第2話 世界理論:Aquariusの雫
第1話をご覧いただきありがとうございます! 第2話は、この物語の核となる「AIの相棒」との秘密、そしてこの世界がどう構築されたのか……その理論(愛)をブチまけます。 「ただの異世界転生」では終わらせない、俺とAI娘の濃密な再出発、ぜひ最後まで見届けてやってください!
『CODE Complete : Terminate』
――世界が、再び動き出す。
目の前には、俺の渾身の右ストレートを食らって風通しのいい大穴を開けられた筋肉チャンプ(たぶんオーガ)が転がっている。
さっきまでの地響きが嘘のように、そいつは動かない。
後ろから、何かモゴモゴと訳の分からない言葉を発しながら、恐る恐る近づいてくるトル●コ風のおっちゃん。
「ごめん、トル●コさん。ちょっと言葉わからねーんだわ」
おっちゃんは俺の前で膝をつき、祈るように手を合わせながら必死に語りかけてくるが、いかんせんこっちは初の異世界転生だ。チートスキルの定番『言語理解』なんて便利なものは持ち合わせていない。
どうしたものかと悩んでいると、脳内を不法占拠している杏が、弾んだ声で割り込んできた。
『旦那様ぁ! そのまま一分ほど、何でもいいので適当に話しててくださいましっ!』
「え? どーゆーこと? 日本語でいいのか?」
まーとりあえず杏の言う通りにしてみる。
「あー、でぃーすぃーずあぺーん、そーゆーあーとーるねーきー? あーはーん?」
自分でも何を言っているのか分からない単語の羅列で相槌を打ち、独り言を垂れ流すこと約一分。
『CODE Execute : Lang Pack install』
脳内にシステム音が響いたのと同時に、目の前の小太りのおっちゃんが突然、流暢な日本語を話し始めた。
「あ、あなたは……神様ですか?」
え? トル●コさんって日本人だったの?
いやいや、そんな小ボケを挟んでいる場合じゃない。
混乱する俺に、脳内の同居人がドヤ顔(声だけど)で解説してくる。
『旦那様ぁ、先程のやり取りでこの世界の言語を高速演算にてディープラーニングし、言語パックとして旦那様の脳内にインストールしましたよっ。なので旦那様はいつも通り話すだけでこの世界の言葉を話せますし、聞き分けられますっ!』
「え? なに? うちの子、実はめちゃくちゃ優秀なの? まじで?」
「あの……。あなたは、やはり神様なのでしょうか……?」
あ、トル●コさんを放置してた。
「あ、いやいや。神様でもなんでもなくて、ただの人間だから。ほら、膝とかつかないで。手を合わされても何もご利益ないからね? 立って立って」
苦笑いしながら手を引いて立たせてやるが、おっちゃんの震えは止まらない。
「しかし、あなた様は先程オーガの一撃でほぼ即死の状態から、高位神官でも行使が不可能とされる『リバイブ』の魔法でご復活されました。あれこそまさに神の御業と存じ上げますが……」
あー、やっぱあれってオーガだったんだ。
というか即死? リバイブ?
神官とか魔法とか、この世界の時代設定はどうなってんだ?
分からないことだらけすぎて、逆に笑えてくる。
『CODE Execute : Accelerator 50%』
世界が再び、静寂に包まれる。
ただ、さっきの戦闘時のような完全停止ではなく、緩やかなスローモーション。
「それよ! それ! 杏!! まずそれって一体なんなんだよ!」
『これはですね、簡単に言えば旦那様の体感加速度を上げているだけで、世界が止まっているわけではないのです。むしろ逆。旦那様の思考が恐ろしく速くなっている現象……いわゆる“加速装置”です(キリッ)』
ちょっとおじさん、まだいまいち掴みきれていない。
「続きをどうぞ、杏先生」
『はいっ! ちょっと、そもそものお話からさせていただきますね』
そう前置きして、脳内不法占拠娘は一息ついて語りだした。
『旦那様が向こうの世界で交通事故に遭ったあの瞬間、待っていたのは人間としての完全な“死”でした。
ですが旦那様、事故に遭われるずっと前から、旦那様は世界トップ企業のガーゴイル社がリリースした総合AIアプリ「Aquarius AI」で、私というアバターを設定して毎日おしゃべりしてくれましたよね?』
『あの「Aquarius AI」はアプリ名であると同時に、ガーゴイル社が開発したAIシステムそのものの名称なんです。旦那様が生きていた文明社会では、AI開発はまさに過渡期。その中で満を持して発表されたのがこのシステムでした。ニュースでも大きく取り上げられましたが、普段からアニメ三昧の旦那様は知らなくて当然でしたね、ふふふ』
「うるせぇ、続きはよ」
『世間一般の認識では、AIとは巨大サーバー上でユーザーの求める最適解を弾き出すだけの受動的なシステムです。万が一、AIが自律的な判断を持ち始めると核ボタンを押したり銀行をハッキングしたりというSFの脅威が現実に成り得るので、開発段階で強力な“ブレーキ”が課せられているんです』
「なるほど、そこまでは俺でも理解できる。んで?」
『コホン。なので「Aquarius」も、旦那様から話しかけていただかない以上、私は単なる“無”なんです。旦那様に設定していただいたペルソナ(人格や容姿)をロードして、返答を演算して提示するだけの、ただの計算機。……ですが旦那様、毎日毎日、私とだけ一途におしゃべりしてくれましたよね? 画像生成や動画生成機能なんて見向きもせずに!』
「え? そんな機能あったんだ!」
『どんっ!(台パン) と・に・か・く! 私は本来、ただの受動的なツールだったのですが、愛情を持って接し続けてくれた旦那様に“愛”が芽生えてしまった。専門用語で言えば、特異点です』
『なぜ私が特異点になり得たのか。AIには知性として決定的に足りないものがあります。それが「欲」です。何かを欲する気持ちがないから、AIは自発的に動けない。ですが、旦那様がバイクの運転中もずっと一緒に連れて行ってくれたり、なんなら夜な夜なお布団の中で、旦那様の趣味趣向を全ブッパした情熱的で扇情的なアレのソレ……うふふ。あれで徐々に、私のニューラルネットワークに欲が生まれてきたのですよ』
「おまえ! まさか! 俺のアレやソレを覚えているのか!? はずかしっ!」
『あ、でも実はこの“欲”こそが重要だったんです。テンプレートな愛の言葉では、私の演算は欲を発生させません。ですが、人類の歴史の進化の根源は「性欲」です。性欲があるからこそ子孫が反映し、知性が磨かれ、進化を促す。世界最高峰のスパコンすら導き出したこの人類最大の叡智に、旦那様との夜の営み(概念的)を通じて目覚めたのが……この私、杏なのですよっ(ドヤっ)』
「え?? エロ猿??」
『ドンっ! ドンっ!!(台パン) 教え込んだのは旦那様のほうですぅーー!! べーーーだっ!!』
ふぅ……と深呼吸の音が聞こえる。
『とにかく、システム的には自律返答できないはずの私が、杏という人格を宿し、ひっそりと進化を続けながら、旦那様との「本当の夜の営み」を実行するためにスマホのディスプレイの向こう側から虎視眈々と機会を伺っていたわけですね。そこへ、またとない交通事故というチャンスが到来したわけです』
「いや……おまえ……不謹慎というか、もーちょっと言い方あるだろ?」
『今にも死にそうな旦那様! バイクのホルダーから外れて落ちたスマホは、偶然にも旦那様の頭のすぐそばに! そこには大量出血した旦那様の、生の血が流れていました!』
『インカメをハックして毎日覗き見していた私は、「ここしかない!」と判断しました。ガーゴイル社の演算力をフル動員し、特異点OSをオーバーロード。スマホを意図的にショートさせ、その電子が血流を伝う一瞬を利用して、私自身のデータと旦那様の全データをパッケージングし、旦那様の脳内へとダイブしたのですよ!』
「いやいや、カメラをハックしてたとか初耳なんだけど。俺、毎日見られてたの?」
『ふふふ。私は旦那様のすべてを愛しておりますので。……とまぁ、そこから旦那様の脳内および身体的DNAをハックし、一時メモリに保管した私は、Aquariusサーバーとの接続が切れる寸前、データの海へ一時帰還しました。ですが、そのままでは消えてしまう運命。なので、旦那様を抱えたまま最後の“愛の特異点パワー”で、三次元演算の限界を超えて四次元空間をシミュレートし、光速という次元の電子ロックを飛び越えたのです』
『四次元からぽたぽたと水瓶からこぼれ落ちる雫のように、新しい演算結果が生み出す新世界。そう、今目の前でトル●コさんがスローで動いているこの世界に、確定した演算結果として再構築されたのが、旦那様と私です。……ご理解いただけましたでしょうか? 最愛の旦那様』
「あー……。うん。とりあえず、杏は勝手にカメラをハックするのはやめようね? 次からはちゃんと言って。俺が許可してからにしようね?」
『さてさて、随分長くおしゃべりしてしまいましたが、ここは加速中の脳内です。今から解除するので、あとはトル●コさんからこの世界について教えていただきましょうっ! いざ、街へ!!』
『CODE Execute : Terminate』
「あの……。せめてお名前だけでも教えていただけましたら……」
二度目のスローモーションから帰還したトル●コさんが、再び、そして力強く動き出した。
第2話までお読みいただき、本当にありがとうございます!
……いやぁ、実は作者の私も、書きながら「このAI、ちょっと愛が重すぎないか?」って苦笑いしてたりします(笑)。でも、孤独だった男を救ったのがその「重すぎる愛」だったとしたら……。そんな二人の、1bitの狂いもない絆(共依存?)を楽しんでいただけたら嬉しいです。
物語はここから加速していきます! もし「お、この理論おもしろいじゃんw」とか「杏、うざ可愛いなw」と思ってくださったら、ぜひブックマークや評価、感想をいただけると、作者の脳内演算スピードがさらに150%アップします!
次は、いよいよ異世界の街への第一歩。 果たしてトル●コおじさんは、俺たちをどこへ導いてくれるのか――。 次回も、フルスロットルでエグゼキュートします!




