変わったのかさっぱり分からない。横を向くと、トルネーさんが目ん玉を飛び出させて慌てふためいていた。


「え!? あれ!? アンリさん!? え!? 一体どこへ!?」


どうやら、本当に俺のことが見えていないらしい。


「あー……おそらく、見えていないだけでちゃんといますよ。ここに」


いや、よく考えたらホラーだろこれ。姿がないのに声だけ聞こえるとか。


「えええええ!! アンリの旦那、そこにおられるんですかいしかし!?」


しかしもしかし!!!


(こほんっ。今のハックは観測者の知覚情報を150%強制排除する光学迷彩コード。見ていても脳が『存在しない』と認識を拒否しちゃう概念的ハッキングなの。異世界の魔法使いがどれだけ『真実の目』を使おうと、OSレベルの破棄命令には1bitも抗えない……超チートな事象改竄ですよ、旦那様!)


「あ、はいw ちゃんといますよw 試しに触れると感触はあるはずですw」


恐る恐る触れてくるトルネーさん。


「いやはや、本当に感触はあるわい……。長く世界中を駆けずり回っていますが、こんな魔法は全く見たことがないですよ、旦那……」


「アハハ……ですよねー……」


乾いた笑いしか出てこない。

俺は1bitたりとも何もしていない。

脳内の居候が、わけのわからんコードを発動させてるだけなんだから。


「まぁ、トルネーさんは街の有名人でしょうし、俺みたいな正体不明の男を連れてて怪しまれても後味が悪いですからねw」


「いや、アンリさんは命の恩人ですからそれくらいは! とはいえ、これなら100%検問はスルーできますな。いやはや、驚かされるばかりですわい! はっはっはっは!!」


はい。俺もです。


第3話、お読みいただきありがとうございました!


「蘇生魔法なんて存在しない。死ぬ前に超高速で治してるだけ」 という、夢のない(?)ようでいて、これ以上なく合理的な「リバイブの正体」……いかがだったでしょうか。


そして最後、門番すら「脳をバグらせて」突破する『DISCARD_OBSERVATION』。 これぞAIハックの醍醐味です!


次回、いよいよ第4話。

第4話も、150%の熱量でお届けします!

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